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SKYED7 -リオン編- 上  作者: 九綱 玖須人
魔力を知る
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魔力を知る 2

「きたる慰霊の日に至り領国に兵の動きあれど其は内政の為なれば島嶼諸国家において患いなきことを誓い候、又干渉なき事を求むものなり。さにあらば皇帝陛下は義士に再び報いるだろう」


「ノーラ、感謝はするが私だって今読もうと思ってたんだぞ」


「……はいはい、また勉強しなきゃだね」


 少し前に喧嘩してしまった二人だったがノーラのほうから歩み寄ったようだ。


 ラグ・レはそもそも全く引きずっていなかったようでいつも通りの対応だ。


 きっとブランクとも近いうちに自然と和解するだろう。


 読めない者の代わりに音読するノーラの気遣いにロブは心の中で感謝した。


「書簡って、これだけ?」


 予想通りノーラはブランクに問いかけた。


「いや、中身見てないし。他に何が入ってたかなんて知らないよ」


「あんたねぇ」


『中身はそれだけだった。大よそ全てを語る気はなく、返事次第では今回の件をなかったことにしようという腹積もりだろう』


「ということは意味深なことを書いて聞き返すのを待っているということ……か!?」


「返事待ちというのは確実だな。深読みすればだが、レイトリフはブロキス帝のことをセイドラント候と呼んでいた。ブロキス帝をゴドリック皇帝だと認めていない呼称だ。それを鑑みると書簡にあった皇帝陛下というのは次期皇帝のことを指しているんだと思う。奴は政変が成された暁には自分ではなく先帝の縁戚であるブランバエシュ公を新皇帝に据えると言っていた」


「では再び報いるとはなんのことだ?」


「わからん」


「島嶼が求めるであろう利点……再び……」


『おそらく先帝が島嶼と約定を交わしていた国家承認と通商の優遇政策のことだろう。先帝の時と同様の関係性に戻す準備が整っているということだろうね』


「口約束なら何とでも言えるな。信に足らん。条文を交わしていたのに独断で破棄された傷は根深いぞ」


『エルバルドの言っていることは最もだ。どの道今一度使者を使わす必要があるだろう』


「使者か……」


 既に合議はどこへやら、皆が一丸となって問題に当たっていた。


「レイトリフは魔法使いの協力を求めていた。不思議な力を持つ皇帝は同じく不思議な力を持つとされるジウの住人でないと破れないだろうと。使者を出すなら魔法使いのほうがいいだろう。そういう人材はジウにどれくらいいるんだ?」


「ふん、外ではジウに対する妄想が膨らんでいるようだ……な!」


「魔法を使えるのはジウとイェメトとオタルバのみだ。あとは小さな傷を治したり植物を急激に枯らしたりすることが出来るものもいるが確実でなかったり自分の意思で出来きなかったりして魔法と呼ぶよりは奇跡と呼んだほうが良い。その程度の者ならここにいる殆どの住人がそうだ」


「俺たちみたいに魔法は使えないけど亜人由来の力で人とは異なってる奴も多いけどな。ノーラなんて魔法じゃないけど海獣を操ることが出来るんだぜ」


「人の力を勝手にぺらぺら喋んないでよ」


「そうなると三人のうちの誰かが使者に出るしかないということか。 ……大賢老は代表だから使者ではないな」


「ていうかあそこから動けねえし」


『使者はオタルバが行っても良いと言っている』


「ほう?」


「馬鹿……な! 審判はどうするの……だ!」


『使者ならば一週間程度で帰ってこられるだろう。その間はルーテル、君が門番を務めよ。魔力の有無の審判ならば我の元に連れてくるが良い』


「おおお……門ば……ん!」


 ルーテルは門番に憧れていたのか目を輝かせて満足そうに天を仰ぎ、ラグ・レが大賢老に質問した。 


「レイトリフとやらに協力するということはそっちの陣営に入るということだろう? そんなんで皇帝と話し合う機会なんか得られるのか? ないせいかんしょうってやつはどうした?」


