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温泉物語  作者: 蒼乃みあ
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第六十六話 社交パーティーの始まり

 もうすぐ学校主催の社交パーティーの日だ。既に仮縫いも本縫いも終わらせていて、後は届くのを待つだけである。


 どういうドレスなのか確認する為に、仮縫いの時にはお店へ一緒に行ってもらった。試着してみた時に感想を貰ったけど、二人の口から出てくるのは誉め言葉ばかり。

 確かにドレス自体は凄い可愛かったけど、自分じゃこれが本当に合ってるかなんてよく分かんなかった。ドレスなんて着た事無かったし…。

 お店の人も一緒に褒めるから、社交辞令なのか本気で言ってるのかが、イマイチ判断できなかったんだよね。多分、好意的に思ってくれてるのは分かるんだけど…。


 メアリー達と似たようなデザインで作って貰ってることを伝えていたから、ひょっとしたらアレコレ口出しするのも悪いと思ったのかもしれないし。


 仮縫いが終わった後、ドレスについて話すのを忘れていたお詫びに…という事で、それに合った装飾品をもらってしまった。勿論、最初は宝石の付いたようなモノを贈ろうとしていたので、直ぐにお断りはしたけど。

 そんな高価な物、気軽に貰えません。私、ただの平民ですから…。普段使いにもなるし、とか言ってたけど、ユレイドの町に持って帰ってこんなモノを身に付けてたら、悪漢に狙われるに決まってる。


 嬉しいんだけど、やっぱり常識が違うんだよね…。贈り物の額が、平民と貴族で違い過ぎる。


 出来るだけ高くないモノで、二人からはプレゼントを貰った。アルベルトからは髪飾り…と言うか、ティアラを。ジェイクからは、ネックレスを。どちらも宝石ではなく、ガラス細工の様なモノで出来てるので、宝石に比べると値段は一気に落ちる。

 ただし、私にとってはそれでも高いんだけどね。別に、そこまで贈り物が欲しい訳じゃないんだけどな…。


「アイシャ殿、コレを確認しておいて下さい。」

「……?」


 今日は社交パーティーの為に、ダンスの特訓中だった。幾らか踊れるようになったとはいえ、一年程度でマスターできるものではない。日々の努力がモノを言うのだ。少しでも、一緒に居て恥ずかしくないようにしなければ、私が彼等の隣に立つ事は出来ない。


 本当に、私なんかが彼等の傍に居ても良いのだろうか…。


「アルベルト様、コレは?」

「社交パーティーでダンスに誘われた場合、受けても良い人物です。」


 渡された紙に書かれていたのは、何人もの人の名前。一体何だろうと尋ねると、パーティーで踊っても良い相手だそうだ。

 社交パーティーでは最低でも五人の異性と踊り、社交をこなさなくてはならない。アルベルト達が厳選したらしく、ここに書かれてる人物から誘われた場合は受けても良いそうだ。


「アイシャ殿、こちらは踊ってはならない人物です。誘われても、断る様にして下さい。」


 ジェイクに渡されたのは、危険人物と記載された紙だった。書かれてる人数は少ないが、彼等は私に対して無理やり迫る可能性もあるそうで、気を付けなきゃいけないらしい。

 貴族に無理やりって、怖いな…。


「…レイド様も何ですか?」


 シャーロットを推薦したレイドの名前が載っている。と言うか、よく見たらどれもシャーロットの取り巻きの名前ばかりだ。


「少しでもシャーロット殿と関わり合いを持たないようにしてほしいのです。彼等はシャーロット殿が絡むと、何をするか分からないですから…。」

「本当、不思議なくらい彼女にの入れ込んでいるようで…。」

「……そう、なんですか。」


 うーん、メアリー達は無いって言ってたけど、もしかしたら相手を魅了するような魔法が存在するかもしれない。この世界は当たり前のように魔法が存在してるんだから、操ったりとかするような魔法って本当に無いのかな?

 私からすれば、魔法があるこの世界自体が不思議なんだし、あってもおかしくはないと思うんだけどな…。誰にも知られてないだけで、実際にはあったりするんじゃない?


 …まあ、仮にあったとしても、何でシャーロットが知っているのか、って話にはなるだろうけども。


「まるで、魔法にかかってるようですよね。」


 そんな私の呟きに、ジェイクはそんな魔法があったら困っちゃいますね、何て微笑んでいる。やっぱり、誰も知らないって事は無いのかな?

