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温泉物語  作者: 蒼乃みあ
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第六十一話 ルドルガの言葉

今回はルドルガ視点です。

 俺の名前はルドルガ。フィルダン大工店の跡取り息子で、現在は修行中の身だ。今俺達はアイシャの、そして貴族であるアルベルト様とジェイク様からの依頼で、オンセンリョカンを建築中だ。

 このオンセンリョカンとかいうモノは、アイシャの昔からの夢である。もう何年も前、成人の儀式を前に初めてその話を聞いた時は、コイツ馬鹿だと思った。


 魔物除けの装置なんてメチャクチャ高いモン、普通にしてればまず必要にならない。その金で町の中に店を持った方がまだマシである。


 だけど、アイシャと話して、どれだけその夢の為に生きてるかが分かった。今まで妹みたいに思ってたアイツが、少しずつ気になる様になっていった。

 そういや、アイシャに初めて作ってもらった料理。オムライスを食べた日、あの時には既に俺の胃袋が掴まれてたのかもしんないな。正直、お袋よりも美味いと思った。


 オンセンに入った時もそうだ。アイシャの言う事を聞いてるだけじゃ分かんなかったけど、実際に入ってみると確かに良いモノだった。仕事の疲れがオンセンに溶けていくような、ホッとする感じ。安心感っていうのか、何なのか分かんないけど…兎に角、最高に気持ち良かった。


 アイシャが貴族と絡むようになったのは、成人の儀式が終わってからだ。和服とか言うのを着て行って、ソレを目にした貴族に声を掛けられたんだとか。

 最初の内は貴族と関わり合いを持つのを嫌がってたアイシャだったけど、いつの間にか仲の良い友人にまでなっていた。貴族と平民が仲良くなるなんてありえない事だと思っていたから、凄い驚いたのを覚えている。

 だって、貴族は、俺達平民の事なんか何とも思ってないと教えられてきたから。


 アイシャが危ない目に遭った時だって、ジェイク様が気が付いて直ぐに助けに行ってくれなかったらアイシャは死んでいたかもしれない。

 アルベルト様がその場を諫めてくれなかったら、アイシャの夢も無くなっていたかもしれない。


 きっと、俺が行っても、アイシャを救えなかった。誰にも言ってないが、俺にはその事が凄い悔しかったんだ。


 そして、気が付いたら、アイシャのオンセンリョカンの援助をする、なんて話にまで発展してたらしい。アイシャへの返事はそっけなかったと思うけど多分、その時に初めてハッキリと自覚したんだと思う。


 アイシャの夢は俺が叶える筈なのに、って。



 貴族の方からウチに話が来た時も、親父が一緒に話をしに行くもんだと思ってた。だって、俺じゃアイシャの話し相手にはなっても、貴族の方との話し合いは無理だと思ってたから。だから、親父が俺に行って来い、何て言った時は、かなり驚いた。

 貴族相手に、半人前の俺が行って何かあったら、親父や店の皆に迷惑が掛かる。緊張と不安が入り混じって、終始心臓が鳴りっぱなしだったのを今も覚えてる。


 それでも、親父じゃなくて俺がアイシャの夢を手伝える事に、やる気が溢れ出ていた。


 アイシャの話は、どれも初めて聞くモノばかりだった。タッキュウや今回のビリヤードもそうだけど、アイツは不思議なモンを沢山知っている。ウチに話を聞きにやって来た貴族も、アイシャの事をかなり探ってるようだった。

 紋章を預かってるのは主に俺だから、必然的に貴族の相手は俺になる。紋章を見せて、例え貴族が相手でも言う事が聞けない事を、何とか分かってもらうように丁寧に話すのは大変だった。


