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SKYED7 -リオン編- 上  作者: 九綱 玖須人
魔力を知る
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魔力を知る 6

「自力型と他力型とはなんだ?」


「自力型ってのは己の魔力のみを消費する魔法だ。イェメトの催眠の範囲魔法がそれだね。長所は他者からの干渉を受けにくいこと。短所は膨大な魔力を持ってないと魔法の効果が大したことない点だね。逆に他力型ってのは気脈を介して他の精気に自分の魔力を充てる魔法だ。長所は自分の魔力の消費が少なくて済むこと。短所は魔法の威力が他の精気の多少に依存したものになる事と、他者からの干渉を受けやすいことだね」


「どっちがいいんだ?」


「場合によるとしか言いようがないね。まぁ何にせよ魔法を使いたいなら魔力を多く持っていたほうが当然有利さね。でも魔力の保有量は個人差があるし、修行して一層の魔力を得ることが出来るものもいれば一生保有量を変えられない者もいる。それは運だね」


「努力が無駄に終わることもあるというわけか」


「その言い方は好きじゃないねぇ。頑張れば何かしら得るもんはあるもんだ。それに魔力が増える速度が単純に遅いだけかもしれない。それを検証するには人間の一生は短すぎるのかもね」


「亜人のほうが有利ということか」


「亜人にも人間より短命なやつもいるけどね。これも千差万別だ。同じ家族に産まれた同じ種族の亜人でも十年そこらで年老いて天寿を全うするものもいれば百年経っても若いままのやつもいる」


「不思議だな」


「まぁ亜人のほうが有利ってのはあながち間違いじゃないかもしれないね。野生の勘とか五感は亜人のほうが勝っていることが多い。魔力を理解するうえで勘は非常に大切だ」


「なるほどな」


「とまぁ、ここまでは理解出来たかい?」


「なんとなくな」


 勘よりも的確な視認の力を持つロブは恐らく誰よりも早く理解に達した。


「よし。それじゃあ御託はここまでだ。ロブ、あんたは魔法の出し方を知らない。そして大賢老はあんたが魔力を暴走させちまう恐れがあると言っていた。たまにいるんだよ、そういう奴。際限なく気脈に干渉しちまう奴さ。そうならないように予め精気を発散させるには……解るだろう?」


「自身の魔力を制御し、時に魔法を使って解消する……ということか?」


「そういうことだ。さあ立ちな。次は実戦だ」


 ちょうどその時ルーテルが戻ってきた。


 オタルバはルーテルにラグ・レを任せ、今度は一緒にジウの周りの見回りに行かせることにした。


 ロブが魔法の鍛錬をしている間、オタルバはブランクに稽古という名のお仕置きをすることにした。


 散々オタルバと戦いたがっていたブランクだったが名目の不名誉さにはかなり不服のようだった。


「それじゃあ自分の魔力の境界線がどこにあるか、そして何の精気と呼応しているかを感じるんだ。焦るんじゃないよ。雑念は敵だ。もっとも、あたしは傍でブランクをしごいているから集中するのに邪魔かもしれないけどねぇ」


 オタルバは意地悪く笑うとブランクに向けて攻撃の構えを取った。


「助言が欲しければいいな! 集中力が切れてもね。ブランクがへたばったらあんたもまた相手してやるよ!」


「えぇっ、いきなりかよオタルバ!? ちょっ待っ」


 不意打ちで足払いをくらったブランクは成す術もなくひっくり返りオタルバの関節技を受けている。


 断末魔のような悲鳴が響き集中するどころの環境ではないがロブは自分を視た。


 自分を包む光は非常に見辛いが色々理解出来た今なら自在に操れる気がする。


 ロブはマノラの町でアルバス・クランツと戦った時の事を思い出した。


 全身を這い回る蛇の気配を脳内で再現する。


 邪神アスカリヒトの力は対クランツ戦でも対ニファ・サネス戦でも若干だが見ることが出来た。


 黒い炎雷、それがアスカリヒトの魔力であり自分が使える魔法なのだろう。


 稼働限界から復活したサネス一等兵も、クランツ戦の時の自分も邪なる炎雷を纏っていたがあれは一時的に自身の能力を底上げする効果でもあったのだろうか。


 ロブは全身の光が黒い炎雷だと思い込んでみることにした。


 気脈に僅かな乱れが生じ大賢老とイェメトが真っ先に反応する。


 大賢老は全神経を使い周囲の気脈に網を張り、イェメトは催眠魔法を強化する体制に入る。


 悪寒を感じたオタルバがロブを見るよりも早く魔力が吹き荒れた。


 黒い炎雷が再現された。


 繋がった。

 

 それは奇妙な感覚だった。


 支配し支配され、全てが一つに集約され、あるいは霧散していく。


 気脈の渦の中に存在する憎しみや悲しみ、怒りや死の概念と自分が一体化していく。


 そしてロブと繋がった精気が支流から本流に連なる大河のように渦を渡ってくる。


 自分のものとも他人のものとも知れない記憶が駆け巡り、ロブはそこに何者かの気配を感じた。


 何者かの閉じられた目がロブの気配を察知し開かれようとしている。


 それは刹那の瞬間を引き延ばしたかのような遅さではあったが確かに見開かれようとしていた。


 あの目は知っている。


 あれに見られてはいけない。


 ロブは叫び声をあげ拒絶するように両腕を顔の前に交差させた。


 その瞬間、大賢老の魔力が気脈を辿り詠唱を纏いながら何者かの目へと繋がる精気を断ち切った。


 次いでイェメトの網目状の催眠魔法が盾のように堅固に変わる。


 吹き荒れた魔力は次第に勢いを無くし大樹の麓に静寂が戻った。


 あまりの急展開に付いて行けなかったオタルバがようやく我に返った。

 

