希望の子 3
少尉たちは逆臣ロブ・ハーストが帝都から持ち去ったあるものを奪還する命令を受けていた。
しかし軍曹はそれを抱えてはいなかった。
代わりに抱えていたのは爆弾で、少尉はその時点で何かがおかしいと訝しんでいた。
その行動がロブ・ハーストという男の思考信条と異なると思ったからだ。
彼の戦闘様式はあくまでも肉弾戦であり、飛び道具や特殊火器に頼ったりはしない。
今回の曲事は失敗は許されないだろうから不慣れな道具は使用しないはずだ。
誰か協力者がいるのか。
若しくは軍曹が協力者なのか。
複数犯なのか単独犯なのか。
何が目的なのか。
何処へ行こうとしていたのか。
それらが不明な以上は迂闊に殺す事は出来ず、軍曹もそれを見越して行動している。
明らかに彼は時間稼ぎをしていた。
敢えて爆弾を見せつけてきたのも発砲を躊躇させ膠着状態を作るためだろう。
知ってか知らずかその思惑は文字通り粉々に打ち砕かれたわけだが、爆弾が偽物だったのは一等甲兵がやらかすことを想定していたからに違いなかった。
となれば、すぐに次の手を打たねばならないことも明白だった。
こうしているうちに確保対象は第三者の手で着実に手の届かない場所へ運ばれているだろう。
そうはさせない。
彼には色々喋ってもらう必要がある。
そして功罪を量りにかけられるべきなのだ。
少尉は自ら剣を抜きはらった。
化身甲兵は通常、常人では持てないような重量の武器を携行する。
そもそも武器を持たなくてもその質量で突撃するだけで脅威なのだが、得意とする武器を持てばその脅威は更に上がった。
本来少尉は己の身長ほどの大剣の使用を得意としていたが今回持ってきたのは通常の大きさの剣だ。
これだと軽すぎて逆に扱いが難しいのだが、得意の得物だと軍曹を粉砕してしまう恐れがあったため持ち替えたのだった。
銃ではなく近接武器での一騎打ちを挑めば彼は絶対に受けてたつ。
それは信頼であり、銃殺刑に等しい現状で唯一彼の誇りを守れる方法でもあった。
しかしまたも一等甲兵が暴走する。
再び雷鳴のような音が響くと一等甲兵は少尉が止める間もなく超加速と共に厚刃の短刀でロブに斬りかかった。
ロブは避けた。
続いて繰り出される体当たりも避ける。
化身装甲の攻撃は真向から受けてはならない。
受ければ加重で潰されるだけだからだ。
脇腹から鮮血が飛ぶが気にする余地もない。
回転して放たれる刃は槍の穂先で軌道を流し、二人の視線が交錯する。
大雨の中だと言うのに火花が散った。