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SKYED7 -リオン編- 上  作者: 九綱 玖須人
戦いに挑む
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戦いに臨む 7

 ロブは魔力を辿りオタルバと合流した。


 アバドの邸宅に隠れていたオタルバは無事だった。


 本来ならばオタルバは皇帝が帰路に発つ時にこれを先回りしてブランクたちに情報をもたらす役目であったが皇帝はもういない。


 ロブは簡潔に現状を説明し、ブランクたち炭鉱勢に退却するようオタルバに伝言を頼んだ。


「あんたはどうすんだい!?」


 ダンカレムの傷痍兵の装備に身を包んだオタルバはロブに問うた。


 心なしかロブから正気を感じられず嫌な予感がしていた。


 そんな心配をよそにロブはオタルバを先導しながらアバド邸を出て暴徒に見つからないように小路を抜けていく。


 大通りを横切るとき一度立ち止まって壁に隠れロブはオタルバに向き直った。


「俺はレイトリフに義理を果たしにいく」


「まさか!? 必要ないだろう。レイトリフだってあんたと一緒にいるところを見られちゃ困るはずだ!」


「困るだろうな。だがそれと同時に、同じ都市にいながら何故救援に駆けつけないのかとも思っているだろう。その疑心はいずれバエシュとジウの関係に溝を作る。最後までやり通すことが肝要だ」


「こんな状況だ……そこまでする必要はないだろ!」


「足の速さからしても俺とお前は一緒には脱出できん。お前だって一人のほうが逃げやすいだろう。だから俺はレイトリフと行く。ブランクを頼んだぞ」


「それはそうだけどねえ……なにをやってるんだい!?」


 壁にもたれて絶命していた兵士から銃を取り点検するロブにオタルバは驚いた。


「要は俺だとばれなければいいわけだ。ダンカレム兵の姿に銃装備。これなら俺だってばれないだろう。……レイトリフたちから攻撃されるかもしれないがな、そこはうまくやるさ」


「そうじゃなくて……」


 オタルバはロブが銃を扱おうとしている姿に違和感を覚えた。


 どんな時でも槍もしくはそれに類する得物で戦ってきた男がこのような危機的状況において武器を替えるとはどういうことだろうか。


「あんた銃は使えるのかい?」


「兵役に何年ついてきたと思ってるんだ。槍がしっくりくるだけで銃だって使えるさ。……よし、敵はいない、今だオタルバ。行け!」


「死ぬんじゃないよ!」


「待て、オタルバ!」


「なにさね!?」


「……殺してしまった。……ヘイデン少佐の部下、部下を」


「…………は?」


「…………」


「な、なんでそんなことになっちまったんだい」


「出会い頭に戦闘を初めてしまった。気が付いた時には遅かった」


「あんたともあろうもんが……なにをやってるんだい!」


「おそらく俺の仕業だとばれる。責任を取らねばならない」


「だから今更槍を……責任?」


「オタルバ、俺はジウには……」


「待ちな」


「オタルバ」


「どうするかの判断はジウに委ねるんだ。あんたは今当事者だ。碌な答えなんか出せやしないよ。いいかい、レイトリフを逃がすならちゃんと責任を持ってテルシェデントまで護衛するんだ。あんたが勝手に色々判断して勝手な行動とってみろ、ブランクやラグ・レにどう説明すりゃいいんだい?」


「それは……」


「あたしを困らせるんじゃないよ!」


「…………」


「いいかいロブ。あんたはジウの住人だ。家族だ。家族ってのは最後まで家族を信じて守るもんだ。でも傍にいなきゃ守れないんだよ。傍にいなきゃ叱れないんだよ。抱え込むんじゃない。あんたを守るのも叱るのも、あたしたちの役目だ。あんたがあたしたちのことを家族だと思ってくれているなら、変な気を起こさないでおくれよ」


「……分かった」


「立てるかい?」


「もちろんだ」


「じゃあ行くよ! 今生の別れじゃないんだ! いつまでもぐだぐだしてられないよ!」


「オタルバ!」


「あああしつこい男だね! なんなんだい!」


「……ありがとう」


「うるさいよ! 早く行きな!」


 牙を剥き威嚇するオタルバにロブは笑い返し駆けていった。


 その後ろ姿に未だ拭えないわだかまりを覚えつつオタルバも行動を開始するのだった。




 一方その頃レイトリフは自身も銃を撃ちながら都の路地を彷徨っていた。


 自分はアバド都長と共謀しているはずだが当然そんな事など暴徒には知る由もなく、貴族要人であるというだけで襲ってくる地獄から抜け出せずにいた。


 いち早く動き退却したはずの自分たちでもこれだけ苦戦しているのである。


 他の要人たちもおそらく散り散りになり各所で絶体絶命の危機を迎えている頃だろう。


 まあ、想定のうちだ。


 護衛から装弾の終わった銃を受け取り次々と暴徒に向かって撃つレイトリフ。


 狩りは得意であり人を撃つのは鴨を撃つよりも簡単だった。


 しかし何やら暴徒たちの動きが不可解であった。


 襲撃者たちが妙に組織行動に慣れているのである。


 先ほどからは距離を置いての銃撃戦になっている。


 果たして学のない民衆にこれだけ統制のとれた動きが出来るだろうか。


「閣下、なにかおかしいです!」


 それは護衛の精鋭たちも気づいているようだった。


 そこへ投石と共に一つ何かが転がってきた。


 それが爆弾だと認識した瞬間、護衛たちは折り重なるように爆弾に覆いかぶさった。


 爆弾が爆発した。


 護衛兵たちの捨て身により命は助かったもののレイトリフは衝撃で壁に叩きつけられていた。


 額が切れたのか血が止まらない。


 音が聞こえず、鼻血で口呼吸しか出来ない。


 微かに動いていた瀕死の護衛が止めを刺されているのは見える。


 暴徒たちがレイトリフを見降ろすまで近づいてきた時、レイトリフは先頭に立つ人物に見覚えがあった。


「ショズ・ヘイデン……」


 変装はしているものの確かに諜報部の少佐その人である。


「律儀に姓まで言うとはね。他人行儀はやめてくれたまえよ、父上」


 ヘイデンは短銃の撃鉄を起こしてレイトリフに向けた。


「最期なのだからね」

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