第四十六話 再会
夏季休暇があっという間に終わり、学校へと戻って来た。学校に向かう日には、わざわざルドルガが見送りに来てくれた。
私はその時、ずっと作っていたマフラーをルドルガに渡したのだ。暇さえあればひたすら編み物をしていたので、かなり良い物が出来たと思う。
「編み針のお礼です!ルドルガさん、受け取って下さい。」
「これ、去年あったあの高い、マフラーってやつじゃねえのか?ちょっと違う感じもするけど…。」
「ふふ。マフラーは私がラティスに教えたモノなんですよ。編み針のおかげで、アレよりもずっとしっかりした物が出来たので。第一号をお礼にと、頑張って編んだんですよ!」
「そっか…。ありがとうな、アイシャ。」
ルドルガは嬉しそうに微笑むと、私の頭を優しく撫でてくれた。ああ、こういう所がほんと、お兄ちゃんみたいでいいよね…。アイシャの…私の兄さんの事を思い出してしまう…。
優し気に微笑むルドルガに、私はもう一度編針のお礼を言った。
「今度帰ってくる時には、棟梁さんやレイアさん、お店の皆の分も編んでおきますから!皆に、楽しみに待ってるように伝えておいて下さいね!」
「ああ、そりゃ喜ぶな。お袋が特に気になってたみたいだし。皆に伝えとくよ。」
「ルドルガさんにも、また編んで来ますね!」
「…程々にな。学園があるんだから、無理するんじゃねえぞ。」
「勿論です。しっかり勉強してきますから。」
たった二週間の間だったけど、やっぱり自分の町と言うのは良いモノだ。とても落ち着く。中央都が嫌っていう訳ではない。と言うか、殆ど外に出掛けてないから、いまいち良さが分かんない。
取り敢えず、温泉が無い時点でこの町の方が上なのは決まっているしね。
「ほら、アルベルト様達を待たせてんだから。サッサと行きな。」
「…そうですね。また、冬に帰って来た時には宜しくお願いします。」
「おう。帰ってくんの、待ってるよ。」
最後にもう一度だけ、私の頭を優しく撫でて見送ってくれた。ルドルガの優しさに胸が高鳴って、別れ難い気持ちになってしまったが、いつまでも此処に居る訳にはいかない。
私はペコリとルドルガにお辞儀をして、アルベルト達の待つ場所へと向かった。
「申し訳ありません、お待たせ致しました。」
「いえ、大丈夫ですよ。」
「アイシャ殿、準備は平気ですか?」
「はい。荷物は全て積み込みましたので、いつでも行けます。」
「それでは、出発しましょうか。」
そうして無事、学校へと戻って来た私は、毎日勉強に励んでいた。アルベルト達と一緒なのは変わらないが、時々メアリー達も話し掛けてくれる。
夏休み前に話してた通り、作って来たクッキーを上げたらとても喜んでいた。私達には無いのかと、他の子達も話し掛けてきたが、アルベルト達の許可が無いと渡せない事を話すと、渋々了承してくれた。
まあ、急に話すようになったばかりの子達にあげる程、私も軽々しく渡したりはしない。個人的にはあげても良いし、何だったら作り方を教えても良いとは思ってるんだけどね。アルベルト達が、暫く自分を優位に見せるため、秘匿しておいた方が良いって言うので、そうしてるだけだし。
因みに、クッキーとかマフィンのような一般的なお菓子は、アルベルトとジェイクの家の料理人には教えてある。どうやら、入れる材料や分量が違うみたいで、私の作り方を知った時驚いていた。こっちとしては、そういう風に作ってたんだ、と今の今まで知らなかった事を知れたので良いんだけど。
メアリー達とも、もっと仲良くなれたらいいな、何て最近では思う。流石に貴族相手にそんな事は言えないが、心の中で思うくらいなら許されるだろう。面倒見は良いし、何だかんだ優しいし。気を遣う、とまではいかないけど、ちょっと素直じゃない所が、とても可愛らしいと思う。
ツンデレ、というモノを体感したが、結構良いモノだと私は考える。普段ツンツンとしてるメアリー達が素直になれない様な感じで。
私、別に貴方の事を気にしてるんじゃなくってよ!アルベルト様方と仲良くなる為なんですからね!
