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SKYED7 -リオン編- 上  作者: 九綱 玖須人
巨星を集い
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巨星を集い 3

 大転進記念祭一日目が終わった。


 式典は、皇帝を迎え入れるにあたって想定よりも多くの問題があることが実際に分かった。


 ダンカレムの治安維持隊や官憲隊は応援の部隊からあがってきた多くの問題点を精査し改善していかなければならなかった。


 星空が広がっても維持隊本部となった学校の灯りは消えず、多くの人々が問題解消に向けて務めていた。


 バルトスとセロは割り当てられた郊外の丘に建つ宿所の部屋から学校を眺めていた。


 行水の後に窓辺で食べる西瓜が格別に美味しい。


 疲れ切った体にほのかな甘みがよく染みた。


 今日は一日、文字どおりお祭り騒ぎの民衆を相手によく頑張ったものだ。


「痛って……染みるわ」


 西瓜を齧ったバルトスが顔をしかめる。


 昼間にエリスから容赦のない制裁を喰らったバルトスは口の中を切っていた。


 鼻血は治まったようだが切れて腫れた唇が痛々しい。


 それもこれも本人の自業自得ではあるのだが。


「ちゃんとエリスに謝った?」


「へんっ」


「へんっ、じゃなくてさ。今日中にさ、会ってもらえないかもしれないけどちゃんと謝った方がいいよ」


「がきじゃねえんだから。乳触ったくらいであんなに怒んなよって話だよ」


「がきじゃないから怒ったんだと思うよ」


 エリスとエイファは大して仲良くはないはずなのだが二人して出店に行ってしまった。


 バルトスの近くにいるよりはよっぽどましと言う事だろう。


 セロは男どもという括りでとばっちりを受けて屋台に行けなかった。


 もともと人ごみは苦手だし、今日の仕事でもうこりごりになっていたから別に行けなかったことは構わないのだが明日以降の班の連携に支障が出るのは勘弁してほしかった。


 今日の祭りは終わりだからそろそろ2人も帰ってくるだろう。


 帰ってきたら真っ先に謝りに行くのが筋だと思うがバルトスは頑なだった。


 昼の件は完全にバルトスが悪いのに彼は妙なところで頑固になるのが良くない。


 先の事を思うと憂鬱になるセロだった。


「上手くいくのかな」


「知らねえよ。あいつ次第だろ」


「あ、いや。皇帝陛下のさ、護衛の話。……というかエリス次第じゃないよ、バルトス次第だよ」


「うっせ。鼻折れたかもしれねえんだぞ。乳触った、鼻折れた、つり合い取れないだろ。……で、なんだよ皇帝の護衛が上手くいくかって」


「うーん……まあ、もういいや。あのさ、陛下がいつダンカレムに来るかはまだ内緒なわけでしょ? 来てから帰るまで、僕たちが皇帝を守れるのかなって」


「そりゃあこれだけ各地から応援の兵士集めてるんだから大丈夫だろ」


「そうかな」


「何が気になるんだよ」


「僕たちさ、広場のすぐ傍で、かつ維持隊本部との間に位置する持ち場でしょ? すごく重要な持ち場だ。なんでかバルトスは分かる?」


「そりゃあ俺たちが全員新兵器の操者だからだろ。ぜったい威信の喧伝に俺たちを利用するぜ。それに万が一敵が来たときはすぐにイボじじいの元に駆けつけられるし戦力だって圧倒的だ。特にエイファの化身装甲なんか盾にもなる」


