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温泉物語  作者: 蒼乃みあ
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第六十二話 恋愛相談

 冬休みも、もう半分が終わった。私は、家の中でひたすら温泉旅館のことを考えている。じゃないと、色々と思い出してしまうからだ。


 まさか、ルドルガにも告白されるなんて…。


 確かにルドルガが私の事をどう思っているか、気にはなっていた。だけど、好意を抱いてる相手からこうも立て続けに告白されるなんて、思いもよらなかったのだ。

 前世でだってあり得なかった事。コレがモテ期?なんて、考えてしまうのもしょうがないと思うんだ。


「はぁ…。」


 一体、これからどうしたらいいのだろうか…。旅館について考えるにしても、既に同じような事を何度も繰り返している。これ以上続ける事も出来ず、かといって考えを止めれば、延々と三人の言葉が頭の中に響くのだ。

 うぅ…、どうしよう…。もう、頭が痛くなりそうだ。


 外に出る気もしない。温泉に浸かろうものなら逆効果だ。夏に三人が入っていた事を思い出し、直ぐに逆上せそうになる。

 温泉が楽しめないなんて、私には死活問題。このままじゃ、温泉不足で死んでしまいそう…!


 ソファの上で悩みながらゴロゴロとする。ああ、何もする気が起きない…。もう、ここから一歩も動きたくない…。



 そんな時、家のチャイムが鳴った。


「…何だか、この冬休みの間は来客が多いような気がするな…。」


 私は返事をして扉へと向かった。開けてみると、そこには思いもよらない人物が立っていた。


「ヴォルフさん!?」

「やあ、アイシャ。久し振り。」

「お久し振りです。どうかしたんですか?」

「ちょっとヴェルガからのお願いがあってね。」

「お願い…?あ、取り敢えず中にどうぞ。」

「ありがとう、お邪魔するね。」


 まさかのヴォルフが、扉の前にいた。会ったのは一緒にお弁当を食べた秋振りである。ヴァレス祭でも見かける事が無かったので、ヴォルフとは会えないまま卒業してしまっていたのだ。


「今更ですが、ご卒業おめでとうございます。」

「ふふ、そう言えば秋以降会ってなかったからね。」

「ヴァレス祭にも出てなかったので、何かあったのかと心配だったんですよ。」

「ああ、家の事でちょっとね。でも、もう大丈夫だから。」

「それなら良かったです。」


 やっぱり何かあったんだ。まあ、もう終わった事らしいから良かったけど。


「それで、お願いって言うのは?」

「ヴェルガがね、以前に貰ったヨウカンがまた食べたいって言い出しちゃって。」

「ああ、あのヨウカンですか。」


 確か、普通の羊羹と芋羊羹の二種類をあげたはずだ。ヴェルガとはあれ以来全く会っていないので、元気でやっているのだろうか?

 …ん?あれ?そう言えば、あの時ヴェルガに会ったのって、去年の秋だったけど、ヴォルフは学校に通ってたはずだよね?夏休みも終わってる筈だけど、何でまだ町に…?


「アイシャも学園の事がありますし、忙しいから我慢しなさいと言ったんだけどね。どうしてもあの味が忘れられないそうで。申し訳ないけど、また作ってもらえないかな?」

「そこまで気に入って貰えたなんて嬉しいです。ただ、流石に今ある訳じゃないので、また後日って事になっちゃいますが…。」

「それでも構わないんだ。本当にすまないね。」

「いいえ。大丈夫ですよ!」


 まさか、そんなにも気に入って貰えるなんて思いもしなかった。えへへ、何だか凄い嬉しいなぁ!


「それじゃあ、コレをアイシャに渡しておくよ。出来たら、この手紙で連絡してほしい。」

「分かりました。そんなに時間が掛かる訳じゃないので、数日後には連絡しますね。」


 折角だから、前回には用意出来なかった緑茶も用意しようかな。あ、でも、余り色々あげちゃうと、また問題になるかも…。


「ありがとう、アイシャ。助かったよ。このままだと、また家を抜け出しかねないからね、あれじゃ。」

「ふふ。ヴェルガさんったら、やんちゃですね。」

「本当、困っちゃうよ。あ、そうだ、アイシャ。」

「どうかしましたか?」

「お礼は別に用意するけれど、もう一つ。良ければ、相談に乗ろうか?」

「えっ?」


 私としては別にお礼は気にしてないから良いんだけども…。相談って、何の事だろうか?


「おや、僕が気付かないとでも?悩んでますよって、顔に書いてあります。」

「そ、そんな事は…。」


 違う、と言っても信じてもらえなさそうだ。そこまで分かりやすかっただろうか…。


「何で悩んでるか、当ててみましょうか?」

「ヴォルフさん?」

「告白、されたんじゃない?」

「……!!」


 な、何で分かったんだろう…!え、私ってそこまで表情に出てる?