何て、少し頬を赤らめながらそっぽを向いて言うのだから、私は内心、クスリと笑ってしまった。こんなタイプは、私の周りには居なかったから、とても新鮮で面白いと思う。
さて、学校に戻って来てから秋に入り、少ししたところ。今日は中庭でお昼を食べましょうか、何て話していたので、私は沢山のお弁当を用意した。少しだけ用事があるらしく、アルベルトとジェイクは遅れてくるそうだ。
普段から人気の無い中庭なので、私は一人、シートを広げてそこに座って待っていた。
「おや、アイシャじゃないですか?」
「えっ…?」
突然、後ろから声を掛けられた。
「こんな所で会うなんて、奇遇ですね。」
「ヴォルフさん…!?」
一体誰だろうと後ろを振り向けば、そこに居たのはヴォルフだった。まさか、学校にヴォルフが居るとは思わなかったので、とても驚いてしまった。
「ヴォルフさん、学校に居たんですね…。」
「ええ。少し縁があってね。」
「それなら、色々と話を聞いてみたかったです…。」
話を聞けていれば、心の準備とか、もっとちゃんと出来たかも知れない。前もって情報を手に入れていれば、出来る限り目立たないようにやって行けたかもな…。
「中々会う機会が無かったからね。アイシャが学園に来たのは知ってたけど、僕も忙しかったし。」
「後等生って、そんなに忙しいんですね。」
「まあ、それなりにね。そうだ、アイシャ。入学おめでとう。ちょっと今更だけどね。学園生活どうだい?」
「ありがとうございます、ヴォルフさん。友人に恵まれているおかげか、良く過ごせてます。」
「ふふ、それなら良かった。」
そんな感じで話していると、再び後ろから声を掛けられた。アルベルトとジェイクがやって来たらしい。私はヴォルフと一緒に声のした方へと振り向いた。何だか一瞬、アルベルト達の表情が凄い事になってたけど、気のせいだったかな…?
「お待たせしてすみません。それで…。」
「あ、アイシャ殿。そちらの方は…。」
「えっと、ユレイドの町の知り合いで、ヴォルフさんと言うんです。」
「どうも初めまして。ヴォルフと申します。」
「ヴォルフさん、こちらは私の友人で、この学校に紹介してくれたアルベルト様とジェイク様です。」
「は、は、初めまして…!」
何だか、物凄い緊張した表情で挨拶をするジェイク。アレ、ジェイクって人見知りしてたっけ?
「…アイシャ殿に、この様なご友人がいるとは思いませんでした。ヴォルフ様は…。」
「アルベルト様、どうかヴォルフ、と。」
「ですが…。いえ、それでは、ヴォルフ殿と、お呼びさせて頂きます。」
「ええ、構いませんよ。」
ヴォルフさん、凄い…!貴族相手でも慌てない、凛とした態度で何だか格好いい!普段から慣れているのだろうか、フレンドリーな感じではあるのに、失礼な気持ちに感じない。私がやったら処刑モノだろうけど、ヴォルフがやると優雅で、すんなりと受け入れられてしまう。
後等生になれば、私にも少し、余裕が出来るのかな…。
「ああ、邪魔をしてしまいましたね。アイシャ、これから昼食だったのでしょう?」
「はい。今日は天気が良いので、中庭でお弁当を…と、思いまして。」
「秋の陽気が気持ち良いですからね。」
良ければヴォルフも、なんて誘おうとして口を閉じた。私が勝手に話を進めてはいけない。まずは貴族であるアルベルト達に伺いを立てなくちゃ。
「えっと、アルベルト様、ジェイク様。その…。」
「…折角ですから、共に昼食を如何でしょう?」
「お邪魔ではありませんか?」
「いいえ、とんでもない事です。」
どうやら、先にアルベルトが言ってくれたようだ。伺いを立てる必要が無くなったし、この様子なら一緒に食べれそうだ。
この学校について、貴族じゃないヴォルフの話を聞きたいと思ってたんだ。
「それでは、参りましょうか。」
私達はシートの敷いてある場所へと座り、お弁当を広げた。元々沢山用意してたし、ヴォルフが増えたところで大して変わらないだろう。
「ああ、やはりアイシャの料理は美味しいですね。この間のヨウカンもですが、流石です。」
「ヴォルフさんったら。そんなに褒めたって大したものは出ませんよ、もう。」
「ふふ。ヴェルガが絶賛するだけの事はありますから。」
「えへへ…。喜んで頂けたのなら、嬉しいです。」
ここまで褒められると、照れてしまうのは仕方が無い事だろう。作った物を美味しく食べてもらえるのは、とても嬉しい。やる気になるし、もっと練習しようと思うから。
「…随分と、親しいのですね。」
「そう見えますか?」
「ふふ、弟が世話になりましたので。アイシャには、感謝しているのです。」
「私こそ、あの時に貰ったお礼の食材、とても美味しく頂きました。そうだ、後等生って、前等生とは結構違いってあるんですか?」
「うーん、そうだな。行事や試験がちょっと変わるくらいで、殆ど同じだと思うよ。まあ、内容は増えるんだけど。」
