第五十三話 ラストダンス
「アイシャ殿、先程のゲーム、随分と凄かったですね!貴族の大人相手に堂々としていて…。」
「もし負けてもアイシャ殿の為なら相手の要求を呑むつもりでいましたが、あんなにも完全な勝利をするなんて…!」
尊敬したような目で見られて、少し恥ずかしい。そもそも、コレは必勝法と言うか計算式を知っていれば、誰でも簡単に分かる事なのだ。
「…他の方には、内緒ですよ?実は、トランプを取り合う前から、勝ちは決まっていたのです。」
「えっ!」
「今回のゲーム、先攻か後攻かを選べる時点で、勝ちが決まるんです。トランプの取り合いに、勝敗は絡みません。」
「どういう事でしょう…?」
「そうですね…。簡単に言うと、相手に順番を渡す時、必ずトランプを取る数を四の倍数+一にすればいいだけなのです。それだけで、相手に一枚残して自分は分を取れるようになります。」
「……成程。」
今回、相手は私にゲームの決定権どころか、順番さえ決めさせてしまった。その時点で勝敗は決まっていたが、一方的過ぎるとイカサマだのと難癖をつけられる可能性がある。
順番にカードを取っていくだけのゲームで何がイカサマだ、と言いたくはなるが、相手が少しでも納得出来るようにしないといけない。わざわざジョーカーを入れて五十三枚にしたのは、相手が有利に感じる様に先攻を譲ってあげる為だ。
「向こうも恐らく算術にはそれなりに詳しい方だった筈です。アルマンド伯爵様は早い段階で気が付いていたようでしたから。多分、次はもう無理でしょうね。」
「私達も途中で気付きましたが、アルマンド伯爵殿は辛かったでしょうね。負けると分かっている勝負を続けるのは。」
「アルベルト様達の考えた式を使えば、詳しい事は直ぐに分かりますよ。」
「成程、そうやって使う事も出来るのですね…。」
ブツブツと呟きながら、二人は考え込んでしまった。私は二人が落ち着くのを待ちながら、周りの様子を見てみる。
本当に沢山の人が居るなぁ…。皆がとても楽しそうに話をしている。やっぱり学園祭って、良いよね。つい、昔の事を思い出しちゃうな…。
私は幼稚園から高校まで一貫の私立校に通っていたから、基本的にはずっと同じ内容だったんだよなぁ…。他の学校の学園祭って参加した事が無かったから、私にとってはあれが普通の学園祭だった。
私は家の事があったから、いつも途中退出で最後までいた事が無かったけど。最終日の閉会式は校庭のど真ん中に大きなキャンプファイヤーをして、その周りで皆が歓談していたらしい。
この学園祭では閉会式が終わると、学生達だけで最後のダンスパーティーがあるらしい。前等生、後等生係わらず共に参加できる機会は少ないので、この機会に仲を深めたりする事も出来るそうだ。
そう言えば、よその学校でも学園祭の後にフォークダンスを踊ったりするって聞いた事がある。他の人は色んな学校に行けてちょっと羨ましいな…。
まあ、こんな魔法のあるファンタジーない世界の学園祭なんて、誰も経験した事は無いだろうけど。
「アイシャ殿、すみません…!」
「つい、二人で夢中になってしまいました。申し訳ありません…。」
「いえ。大丈夫です。お二人共、考えはまとまりましたか?」
「はい!寮に帰ったら、アルベルト様とまた話し合います!」
「ふふ。素敵な楽しみが出来ました。」
楽しそうに笑って話す二人をみて、何だか私まで楽しい気持ちになってくる。
