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温泉物語  作者: 蒼乃みあ
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第四十三話 確認と話し合い

 夏季休暇に入って、半分が過ぎた。ラティスとは既に遊び終わっている。買い物をしながら町を見回ったり、家でゆっくり学校について話をしたり、一緒に温泉へ入ったりした。ラティスはやっぱり可愛い。

 今年はマフラーだけでなく、ニット帽も売ろうとしてるらしく、苦戦しながら編んでるらしい。少しだけアドバイスをしてあげたら、とても喜んでいた。ラティスはとても可愛い。

 また冬に帰って来た時に遊ぼうと約束したので、冬期休暇が楽しみになった。その時は、私にニット帽を編んでくれるらしい。私もお返しに何かあんであげよう。ラティスは本当に可愛い。


 さて、ラティスについてはコレくらいにして。本日は久し振りに、ルドルガやアルベルト達との、温泉旅館についての話し合いである。先日確認したけど、今度は四人で見に行く。


「よし、準備オッケー。後は皆が来るのを…。」


 待つだけだなぁ、何て思った途端、家のチャイムが鳴った。私は直ぐに扉に向かって開けると、そこにはアルベルト達が居た。


「おはようございます、アイシャ殿。」

「アルベルト様、ジェイク様、チャック様。それにルドルガさんも。ようこそ、いらっしゃいました。」

「アイシャ殿、お元気でしたか?」

「ふふ、勿論です。毎日温泉に入れて、とても元気いっぱいですよ!」


 少しの間会わなかっただけだが、アルベルト達に合うのが久し振りに感じる。学校では殆ど毎日一緒だったからなぁ。


 私は四人を椅子に案内すると、飲み物とお菓子を出して、ルドルガの横に座った。チャックはやはり座らずに、アルベルトの後ろで立っている。護衛騎士って大変なんだな。


「さて、それでは早速話し始めましょうか。」

「そうですね。ルドルガ、旅館はどこまで進んでいるんですか?」

「はい、ジェイク様。まずは幾つか建てる予定のうち、一つ目の旅館の枠組みが終わっています。既に次の段階に進んでいて、少しずつですが外壁も出来て来ています。来年の春までには旅館本体を完成させ、秋頃には内装も終わらせる予定になっています。冬の間は旅館内の細かい調整を行いながら、完成に持っていける筈です。」


 ルドルガが現段階の説明と、これからの予定を話していく。ここまで進んでいるのは、フィルダン大工店の皆の腕が良いからだ。アルベルト達も、感心したように褒めてくれた。


「ふむ…。後ほど旅館は見に行くとして、二年で一軒、完成予定なら良い調子ですね。」

「アルベルト様やジェイク様からお金を出して頂けたので、かなり助かっています。俺達だけなら、その倍は時間が掛かっていたでしょうから。」

「いいえ、ルドルガ達の仕事が良いからでしょう。アイシャ殿からは、現状を見て何かありますか?」

「そうですね…。温泉旅館に欠かせないものとして、卓球が欲しいです。」

「……タッキュウ?」


 私がソレを口にすると、三人は首を傾げた。後ろにいるチャックまでもが不思議そうな顔をしている。


「ちょっとした球技なんです。これくらいの小さい球を、こういう形のラケットで撃ち合う競技何ですけど…。」


 私は身振り手振りで説明するが、どうにも上手く伝わらない。コレは一度作って貰って、見せた方が早いかもしれないな。


「ルドルガさん、後でちょっと手伝ってもらっても良いですか?建設予定地に行ったら、簡単に作ってみます。多分、見た方が分かりやすいと思うので。」

「ん、分かった。それじゃ、タッキュウはまた後でな。」

「はい。」


 向こうなら色んな材料が沢山あるし、きっと作れるだろう。一旦卓球の話は後にして、次の話題に移る。


「次は温泉についてですね。アイシャ殿、温泉に浸かる為のルールの様な決まり事ってありますか?」

「うーん…。温泉を汚したり、飲んだりしないとか、泳がないとか…。後は、逆上せない様に気を付けるとか、ですかね。」

「最初の方は、普通に考えたら分かりそうですから大丈夫ですかね。逆上せないというのは、中々難しそうですが。」

「慣れないと、どこまでが良いのか、分からないですからね。」


 ついつい長湯が過ぎて、水分補給もせずに逆上せて倒れる、何て事は前世の世界でもよくあった。温泉に入る習慣がないこの世界の人達なら、尚更気を付けないといけないだろう。


