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策謀 7

 ラグ・レはノーラに首尾を話した。


 少女はひとまず無事に赤子を連れて来れたと自信満面だったがノーラの元に走り寄る際に置き去りにしたことは少し怒られた。


 僅かな時間とはいえ野生動物に狙われる危険性があった。


 賢く大人顔負けだがラグ・レはまだ十代前半の少女であった。


 少女の失態は猫のトトがしっかりと籠を見張っていたことで何とか帳消しになった。


 ご褒美をやらないとね、とノーラがトトを労った時ラグ・レの腹の虫が盛大に鳴いた。


 少女は昨日から干し肉を僅かにしか食していなかった。


 せっかく焚き火もあることだ、二人の接触は誰にも気づかれていないからとノーラはラグ・レに食事を摂らせることにした。


 熾火(おきび)になった火は干物を炙るには最適だ。


 カヌークの漁師からもらった干物は瞬く間に良い芳香を漂わせ始めた。


 ラグ・レは干物を貪りつつ、赤子を抱いたノーラに今までの出来事を話す。


 それはなかなかにして苦労の連続だった。


 潜伏先ですぐに帝国の軍曹に発見されてしまったこと。


 その軍曹が何故か同行を願い出てきたこと。


 アルバレル修道院は厳重な警備態勢が敷かれていて潜入が不可能だったが軍曹が正門で暴れたおかげで赤子が確保出来た事。


 確保したのは良いが、すぐに兵士に追われて軍曹と別れることになってしまったこと。


 軍曹が陽動してくれたおかげで自分の方には追っ手が付かず無事にテルシェデントまで逃げられたこと。


 しかしテルシェデントの警備が固く、ブランクと合流出来ないどころか結局見つかって山へ逃げるしかなかったこと。


 山では親切なヒルダという女性に色々助けてもらったこと。


 ヒルダに助けてもらう前は赤ん坊が泣きに泣いてどうしたら良いか分からず途方にくれていたこと……。


「それでもなんとかここまで来れた。大賢老の言う事は正しかった」


 ラグ・レは満足そうに胸を逸らした。


 だがノーラは浮かない顔をしていた。


 もともと小さなラグ・レを今回の任務に巻き込む事に反対していた彼女は武勇伝を聞けば聞くほど上の者に対する怒りが湧くのだった。


「どうかねぇ。軍曹に炭焼きの妻か。変則的な助力が無ければ遂行不可能だった危ない任務だ、違うかい? 大賢老はそれさえも見越していたってのかねぇ?」


「知らん。私は恩が返せた。その事実だけで充分だ」


「あたしとブランクだけで良かったんだ。それをあんたがどうしてもっていうから」


「ノーラ、子ども扱いするな。私は戦士だぞ!」


 気分を害したラグ・レが吠えると赤ん坊の眉根に皺が寄った。


 ノーラが慌ててあやすと赤ん坊は再び微睡み事なきを得た。


「あんたねぇ、気をつけなよ」


「すまん。それにしてもノーラは手慣れているな」


「あたしだって初めてだよ」


「ノーラ、いいか。何度も言っただろう。お前もブランクも優秀な船人だ。戦闘力も高い。だがお前たちはがさつだ。斥候の能力は私には及ばない。私がいなければこの密命は成功しなかったんだ」


「あんただって見つかっただろ」


「あれは仕方がない。ロブ・ハーストの索敵能力が化け物並だったからだ。お前たちだって行けば見つかっていただろう。そしてお前たちなら捕縛されていた。私はそうならなかった」


「何故そう言い切れるわけ?」


「私が子供だったからだ」


「自分で子供だって認めるんかい」


「一瞬の躊躇がロブ・ハーストに私と対話する縁を生ませたんだ。それが奴の心境に大きな変化を与えた。いや……変化は既にしていて、私はきっかけにすぎなかったのかもしれない。そして私は子供じゃなくて戦士だ!」


「なんなんだよ急にっ? 静かにしなって!」


 ノーラは再びラグ・レを(たしな)めた。


 これでよく斥候が得意などと(のたま)えたものだ。


「この子、そろそろご飯の時間なんだろ? いつ泣き出してもおかしくないんだからあんたも気を付けてよ」


「大賢老は乳が必要なんて言ってなかったんだがなぁ」


「知らなかったのかもね。子育ての経験なさそうだし」


「いや、ヒルダが言ってた。不安になってまた乳が欲しくなったんじゃないかと。本来は必要ないんだろうな」


「不安、か。当然そんな準備はしてないから、もしそうなら困ったもんだ」


「大丈夫だろう。ブランクのほうではなくこっちに来ることになったのはそういう縁だと思ったぞ」


「そういう縁……出ないからね、あたし、母乳は」


「ヒルダは出してた」


「そりゃあ母体だからだよ。あたしは赤ちゃんいないもん」


「じゃあなんでそんなに無駄にでかいんだ?」


「む、無駄に!? ……そりゃあ確かに使い道はないけど……」


「絞れば出るかもしれん。やってみよう」


「無理だってば!」


 馬鹿げたやり取りは遂に赤子を泣かせてしまった。


 結局はカヌークで買った山羊の乳でなんとか代用出来たので二人はほっと胸を撫で下ろすのだった。

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