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SKYED7 -リオン編- 上  作者: 九綱 玖須人
魔力を知る
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魔力を知る 8

 三日後、ジウの戦士たちは行動を開始した。


 ロブはオタルバやブランクと共にノーラの海獣船に乗って秘密の浜辺へ着岸し、そこで海獣とノーラを置いてテルシェデントへ入港した。


 テルシェデントの入港管理官はブランクの名前を聞くとすぐにレイトリフのいる政庁へ裏から案内してくれた。


 レイトリフは顔を赤くしてロブとブランクとの再会を歓迎した。


 ただし指名手配中のロブと亜人のオタルバが深く被っていた布を取るとレイトリフはオタルバを見て一瞬面食らった。


 亜人を見たことがないわけではないだろうが久々に見る人外は生理的に受け付けないといった感じだった。


 レイトリフは本当にオタルバがジウの住人なのか、アルマーナの住人ではないのかと懐疑的だったが政庁の裏手にてオタルバの魔法を披露した時、彼は喜びのあまり油断して一瞬だけ野心家の顔を覗かせた。


 そしてイェメトが代筆した大賢老の書簡を読んだとき彼はジウが協力体制にあると確信したようだった。


 一同はレイトリフから歓待の用意があると打診されたがブランクを残して一度帰ることにした。


 ジウの戦士が偵察した島嶼の動きを再び伝えにくると約束しつつ、ブランクはある意味人質だ。


 本人は御馳走が食べられると喜んでいたから適任だったがオタルバにくれぐれも余計な事は喋るんじゃないよと脅されて小さくなっていた。


 一方エルバルドは島嶼諸国を周り大転進記念祭の折の静観を説いて回っていた。


 これは失敗に終わった。


 いくらジウからの使者とはいえ散っていった戦士たちや罪なき女子供たちの無念を晴らす機会をみすみすやり過ごせるわけがない、自分たちはジウの傘下に降った覚えはない、と島嶼諸国の族長たちは頑なだった。


 想定していたことであったがエルバルドは己の無力さを恥じた。


 大賢老は島嶼諸国の動向に確証が得られただけでも良い成果であるとエルバルドを慰めた。


 そして帰ってきたロブたちは待機となり、今度はシュビナが書簡を持って情勢を伝えに行った。


 オタルバより亜人らしくより不可解な言動をするシュビナを見て魔力を持たないレイトリフはこれも魔法使いなのかと一層喜んだ。


 レイトリフは伝鳩を飛ばし、島嶼諸国に不穏な動きがあると敢えて皇帝に伝えることで信を得る作戦へと移った。


 レイトリフからの書簡を受け取ったヘイデン少佐は特にその行動自体は怪しまなかった。


 島嶼諸国が大転進記念祭に襲撃を企んでいるかもしれないなど考えればすぐに分かることだからだ。


 しかしレイトリフのことである。それを理由に軍備の拡張を企み、ひいては彼自身が謀反を企んでいるかもしれない、とヘイデンは皇帝に注進する。


 皇帝はレイトリフに対し忠告は感謝するが精鋭の揃うリンドナル方面軍が島嶼の襲撃に後れを取ることはない、とお前は何もしなくて良いと暗に諌める書簡を送るようヘイデンに命じた。