「そうなんですか…。私、大丈夫かな…。」
ダンスが何とかなれば、もう少し順位を上げられると思うんだけど…。これ以上アルベルト達には迷惑を掛けられないし、後等生になる前にダンスは上達させないといけないかな。
「アイシャにはアルベルト様やジェイク様の様な友人がいるし、きっと大丈夫ですよ。」
「でも、いつまでもお二人に迷惑を掛ける訳には…。」
「アイシャ殿、別に私達は…。」
「アルベルト様達はお優しいですけど、ずっとこのままではいられません。お二人の傍に居て、恥ずかしくない人間に、私はなりたいのです。」
「ふふ、アイシャは二人の事が随分と好きみたいだね。」
「えっ、えっ…!」
急にそんな風に言われて、私は焦ってしまった。いや、確かに二人は好きなんだけども!最近、違う好きを抱くようになってきたので、ハッキリとそういう風に言われると、どうしたらいいのか、困ってしまう…。
「大丈夫ですよ。男って、頼られるのが嬉しい生き物ですから。アイシャは、もう少し甘えると良い。」
「で、でも…。」
「アルベルト様達も言ってくれてるのだから、その厚意に報いてあげた方が良いのでは?」
「ううぅ…確かに…。」
二人はいつだって優しい。遠慮してばかりだと、その思いを無下にした事になってしまう。私も、もう少し甘えてみるのも…。
だ、だけど、甘えるってどうやって…?シャーロットの様にするのは、個人的には嫌だ。アレは私には合わない。うーん…。
「ほら、アイシャ。悩みだす前に、お昼を食べないと。」
「あ…!そ、そうでした…。」
「さぁ、沢山食べて、午後の授業も頑張っておいで。」
「は、はい…!」
ヴォルフに言われるまま、私はお弁当を次々と食べ始める。と言っても、そんなに量が入る訳ではないのだが。
既にアルベルトとジェイクは食べ終わっていて、ゆっくりと食後のお茶を飲んでいた。
「お待たせして、申し訳ありません…。」
「いえ、大丈夫ですよ。ゆっくりと食べて下さい。」
「アイシャ殿のお弁当は、本当に美味しいですから。あっと言う間に食べてしまいました。」
「お二人共…、ありがとうございます。」
ああ、本当に二人は優しい…。この厚意に私は甘えっぱなしだと思うけど、どうやら足りないらしい。これよりももっと、何てどうしたらいいのかな…?
「さて、私は先に失礼しますね。午後の授業の準備がありますから。」
「あ、はい。ヴォルフさんも、勉強頑張って下さい。」
「ありがとう。また機会があったら、お話しましょうね。」
「はい、是非。」
そうしてシートの上から立ち上がったヴォルフは、先に離れて行った。
「……ふぅ。」
「ジェイク様、大丈夫ですか?」
「えっ…?」
「どうやら、とても緊張していた様なので…。」
「あ、えっと、その…。」
普段は人見知りなんてしない、明るく元気なジェイクが、緊張するくらいだ。後等生と前等生の関係って、実は厳しかったりするのかな?アルベルトはいつも通りの笑顔だし…。
「ご心配をお掛けしました…。ですが、もう大丈夫です。私も、もっと頑張らないといけませんから。」
「そうですか。平気なら、良いのですが…。」
「ええ、大丈夫です!私も、後等生になったら更に忙しくなると聞いて、気を引き締めようと思って頂けですから。」
「ふふ、そうですね。私も、今以上に頑張ります。」
ちょっとした出会いはあったものの、中庭での昼食は楽しいままに終わった。本当はもっとヴォルフから話を聞きたかったけど、忙しいのなら仕方がない。
来年は私も同じようになるのだろうか。少しだけ不安である。
「さて、アイシャ殿。今日も美味しかったです。ご馳走様でした。」
「お粗末様でした。お待たせしてすみません。直ぐに片付けますね。」
「あ、手伝いますよ、アイシャ殿!」
「ありがとうございます、お二人共。」
食べ終わった私は、二人に待たせてしまった事を謝罪した。直ぐに片付けて教室に行こうとしたら、二人が後片付けまで手伝ってくれた。
三人でパパっと片付けて、次の授業の為の教室へと向かう。
「次は語学の勉強ですね。」
「異国の言葉を聞けるというのは、とても楽しいので私は好きです!」
「私もです!様々な言葉や文化を聞いて、是非そこに行ってみたいと思います。」
「ふふ、良いですね。別の国では、このサルヴァレス王国とは違った料理やお酒があるとか。どんな物か口にしてみたいです。」
「私はアイシャ殿が作ってくれたものが一番ですけどね!でも、確かに他国のモノは食べてみたいです。」
あらヤダ、本当に、もう…。ジェイクは可愛い事を言ってくれるんだから…!
「さあ、二人共、教室に着きましたよ。午後の授業も、共に頑張りましょうね。」
「はい、アルベルト様!」
「私も一生懸命、お勉強しますわ。」
私は二人と一緒に席に座り、その日の授業を終えたのだった。
ヴォルフとはまたどこかでお話が出来ると良いな。もっと学校の事を知りたいし。