 そう思ってアルベルトの方を見ると、ほんの一瞬だけ、表情が変わったような気がした。


「…アルベルト様?」

「ああ、すみません。相手を操る魔法なんて存在しないモノを考えるより、これからの対策を立ててしまいましょう。パーティーまで時間は少ないですからね。」

「ふふ、そうですね。アイシャ殿の為にも、シッカリと対策を考えましょう!」

「は、はい!」


 もう一度アルベルトを見ても、いつもと変わらない笑顔のまま。気のせいだったのかな?


「アイシャ殿のドレス姿は素敵でしたから、当日が楽しみですね!」

「えぇっ…!?」

「着物姿も良いですが、やはりドレスの方が私達には馴染みがありますから。他の人に見せるのが嫌なくらいです。」

「あ、あの…!」


 私としてはドレスを着ても自分に似合ってるのかよく分かんないんだよね。二人が言うんだからお世辞が混じってたとしても、大丈夫なんだろうけど…。

 余りにも褒められてばかりだと、逆に不安になってくる…。恋は盲目、なんて言葉があるくらいだから、その…二人には良く見えても、他の人からしたら似合ってなかったりとか…。


 いや、二人のセンスを疑ってるわけじゃないんだよ。メアリー達も私に合うようにって考えてくれたわけだし、お店の人も貴族がやって来るくらいならかなり良いお店の筈だし…。


 …自分に自信が持てないのを、他人のせいにしては駄目ですよね、はい…。


「取り敢えず、私達以外に三人。何とかこの紙に書かれてる人達と踊って下さいね。」

「もしも居なければ仕方ありませんが、出来るだけ危険な方々とは近付かない様に気を付けて下さい。」

「分かりました。」

「女性から誘う事は出来ないので、出来るだけアイシャ殿から近付いて行けば、誘ってくると思います。」


 という事は、これだけ警戒してるんだし二人はシャーロットと踊ることは無いんだよね。アルベルト達が誘わなければいいんだし。


 ……良かった。


「アイシャ殿?」

「……!!」

「どうかしましたか?」

「い、いえ!何でも無いです!」


 心の中でそっと考えていたけど、表情に出てただろうか。こんな気持ち、二人にバレたら恥ずかしい…。それに、もしかしたら幻滅されるんじゃないかとか、思ってしまう。

 私って思ったよりも嫉妬深いようだし、ちょっと気を付けるようにしないと。


 ……でも、気になるものは気になるんだよね。


「その、アルベルト様とジェイク様は、他にはどなたと踊るのですか?」

「…そうですね、取り敢えずはメアリー殿達をお誘いしようと思ってます。」

「いつもアイシャ殿がお世話になってますからね。」

「……後一人は…?」


 ちょっとだけホッとした。メアリー達は、私達の事を知ってるみたいだったから、大丈夫だろう。ただ、私とメアリー達で合わせると四人。残り一人は、誰と踊るのだろうか…。


「一応、既婚者で控えめな方をお誘いする予定ですが…。」

「…アイシャ殿、もしかしてヤキモチですか?」

「……!!」


 私がその言葉に反応したのが分かると、アルベルトは素敵な笑顔で私の方へと近付いてきた。


「ふふ、嬉しいですね。アイシャ殿が私達の事を考えてくれてるようで。」

「そうなのですかっ?アイシャ殿も私達に、ヤキモチ妬いて下さるのですね!」

「えぇっと、その…!」


 そうハッキリ言われると、凄い恥ずかしい。アルベルトの言葉に、ジェイクは凄い満面の笑みで喜んでるし。

 喜ぶところなのかな、コレ?ヤキモチ妬く女の子って、面倒臭そうなイメージなんだけど…。


「大丈夫ですよ、アイシャ殿。私は、貴方の事だけを想っていますから。」

「私もです!他の方に心を寄せたりしません。アイシャ殿だけを、見ています!」

「お、お二人共、そんな恥ずかしいセリフを…。」

「本心ですから。お気になさらず。」


 気にするに決まってます…!誰も居ない、私達だけで本当に良かった。ダンス特訓の為に借りたホールには似付かわしくない、どことなく甘い空気が漂っている。

 このままじゃ駄目だ。二人のペースに巻き込まれてしまう。まだちゃんとした答えが出せない私に、この空気はキツイものがある。


「ほ、ほら!ダンスの特訓の続きをしましょう!社交パーティーまで、後少ししか時間がありませんから!」

「そうですね。残り僅かのこの時間、大事にしましょうか。」

「アイシャ殿なら、もう大丈夫そうですけどね。」

「いえいえ、私なんかはまだまだです。もっと練習しなければいけません!」


 何とかさっきまでの空気を切り替えて、特訓再開させなければ!


