表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/12

婚約破棄の結末


 婚約破棄はあっさりと認められた。

 もちろん、原因はわたしではなくてジョセフが浮気したこととわたしに冤罪をかけたことだ。当然と言えば当然だった。


 浮気はともかく王子が婚約者に冤罪をかけるってどうなのよ、と思う。どの国も盆暗な王子がやっている手段とは言え、その成功率のなさから他の手段を取ってほしい。


 成功率の低さではないわよ?

 成功率のなさよ。


 どの国の王子も冤罪だとわかってしまうほどの稚拙さなのだ。だからこそ、面白おかしく舞台が作られるのだけど。見ている分には楽しくても、当事者になるとこれまた微妙な感情になる。


 事前にわかっていたわたしでさえ微妙な気分になるのだ。王子妃教育や王太子妃教育を受けている婚約者であったなら、この微妙な気持ち、きっとわかってくれると思う。

 どこかに被害者の会とかないかしら。このモヤモヤを誰かと共有したい。


 お父さまの執務室には嫁いだお姉さまも呼ばれて、家族全員そろっている。


「でも、どうしてあのような手段を選んだのでしょう?」


 わたしとジョセフの婚約は特に政略でも何でもなく、国王の親心だ。だからジョセフがわたしとは幸せになれないと訴え出ればすぐにでも婚約白紙にできたはずだ。だからこそ、冤罪という割の合わない手段を選んだことが理解できずにいた。冤罪なんて、たとえ王族であったとしても自分の未来を潰す行為だ。


「巷で流行っていたからではないのか?」


 適当な理由を告げるのはお兄さまだ。どこか投げやりのような、何かを隠しているような態度に目を細めた。お父さまと共に国王と今後の話し合いをしていたので、きっと何か知っているはずだ。


「質問を変えます。どうして殿下はわたしをそこまで嫌いだったのですか? 途中まではそれなりに仲が良かったと思っていたのですけど、わたしの勘違いでしたか?」


 ジョセフが遊びを覚えるまではそこそこ仲が良かったのだ。それまでは勉強から逃げてしまうことも多いが、そういう面では期待されていない王子だったのでわたしとしてもちくりという程度だった。ところが遊びを覚えた後から、ジョセフはわたしを遠ざけるようになった。


 しゃべってしまえ、と念を送ってみる。お兄さまは肩をすくめた。


「聞いたら衝撃が強すぎて倒れてしまうよ?」

「それでも知りたいです。わたし、殿下が遊びを覚えた後、かなり色々頑張ったと思うのです」

「……頑張り足りないところがあったようだぞ」

「どんなところです?」


 わたしはむっとした。気を遣われているとは思うが、あれほどの努力をしたのに、何もしない盆暗に努力が足りないと言われるのは気分が悪い。お前こそ、色々と足らなすぎるだろうと怒鳴りたくなる。


「……が人並み以下の所だ」

「お兄さま、聞こえません。はっきりと言ってもらえますか?」


 お父さまが何故かわたしから視線を逸らした。お兄さまはにやにやしながらもう一度繰り返した。


「お前の胸の大きさが標準以下なのが許せないらしい」

「……」

「まあ、そればかりは努力しようにも一人では無理だな。浮気なんて論外だし、殿下にしてもらうのもちょっとな」


 口元が引きつった。確かにわたしの胸はお母さまやお姉さまに比べて、やや劣っている。コルセットで下から持ち上げているから二人のお胸はドレスからこぼれてしまうのではと思うほど大きい。わたしといえば、コルセットで持ち上げても上品な丸みしかない。小さいわけではない。ドレスからはみ出すほどないというだけだ。


「おほほほほ」


 わたしの右隣に座っていたお母さまが笑った。驚いてそちらを向けば、目が笑っていない。


「うふふふふ」


 わたしの左隣に座っていたお姉さまが笑う。こちらも目が笑っていなかった。


「あの顔だけ王子、どうしてやろうかしら」


 お姉さまが恐ろしいほど冷たい笑みを浮かべて呟いた。その声音に、背筋が凍る。同調するように少し憂い顔でお母さまがぽろりと言葉を零した。


「ちょっと社交界から干してみるのはどうかしら?」

「あら、それはいい考えね。あの下半身王子と付き合うと、社交界からつまはじきにされるとなれば近寄る女もいなくなるでしょうね」


 うふふ、あははと笑みを浮かべながら交わされる会話に混ざるまいと一歩引いた。社交界の中心ともいえるお母さまを敵に回すなんて、なんて恐ろしい。ジョセフには危機を感じ取る力が極端に低いに違いない。

 なるべくお母さまとお姉さまには関わらない方針を立てながら、一番知りたかったことをお父さまに尋ねた。


「お願いしていた学園になる予定の城はどうなりましたか?」

「あれはお前名義になる。元々は我が侯爵家の城だからな。ジョセフ殿下と婚約した時にいったん王家の預かりとなったが、返してもらった」


 お父さまが当然のように説明する。


「だが、そのまま学園にすることが条件だ。学園として立ち上げて機能した後、お前の夫となる相手に爵位が授与される」

「それでいいですわ」

「それから、他に慰謝料としてジョセフ殿下の財産分与分の半分と王族からの同額の慰謝料をもらってきた」


 どうやら資金も用意してくれたようだ。わたしはにっこりとほほ笑んで、お父さまとお兄さまにお礼を言った。お母さまとお姉さまの相談事は聞こえていないことにした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