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温泉物語  作者: 蒼乃みあ
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第四十一話 夏季試験

 メアリーのお茶会が終わって、ホッとしたのもつかの間。その日からますますお茶会や社交界に誘われるようになってしまった。

 余程あのお菓子が気に入ったのか、よく声を掛けられる。学校にいる間ならアルベルト達がいるけど、女子寮に入っていしまえば彼等はいなくなる。その隙を狙ってか、女生徒が押しかけてくるようになっていた。


 まあ、大体はメアリー達が助けてはくれるんだけどね…。女の子の味方がいて、本当に良かったと思う。


 そんな面倒臭い日々である夏が半分過ぎた頃、先生達から試験がある事を知らされた。今まで習ってきた科目に対して行われる試験。それが無事に終わらないと、夏季休暇がもらえないらしい。

 前世の学校と殆ど変わらない様子で、安心する。ダンス以外はそれなりに出来るので、多分大丈夫だろう。


「うーん、ダンスがなぁ…。」


 座学に関しては大体覚えてしまっているし、実技も結構良い線いってると思う。武道に関しては女生徒の試験内容には入ってない代わりに、お茶会に関する実技がある。男女別に試験があるのはとても有り難いとは思う。

 だけど、ダンスはいくら練習しても、中々上達しなかった。


 いや、足を踏む回数は減ったし、ステップもそこまで間違えない様にはなったんだけど…。まさかここまで苦戦するとは思っていなかった。


「一人で練習するのにも、限度があるし…。」


 一人ではダンスの練習も余り進まない。相手が居なければ踊れないのだから仕方ないけど、余り二人に迷惑掛けるのも嫌だし。

 かと言って、ダンスが上達しないままだと結局二人に迷惑は掛かる…。何という悪循環…。


「取り敢えず、座学とダンス以外の復習は終わらせておこう。」


 私は部屋の中で、黙々と勉強していくのだった。



 試験が始まるまでは、毎日のようにアルベルト達と勉強をしていた。一緒に勉強していると、二人共凄い優秀だというのが分かる。

 アルベルトは何をしても完璧にしてしまうし、ジェイクもチャックの様に主席を目指すというくらいには、ドレもコレも難なくこなしている。


 二人共、凄いなぁ…。私も一緒にいて見劣りしない位には、頑張らないと。


「アイシャ殿、ここはこうした方が良いですよ。」

「は、はい、アルベルト様…!」

「大丈夫ですよ、落ち着いて。」


 今は、二人にダンスの特訓をしてもらっている。二人の勉強時間を私の特訓に費やしてもらうのは、物凄く申し訳なかった。


「少し休憩しましょうか。アイシャ殿、はい。」

「ありがとうございます、ジェイク様。」


 微笑みながらお礼を言って、渡されたジュースを受け取った。放課後は勿論、休みの日には毎日一緒にいてくれるけど、二人は他の用事とか無いのだろうか…?

 女子寮に居ると、最近は少し話してくれる子も増えてきたが、大抵の子はよく学校の外に出掛けていると聞いた。それはお茶会だったり社交界だったり、ただの外出だったりと様々だけど、ずっと学校にいる方が珍しいみたいだ。


「あの、アルベルト様、ジェイク様。私にばかり構っていても、大丈夫なのでしょうか?」

「アイシャ殿?」

「いつも私の傍に居て手伝ってくれますが、御迷惑ではないでしょうか?お二人にも、何かご予定とかは…。」

「いいえ、大丈夫ですよ。私達がしたくてしているので、迷惑ではありません。」

「そうですよ!私はアイシャ殿と一緒に入れて、とても楽しいのです!」

「ふふ、私もです。用事などは無いですから、アイシャ殿は気にしないで下さい。」


 二人はそう言って、ニコリと微笑んでくれるけど、私が気にしてしまうのは当然だった。用事が無い、というよりは用事を作ってない、の方が正しいだろう。誘っても断られる、という事を遠回しに何度も言われたことがある。

 恐らく、女生徒だけでなく男子生徒の誘いも断っているのだろう。この学校は勉強の他に、交流を深める目的もあるのに、このままじゃいけない。


 何とかして、二人の迷惑にならない様に、一人でも出来るようにならなければ。


「ありがとうございます。ですが、このままお二人にずっと傍に居てもらう訳にはいきませんもの。私、一生懸命練習して、一人でも大丈夫な様になりますね!」

「……別に、アイシャ殿がその様にしなくても…。」

「いいえ、ジェイク様。それでは、お二人の為にはなりませんもの。私、頑張ります!」


 こんなにも気を使ってくれるなんて、ジェイクは本当に優しい子だ。だからこそ、早く私が独り立ち出来る様にならないといけない。

 やる気もバッチリだし、頑張るぞ…!


「さあ、続きをしましょう。早くダンスをマスターして、二人に好きな事が出来るようにしますからね!」

「……そうですか。では、再開しましょう。でも、やる気だけで急いてはいけませんよ。少しずつで大丈夫ですから。」

「ありがとうございます、アルベルト様。私、お二人の気持ちに沿えるよう頑張りますね!」


 ほんの一瞬だけ、悲しそうな顔をしたアルベルトは、直ぐに笑顔で私に手を差し出した。…どうかしたのだろうか?