「本当にそう思う?」


「どういう意味だよ」


「僕たち、すぐには動けないよ」


「なんでだよ。着装さえすれば……あ」


「ね?」


「そうか、ああ……そうか雷導か」


 セロが頷く。


 バルトスも気付いた。


 もしも急な襲撃があった場合は皇帝を守ることが出来ない。


 新兵器たちには重大な欠点があるのだ。


 化身装甲も装甲義肢も動力にはセエレ鉱石という未知の鉱石を使用している。


 セエレ鉱石は火花を加えると発光して質量が軽くなり膨大な運動量を生み出すという不思議な鉱石だ。


 その性質に着目した兵科部のトルゴ・アシンダルはフレイマンの設計図と呼ばれる書物を元に化身装甲を完成させ、簡易型として装甲義肢を生み出した。


 人が着て動くことなど到底不可能な重装甲の鎧はセエレ鉱石の導入によって紙のように着こなすことが出来る驚異の兵器となったのだった。


 しかし火花の調整は非常に繊細であり出力が弱ければ装甲はそのままの質量で体に重くのしかかる。


 逆に出力が強ければ今度は重量が軽くなりすぎて鉄を着ているという持ち味が失われることになった。


 更に、装甲義肢の場合だと出力が強すぎると着装部位と生身の境目が反目し合って体が千切れてしまうという問題がある。


 そのため調整は着装の度に繰り返さなければならなかった。


 化身装甲に至ってはもっと難儀(なんぎ)だ。


 装甲の厚さが装甲義肢とは段違いな化身装甲は、着る前に雷導しておかないとそもそも装甲を開いて中に入ることさえ出来ないくらい重たいのだ。


 そして着装はもはや賭けである。


 もしも雷導の出力が強すぎれば着装の瞬間に中身の人間は膨張して破裂し、鎧の隙間から泥のような肉片になって出てきてしまうだろう。


 新兵器、特に化身装甲の操者は着装時点の自身の調子や環境条件に応じて的確な雷導を調節できるような勘の鋭い人物でないと着る資格すらない。


 そんな繊細な兵器がいつ、どこから、どれほどの規模で襲ってくるか分からない敵に対処できるとは到底思えなかった。


 あげくに新兵器たちは火花の出力装置があっと言う間にいかれてしまうという欠陥も抱えていた。


 つまり敵に備えて着装し皇帝を警護しても大衆の面前で稼働限界の短さを晒してしまうだけなのだ。


「僕たちじゃ咄嗟の襲撃に対処できない。それなのにこんな中途半端な位置での警備は宝の持ち腐れだよ。持ち味を活かすならもう少し離れた位置に配備してくれないとね。敵の推定逃走経路上なら尚良い。短期決戦で追い詰めて殺すのなら僕たちは得意だ」


「エイファはそれすらも失敗したわけだけどな、軍曹の件でさ」


「あれは逃走経路が読めなかったわけだしさ、本人に言っちゃ駄目だよ」


「言わねえよ」


「あとは完全に権威を示すための道具にするかね。陛下の後ろに並べて置くだけでも様になると思うし、それを実際に動かしてみせたら皆驚くと思うし」


「国民に見せたのは軍事行列の時に馬車で引っ張っただけだっけか。あとは謎の兵器扱いだもんな。宣伝が下手くそだよな」


「前線では今も先輩方が活躍してるってのにね」


 兵科部ではあと五機の装甲義肢が稼働中だ。


 全てリンドナル方面軍の前線に配属されている。


 先輩とはいうが装甲義肢の着装に志願したのは全員が同時期なのである意味全員同期だ。


 年齢で言えばその中でセロが一番の年少であり、年長は遊撃隊を率いている34歳の隊長である。


「来てねえよな、みんな? 俺今の馬鹿みたいな現状説明したくねえよ」


「来てるかもね。笑われるかな」


「いや待て、流石に来れないか。俺らを抜いて今度はみんなもなんて、流石に前線が崩れかねないし」


「どうだろう。そもそもさ、装甲義肢も化身装甲も今の戦争に適合してるとは到底思えないんだよね、存在からしてさ。だから前線を空けても問題ない気もするよ」


「どういう事だ?」


 そのとき隣の部屋で物音がした。


 耳を澄ませば二人の女性の声が壁越しに聞こえる気がする。


 どうやらエイファとエリスが帰って来たらしい。


 セロはエイファたちの部屋側の壁を指さしてバルトスに謝罪を促した。


「帰ってきたみたいだよ」


「へんっ。今楽しい楽しい出店巡りから帰ってきたばっかだろ。俺が行ったら興ざめしちまうよ」


「実は意気地なし、バルトス」


「策略だっての。どうせあいつらも行水するだろ。そしたらあいつらも後は寝るだけだろうから、そん時に謝りに行けばいいだろ」


「行水の時に部屋に行っちゃ駄目だよ」


「行かねえよ!」


 ふて腐れて寝台に寝転がったバルトスはセロが目を離した隙にいつの間にか寝てしまった。


 よほど疲れていたのか起こそうとしても起きない。


 隣の部屋では行水を始めたようでエイファの楽しげな声が聞こえる。


 やれやれと頬杖をつくセロの目線の先には未だ維持隊本部の灯りが灯っていた。

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