「あー、確かに、水分補給は大事だな。俺も一回だけ逆上せかけた事があったし。」

「ルドルガさんったら、フラフラでしたよね。」

「最初の内は何処まで行けるか分かんなかったし、アイシャがマッサージもしてくれたからつい入り過ぎちまったんだよな。」

「………ちょっと待って下さい。」


 ルドルガと二人で、そんな事もあったねー、みたいな話をしていたら、アルベルトから声が掛かった。どうしたのだろうと、二人でアルベルトの方へ顔を向けた。


「アイシャ殿、マッサージと言うのは、どういう…?」

「えっと、岩盤浴と言う、また違ったものがあるんですけど、そこに寝そべって貰って体を揉むんですよ。」

「…それは、温泉に入ってる時にするものなのですか?」

「いいえ、入り終わった後でも大丈夫ですよ。あの時は他の皆もいたので、じゃんけんで勝ったルドルガさんだけしましたが。」

「アイシャはマッサージがとても上手いので、凄く気持ち良いです。温泉と相まって、かなり疲れが取れます。きっと客相手にも受けると思います。」


 ルドルガが私のマッサージをとても気に入ってるようなので、学校に行く前はたまにしてあげていた。勿論、他のみんなが居る場合は、順番にだったけど。


「まさか、アイシャ殿は湯あみ着を着て温泉に入っている男性の前に出ているのですか…?」

「……?はい、そうですよ。出なければ、お酒も持って行けませんし、マッサージも…。」

「アイシャ殿。」

「は、はいっ…!」


 アルベルトの笑顔が、急に寒く感じる。さっきまでと同じ笑顔なのに、何故だか背中がゾクゾクとして、寒気がする。


「良いですか、アイシャ殿。貴方は、年頃の女性です。その様な事、二度としてはいけませんよ。」

「えっと、アルベルト様…?」

「湯あみ着なんて、殆ど裸の様なモノです。幾ら彼等にその気が無くても、旅館が完成すれば不埒な事を考える輩は現れます。決して、アイシャ殿は男湯に近付かないように。」

「で、ですが…。」

「アイシャ殿。」

「うぅ…。」


 ううん、どうしようか…。別に前世でも仕事の一環だったし、そこまで気にするような事では無かったのだが…。しかし、アルベルトの言い分も理解は出来る。何かあれば、旅館全体に影響を及ぼす事だ。悪評が付くのは避けたい。


「…せめて、教育期間だけは…。」

「アイシャ殿が女性の従業員に教えればいいのです。その女性が、男性従業員に教える事は構いません。ですが、アイシャ殿は、絶対に駄目です。」

「わ、私だけ、ですか?」

「ええ。アイシャ殿だけです。……分かって頂けますよね?」

「……はい。」


 余り納得は出来ないが、私には返事をするしか方法が無かった。しょうがないので、アルベルトの言う様にしよう。

 マッサージ、結構自信あったんだけどなぁ…。資格も取ったし、お店の皆には好評だったのに…。


 少しだけしょんぼりとしてたら、後ろで立っていたチャックが私の方へとやって来て、コソコソと耳打ちをし始めた。私はルドルガから少し距離を取って、チャックへと近付く。


「…アイシャ殿、アルベルト様はアイシャ殿を心配しているだけですよ。ですから、どうかその様な顔をしないで下さい。」

「チャック様?」

「ふふ。アルベルト様だけではなく、ジェイクもそうです。二人は、アイシャ殿にはあまり危ない事をしてほしくは無いのですよ。」

「ですが…。」

「貴族と平民では、認識の差があるでしょう?それに、アイシャ殿が自分以外の殿方に触れるのを、嫉妬してるだけですから。」

「えっ…?」


 嫉妬、という言葉を聞いて、私は思わず声を上げてしまった。その声に、黙ってこちらを窺っていた三人は、どうかしたのかと、真っ直ぐな視線を向ける。


「チャック殿、アイシャ殿には何を?」

「アルベルト様。大した話ではございません。少々、内緒話を。」

「兄上…?」

「アイシャ殿、先程の話は、どうかご内密に。」

「……チャック様。」


 人差し指を口に当てて微笑んだチャックは、静かにアルベルトの後ろへと戻っていった。何を聞かれても、応えようとしないチャックに、アルベルトとジェイクは早々に諦めたようだ。