「さあ、アイシャ殿。こちらへ。」

「あ。はい!アルベルト様。」


 手を取って、先程の様にダンスの練習を再開した。途中でジェイクに変わったりもしたが、私は一生懸命練習し続けた。



 そして、夏季試験が開始される。


 数日間に及ぶ試験の最後は、ダンスの実技だった。座学や他の実技は結構手応えを感じているので、自信がある。後は、特訓の成果を見せるだけである。

 ダンスの相手は先生なので、いつもの様にはいかなかった。二人は私が踊りやすいようにエスコートしてくれていたのだと、その時初めて分かったのだ。

 私は、そんな二人の努力に報いるため、一生懸命先生と出すを踊りきる。


 特訓の甲斐あってか、ダンスの試験はなんとか合格点をもぎ取ったのだった。



「お疲れ様でした、アイシャ殿。」

「アルベルト様、ジェイク様。ありがとうございます!私、何とか合格出来ました…!」


 笑顔で迎えてくれた二人に、最大限の感謝を述べた。アルベルト達のおかげで、無事に全ての試験を終わらせる事が出来たのだから。


「これで、無事に夏季休暇が手に入りましたね!」

「アイシャ殿も、ユレイドの町に帰るでしょう?」

「はい。アルベルト様達とご一緒させて頂きます。」


 以前から話し合って、夏休みの間はユレイドの町に戻る事にしていた。一度温泉旅館の様子を見たいし、ルドルガ達の顔も見たい。

 …ルドルガ、元気にしてるかなぁ…。


 記憶を取り戻してから殆ど毎日のように顔を合わせていたのだ。半年も会わないなんて、初めてである。ちょっと、ドキドキしちゃうな…。



 数日後、試験結果が学校内の掲示板に張り出されていた。既に成績表として紙は貰っているが、順位までは書いていない。私は二人と一緒に、結果の貼り出された廊下まで行き内容を確認しに行った。


「わ、結構人いますね。」

「そうですね。夏季休暇に帰る方は多いので、試験結果をご家族の方に報告しなければならないのでしょう。」

「あ、こちらの方が空いていますよ。アルベルト様、アイシャ殿!」


 ジェイクが比較的人が少ない場所を見付けてくれたみたいだ。私達はそっちに行って、掲示板を確認する。


「アルベルト様もジェイク様も、凄いですね…。」

「ふふ、ありがとうございます。」

「私は少し残念です…。やはり、兄上の様にはいきませんね…。」


 学年三位の所にアルベルト、六位の所にジェイクの名前を発見した。前等生が百人程いる中でのこの成績だ、かなり凄い事だと思う。


 私が考えていたよりも、遥かに二人は凄かった…。これ、私居るだけで迷惑じゃない…?


「アイシャ殿の名前もありましたよ。ほら。」

「あ、本当ですね。えっと…。」


 私の順位は二十七位だった。二人と比べると天と地ほどの差がある。成績表を見て知っていたけど、実技の結果が微妙だったんだよね…。アレだけ特訓に付き合ってもらえたのに申し訳が無い…。

 いや、ダンスが合格点ギリギリだったし、この順位は仕方が無いか…。


「アイシャ殿、凄いですよ!二十七位なんて!流石ですね!」

「いえ、私なんてお二人に比べたら…。あれ程教えて頂いたのに、お恥ずかしい限りです…。」

「そんな事ありませんよ、アイシャ殿。三十位以内に入るなんて、中々出来る事ではありません。もっと誇らしげにしても良いのですから。」

「ですが…。」


 正直、微妙な成績で喜んでいいのかが分からない。傍に居る二人が凄すぎるせいか、私はイマイチ優秀な成績だという実感が湧かないのだ。

 前世でも、もうちょっと良い成績取ってたしな…。いや、これから頑張れば、もっといけるんだから、努力しないと…!温泉旅館の為に、トップテンに入るくらいは、勉強しないと駄目だよね!


「…そうですね、ありがとうございます。私、もっとお二人に近付けるように頑張りますね!」

「ふふ。それでは、私達も頑張らないといけませんね。」

「はい!私は、次こそは一位を取れるように頑張ります!」


 二人は私に付き合って勉強時間が少なかったし、次のテストでは一人で何とか出来る様にしよう。ジェイクは一位を目指してるみたいだから、邪魔をしないようにしないと…。



 掲示板を確認した私達は、そのまま寮へと戻って帰郷の準備をする。夏季休暇は三日後から始まり、二週間程の期間がある。夏休みにしては短い感じがするけど、既に夏も半分以上が終わっているし、秋になる前に学校へ戻って来なければいけないので仕方がない。