「な、なんだったんだい、今のは!?」


 裏返った声でロブを詰問する。


 ロブは額に玉のような汗を浮かべながら肩で大きく息をしていた。


「……皇帝だ。危なかった。出来ると思ったら本当に出来た。そうしたら繋がってしまった……」


「……大賢老たちの機転でなんとかなったけど……ちょっと色々説明してもらうことがありそうだね。……機転?」


 皇帝というロブの言葉に仰天したオタルバであったが皇帝がここを見ようとしたことが未遂に終わったことを知ると胸を撫で下ろした。


 しかしあまりにも待機していたかのような大賢老たちの咄嗟の判断にオタルバはすっきりしないもどかしさを感じた。


「あ」


 何故こんなにも早く大賢老たちが反応できたのか考えているとロブが頓狂な声を上げる。


 オタルバはその声に面食らった。


「どうした!?」


「ブランクの首、きまってるぞ。死ぬんじゃないか?」


 見ればオタルバに抱きしめられたブランクの顔が紫色になりぐったりしている。


「うわっ」


 ようやく気付いたオタルバは慌ててブランクを解放するがブランクは力なくその場に崩れ落ちた。


「やばい」


「や、やばくないさね! こんなのちょっと休ませればすぐに起きるさ」


「いや、ブランクじゃなくて」


 ロブが指を指し、怪訝に思ったオタルバが指の差す方向を見ると黒い炎に木が焼かれていた。


「うわああああ!?」


 オタルバは本気で驚いた。


 ロブが腕を交差させたあの時だ。あの時に魔法が放たれたのだ。


「なんか出た」


「な、なんか出た……じゃないよ! ばかっ! ばかばか! 消せ!」


「桶あるか?」


――その炎は水では消えない。


 てんやわんやの二人の脳内に大賢老の声が聞こえ光が燃え盛る木を包み炎が消えていく。


 後には哀れにも醜い焼跡を残した消し炭だけが残った。


 安心したオタルバはその場に座り込んでしまう。


「な、なんなんだいこれは? ジウ!」


――まさかこれほど早く境地へ達するとは私も予想外だったよ。これは今一度計画を練り直す必要がありそうだね。……ロブ、それに触ってはいけない。


 焼け跡に近づくロブを制し大賢老は深く感じ入っていた。


 初めてでこれだけ魔力の神髄に深く潜り込むことが出来る人間などかつていただろうか。


 もしかすると皇帝の虚を突けるかもしれない。


 そしてロブ自身もアスカリヒトの分身の呪いに打ち勝つことが出来るかもしれなかった。




「…………む」


「どうした、ザニエ?」


 遠く離れたゴドリック帝国にて。


 帝都ゾアは首都エセンドラ城の玉座に深く腰をかけていた皇帝ブロキスはふいに顔をあげた。


 何かの気配を感じたようでその反応は傍に仕えるショズ・ヘイデン少佐にも伝わった。


「…………」


「なにかあったのか? 答えろよ」


 眉根を寄せたヘイデンがブロキスに詰め寄ると、ブロキスは目を細めて歪な笑みを浮かべた。


「ショズ……ロブ・ハーストだ。ジウにいる」


「無事に着いたか! リオーニエは無事か?」


「…………」


「…………軍曹を()に出来たんじゃないのか?」


「いや、すんでのところで強大な魔力に阻まれた。ジウの大賢老だろう。赤子を受け入れこそすれども手の内を見せる気はないらしい……当然だな」


「そうか……くそ、思いもよらない使える副産物だと思ったんだがな。使えそうにないか」


「まだ分からんぞ。ジウには門番の亜人がいるという。ロブ・ハーストはそれと戦い、再び無意識のうちに魔力を発動させただけかもしれん……アルバス・クランツと戦った時のようにな」


「だがそれは大賢老も放ってはおかんだろう」


「例え放っておかずともロブ・ハーストは普通の人間だ。いくら大賢老が魔法の使い方を教えようともそうそう使いこなせるようなものではない。まだ好機はいくらでもあるだろう」


「だと良いんだけどな。ザニエ、あまり楽観視するなよ」


「問題ないさ。ロブ・ハーストはあくまでもおまけだ。あの子を受け入れた以上はもはや中立とは言わせない。……大転進記念祭の準備は順調か?」


「ああ。これで面倒ともおさらばだ。色々犠牲にしてきたがようやく一歩前進できるな」


「……後退に次ぐ後退を余儀なくされ、ようやく一歩の前進か」


「だがそれは大いなる一歩だ」


 ヘイデン少佐はブロキス帝の足を軽く蹴るとブロキスは片方の口角を上げ笑い、手を払う仕草をした。


「さあ大詰めだ。お互い頑張ろうぜ」


「ああ」


 ブロキス帝は再び背もたれに深く腰を降ろし黙想を始めた。


 ヘイデン少佐も傍の机に戻り各方面から届く諜報員の資料に目を通すのだった。

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