 そんな私の思いが通じたのか、二人共ダンスの練習を始めてくれた。よかったー、コレで特訓に集中すれば、少しは落ち着けるだろう。


「アイシャ殿、もう少しステップを速めると、更によくなりますよ。」

「は、はい!」


 アドバイスを貰いながら、残り数日の間、みっちりとダンスの特訓をした。一応合格ラインは越えてるけど、あの二人が相手なのだ。見劣りしない為には、更に練習は必要である。


「そこはもう半歩大きく出ると良いです。」

「畏まりました。」


 ここまでガッツリ練習してれば、今年の実技の授業は高得点が狙えそうです。成績優秀な二人の傍に居ても恥ずかしくない様に、私ももっと勉強頑張らないとな。


 ああ、でも…、卒業したら、必要になるかどうかは分からないんだよね…。


 私が彼等を選べばもっと勉強は必要になるけど、もしもルドルガを選んだ場合は温泉旅館に関係ない事は忘れてしまいそう。

 私の中の記憶って、最優先事項が温泉についてだからね。関係ない事って、どうしても記憶の片隅に追いやられるから、いつか、今のこの時間について何も感じなくなっちゃうのかな…。


 …いや、出来る限りは大事にしたい。私にとって、この時間はかけがえのないモノの筈だからそう簡単には忘れないと思うし…。



 そして、ついに社交パーティー当日。


 いつもの様に、彼等の侍女達に着替えを手伝ってもらう。一応試着はしたけど、ここまでちゃんと着付けてもらったわけではない。初めてのドレスに、私はドキドキでいっぱいだった。


「アイシャ殿、失礼しますね。」


 いつもは真っすぐな私の髪も、今日は結わずに緩く巻いているので、何だかお姫様みたいな気分だ。アルベルトから貰ったティアラが、私を更にその気にさせる。

 ジェイクから貰ったネックレスを付けると、キラキラと光が反射していて、とても綺麗。


「出来ましたわ。」

「……凄い…。」


 鏡を見れば、どこからどう見ても貴族の女の子みたいなお嬢様だ。私からすればお姫様のようだが、それを言ったら王族に失礼になるので心の中でだけ思っておく。

 いつもと違う自分の姿に、心なしか気分が上向いていく。


「お綺麗ですよ、アイシャ殿。」

「これなら、どなたが相手でも見劣りしませんわ。」

「そう、ですかね…。」


 侍女達がそう言うので、思わず私もそう考えてしまった。だけど、そこでハッとして頭を軽く振る。駄目だ、駄目だ。調子に乗っちゃいけない。

 私はただの平民で、本来ならこんな事が出来る立場ではないのだから。調子に乗っていたら思わぬ失敗をしそうだし、気を引き締めないと!


「スー、ハー…。」


 ゆっくり深呼吸を繰り返せば、少しずつ心が落ち着いてくる。よし、これなら大丈夫。折角ダンスの特訓をしてくれたんだから、油断して失敗したらアルベルト達に申し訳が立たない。


「アイシャ殿、準備は終わりましたか?」


 こんこん、と数回ノックの後に、アルベルト達の声が扉越しに聞こえる。私は直ぐに返事をして、扉を開けてもらった。


「はい、大丈夫です。」

「わぁ…!アイシャ殿、とても素敵です!」

「本当ですね…。美しいです…。」


 笑顔でそう言う二人の顔は、少し赤らんでいるように感じた。やっぱり、凄い照れる…!これ、多分私の方が顔赤いよね!


「あ、あ、ありがとうございます…!」

「…アイシャ殿、手を。」

「あ、私も!」


 アルベルトとジェイクに手を差し出される。会場は去年の親交パーティーと同じホールだ。私は二人の手を取って、馬車までゆっくりと歩き出した。


「やはり、他の人に見せたくないですね。」

「アルベルト様…!」

「授業でなければ、このまま隠してしまいたい位です。」

「ジェイク様まで…。」


 本当に、こうも恥ずかしいセリフばかりでは私の心臓が持たない。馬車の中ではジッと二人に見られているから、尚更だ。早く会場につかないかな、なんて考えてしまうのも仕方がないよね…。

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