 大賢老はイェメトとシュビナを通じてレイトリフと情報を交換し合い計画を進めて行った。


 ノーラは一時的にカヌークにて待機しブランクに万が一のことがあった場合の与力として備えた。


 再び門番に戻ったオタルバはルーテルとラグ・レに門番としての仕事を教える。


 エルバルドは無駄と分かりつつも再三の交渉のため島嶼を巡った。


 これは交渉を重ねたという事実が大切なのであり、一見無駄骨に見え体力も神経も磨り減る大役だったがエルバルドは見事こなしてみせた。


 一方ロブは暇になった。


 学べと言われた魔力の消し方はもう習得している。


 炎雷を飛ばす魔法は木や地面などに無駄な呪いを振りまくことになるので再び試すことが出来ない。


 そこでロブは蛇神の加護を纏う魔法を修練していた。


 全身に黒い炎雷を纏いつつ繰り出す槍の速度と威力は常時の何倍にも増しており、横に振るうと風圧で槍が壊れるので刺突しか出来ないほどだった。


 魔法を使うことに若干の懸念はあったものの大賢老がもう皇帝からの視線は感じないだろうと言っていたのでやってみたが、その通りだった。


 大賢老曰く弱りきった皇帝は任意に気脈を手繰ることが出来ずに感じた異質な魔力に無意識に反応しているに過ぎないとのことだった。


 つまり同じ魔法で二度反応することはないということで、それは本当だった。


 そういえば、とロブは思い出し大賢老に尋ねてみた。


 皇帝を逃がす場合に皇帝の魔力を一時的に回復させる方法があると合議中に大賢老は言っていたが、それはどういう事なのだろう。


 ロブの疑問に大賢老は答えた。


 それはこの後に及んで知る新事実であった。


――ロブよ。小さな漁村で君と戦った男だが……あの男は不思議な武具を身に着けていたね。


「アルバス・クランツのことか。そういえば大賢老はあの時も見ていたんだよな。クランツは俺の元上司だ。あの武具は俺も見たのは初めてだが装甲義肢という兵器だと思う」


――おおよそ普通の人間では着るだけで動けなくなるような鉄の塊を上腕に纏っていたね。あれの原動力を、君は知っているのかな。


「……たしかセエレ鉱石とかいう石が動力だったはずだ。俺がよく知っている帝国の秘密兵器に化身装甲という全身を包む鎧がある。それに使われていたのがその鉱石だった。火花を加えると反応して、何故か周囲を巻き込んで質量が軽くなるっていう不可思議な鉱石だ。化身装甲も装甲義肢も原理は同じものを利用しているはずだから装甲義肢も鉱石が原動力だと思う」


――精隷石だ。


「ん?」


――セエレ鉱石ではない。それは、精隷石だ。


「せいれいせき?」


――そうだ。セイドラントは精隷石を有していた。それを兵器に転用したのだろう。


「精隷って……イェメトも精隷じゃなかったか? その、石? どういう意味だ?」


――ロブ、精隷石の形を知っているかね?


「ああ、二つ見せて貰ったが同じ物質とは到底思えない外見だった。一つは古びた剣、一つは首飾りだ」


――そう。あれは石ではない。石の形状をしたものもあるが、簡単に言えばあれは精隷の宿る依り代だ」


「依り代? お前がオタルバやイェメトに乗り移った時みたいな感じなのか? つまりセエレ……精隷石の中にも何かがいる?」


――そうだ。眠りについた精隷がその中にいる。


「眠りに?」


――精隷は魔力によって自己を保つ零体のような存在だ。昔は世界は気脈で溢れていたが……それが希薄になった今、精隷は姿を保つことが出来ずに依り代の中で悠久の眠りについているのだ。イエメトの精隷石は我自身である。故にイエメトはいつまでもその姿を保っていられるというわけだ。


「……サネス一等兵の化身装甲の動力は古びた剣の精隷石だった。そうか、つまりあれは蛇神アスカリヒトの分身の精隷石で、どういうわけかその力が発動した化身装甲に斬られた俺に何故か力が移ってしまったというわけか」


――化身装甲は火花を使って動力を得ると言っていたね。火花は魔力の発動に似る。火花によって溜まった力が疑似的に精隷の力を呼び覚ましたのだろう。そして君に力が移った理由は明白だ。蛇神アスカリヒトに呪われる一方で強大な力を手にした者は過去にも幾人かいるからだ。


「俺もその一人になったということか」


――そうだね。


「それで……その精隷石と皇帝の魔力を回復させるのがどう繋がるんだ?」


――精隷石の加護を呼び覚ましてやるのだ。君の魔力を精隷石に注入することでね。


「そんな事が出来るのか」


――出来るものもある。皇帝がセイドラントを滅ぼした際に一瞬で帝都に移動した力があるだろう。縮地法というのだが、あれは精隷石を身に着けた皇帝が無意識のうちに使った精隷石の加護だ。その精隷石に眠る精隷の名はサキナ。雨燕の化身だ。


