SITY=DIVER Reconstruct the Babel:2
粉々になって剥がれ落ちた天井やらで足の踏み場もなかった。一歩踏み出そうとしただけで、ガラスなどの類が足元でシャラシャラカラカラと鳴るのが生々しい。
黙々と仕事をする鑑識たちの側で、黒焦げの現場を眺めるだけをしていた男が二人。風体からは同じくらい年を食っているようにも見えたが、一方の顔の片側からはおよそ人相という失われていて、「貫禄」とも呼ばれるであろう恐ろしげな雰囲気が漂っている。
「氏川。俺も出迎えもなしに、よく規制線を越えられたな」
半人相の男は懐から警察手帳を覗かせて、それを示した。
「ハァ、また偽造手帳か。警備の連中も、せめてIDの照合ぐらいして確かめろっていうんだ」
「ウチで雇った新しいハッカーが、まだまだ若いがそれだけに優秀でね。おたくのデータベースに侵入してデータベースを書き換えるなんて、ワケもなかったさ」
自分の端末で偽造手帳の一次元バーコードを読み取った警部は確かに氏川の登録があるのを見、そして呆れた。ご丁寧に、顔写真は火傷を負う前のものが収まっている。
「ハァ……、まぁ俺らは今まで通り目を瞑ってやるだろうがなぁ、公安連中には気をつけろよ。お前に身内を殺されたとかなんとかで、相当に気が立っている。怨み言が俺のところまで聞こえてくるほどだ」
「あぁ、知っている」
昨夜、氏川はその公安刑事の通夜に参列していた。少し前に奈美が銃撃戦を演じたこの現場には、就労支援中央周辺のきな臭い香りを嗅ぎ取った公安から潜入していた刑事がいたのだ。その彼が、他の職員と共に黒焦げとなった状態にて発見された。
銃弾に斃れたのかどうかはまだハッキリしていない。だが、氏川らが首を突っ込んだ結果、仲間が死に、何より捜査を妨害されたと、彼らの恨みを買うことになってしまった。
「入手した情報の全てを提供する、今後ウチはこの件に手出しをしない、この二つで手打ちだ。何、彼らは至って冷静だよ」
「だったら、ここにいるのは不味いんじゃないか」
「休日に友人と会っているだけだ、問題ない」
氏川はしらばっくれた。もっとも、既に依頼を達成していた彼には、これ以上の調査を行うだけの動機は存在していない。ただ、一つだけ確かめておきたいことがあった。
この惨状を一目すれば、ここで激しい爆発があったことぐらいは素人目にも判る。しかし、あの時の奈美の武装は9㎜のマシンピストル一丁とハンドグレネード。MK3を二つ使用したと報告を受けてはいたが、どう考えても破壊力が違う。今後、想定外の事態を引き起こすことを防止するためにも、事の真相を確かめておく必要があった。
警部によれば爆発物はコンポジションC‐4、ありふれたプラスチック爆弾だ。既に星も挙がっているとのことだった。逮捕されたのは南洋系の移民二世、まだ容疑を認めてはいないが、証拠は一通り揃っているらしい。
詳しく聞いてみると、通報の第一報は何やら大きな爆発があったあと、空中庭園の中腹から煙が立ち上っているのを見たというものだった。時間としては、あの銃撃戦の少し後である。つまり、犯人は死屍累々と化した事務所をわざわざ爆破したということである。
自分の会社に戻った氏川は、逮捕された男の写真を奈美に見せた。だが、彼女は、交戦した敵集団の中にも、職員の中にもそれらしき人物はいなかったと答えた。仮にその中に居たとしたら、少なくとも大和系には見えない彼は大いに目立ったはずだ、と。