「アルベルト様かジェイク様か…、それとも、ルドルガ君、かな?」

「そ、そこまでバレちゃってるんですか…。」

「アイシャってば、分かりやすいからね。それで、何をどう悩んでいるんだい?」

「うぅー…。」


 ヴォルフってば、もう、聞く気満々だ。私も、いつまでも一人でウジウジ悩んでいるのはキツかったし…。ここは腹を括って、ヴォルフに相談してみた方が良いのかもしれないな。


「えっと、その、実は…。」


 私は、ヴォルフに三人に告白をされた事。返事は直ぐにではないが、アルベルト達には卒業パーティーでラストダンスを踊りたい、と言われた事。ルドルガに、一緒に温泉旅館をやろうと言われた事。

 正直、話してる間は恥ずかしかったけど、全部喋ってしまえば不思議と心はスッキリとした。


「成程ね。そりゃ、悩んでしまいそうだ。」

「は、恥ずかしながら、こんな経験が無くて…。初恋も拗らせてるし、」

「確認するけど、アイシャは三人共に好意を抱いてはいるんだよね?」

「う…、はい…。」


 こう、他人の口から改めて言われると、何とも言えない気持ちになる。


「それなら、一度全員とデートでもしてみたらどうだい?」

「で、デート!?」

「そう。だって、アイシャは三人が好きなのでしょう?だったら、皆とデートしてみたら、相手の事が更にわかるんじゃない?」

「いや、でも、それは…。」


 デートだなんて、前世でも今世でもした事が…いや、ルドルガと二人で出かけた事はある。アレはデートとカウントしても良いのだろうか?

 うーん、でも、あの時はそんな風に思ってなかったしな…。デートではないのかな、一応…?


「三人はお互いが告白をしてる事は知っているのだろう?だったら、気にせずお試しって事で一度ずつはしてみても良いんじゃないのかな?」

「…何だか、それって相手に失礼な気がするんですが…。」

「僕としてはそれよりも、チャンスがもらえる方が良いと思うけどね。自分をアピールできる機会は多い方がいいでしょ?」

「むぅ、そう言うモノなんですか…?」


 三人に恋してるだけじゃなく、それぞれとデートするなんて、まるで物語の中の悪女みたいだ。正直、全く乗り気に慣れない。


「…アイシャ。僕は卒業と同時に結婚が決まっていてね。」

「えぇっ!?」

「幼い頃に親に決められた婚約者と、既に結婚しているんだ。」

「お、おめでとう、ございます?」

「ふふ、ありがとう。ただ、僕には数年後に第二夫人を娶る事も決まっているし、コレはかなり先の話だけど第三夫人まで娶るかもしれないんだ。」

「えっ…?」


 ヴォルフさんは多分、どっかの商人か富豪の息子。私やギードと同じ、平民の筈なのに…。


「平民でも、複数の妻を娶る事って、あるんですか…?」

「うーん…、場合によっては、ね。結婚までするのは珍しいとは思うけど…。愛人を囲う、なんてのはよくあるし。」

「そう、なんですか…。」

「僕は自分の妻が何人になろうと、全員を愛すると決めてるよ。例えそれが初めて会った相手でもね。」

「初めて…。ヴォルフさんも、大変なんですね…。」

「まあ、それなりに力のある家に生まれた者の宿命みたいなモノだからね。だから、その辺りもしっかりと聞いてみた方が良いんじゃない?」


 …ヴォルフの言う通り、私は一夫多妻は嫌だ。そもそも、今までそんなモノに馴染みは無かったのだ。前世の日本で生きていた頃は、一夫一妻が当然だったし。

 まあ、相手に関しては私は親の決められた相手と結婚する気だったから、会った事も無い人間と結婚する、って言うのはすんなり受け入れられたんだけども。


「そうですね…。」

「アルベルト様やジェイク様はどうにかするかもしれないけれど、貴族と言うのは普通は一夫多妻だからね。ちゃんと確認しておいで。」

「はい。」

「アイシャにとって初恋だと言ったけど、それならちゃんと納得する結果にしないと。実るにしても、実らないにしても、後悔だけはしないようにね。」

「うぅ…。」

「僕はアイシャが納得したのならそれでいいと思うよ。もしも必要なら、協力したっていいんだ。」

「協力?」


 一体、ヴォルフにどんな協力が出来ると言うのだろうか?いや、確かに今、相談に乗って貰ってるからこれも協力なんだけど。多分、ヴォルフが言ってるのは違う協力なんだと思う。


「これでも、結構コネはある方なんだ。もしもアイシャがアルベルト様やジェイク様を選ぶんだったら、口添えとかも出来る。貴族の養子にする事も可能だ。」

「き、貴族の養子ですか!?」


 ただの平民である私が、貴族の方の養子になるなんて考えられない。と言うか、そんな事が出来るなんてヴォルフは何者…?もしかして、かなり力のある商家の跡取りとかなのかな?


