2025年3月22日(曇)
2025年3月22日(曇)
生まれ故郷の小学校は私が入学してすぐ廃校になったし、こっちの中学校でも私たちが最後の卒業生となることが決まった。
それは他の学校も同じ。集住政策の完成が近いて、遂に周辺地域についても再編が始まったんだ。真理も梨子もクニモも、もう引っ越しが決まったみたい。もちろん、ウチもお引越し、私なんかはもう3度目。
でも、新しいお家にどれだけ居られるかはわからない。涼姉たちとどれだけ一緒に居られるかもわからない。
「まーりさん♪ 」
心臓が口から飛び出てしまった。誰もいない筈、薄暗い事務所で突然後ろから肩を叩かれたのだから、それはそれはビックリする。
動機の収まらない胸に手を当てつつ振り帰れば、珍しく私服姿の奈美がにっこり笑顔で立っていた。地味色のパーカーに地味色のスキニーと、これもやはり視認性を意識しているのであろうか。
「止めてよね……、心臓に悪いわ」
四十にもなると、それこそちょっとしたことに肝を冷やすようになる。そんなことをこの子に言ってみたところで分かるはずもないとそれ以上は飲み込みつつ、手にしていた古びたノートをコッソリ手鞄に仕舞い込んだ。
「あれ、リマインドしませんでしたっけ。今日は祝日ってことでお休みです、無申請の休日出勤はお給料も出ませんよ? 」
「ちょっと忘れ物をしてね」
鞄に手を入れて、「彼女」の存在を確かめた。指先に伝わるくたった表紙の厚紙と縒れた背のしっとりとした感触が安心感をもたらしてくれる。ごめんなさいね、と心のなかで独り言ちた。
「それであなたは? 祝日なんでしょ? 」
「でへへ、こっちに私物を置きすぎちゃってて……」
ご主人様を待たせているからと、袋を抱えて立ち去ろうとする奈美を引き止め、真理は小さな包みを取り出した。奈美へのちょっとした誕生日プレゼントだった。