 アイシャと居るのは確かに大変だけど、それでもずっと共に居たいと思う。いつの間にか、俺はアイシャの事を妹以上に想っていたんだ。

 お袋は直ぐに気が付いたみたいで、応援するわ、なんて茶化してくる。余計なお世話だっての。




「ルドルガ。」

「はい、何でしょうか?」

「私は…、私達は、ルドルガに言わなくちゃいけない事があります。」


 昨日、話し合いを終えた馬車の中で、アルベルト様方が、口を開いた。


「言わなくてはいけない事、ですか?」

「ええ。」


 一体、何を言われるのかとドキドキした。もしかして、オンセンリョカンに不備でもあったのだろうか?でも、それならさっきの話し合いの時に言ってそうだけど…。

 だけど、彼等の口から出てきた言葉に、俺はただ驚く事しか出来なかった。


「ルドルガ。私は、アイシャ殿が好きです。」

「……え?」

「私もです、ルドルガ。…私達二人は、先日アイシャ殿に告白をしました。」

「な、何を…。」


 まるで、頭を殴られたような衝撃だった。だって、貴族であるアルベルト様やジェイク様が、アイシャに告白だなんて…。


「私は相手が誰であっても、アイシャ殿を譲るつもりはありません。それがジェイク殿やルドルガであっても。」

「ルドルガ、私達は行動を起こしました。きっと、今までの様には居られないでしょう。」


 そうか、だから昼間、アルベルト様はアイシャを自分の隣に座らせたのか。何かアイシャが凄い気まずそうな表情をしていたのが、気になってはいたんだ。ジェイク様も、ジッと見つめていたし。

 けれど、まさか、二人が告白まで済ませているとは、思わなかった。


「…アルベルト様方は貴族で、アイシャは平民です。身分が、違い過ぎるのではないでしょうか…。」

「それも承知の上です。私はアイシャ殿を妻に迎え、彼女だけを愛すると誓います。」

「貴族や平民などと言う身分は、関係ないのです。私も、アイシャ殿を愛してます。誰にも、渡したりしません。」

「そ、それは…。」


 二人の目を見れば、その言葉が本気だと言うのは直ぐに分かった。この人達なら、身分なんてモノは関係無しに、アイシャ殿を妻にするのだろう。そして、とても大事に愛するのだろう、と。


 俺は…、俺だって、アイシャが…。


「ルドルガ、次は貴方です。」

「……!!」

「貴方も、身分なんて気にしないで下さい。私達は、正々堂々と勝負がしたいのです。」

「勝負…。」

「アイシャ殿が、誰を選んだとしても悔いが無いように。私は真正面から戦って、アイシャ殿の気持ちを手に入れたい。」

「アルベルト様…。」


 だけど、平民である俺と、貴族であるアルベルト様やジェイク様とじゃ、元の部分が違う。俺が貴族である二人を差し置いて、アイシャの結ばれる様な事は…。


「お願いします、ルドルガ。逃げないで下さい。私達は…、私はちゃんと決着を付けたいんです。」

「ジェイク様…。」

「それとも、ルドルガのアイシャ殿を想う気持ちは、身分なんてモノで諦められるものなのですか?」

「……!!違います、俺は…!」

「ならば、私達と勝負して下さい。例えルドルガの方が長い間一緒に居たとしても、私だって負けません。」


 アルベルト様の言葉に、思わずカッとなって言ってしまった。直ぐにハッとしたが、もう遅い。逃げられない…、逃げてはいけないんだ。

 俺だって、アイシャの事が、好きなんだから…。



 昨日の出来事を思い出して、俺は小さく溜息を吐いた。今日の仕事は既に終わってる。飯も食ったし、後は寝るだけだ。それなのに、一向に眠気はやってこない。今日一日は、余り仕事に身が入らなくて親父に怒られた。

 自分でも駄目だと分かってはいるんだ。だけど、気持ちの整理が付かなくて、仕事に集中出来ない。俺も、早く、行動を起こさなくちゃいけないのに…。



 いつの間にか眠っていたらしい。カーテンの隙間から差し込む光に身じろぎしながら、俺は布団の中から出てこれなかった。

 少しすると下の階から朝食の匂いがする。ああ、アレは俺の好きなサイキョウヤキの匂いだ…。


「ルー。起きてるの?」

「ん、起きてるよ…。」

「そう。ちょっと話があるんだけど、良いかしら?」

「……?」


 てっきり、朝食が出来たと呼びに来たのだと思った。いつまでも部屋から出てこないから、リビングへと連れ出されるのかと思ったが、扉を開けるとお袋は部屋の中へと入りこむ。