 久し振りに帰れるのは、本当に嬉しい…。早く温泉に入りたいな…。そうだ、すっからかんになったファソルにも温泉を足しておかないと。


 帰ったら毎日温泉に入れる。温泉、温泉…。ああ、幸せな日々だ…。早く帰りたい、今直ぐ帰りたい。夏休み、まだかな、まだかな。


 あ、そうだ。ラティスやルドルガ達にこの学校の事、教えてあげよう。皆に会うのも楽しみだ。



 そうして、頭の中が殆ど温泉で一杯になっていた私は、夏休みが来るまでの三日間がとても長く感じる事になった。

 アルベルト達も、私がとても楽しみにしているのを察したのか、温泉の話題を振ってくれた。我慢が出来ず温泉についてかなり話してしまったが、二人は引かずに笑顔で聞いてくれた。…本当に優しい。


「それではアイシャ殿、行きましょうか。」

「はい、アルベルト様、ジェイク様!宜しくお願い致します。」

「向こうに帰って落ち着いたら、またアイシャ殿の元に伺いますね!」

「その時は、ルドルガも呼んでおいて下さい。」

「畏まりました。お待ちしております。」


 温泉旅館についての話し合いだろう。どこまで進んでいるかの確認もあるので、帰ったらルドルガに直ぐ連絡しておこう。


 学校に来た時と違い、一時的に帰るだけだからか、荷物は少なかった。私はファソルや氷室を荷馬車に置いてから、アルベルト達ともう一つの馬車に乗り込んだ。


 殆どの学生が帰郷するせいか、魔法陣のある建物には沢山の人が居た。皆が順番に並んでいるらしいので、私達も待つのだろうと思ったけど、ここでもやっぱり階級が優先されるらしい。

 学生皆平等は、どこに行ったんでしょうね。正直、学校にいる時の方が階級の大事さを認識させられる。


 私達は大して待つ事なく、魔法陣のある場所へとやって来た。


「それでは、起動致します。お気を付け下さい。」


 初めて感じた時と同じように、ふわっとした浮遊感を一瞬だけ感じる。あっと言う間についてしまうのだから、魔法って凄いと思う。


「アイシャ殿、家までお送りしますね。」

「ありがとうございます、お願い致します。」


 行きの時も思ったけど、魔法陣を使ってあっと言う間に行き来出来るのなら、こんなにも護衛はいらないのではないだろうか?それとも、貴族はこれが普通なのかな?

 うーん、まだまだ分からない事だらけだ。もっと勉強しよう。


 暫く話しながら馬車に揺られてると、私の家が見えてきた。ああ、懐かしの温泉!…じゃなくて、私の家だ。


「今日はどうもありがとうございました。」

「いいえ、また近い内に連絡しますね。」

「アイシャ殿、久し振りですから、ゆっくり休んで下さい。それでは、また!」


 アルベルト達に挨拶をして、私は深々とお辞儀をした。彼等が見えなくなるのを確認すると、自分の家へと入りこむ。

 久し振りの家だ。温泉の匂いがほんのりする、最高。


 私は早速持ってきた物を家の中に置いて、直ぐに温泉へと向かった。


「あぁー…、気持ち良い…。」


 やっぱり、足が伸ばせるのは良いよね。ちょっと泳いでみようかと考えたが、止めた。流石にそんな歳ではない。


「んー、落ち着く。温泉は良いなぁ…。」


 チャプチャプと水面を揺らしながら、温泉を堪能する。数カ月の間だったが、懐かしいモノは懐かしい。学校に居て入れなかった分、夏休みの間はがっつりと温泉を楽しむんだから…!


「きゅ、きゅ。」

「あ、ポメ。久し振りだね。」


 三時間ほど浸かっていると、家の塀を飛び越えてポメがやって来た。飛び込むように温泉へと入ったポメの水飛沫が、少しだけ顔に掛かった。


「こら、ポメ。飛び込んだら駄目だよー。温泉はもっとゆっくり浸かるモノなんだから。」

「きゅー。」


 さっきは泳ごうかな、なんて考えていた自分をコッソリ叱責しながら、ポメに飛び込みの注意をする。理解したのか、ポメは返事をして、私にすり寄って来た。

 もふもふとした毛が気持ちいい、そして可愛い。


「久し振りだけど、ちゃんとご飯は食べてたのかな?今日は何もないけど、大丈夫?」

「きゅ。」


 まるで平気、とでも言う様な返事をするので、私はそのままポメの柔らかな毛並みを堪能した。


「ふぅ、今日はもう上がるかな。」


 昼頃に帰ってきて、夕方になるまで浸かっていた。温泉は本当に素晴らしい。時間があっという間に過ぎていく。


 ポメは随分と前に居なくなっていたので、一人温泉を楽しんだ。今日は軽く食べるだけにして、明日からちゃんと動こう。

 私は氷室の中から軽食を取り出すと、モグモグと食べる。そう言えば、一人でご飯を食べるのって、久し振りかも…。


 学校に居た時は、基本的に食堂で食べるので必ず人が居る。テーブルにいるのが私一人でも、他の席には大勢の学生が居たのだ。


「…ちょっと、寂しいかも。」


 たった数カ月の間だが、大分学校生活に慣れていたらしい。久し振りの一人の食事は、思っていたよりも寂しいモノだった。

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