「ただの平民の娘が嫁ぐよりは、一度貴族の養子に入ってからの方が受け入れられやすいでしょ?」

「それは、そうですが…。」

「そんなに難しく考えなくていいんだ。アイシャが望むのなら、ってだけだから。」

「…どうして、ヴォルフさんはそこまでしてくれるんですか?」


 私とヴォルフの関係なんて、大したものではない。ヴェルガを助けたと言っても、怪我の様子を見て食事を与えたくらいで…。学校でだって一回しか会ってないし、一緒に弁当を食べただけの仲だ。そこまでしてもらう様な、親しい仲ではないだろう。


「そうだね…。一番の理由は、早くオンセンリョカンに行ってみたい、かな。」

「温泉旅館に?」

「今のままじゃ、アイシャが悩みまくって中々進まないのが目に見えてるからね。」

「うぐぅ…!」


 今現在、既に色々と行き詰っている。アレコレ考えては、同じ事ばかりを繰り返している。気を抜けばあの告白を思い出してしまい、頭がショートするのだ。


「アイシャの作る物に、僕も期待してるんだ。何が、どうやって出てくるのか、ってね。きっと、オンセンリョカンはこの町に、大きな影響を与える。…この町だけじゃない。中央都や、他の町にだってそうだ。」

「そ、そこまでですか…?」

「ああ。それだけ、アイシャの考えているオンセンリョカンは凄いものだ。」

「…ちょっと面倒臭いですね…。」


 私はただ、自分の為に作ってるだけなのに…。温泉が好きで、温泉旅館を経営したい。自分の夢の為にやってるだけなのに、それが他の所に影響するのは困る…。


「新しい商売と言うのは、それだけ注目されるものだよ。」

「やっぱり、ヴォルフさんは商人なんですね。私は別に、自分の旅館が完成したら、是非真似してもらいたいんですけど。」


 寧ろ、真似が出来るのならしてほしいくらいなんだけどなぁ…。何だったら、どうやってすればいいのか教えたって構わない。それだけ、温泉が広がって旅館が増えるのなら、私にとってこれ以上嬉しい事は無いのだから。


「ふふ、商人が聞いたら信じられない言葉だね。利益は独占するべきものだから。」

「独占したら、温泉旅館が増えないじゃないですか!私は出来たら色んな温泉に入りたいんです。自分が考えるのは限度がありますからね。」

「それなら、いつか僕もオンセンリョカンが開けると良いな。」

「ヴォルフさんなら、幾らでもお手伝いしますよ。相談にも乗ってもらってますからね。」

「ありがとう。その時は宜しく頼むよ。」


 まずは、自分の温泉旅館が先だけどね。それにしても、デート…。デートかぁ…。


「因みに、ヴォルフさんだったらどうやってデートに誘いますか?」

「うーん…、僕で参考になるかは分からないけど…。普通に手を取って、今度の休みにどう?みたいな感じかな。」

「成程…。」

「ただ、本来は男性の方から誘うモノだから、アイシャから言うのはどうかと思うよ。」

「えぇー…。それじゃあ、どうしようもないですね…。」


 まさか、女の子から誘いに行っちゃいけないとは、思わなかった。


「一応女性の場合は、男性に誘ってもらえるように振舞うらしいよ。」

「誘ってもらえるように…。」

「ルドルガ君の場合は大丈夫だろうけど、アルベルト様達の場合は誘われるのを待った方が良いかもね。アイシャには女の子の友達もいるのだろう?」

「い、一応…。」

「それなら、彼女達に聞いてみたらどうかな?」


 いや、でも、メアリー達にこんなこと聞いても良いのだろうか…?アルベルト達とデートなんて、聞いたら怒りそうな話題だけども…。


「大丈夫だよ。アイシャなら、ちゃんと答えが出せるって。」

「出せますかね…。」

「今は突然の事で驚いてるだけで、時間が経つにつれ、自分の気持ちが定まっていくモノさ。」

「…だと、良いんですが…。」

「よく考えてごらん。彼等のどこが好きなのかを。」

「どこを…。」

「ふふ、大丈夫。…ああ、そろそろお暇しないと。」


 気が付けば、結構な時間を話していたらしい。ヴォルフが帰ると言い出した途端、私のお腹がぐぅ…と、小さく音が鳴った。


「……!!」

「アイシャもお腹が空いたみたいだしね。」

「あうぅ…、すみません…。」

「今日は突然お邪魔して我がまま言っちゃって悪かったね。ヨウカンの事、宜しく頼むよ。」

「はい。出来たら、直ぐに連絡しますね。」


 そう言ってヴォルフは、帰って行った。預かった手紙は、本来の魔法道具とはちょっと違う。この手紙は誰かに見られない様にコッソリと届けてくれる、特別性なのだ。自分で魔力の登録をして相手に渡すから、魔力の上書きは出来ない。うっかり宛先を間違えても、封を閉めた時点で飛んでいくから元に戻せないのだ。


 私は、ヴェルガとヴォルフの二人分の羊羹を作るため、買い物に出かける事にした。そうして出来た羊羹は氷室にしまい、ヴォルフへと手紙を出した。

 数日後に再びやって来たヴォルフに羊羹を渡せば、嬉しそうに微笑んで持って帰って行った。

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