 私も、さっきの話を喋るつもりは無いので、チャックの言葉に頷いて、秘密にする事にした。


 嫉妬……何て、それではまるで、二人が私の事を好きだと言ってるみたいじゃないか。確かに嫌われてはいないだろうけど、そう言う意味での好きではないだろう。

 私が彼等を恋愛対象として好いては、迷惑が掛かってしまう。それに、彼等が私を好きになるなど、有り得ない事だ。だって、私は平民で、彼等は貴族なのだから。


 私は頭を軽く振って、先程の言葉を思い出さない様に記憶の奥底へと封じ込めた。


「取り敢えず、次の話に行きましょうか。」

「…そうですね。折角の機会です、出来るだけ話はまとめておきたいですから。」


 アルベルトは納得がいかない様な顔をしていたが、直ぐに笑顔に戻った。そうして、次の話題を探そうとしてると、ジェイクが手を上げて話し始めた。


「アイシャ殿、温泉に入る際には、護衛はどうするのですか?」

「護衛ですか?」

「湯あみ着のみでは、流石に危険です。持ち込む武器についても、話し合わなければ…。」

「温泉に、武器を持ち込むなんて、とんでもないです!」


 ジェイクの言葉に、私は大きな声を上げて反応した。


「温泉とは、神聖な場所です!日頃の疲れを取り、癒しを求めてはいるモノです!武器を持ち込むなんて、その様な事は出来ません!」

「ですが、他の人が居るという事は、安全面についても考えなければなりません。何かあった時は…。」

「その時は、拳で語り合ってもらいます。誰であろうと、湯あみ着以外の持ち込みは禁止です!人を傷付けるような物を持って入るなど、温泉を侮辱するのと同じです!温泉は、皆が安心して入る為にあるのです!」

「……。」

「どうしても不安な方は、力自慢な護衛を連れてくればいいのです。旅館側でも、素手の戦いに慣れた護衛を入れればいいでしょう。絶対に、武器を持ち込むのだけは反対します!」


 温泉はとても神聖なところである。神の住む教会と同じと言っても良いだろう。いや、寧ろ温泉自体が神様だ。そんな神がいる場所に武器を持って入るなんて、言語道断。絶対に許されない。


「えっと、すみません…。」

「分かって下さればいいのです、ジェイク様。共に、安心してはいれる温泉を作り上げましょう!」

「…そうですね。アイシャ殿が温泉について一番詳しいのですから、アイシャ殿の言う事が一番です。私も、自分に出来るところから始めていきます!」

「ジェイク様!」


 ジェイクは分かってくれたようで、バッと椅子から立ち上がった。私も思わず立ち上がり、ジェイクの手をギュッと握る。固い握手を交わした私達は、どういう風に護衛を入れれば安全か、白熱しながら語り合った。


「……あの、アルベルト様、チャック様。アイシャが、大変失礼致しました。申し訳ございません…。」

「いいえ、ルドルガが謝罪する事はありません。アイシャ殿が温泉を大事にしてるのは知っていますから、大丈夫ですよ。」

「ジェイクも気にしてる様子では無いですし、話の内容も結構まともですから大丈夫でしょう。」

「ですが、二人だけでああも熱中してると、少し妬けますね。私達も、仲間に入れてもらいましょうか。」

「…はい。」


 ジェイクと話し合っていると、アルベルト達が会話に入って来た。チャックの意見も聞いてみたらどうかというので、私は確かに…と、納得した。

 現役護衛騎士からの話は、大変貴重である。シッカリと聞いた上で、参考にしよう。



 その後も、私達は色んな事も話し合いをした。温泉の種類をどうするのか、料理は何を出していくのか。マッサージやエステはどうしていくのか。全部が今、決められる事ではないが、少しずつでも意見を出して進めていきたい。

