第四十話 メアリーのお茶会
今回はメアリー視点です。
私は、メアリー・フィン・フォース。マルレットの町に住むフォース伯爵家の、一人娘ですわ。マルレットの町は中央都の隣にある大きな町で、とても賑わってますの。
この町は、正妃様の第二子、コランド様が治めております。第一子である上の王子様とは仲も良く、次代のサルヴァレス王国を担う為、お互いに切磋琢磨し合い成長させてますわ。
マルレットの町に住む貴族の一人としてコランド様にお仕え出来るなんて、これ程名誉に思う事はございません。我がフォース伯爵家は、コランド様の為、この町の、この国の為に、日々を過ごしております。
十六歳になった時、私は父に問われましたが、当然貴族学園へと向かう事に決めました。私には婚約者がいて、成人後直ぐにでも嫁ぐ事も出来ましたが、少しでも多くの知識を身に着け、フォース家の名に恥じない淑女となる為に学ぶ事を選んだのです。
私とは幼い頃から共に居るアンナとライラも、私と一緒に学園へと通う事になり、とても嬉しかったのですわ。
学園で多くの事を学び、一人前の淑女としてあの方へと嫁ぎ、マルレットの町の貴族として、この国に仕えていくのが、とても誇りだったのです。
それなのに、ただの平民である娘がこの学園で共に過ごす事を知った時、私の中にあった矜持を侮辱されたように感じました。たかが平民風情が、フォース伯爵家である私と共に学んでいくなど、誇りが許さなかったのです。
今まで学園に通っていた平民には、良い話など聞いた事がありません。その多くが男爵家の紹介であり、自分達の欲望の為に連れて来た者ばかりだったからです。
只でさえ平民如き…と、嫌う貴族が殆どなのに。そんな平民が身分も弁えずウロチョロされれば、他の貴族からは疎まれ、虐げられるのは当然の事でしょう。
だから私も、自分の横で家名を上げない少女を見て、酷く苛立ちを感じました。平民の癖に、誇りある私と勉学を共にする事が何よりも悔しくて、嫌だったのです。
だけど彼女は、アイシャは今まで話で聞いていた平民とは違ったわ。まさか私と同じ伯爵家どころか、公爵家の方と共に居るなんて、信じられなかったのだもの。
グレンダル公爵家と言えば、サルヴァレス王国の中でもかなり高位の家です。そんな侯爵家の紹介で、平民がやって来るとは思いもしなかったわ。
もう一人の平民であるシャーロットも侯爵家の紹介だったのには驚いたけれど…。平民が二人も入る事すら有り得ないのに、両方とも侯爵家からの紹介だなんて、今までで初めてじゃないかしら。
シャーロットは兎も角、アイシャはちゃんと身分を弁えている子だった。決して私達よりも前に出るような事は無く、一歩引いたところで大人しくしていた。ちゃんと身分を優先するし、貴族に対して無礼な振る舞いをする事は無かった。
比べてシャーロットは、様々な殿方に色目を使いチヤホヤともてはやされているのを見ると、とてもいい感情を持つ事が出来ない。
アイシャと交流を持たない他の人には、シャーロット同じ様に見えているかもしれないけれど、私達からすればアイシャはちゃんとした平民だった。アイシャのおかげで、アルベルト様やジェイク様と知り合う事が出来たのだから、それだけでも十分だった。
だけど、アイシャと共に居るようになって、一番驚かされたのは今回のお茶会だったわ。
「メアリー様、本日はお招き頂き、ありがとうございます。」
「私、とても楽しみにしてましたのよ。」
「メアリー様のお茶会では、流石にアイシャもいらっしゃるのでしょう?」
今回のお茶会は主にこの学園に居る人達との交流が目的だ。ただし、シャーロットやその取り巻きに属する者は呼んでいない。
何度か他のお茶会で会った事がある人もいれば、今回で初めての人もいる。私に好意を寄せる人もいれば、害意を持っている人もいる。
「皆様、本日はようこそお越し下さいました。是非、ごゆっくりとお楽しみ下さいませ。」
全員が揃ったところで、開会の挨拶をする。挨拶は丁寧な言葉で簡素に。それが終われば、各々で会話をし始めた。私の下にはアンナとライラ、そして幾人かの方々がいらっしゃったわ。
「こんにちは、メアリー様。本日は御日柄も良く、素敵なお茶会に御招き頂けで、大変光栄ですわ。」
「ありがとうございます、マリア様。是非、お楽しみ下さい。」
「メアリー様のお茶会なら、あの平民が来るとも思ったのですけど。どうやら、他の方と同じ様に断ったようですわね。」
