漁村より 2
通常なら傷病人は病院へ搬送される。
高い職位の軍人ならば衛生部の管轄下にある軍病院へ収容される。
しかし、化身甲兵は操者さえ機密扱いとなっているため手当も技術部内で行われる。
よってサネス一等兵も当然のように技術部に収容されていた。
ただし技術部は医療を専門とした部署ではないため専用の設備はない。
研究者たちにとっては人間も機械も似たようなもので、検査の度に部屋を移動させる無駄を省く意味も込めて患者は検査室で機械と並置させられていた。
研究者たちは冷酷なのでなく単純に効率重視なのだ。
世間一般ではそれを非人道的といった。
「容態はどうですか?」
エイファは近場で覚書を取っていた研究者に声をかけた。
研究者は朗らかに顔を向け、手記は止まらないまま応対した。
「ご覧のとおり、現在は昏睡状態にありますね」
「血を失い過ぎたでしょうか」
「どうでしょうね? さっきまでは大騒ぎでしたから。大人しくなるまで鎮静剤を重ねて投与してみたんですよ。そしたら反応がなくなっちゃっただけです」
天気の話題でもするかのような口調だがとんでもない話をしていた。
サネス一等兵は興奮状態になると手が付けられないとはいえ死亡しかねない荒技だ。
死んだら死んだでそれも研究材料になるのだろうが、流石の研究者も敢えて殺したりはしなかった。
化身装甲と適合出来る人間はそうそうおらず貴重な存在だからだ。
「まだ兵士として戦えるでしょうか」
「とりあえず腕はくっつきましたけどね。動くかどうかは今後の検査待ちですね」
サネス一等兵はハースト軍曹との決闘で重傷を負っていた。
軍曹の繰り出した槍が装甲の隙間から上腕をえぐり、次いで雷動制御を失った腕の装甲が自重で一等兵の腕を引きちぎったのだ。
幸いにもピーク兵長が適切な処置で腕を保存しておいてくれたおかげで手術は無事成功し腕は繋がったようだ。
だが今までのように動かせるようになるには時間と本人の努力次第といったところのようだった。
「装甲が自重でばらけるなんてないはずですから驚きましたよ。内側からの突き上げなんて普通は無理だ。それで繋ぎ目にひびが入ったんですね。着眼点が凄いというか戦闘技術が高いというか、軍曹には是非着装を試してほしかったなあ」
「ちょ、ちょっと待ってください。腕がだいぶ長いようですが!?」
エイファは気付いた。
一等兵の肩から腕を包んでいるものは石膏帯かと思っていたが、よく見ればそれはただの包帯だった。
包帯がただ巻かれているだけだとしたら一等兵の右腕は足首まで伸びていることになる。
太さも胴体くらいあった。
それを肩口の断面に無理やり縫合したというのだろうか。
「あああれね。ある意味強制脱衣だからでしょうね。着装状態のまま細胞が戻らなかったみたいなんですよ。でも聞いてください。どうやってくっつけたと思います? 凄いですよ。試しにニファさんを装甲に戻して雷動させてみたんです」
「そうしたらくっついたと? 元に戻るんですか?」
「保証はありませんがもう一度着装させればね、原理でいえばおそらく。でもやるなら装甲を完全に直してからですね。外から無理やり原動機を回すのは最終手段だったんですよ。どうやら負荷がかかり過ぎちゃったようで、ニファさんの装甲は完全に壊れちゃいました。あ、そうだ。博士は皇帝に装甲補修費用の直談判に行ってたんですけど会いませんでしたか?」
「中将閣下が? いえ、会いませんでしたけど……」
噂をすれば影か。
ちょうどその時、検査室の扉が勢いよく開け放たれた。