「よく知っているな」


――昔会ったことがある。今はどこに行ったかと思えばセイドラントに祀られていたわけだ。他にも皇帝が持ち出した精隷石には一つ一つ精隷が眠り、魔力さえ与えればその加護を引き出すことができる。きっと帝国のその兵器たちも同じように見えて能力は少しずつ異なっているはずだ。例えばそう……サキナの宿る精隷石を使用している新兵器は他のどの新兵器よりも早く駆けることが出来るだろう。


「成程な。サキナとやらの精隷石が使われている化身装甲か装甲義肢を見極めて、そいつから精隷石を奪って俺の魔力を注入して皇帝に持たせてやるわけか。ずいぶん過保護だな」


――そう言うな。決して簡単ではないが、我は君とクランツの戦いを見ていて気づいたことがある。それは装甲義肢という兵器が精隷石に宿る僅かな魔力を無駄に消耗しているという点だ。精隷石は完全に魔力を失い死にかけると急激に周囲の魔力を吸う。これは中に眠る精隷による防衛本能だ。


「稼働限界だ。そういう原理だったのか」


――それだ。今は各所に散らばって稼働している新兵器だが、皇帝は大転進記念祭の折に国威発揚と護衛を兼ねて必ず手元に置くだろう。どれがサキナの宿る精隷石か探しやすいはずだ。そして稼働限界の制約により操者は無暗に稼働出来ず、最初は精隷石のみを見に着けた状態でいるだろう。生身の人間が相手なら君の敵ではない筈だ。


「そういうことか。合点がいった。しかし石を奪ったらその時点で襲撃が知られるところになるな。レイトリフを出し抜いて皇帝と話し合いの場を設けて、かつレイトリフにばれないように皇帝を逃がすとなったらかなり忙しいことになりそうだ」


――隠密を駆使して上手く操者から精隷石を奪い、件の時まで隠し通してくれ。


「無茶を言うな。もしも石が奪えなかったら?」


――話し合いの場を設け皇帝に島嶼への不可侵を約束させるのが第一だ。危険そうなら諦めれば良い。それに石を奪うという作戦は皇帝を逃がす場合の作戦だ。皇帝を倒す気ならば奪う必要はない。


「逃がした方がよいと判断したのに石を手に入れられなかった場合は?」


――レイトリフ殿に気取られないように襲撃の邪魔をして皇帝を逃がす他あるまい。


「……オタルバとよく話し合って決める必要がありそうだ」


――己の意志に従いなさい。すでに君は気脈を見る者だ。何が世界にとって最善手であるかは決断を前にすれば自ずと理解できるだろう。


「そういうもんか」


――オタルバは気脈を感じることが出来てもまだ見ることは出来ない。この作戦はオタルバに実行してもらう予定だったが君のおかげで成功率は上がっただろう。いいかね、今後の世界情勢も考えれば大転進記念祭で皇帝の命を狙う事は下策だ。だから我は君が皇帝を逃がす為に最善の行動を取ることを歓迎しよう。ただし今が倒す好機というのも事実だ。その事は常に念頭に置いて行動しなさい。


 どちらに転んでも問題はあるが何もしなければもっと深刻な問題に見舞われる。


 世界の不文律に絡む大きな決断がロブの肩に乗っていたがあまりにも事が大きすぎると実感が湧かないものだ。


 しかし色々言っておいて最終的な判断は自分に任せるあたり大賢老もずるいとロブは思った。


 ただし流石にそれを咎めても意味がないことは分かっていたのでロブは自分が今出来ることを考えることにした。


 該当の精隷石を持つ操者が誰なのか。


 どこで襲撃するのか、レイトリフ側の協力者とその配置はどうなっているのか。


 確認しておきたいことは沢山あったが指名手配中であるロブが表立って行動できるわけもなく、殆どがジウにいて情報が入ってくるのを待つしかない。


 あまり手応えのないまま時間だけが過ぎ去っていき、大転進記念祭はついに目前に迫るのだった。

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― 新着の感想 ―
隷とはなかなか強い言葉を使われましたな。 それはともかく、先日の感想で質問した内容がすぐ先の話で答えでたのがとても恥ずかしかったです。 さらに丁寧に解説下さってありがとうございます。 私の理解や…
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