マリア様は一番最初にシャーロットへ苦言を申して、注意を受けた方です。このお茶会に居る者は皆、シャーロットに嫌悪感を抱いてる者ばかりですわ。シャーロットだけではなく、平民という括りでアイシャに敵意を向けている方もいますけど。
「本当に、あの平民は困った方々ですわ。メアリー様が良くしているのにも係わらず、お茶会を断るなんて…。」
こちらの方はガリダウ男爵家のご令嬢、レイカ様ですわね。一見アイシャを蔑んでいる様な発言ですが、コレは遠回しに私の事も侮辱しているのでしょう。所詮、私は他の者と同じだ、と。
「今回は仕方がありませんわ。アルベルト様やジェイク様がお許しにならないそうで。まだこの様な場に出られるものではないそうですから。その代わりに、私はアイシャからお菓子を頂きましたの。」
「マリア様もレイカ様も、きっと気に入りますわ。アルベルト様とジェイク様だけでなく、あのチャック様もお気に入りのお品物だそうですから。」
「まぁ!チャック様とは、ドリア伯爵家の?」
「はい、マリア様。メアリー様の為に、アイシャが贈ってくれましたの。お茶会に出られないお詫びに、と。」
その言葉を聞いた瞬間、レイカ様の表情はムッと不機嫌なモノに変わりましたわ。恐らく、レイカ様もアイシャをお茶会に招いたのに断られたのでしょう。私だけがお詫びの品を貰った事に、苛立ちを感じたのだと思うわ。
「まあ、それは楽しみですわ。一体、平民のアイシャが用意した物がどういう物か、とても気になりますもの。」
「…そうですわね。本当はもう少し後にお出ししようかと思いましたが…。折角ですもの、興味を持って頂いた時に食べるのが一番ですわ。」
私は手元にあったベルを小さく鳴らして、使用人を呼んだ。アイシャのお菓子を持ってくるように伝えると、彼女達は直ぐに用意してくれた。
「皆様、こちらはアイシャからお茶会の欠席に対するお詫びですわ。アルベルト様方もお気に入りにのお品物ですの。是非、お召し上がり下さいませ。」
そう言って、使用人達は各テーブルにお菓子を置いていく。その際、このフローズンジュレの説明も一緒にさせる。
…それにしても、本当にこのお菓子は綺麗だわ。まるで宝石のように輝いていて、見てるだけで惹き付けられる様な魅力ですもの。
アイシャは、ちゃんと身分というモノを弁えている。アンナとライラ、今回のお茶会に参加する方に関しては一人一つだと言っていたけども、伯爵家であり、主催側私である私が他の方と同じにはならない様に、味見の為だと一つ多く貰っていた。
このままでも十分美しく、食べると冷たくてシャリ…とする感触に、私はとても感動致しましたわ。時間を置いてジュレが溶けてもその美しさが無くなる事は無く、寧ろ透明感が増して更に輝いて見える様な見た目に、私は体が震えるのを抑えられなかったもの。
ヒンヤリとした程よい冷たさと、ツルリと口の中を流れるような食感に、暑い日であるのを忘れるくらいに涼しく感じましたわ。
「何て美しいのかしら…。一体、どこのお店のお菓子ですの?」
「私のはオレンジ色ですが、マリア様のは赤色ですのね。」
「とても冷たくて、暑い日だというのを忘れてしまいそうですわ。」
皆様、私が初めてコレを見た時と同じような事を仰ってますわね。やはり、他の方々から見てもこのお菓子は惹かれるモノのようです。
あぁ…、それにしても本当に美味しいですわ…。
「それぞれの好みに合わせて、用意して下さったそうですわ。私はピーチェが好きなのでそれでお願い致しました。」
「私はオランジェです。レイカ様も、私と同じですわ。」
「まあ、その様な気遣いが…?そのアイシャという者は、ちゃんと考えているようですわね。」
彼女達はその美しい見た目と、初めての食感に驚きながら、とても美味しそうに食べていた。時間を置いて溶けてから食べると、また違う姿が見えると言っていたおかげか、全員が半分程残してスプーンを置いていますわね。
代わりに彼女達が手を伸ばすのはクッキーですわ。見た目は普段私達が食べるのと同じですが、香りが違いますもの。直ぐに皆様が、気が付いたでしょう。
「メアリー様、あの…。このクッキーも、アイシャから?」
「ええ、そうですわ。色々な味があるそうで、アルベルト様は茶葉入りの、ジェイク様はチョコが入ったモノがお好みだそうですわよ。」
「この茶葉は、一体何を使っているのでしょうか…?こんなお茶の葉、味わった事がありませんわ。」