「ちょっと、お願いがあるのよ。お父さんには、もう言ってあるんだけど。」

「何だよ、一体?」

「今日のお仕事はお休みにしてもらったから、一緒にアイシャちゃんの家に行ってほしいの。」

「はぁ…!?」

「折角帰って来てるんだもの、一緒に温泉に入りたくてね。でも、私だけで急に押し掛けるのも悪いじゃない?だから、ルーにも着いてきてもらおうと思って。」

「いや、そんなのお袋だけで…。」

「あら、お母さんのお願い、聞けないのかしら?」


 そう言って微笑むお袋は、何だか寒気がするような空気を醸し出している。別に俺が一緒じゃなくてもいいだろうけど、思わず二つ返事で返してしまった。


「うふふ、ありがとう、ルー。それじゃあ、サッサと朝食を食べちゃって。私も準備しなくちゃいけないから。」

「分かったよ…。」


 座っていたベッドから立ち上がり、俺は着替えもしないで階段を下りた。既に親父は食べ終わってるようで、出かける準備をしていた。


「ああ、やっと来たのか。俺はもう行ってくるぞ。」

「…親父、昨日は…。」

「ルドルガ、分かってんなら明日からまた気合入れなおせ。」

「……分かった。」

「アナタ、行ってらっしゃい。」

「おう、行ってくる。」


 親父を見送ってから食べた朝食は、やっぱり美味しかった。食べ終わるとお袋は直ぐに片付けを始める。俺にもサッサと準備しろ、何て言うもんだから素直に従った。


「……なんて言えばいいんだよ。」


 行動しなくちゃいけないと、考えてはいたんだ。俺だって、アルベルト様にもジェイク様にも譲れないモノがある。

 だけど、いざその場になると、緊張するのは仕方ない事だ。まだ心の準備だって出来てなかったのに、お袋が急かすし…。


「さあ、ルー。行くわよ。」

「はいはい。」


 俺とお袋は真っすぐにアイシャの家へと向かった。朝の内にアイシャには、手紙を出しておいたし、返事だってもらった。家で俺達を待ってくれてる筈だ。


「アイシャちゃん、こんにちはー。」

「レイアさん!お久し振りです、こんにちは!」


 つい先日、馬車で通った道を、今度は歩いて進む。直ぐにアイシャの家が見えてきて、お袋がチャイムを鳴らした。アイシャは直ぐに扉から出てきて、俺達を招き入れる。


 ああ、クソ、何か意識しちまう…。


「ごめんなさいね、急に押し掛けちゃって。」

「いえ、良いんですよ!私も、レイアさんとお話したかったですから。」

「うふふ、嬉しいわ。アイシャちゃんは、本当に可愛いんだから。」


 二人で仲良さそうに話してるのを見てると、俺、本当に要らないんじゃないかと思う。ここは俺だけ帰って、一旦この気持ちを落ち着かせてから改めて来た方が…。


「ああ、そうだ。嫌だわ、私ったら忘れ物しちゃって…!」

「お袋?」

「アイシャちゃん、ごめんなさいね。私、直ぐに取ってくるから、少しだけ待っててもらえるかしら?」

「え?えっと…。」

「お袋、それなら俺が…。」

「ルー。悪いけど、それまでアイシャちゃんと話しててね。」


 俺が取りに行く、と最後まで言わせずに、お袋は素早く家を出て行った。その時、俺は気が付いたんだ。お袋の、余計なお世話が働いたんだ、と。


「……あっと言う間に行っちゃいましたね。」

「そうだな…。」

「えっと…、取り敢えず、待ちましょうか…。」

「おう…。」


 急に流れる沈黙。俺もそうだが、アイシャもいつもみたいに話し掛けてこない。やっぱり、色々と考えてることがあるのだろうか。


「……。」

「……。」


 この沈黙に耐え切れなくなったのか、アイシャは何とか話をしようと話題を探していた。


「あ、あの、ルドルガさん。えっと、…。」

「……。」

「……。」


 どうやら、何も見つからなかったらしい。再び黙り込んでしまった。俺は、グッと覚悟を決める。


「アイシャ、その、な…。」

「は、はい!何ですか、ルドルガさん!」

「あー、えっと…。」

「……。」


 上手く、言葉が出てこない。アイシャはジッとこっちを見るだけで、何も言わずに黙っている。


「…くそっ…。あ、アイシャ!」

「……!!」

「お、俺は、その…。お、お前が!」


 肝心なところで噛みそうになったので、一旦間を置く。何だって、こんな緊張しなくちゃいけないんだ…!


