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SKYED7 -リオン編- 上  作者: 九綱 玖須人
巨星を集い
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巨星を集い 7

 一方その頃。


 大転進記念祭を前にしてロブ・ハースト一行はブロキス皇帝との話し合いを果たすためにジウを出立した。


 ノーラの海獣船に乗り込んだのはロブ、オタルバだ。


 幼いラグ・レは出航前に船に忍び込んでいたのがばれて泣く泣く留守居となった。


 テルシェデントの軍港でノーラと別れたロブたちは人質となっていたブランクと合流し、領主ジルムンド・レイトリフ大将の助力を得てリンドナル入りを果たした。


 選ばれた道は関所越えでもなく海路でもなくバエシュ領とリンドナル領の領境にそびえるノーグタンの炭鉱を経由する山路であった。


 炭鉱は帝都の直轄地だったはずだが以前からレイトリフに内応しており、同胞を帝都の諜報員たちに無惨に殺された炭鉱夫たち含め一同が打倒皇帝に燃えていた。


 皇帝を襲撃する折には彼らが街道の前後を封鎖する手筈になっていた。


 ノーグタン山の南の渓谷は帝都・リンドナル間を結ぶ唯一の街道である。


 そこが決行の地だ。


 ロブは炭鉱勢に皇帝が記念祭からの復路にその街道を利用するまでは不審な行動をしないようによく言って聞かせ、ブランクを残し更に前進した。


 炭鉱の責任者と共にロブとオタルバが石炭に隠れて辿り着いたのはダンカレムの町だった。


 ロブがこの地を踏むのは1年ぶりだ。


 カーリー・ハイムマン少佐やネイサン・プロツェット中尉、アルバス・クランツ曹長らと共に命からがら逃げ帰ったのがここダンカレムだ。


 もう一年というべきか、まだ一年と言うべきか。


 大昔のようにもつい最近のようにも感じる不思議な感覚にロブは暫く身を投じていた。


 しかしそんなロブたちを住民は汚物を見るような目で見た。


 それはロブが指名手配犯であるとかオタルバが亜人だからというわけでなく、二人が炭鉱夫用の防毒面を被っていたからだ。


 国営炭鉱の責任者が同行してくれたおかげで素性を改められたりすることはなかったがダンカレムの住人は異質な者に過度な敵愾心を持っていた。


 それは最前線の町であるが故なのかもしれず、故に表で長居するのは危険だった。 


 ロブは炭鉱責任者の仲介で都長サリ・アバドと面会した。


 リンドナルにおけるレイトリフ大将の内通者はこの神経質な知識人であった。


 アバドは皇帝に殺されるのではないかと疑心暗鬼になり正体を失う寸前だった。


 彼にとって最強の兵士の二つ名を持つロブとジウの使いであるオタルバの来訪は泣き崩れるほどに頼もしいものだった。


 何故ロブとオタルバがアバドと引き合わされたかと言えば、どうやらレイトリフが勝手に祭り期間中のアバドの警護を約束していたらしい。


 本当に襲撃があり二人のどちらかでも面が割れれば計画が全て台無しになるではないかと怒るオタルバをロブは宥めた。


 アバドは皇帝批判で票を集め都長になった男である。


 そんな男が祭り期間中に不審な死を遂げれば皇帝はますます求心力を失うだろう。


 ここリンドナルは親皇帝派でなければならない土地だ。


 だから皇帝は彼を不満勢力の憂さ晴らしとして残すはずであり殺すわけがないのだ。


 レイトリフはアバドの願いを叶えるついでに二人に皇帝の背後を取らせるよう仕組んだのだろう。


 記念祭が終われば皇帝はノーグタンの麓でブランク率いる炭鉱勢に包囲され、立ち往生している所を後ろから追いついたロブたちが急襲するというのがレイトリフの描く筋書きのようだ。


 ジウの計画をレイトリフが知り得るはずもないが、レイトリフはジウが皇帝を暗殺することに手を貸すつもりがないことに薄々気づいているのかもしれなかった。


 だからこのようにロブとオタルバを決行の地からぎりぎりまで離しておく選択をしたのだろう。


 ロブたちはアバドの邸宅に身を潜めた。


 そして大転進記念祭が始まった。


 ロブもオタルバも来たる日に体が鈍らないように鍛錬をした。


 時々組手も行ったが、オタルバはロブを相手にするとどうしても調子が狂って負けてしまうため面白くなかった。


 ロブは急成長を遂げていた。


 魔力が見えるという特異視覚は短時間で立派な魔法戦士を誕生させていた。


 ロブは完全に自身の魔力を気脈から切り離すことが出来るようになっており、それにより皇帝の目の届かない存在となっていた。


 もちろん魔法を使えばすぐに探知されるであろうが皇帝に見られる前に皇帝の目を遮断することが自分で出来るようになったということは大きな利点であった。


 そしてロブ自身も大賢老のように魔力を探知できるようになっていた。


 調べると、可能ならば皇帝に持たせるべきだという雨燕の精隷石の持ち主はすでにダンカレム入りを果たしていた。


 こっそり遠目でその人物を確認してみたが年若い眼鏡をかけた女性だった。


 赤い羽根の紋章を肩に着けた軍服を着ていることから女性は諜報部の人間だと分かった。


 女性から精隷石を奪うのは造作もないことだろうが、ロブはその隣にいる人物を見て手で顔を覆った。


 同じく諜報部の軍服を着ている女性はエイファ・サネス少尉だった。


 自分が軍から脱走することで結果的に多大な迷惑をかけてしまった元上司である。


 恐らく自分のことをよく知る人間として諜報部に転属させられたのだろうが、可哀そうなことをしてしまったものだとロブは心の中で懺悔した。


 少尉がいるのに傍にニファ・サネス一等兵の姿は見えない。


 いつも一緒だったはずだがどういうわけだろう。


 代わりに精隷石を有した二人の青年が行動を共にしている。


 四人が班を成しているということは雨燕の精隷石だけ拝借するという手はなかなかにして無謀のように感じた。


 外出さえ難しい状況で町の地形確認も精隷石の入手も出来ないまま時間だけが過ぎ去っていった。


 三月も下旬に差し掛かりいよいよ朝晩に秋の気配が感じられてきた。


 各所から来賓の有力者たちがいよいよ集い始める中、未だ皇帝の動向は不明のままであった。

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