『レイトリフ殿の策に乗ったように見せかけ皇帝に接近するのだ。そこで赤子を預かる事と島嶼の安堵が交換条件であることを提示する。レイトリフ殿には悪いが彼の計画が露呈する前に出し抜かせて貰おう。さすれば彼にも咎は及ぶまい。皇帝と約定を取り付けた後は皇帝を逃がす。彼が一瞬で遠方に移動した逸話は誰もが知っているのだ。そしてレイトリフ殿には皇帝には襲撃前に逃げられたと説明すれば良い』


「なるほど」


「政変の道は遠くなるな」


『露呈さえしなければ次がある。きっとレイトリフ殿が諦めることはないはずだ。だが今はまだ時期尚早だ。新皇帝が誕生したとしても我々への約定はブロキス帝から引き継いだという形のほうが良い。新皇帝が我々とすぐに約定を締結すれば関係性を疑う者も出るだろう』


「しかし皇帝は魔力を使い過ぎて衰弱しているのでは? 縮地法が使えないほど弱っているのだとしたらどうなる?」


『万が一そのような場合もあるだろうが皇帝の魔力を一時的に回復させる策はある。追って説明する』


 合議は多数決もなくレイトリフを利用する方針で固まっていった。


 利用しようとしてくるなら利用しかえすまでだ。


 オタルバが使者ならばレイトリフも喜び打倒皇帝の気運が高まるだろう。


 計画はいよいよ大詰めとなった。


『ブランク、君はテルシェデントの町をよく知っているだろう。オタルバに同行しレイトリフ殿の仲介役となりなさい』


「分かった! オタルバだけだと急に変な奴が来た! ってレイトリフもびっくりするだろうからな」


「私も行く!」


「あんたは留守番だ」


「なぜだ」


「あんたはアナイの戦士だろ? 今回の作戦はアナイの民の了解を得ていない。というか赤ん坊を連れ去る時も紙一重だったんだ。それとも戦士の刺青を化粧か何かで隠して、鞍を置いて行けるか?」


「馬鹿を言うな、エルバルドよ。戦士の誇りを隠すことなど出来ない」


「だったら留守番するしかないな」


「解せん」


『では役割を確認しよう。我は気脈を辿り周囲の情報を集める。イエメトは通常通り大樹を守り赤子を世話せよ。オタルバはレイトリフ殿への使者で、ルーテルは門番の代理だ。シュビナはイエメトの補佐。エルバルドは島嶼諸国への工作。ブランクはオタルバの補佐。ノーラは海獣船を出して二人を連れて行き、万が一の時の為に隠れて待機しなさい』


「おい、私は?」


『……そうだね、ラグ・レはルーテルから門番の仕事を学ぶように。いずれは任せることになるかもしれないからね』


「おお! 分かった」


 ラグ・レの顔が紅潮し輝いた。


『あとは……ロブ、君だが』


「俺もか」


『君は我の元で魔力と気脈、魔法について学びなさい。学べばもしかしたら使いこなせるようになるかもしれない』


 大賢老じきじきの台詞を受けて皆の注目がロブに集まった。


「なにそれ、嘘でしょ……?」


「あれ、ノーラは知らなかったっけ?」


「すまん。俺にも魔力があるらしい」


 ノーラはますますロブが生理的に受け付けなくなったようでそっぽを向いてしまった。


『ああ、そうなのか』


 大賢老が独りごちて再びロブに声をかけた。


『まずはオタルバが君を見ると言っている。約束していたんだね。我も情報収集があるから二、三日は欲しいところだった。僅かな時間だがロブ、君はまずオタルバから色々学びなさい』


 ロブは自分からした約束だったのでこれを快諾した。


『エルバルドとオタルバ、ブランクはよく我と連携しよう。これはこの大樹のみならず島嶼の命運がかかっている作戦だからね。熟考ののち決行に移す。しかし早いうちにレイトリフ殿には協力を知らせておく必要があるな……』


「合図を送るくらいならシュビナに任せればいいんじゃないか? シュビナならひとっ飛びだろ。レイトリフん家は俺知ってるぜ。警備は厳重だったけどシュビナなら窓から行けるだろ」


『ふむ。シュビナ、どうだね?』


「頑張ったらご褒美あげちゃおうかしらァ」


「や、や、やる。頑張る」


『よろしい。それでは我々の歩むべき道は決まった。以上で良いかね?』


 お互いを見まわした皆の視線は最後に大賢老に集まる。


「異議なし」


 口々に戦士たちは同じ言葉を口にした。

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