「スッカリ待たせてしまいましたね。」
「アイシャ殿、そろそろ次に行きましょうか?」
「はい!」
休憩を終え、私達三人は再びヴァレス祭を回り始めた。
「アイシャ殿、こっちにありましたよ!」
「こちらにもありました。」
「二人共、凄いですね、直ぐに見付かるなんて…。」
今は、学園内の一部を使って、宝探しゲームをしている。巧妙に隠された宝物を見付けだし、手に入れた数で勝敗が決まるそうだ。幾つか当たりがあるようで、それを見付けると獲得数アップや、特別賞がもらえるらしい。
二人はどんどん見付けていくが、私は一向に見付けられない。むぅ、ちょっと悔しい…。
「これで私は三つ、見付かりましたね。」
「私は四つです。一体、どれだけの宝が隠されているのでしょうね。」
「うぅ、私は一個も見つけられません…。せめて、一つくらいは…!」
制限時間までに見付けた宝物を持って会場まで持っていかなくちゃいけない。余りギリギリまで探していると、時間オーバーで失格になってしまう。
「そろそろ時間ですね…。」
「結局見つかりませんでした…。」
「そ、そんな時もありますよ、アイシャ殿!ひょっとしたら、戻ってる途中にもあるかもしれません!」
「ジェイク殿の言う通りです。よく探しながら戻りましょう?」
「はい…。」
アレからも探し続けたが、やはり見付けるのは二人だけ。私は全く見付けられなかった…。
「折角アルベルト様とジェイク様がこんなにも見付けたのに…。」
「たまたまですから。」
「大丈夫ですよ、アイシャ殿。これだけあれば、入賞は確実です!」
ジェイクが自信を持っていう様に、二人はかなりの数の宝物を見付けていた。本当に凄いなぁ…。どうしてそんなに見付かるんだろう。
「お願いします。」
「はい、お預かりします。」
私達は受付へと戻っていき、見付けた宝物を差し出した。結局私は一個も見付からないまま終わった。くぅ、悔しい…!
毎年この宝探しゲームはやってるそうだ。来年こそは、一個くらい見付けてやるんだから…!
そうして、発表された生成期にはl第三位の所に私達の名前があった。この宝探しゲーム、当然ながら人数の多いチームが勝つ。個人がどれだけ見付けたとしても、大勢が相手では適う筈もない。
優勝者には商品が手渡され、その後第二位、三位と続いていく。商品はどうやら魔石、と呼ばれる物らしい。正直、今の私に使い道は無いし、全く役に立ってないので、貰うのは辞退した。魔石はかなり価値のあるモノらしいけど、あんな物よりも温泉が良い。もっと温泉に役に立つ物を下さい。
ゲームの後も、私達は学校中を回って楽しんだ。全部を見れはしなかったが、お目当てのモノは大体やり終わったはずだ。
今は閉会式の為、学校の校庭へとやって来た。既に大勢の生徒達が居る。暫くすると、先生達も集まって来た。すると、周りのスピーカーから音が聞こえだした。
「これにて、第九十七回ヴァレス祭を終了致します。この後は生徒達によるダンスパーティーが行われます。」
先生達による放送が聞こえると、校庭が電気で明るく照らし出された。周りからは音楽が聞こえ始める。
「わ、皆踊り始めた…。」
「ふふ、アイシャ殿。折角ですから、私と踊って頂けませんか?」
「あ、アルベルト様…!?」
片足をついて私の手を取ったアルベルトは、優し気な笑顔で私をダンスに誘った。凄い、こんなの漫画や映画でしか見れない…!
