希望の子
大雨の降りしきる嵐の夜のことだった。
深い森の中、帝国の兵に追われる男がいた。
騎兵は男の逃げ道に先回りしては捕具を繰り出した。
対して男は片手のみで槍を振るい、防戦しては逃げてを繰り返していた。
しかし。
視界の悪さに五感が鈍ったか、それとも追っ手の策略か。
道なき道を行く男が辿りついてしまったのは断崖であった。
その先にあるのは大時化にうねる黒色の海。
もはや男に逃げ場はなかった。
男を囲んだ歩兵が携行していた銃をようやく構える。
そこに遅れてやって来たのは人の倍はあろうかという巨躯の重装歩兵たちだった。
それらは化身甲兵と呼ばれていた。
帝国が開発した外殻装甲を纏う兵士だ。
怪力と防御力に優れ、人によっては機動力も上がると言われているものの、扱いが難しい新兵器である。
ただ、それを鎧っているということは即ち戦闘力に優れた精鋭であるという証左であった。
普通ならば圧倒的な戦力差に絶望するであろう状況でも男は冷静そのものだった。
場数が違っていた。
いくら最高の兵器が揃おうと男には関係ない。
何故なら男は帝国陸軍最強と謳われた兵士なのだから。
ゴドリック帝国の東端、名もなき岬から物語は始まる。