 こうして様々な話し合いをしていれば、いつの間にかお昼の時間が大分前に過ぎていた。


「話し合いに夢中になってしまいましたね。一旦、休憩にしましょうか。」

「おや、本当ですね。アイシャ殿の言う通り、少し休みましょう。」

「あ、それなら最後に、一つだけいいでしょうか?」


 休憩がてら、新しいお茶とお菓子を出そうと、私が席を立とうとしたその時。ルドルガが手を上げて言葉を発した。どうしたのかと思い、ルドルガから次の言葉を待つ。


「アイシャやアルベルト様達が学園に行き始めてからですが、近頃貴族っぽい方々を拝見する事があります。」

「…続けて下さい。」

「最初の内は少し視線を感じるくらいだったのですが、春の終わりから少しずつ増えて行き、夏に入ると声を掛けられるようになりました。アルベルト様から貸して頂いたこのペンダントのおかげで、まだ争い事には発展してませんが…。」


 私達は、何故その時期から増えて来たのか、直ぐに理解した。恐らく、親交パーティーだ。平民である私が貴族と仲良くしていれば、色々と調べられるのは当然だろう。特に、かなり親交が深いのだから何か弱みは無いかと、探り出すのが貴族の普通だ。


 調べれば直ぐに出てくるのが、平民である私だ。貴族のアルベルト達なら、それなりに隠したりは出来るだろうけど、平民の私には情報を隠す事は出来ない。

 多分、重要な事は漏れない様にしてくれてるとは思うが、私達が何かしてるのは既にバレてると思っても良いだろう。


「一応、相手が平民貴族に係わらず、とある公爵家の方からの依頼で詳しい事は喋られない様になっている、と話してあります。何か用があれば名前と用件をお伺いした上で、向こうに連絡をする、と言ってます。相手が公爵家という事で、基本的には皆素直に引き下がっていきますが、たまに横暴な方もいらっしゃいまして…。」

「名前は控えていますか?」

「こちらに。」


 準備万端である。確かに、私達平民には、貴族の無茶振りに耐えなければならない。難癖付けてアレコレ我が儘を言う貴族は、沢山いるのだ。少しでも安全に、相手の機嫌を損ねないようにしなければ、自分達の身が危ない。


「基本的には、どの貴族の方も最初に名前を言うので、書いてあります。こちらが平民なので、無理やりにでも動かそうとする方には、ペンダントを見せて何とか収めております。」

「ありがとうございます、ルドルガ。この件に関しては、こちらで対応しますね。」

「どうか、宜しくお願い致します。」


 相手が貴族じゃ、私達にはどうする事も出来ない。こう言う時は、素直にアルベルト達に頼むしかないのだ。


「それでは、今度こそ休憩にしましょうか。アイシャ殿、喋り続けたので疲れたでしょう?」

「いいえ、大丈夫です。お気遣い、ありがとうございます、アルベルト様。」


 話が一段落したところで、やっと休憩だ。私は席を立ち、お菓子とお茶を持ってくる。


「……ふぅ。」


 お茶が美味しい。思ったよりも、疲れていたらしい。喉が潤う感覚に、私は思わず言葉が漏れた。


「今日は色々と話し合えて、良かったですね。問題点も沢山ありますから、少しずつ改善していきましょう。」

「私は、更によく出来るよう、他にも案を考えてみますね!」

「俺も今日の話し合いを踏まえて、旅館を作ります。親父や店の皆にも今日あった事を話して、出来るだけ早めに完成できるように善処します。」


 話し合いの内容は全て紙へとまとめてある。これからは更に細かい話し合いが必要になるだろう。私達は束の間の休憩を楽しんでいる。

 チャックも今だけは、一緒に休んでくれている。珍しくお菓子にも手を出していて、とても美味しそうに食べていた。


「……あら?」


 ゆっくりと過ごしていると、急にチャイムが鳴った。今日は他に来客の予定はない筈なんだけど、どうしたんだろう?

 私は四人に断りを入れて、扉の方へと向かっていった。

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