「特訓もしましたし、良ければ踊ってくれませんか?」
「わ、私でよければ…!」
私が了承の言葉を口にすると、アルベルトはニコリと微笑んだ。ポーズも相まって、アルベルトがまるで王子様の様に見える…。
「ふふ、ありがとうございます。」
「それでは、次は私と踊って下さい!」
「…はい!勿論です、ジェイク様。」
アルベルトにお礼を言われた後、直ぐにジェイクも手を上げて立候補してきた。別に手を上げなくても良いのでは、と思ったけど、可愛かったので何も言わなかった。
二人と踊る事になった私は、少しだけ深呼吸を繰り返した。周りの視線が気になるのは、きっと大勢がこちらを見ているからだろう。ジェイクが手を上げてたし、ちょっと目立っただけだ、うん、きっと。
……うぅ、ちゃんと踊れるかな…。
「大丈夫ですよ、アイシャ殿。落ち着いて下さい。」
「アルベルト様…。」
「アイシャ殿は、私に体を預けてくれればいいんです。何も心配はいりません。」
「は、はい…!」
丁度音楽が変わった所で、アルベルトに差し出された手を取った。私は言われた通りにアルベルトに全てを委ねる。すると、まるで操られてるかのように、体が動き出した。
「さあ、アイシャ殿。参りましょう。」
「はい、アルベルト様。」
リードするアルベルトにつられて、私の体が踊り出す。凄い、私、ちゃんと踊れてる…!アルベルトに任せてるだけなのに、私までも上手に踊れてるような錯覚に陥る。
だけど、ダンスが踊れてることに感動したのは、ほんの少しの間だけだった。
私とアルベルトはピタリと体がくっついて、お互いの顔も近い。よくよく考えたら、こう言うダンスって密着するものだった。マズい、今になって恥ずかしくなってきた…!
「上手ですよ、アイシャ殿。その調子です。」
「あ、あ、アルベルト様…!」
「安心して下さい。ちゃんと踊れてますから。」
違う、違うんです。踊れてるか不安になってるんじゃなくて、ここまで密着してることにドキドキしてるんです…!今まで特訓とか授業で相手してもらった時は、平気だったのに…。何で今更こんなにも恥ずかしいの…!
私の頭の中はプチパニックになっていた。この後、ジェイクとも踊るんだよね。という事は、こんな感じにジェイクともピッタリとっつくわけで…。
ああ、駄目だ、考えちゃ駄目だ…!
「ふふ、そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。授業じゃありませんから。」
「えっと、その…。」
「さあ、もっとこちらに。」
アルベルトは優しく私の手を引いて、更に体を密着させた。あぁ、顔近い、近いって…!何でこんなに格好良いの、アルベルトは…!?たまに触れる髪の毛がくすぐったい、しかも何か良い匂いする…!
私は内心、アタフタと慌てながらも何とかダンスを踊り切った。アルベルトにドキドキしてたの、バレてないかな…。
それにしても、ちょっと疲れた…。ジェイクと踊るのは、休憩してからに…。いや、でも、結局恥ずかしくなるのなら一気にした方が良いのかな…?
「アイシャ殿、大丈夫ですか?」
「そ、その、ちょっと緊張で…。」
「大丈夫ですよ!今回はちゃんとしたモノ出なくても良いんです。もっと、ダンスを楽しみましょう!」
「ジェイク様…。」
元気よく微笑んだジェイクは、私に手を差し出してきた。どうしようかと考えていた筈なのに、私はその手を取ってしまった。
休む間もなく、第二ラウンドである。再び、ダンスの為に体が密着する。やはり先程の様に恥ずかしさで体がドキドキするが、ジェイクがいつもの笑顔で微笑んでくれた。
「アイシャ殿、私に任せて下さい!」
「ジェイク様?」
「それ、行きますよ!」
普段習っている社交界とかで踊るようなダンスではなく、ジェイクは体を大きく動かして踊り始めた。私は踊った事も無い未知のダンスに驚いてしまったが、ジェイクの楽しそうにする笑顔に、ついつられてしまう。私はジェイクと一緒に体を動かして、笑いながらダンスを踊った。
「お二人共、お疲れ様でした。」
「ありがとうございます、アルベルト様。こんな風に、笑いながら踊ったのは初めてです。」
「ちゃんとした場では出来ませんからね。折角のヴァレス祭ですから、最後まで楽しみたかったのです!」
「ふふ、今度は私もそんな風に踊りたいです。アイシャ殿、休憩してからでいいので、またお願いできますか?」
「はい、アルベルト様!」
私は他の誰かと踊る事無く、二人と交代で踊り続けた。途中、何度かダンスに誘われた事もあったけど、アルベルトとジェイクが何かしらの理由を付けて断ってくれていたので助かった。
流石に、アルベルト達以外と踊る気はない。もしも他の人と踊ったとしてもヴォルフくらいだろう…って、そう言えば今日もヴォルフを見掛けないなぁ。大丈夫だろうか…?