「クッキーも普段食べているモノとは全然違いますのよ。驚きですわ。」
ふふ、アイシャの持ってきたお菓子を食べた方々が、とても驚いた顔をしていますわ。彼女達から出る言葉はどれも称賛の言葉ばかり。アルベルト様の言う通り、コレは確かに箔が付きますわね。
毎回用意出来ないのが、残念ですけれども…。
「本日は、本当にありがとうございましたわ。とても有意義な時間が過ごせました。」
「こちらこそ、喜んで頂けて何よりですわ。是非、またお越し下さいませ。」
何だか、今日は時間があっと言う間に過ぎていきましたわ。溶けてきたジュレを見た彼女達は再び驚きの声を上げ、ジッとそれを見てい手中々手を付けようとしませんでしたもの。アレだけ美しければ当然ですが、冷たさが失われてしまうと美味しさが半減してしまいますの。
私がそう言えば、彼女達は名残惜しそうにジュレを食べ始めた。さっきとは違う食感に彼女達は少しだけ目を見開き、直ぐに美味しそうに食べ切ってしまったわ。
私のお茶会は、大成功と言っても良いくらいだった。今まで何度かお茶会を開いてはきたが、ここまで喜んでもらえたことは無かったもの。
今日のお茶会の主な話題はお菓子についてばかりだったけれども、彼女達とはそれなりに親交を深める事が出来たので、大本の目的は果たせたでしょう。
自分の力ではなく、アイシャのお菓子のおかげで、というのは悔しい所ではあるけれども…。
それでも、アイシャとの交友は私にとって良い方へと働いた事には違いない。次こそは自分自身の力で最高のお茶会を開いてみせますわ。
その日の夜、女子寮でアンナとライラの二人と一緒にお茶会での話をしていたら、アイシャが帰って来たのが見えた。
いつもの様にアルベルト様とジェイク様に見送られ、深いお辞儀をしてから寮の中へと入ってくる。私は今日の話をする為、アイシャをこちらへと呼び寄せた。
「アイシャ。」
「メアリー様。アンナ様とライラ様も、こんばんは。」
直ぐに私達の元へ駆け寄ってニコリと微笑んだアイシャは、何だかとても嬉しそうな顔をしていた。
「今日のお茶会、アイシャのお菓子のおかげか、それなりに上手くいきましたの。アルベルト様達にも、感謝の言葉を伝えておいて頂戴。」
「畏まりました。お喜び頂けた様で、身に余る光栄です。」
「良い事、アイシャ。貴方がお茶会に出られる様になったら、私のお茶会に最初に出席なさい。私を差し置いて他の方の元に出向くのは、許しませんわよ。」
「ありがとうございます、メアリー様。アルベルト様とジェイク様にも、その様にして頂けるようお伝え致しますね。」
ちゃんとアルベルト様達に話をしておくようで、私はその言葉に機嫌を良くした。アイシャはダンスだけは壊滅的だけど、他の事に関してはそれなりによく出来ているわ。誰を優先すべきか分かっているもの。平民にしては出来ている方でしょうね。
「…その、もしもまた、お菓子が手に入るようでしたら…。アルベルト様方の許可を、頂けるようにお伝えしてもらえるかしら。」
「……えっと?」
「勿論、出来たらで良いわ。アルベルト様方にご迷惑を掛ける訳にはいかないもの。」
「…アイシャ、その時は……。」
アンナとライラが言いにくそうに口籠った。そうね、私からもちゃんと二人の分をお願いしなければいけませんわ。だけど、アイシャは私が口を開く前に言葉を先にした。
「畏まりましたわ。メアリー様方の分、また機会があればお願いしてみます。」
「……!!」
ちゃんとこちらの反応を見て、私が言う前に察する事が出来るようね。アイシャは、本当に良く出来てる子だわ。
「ええ、宜しく頼みますわ。……アイシャ、ご苦労様。お菓子、美味しかったわ。」
「……。」
私が労いの言葉を掛けたのが、そんなにも予想外だったのかしら。アイシャは目をパチパチとさせ、驚いた様な顔を見せた。
……失礼ですわね。
「ありがとうございます、メアリー様。とても、光栄です。」
「ふん、話はそれだけよ。私達は失礼するわ。」
「メアリー様…!」
はにかむ様な嬉しそうな顔でお礼を言うモノだから、怒る気も失せてしまったわ。私はその場を去って、アンナとライラを連れて上の階へと上がっていった。
…まあ、少しくらいはアイシャの事、認めてあげてもいいわ。
ほんの少しくらいですけどね…!
皆様、お待たせ致しました。
帰って参りましたので、更新を再開させて頂きます。
これからも、皆様に楽しんで頂けるよう頑張りますので、宜しくお願い致します。