「俺は、お前が…!す、す…好きだ!」


 何とか噛まずに言えたが、アイシャの反応を見れるほど、俺の心に余裕はない。


「本当は、お前が卒業してから言うつもりだったんだけど…。そうは言ってられなくなっちまったから、その…。お、俺と、付き合ってくれ!」

「ルドルガさん…。」


 多分、今の俺の顔、真っ赤になってるだろうな。恥ずかしさでアイシャの表情が見れずに俯いてしまう。ああ、俺ってばなんて情けないんだ…。


「あ、あの、ルドルガさん。私は…。」

「お前が、アルベルト様とジェイク様から告白されたってのは、知ってる。」

「えっ?」

「だから、俺もこのままじゃ駄目なんだ。同じ土俵に立って、正々堂々勝負して…。それで、アイシャと…!」


 思わず、顔を上げてしまった。こっちを見ていたアイシャと、目が合う。ボン、と音が鳴るように表情が真っ赤になっていた。


「わ、わ…私、は…!」

「アイシャ、俺はお前が好きだ。」

「……!!」


 アイシャの顔を見ると、何だか落ち着いた様な気がした。さっきよりも、スムーズに言葉が出てくる。


「あの時、お前と約束した。アイシャの夢は、俺が叶えるって。その約束だけは、誰にも譲らない。アルベルト様でも、ジェイク様でも。」

「ルドルガさん…。」

「アイシャ、ずっと好きだった。俺はアルベルト様方の様な貴族じゃない、ただの平民だけど。この気持ちは、あの二人にも負けない。アイシャの傍に居るのは…、夢を叶えるのは俺なんだ。」


 そうだ。アイシャの夢は、俺が叶えるって約束した。これだけは、誰にも譲ったりしない。俺と、アイシャの約束なんだ。


「だから、どうか俺と一緒になってほしい。俺は絶対に家を継がなくちゃいけないけど、アイシャは手伝う必要は無い。夢だったオンセンリョカンを経営すればいい。俺が手伝うから二人で…その、一緒にやっていこう。」

「あ…。」

「…返事は今直ぐじゃなくていい。今までずっと一緒だったし、これからだってそうだと思ってるから。俺も、アイシャの気持ちが決まるまで待ってる。」

「……。」


 そうして、また俺達の間には静かな沈黙が訪れる。だけど、今度は直ぐにその沈黙は破られた。


「ごめんね、アイシャちゃん。待たせちゃって。」

「れ、レイアさん!お、お帰りなさい…!」

「これ、アイシャちゃんに渡したかったのよー。作ってみたんだけど、食べてもらえるかしら?」

「は、はい!勿論です!」


 まるで、タイミングを見計らかったように、お袋が帰ってきた。まさか、聞かれてたりしないような…。


「ねえ、アイシャちゃん、一緒にオンセン入りましょう?私、また話しながら入りたかったの。」

「……!も、勿論です!」

「ああ、ルーはもう帰ってていいわよ。私もゆっくり話したら帰るから、家の事お願いね。」

「……分かったよ。」


 やっぱり、聞いてたんじゃないかと思うくらい、お袋は俺をパッパと追い払おうとした。そりゃ、確かに俺の用事は終わったけど…。


「さあ、行きましょう。アイシャちゃんと話せるのなんて、久し振りだもの。学園での事、沢山聞かせてもらえるかしら?」

「はい、レイアさん。」


 既に俺の割り込む余地はないらしい。お袋の言う通り、大人しく帰る事にした。アイシャも、ちょっとぎこちない感じではあったが、見送りはしてくれた。


「あー…、その。またな。」

「……!は、はい、ルドルガさん…!」


 帰り際、優しく頭をポンと撫でてやったら、驚いた様な表情をした後に、顔を真っ赤にしていた。その反応は、ちょっとズルいぞ。今までそんな風になった事、無かったのに。


 思わず撫で続けたくなってしまったが、我慢だ。後ろでお袋がアイシャを呼んでるし、あんまり待たせるとこっちに来る。今の俺の顔を見られたら、絶対家で何か言われる。

 俺はアイシャの頭から手を離し、軽く振ってから帰路に就いた。


 家に帰って、お袋に言われた通り家事を済ませる。と言っても、大した事ないんだけどな。お袋、全部終わらせてから出かけてるから、精々夕飯の前準備くらいで。

 そうして、手伝いも終わらせてから自分の部屋に戻ると、ベッドへとダイブした。正直、心臓が破裂するかと思った。


 あー…、まあ、お袋には感謝してる。言ってはやんないけどな。

やっと告白まで来ました。

ここまで来るのに六十話超えてしまいましたが、後は少しずつ進んでいくだけです。

多分、百話まではいかないと思いますので、もう暫くお付き合い下さると幸いです。

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