「ああ、そろそろラストダンスですね。」
「ラストダンス、ですか?」
もしかして、ここでのラストダンスもアレと同じ意味なのだろうか。
「ええ。ラストダンスは、どんな催し物であろうと、必ず婚約者や結婚相手、若しくは親族と踊るモノです。相手が居ない場合、踊ってはならない事になっています。この様に学園内のイベントであっても、例外ではありません。」
「そうなのですね。」
だから、踊ろうとする人が少ない訳だ。ラストダンスに入る前には休憩を挟むらしく、少したってから放送でラストダンスの開始を告げるらしい。
「…是非、私も踊ってみたいですね。」
「アルベルト様?」
「そうですね…。私も同じ気持ちです。」
「ジェイク様も、どうかなさいましたか?」
二人がポツリと呟いた。よく聞こえなかったが、多分踊りたかった、と言ったんだと思う。そう言えば、二人には婚約者がまだいないんだっけ。
……もしも、二人が誰かとラストダンスを踊っていたら、何だか嫌だな…。
そんな私の気持ちは頭の片隅にでも押し込めて、二人が幸せになれるならちゃんと祝ってあげなくちゃいけない。私は彼等の友人ってだけの立場で、何か言えるような関係じゃないから。
うーん、そうなったら笑顔で送り出せるかな…?
「アイシャ殿、どうかなさいましたか?」
「いえ、お二人にもお相手が出来たら、今みたいな関係で居られなくなるのかな、なんて考えてしまって…。」
「……。」
「アルベルト様もジェイク様も、お貴族様ですから。いつかお二人に相応しいお相手が出来るのでしょうが…。ちょっと、寂しいですね。」
ああ、想像しただけでも心がギュッと締め付けられる。仕方が無い事だと分かり切ってはいるけれど、それでも悲しいモノは悲しい。
初めての恋が三人同時に、何てちょっとこじらせた感じはあるけども…。初恋は実らないっていうしね。
「アイシャ殿、私達は…。」
「元々、貴族と平民で身分差がありますから、お二人の友人に慣れた事自体がまずありえない事ですものね。お傍に居れただけで、私は十分幸せ者です。」
「…大丈夫ですよ、アイシャ殿。私は、…私達はずっとお傍に居ますから。」
「ですが…。」
「絶対に、離れたりしません。私は、アイシャ殿と共に居たいのです。」
「アルベルト様、ジェイク様…。」
思わず、感動してしまう。二人が、そこまで私を思ってくれていたなんて…。こんなにも私の事を考えてくれてるんだもん、友人だっていいじゃない。
例えそれが今だけの口約束だとしても、それで十分。いつかは共に居られなくなったとしても、今、傍に居られるのならそれだけでいいんだ。
「アルベルト様、ジェイク様、ありがとうございます。お二人と友人で居られる事、誇りに思います!」
「…友人……。まあ、そうですよね…。」
「……?」
「大丈夫です、私、頑張りますから!絶対に、諦めたりしません!」
「私も同じです。アイシャ殿、これからも覚悟して下さいね。」
「か、覚悟ですか?」
…そうか、貴族である二人と友人でいるのなら、それなりの覚悟が必要だろう。よし、私だって心を決めなくちゃ…!
「分かりました。私、頑張ります!」
「多分、分かってないとは思いますが…。まあ、アイシャ殿らしくて、良いと思います。」
「アイシャ殿、一緒に頑張りましょうね!」
「はい!」
「…ジェイク殿、貴方も分かってますか…?」
ラストダンスの音楽が流れる中、私達は演奏が終わる最後まで話し合っていた。出来るだけでいい、私も二人の傍に居られるように、頑張ろう。




