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温泉物語  作者: 蒼乃みあ
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第三十九話 お誘い

 親交パーティーが終わり、それなりに日が過ぎた。夏が始まり、どんどん毎日が暑くなっていく。


「うわぁ、またか…。」


 私は差し出された手紙を見て、小さく溜息を吐いた。


 あの日から、確かに周りの態度が変わっていった。挨拶はちゃんとしてくれるし、少しだけだが会話もするようになった。今までを考えれば、物凄い進歩だ。


 …ただし、一部の女子からは更に嫌われたようだけど。


「何度断っても、次々とくるなー。どうしよう、本当に…。」


 私の部屋には、何通もの手紙が溜まっている。その全てが、社交界やお茶会の招待状だ。


「はぁ…。断り続けるのも、ちょっと辛くなってきた…。」


 未だにダンスがまともに踊れない私が社交界なんかに出たら、笑い者になってしまうだろう。男性は滅多な事ではお茶会に参加できないので、私と係わりを持とうとすると、どうしても社交界になってしまう。取り敢えず、社交界に関してはダンスが踊れないから、という理由で断り続けているが、正直面倒臭い。



 だけど、もっと面倒臭いのが、お茶会のお誘いだ。


 既に選択授業で色々と習ってはいるし、実際に参加しても大きな失敗をする事は無いと思う。しかし、お茶会にいるのは女性だ。

 以前、メアリーも言っていたが、女性には女性の派閥というモノがある。何処の世界も、女性の交友関係は拗れると大変マズい。あの家のお茶会には出たのに、何故私のとこには出ないのか。たまたま予定が合わなかった、それだけで敵と認定されてしまう事もあるらしい。


 女性同士の諍いは、あまり表に出ない分、悪質で、陰湿なモノが多い。絶対に、係わりたくない。


「断るのも憂鬱になる…。」


 取り敢えずは、誘われても平民という立場を最大限に利用して断っている。全員のお茶会に参加しなければ、先程言ったような争い事には巻き込まれないだろう。


 私の様な平民を呼んでは、貴方様のような貴族の方のお茶会の質が下がりますよ、と。


 大きな失敗が無くても、小さな失敗はある。私はまだ、堂々と参加できる程、貴族の常識を知れている訳ではないのだ。

 まあ、分かったとしても、喜んで参加なんてしたくないけどね。係わらないでいきたいです。


「ああ、アイシャ。此処に居たの。」

「メアリー様。アンナ様と、ライラ様も。どうかなさいましたか?」


 寮のホールの片隅で、私は一人で手紙を確認していた。今日は朝から色々とお菓子を作っていて、片付けを終えてキッチンから出てきた私に、先生は手紙を渡していったのだ。

 差出人を確認して、断りの手紙を送らなくてはいけない。今日はたまたま、部屋に戻らず直ぐにその場で読んでいたのだ。


 そんな時、メアリー達が私に声を掛けてきた。


「丁度良かったわ、コレを渡そうと思って。ライラ。」

「はい、メアリー様。アイシャ、受け取って。」

「…失礼致します。」


 メアリーに言われて、ライラが私に手紙を差し出した。それを丁寧に受け取ると、彼女達の視線が私に突き刺さる。今直ぐに確認しろって事らしい。

 私はゆっくりと手紙を開けて中を読むと、ほんの少しだけ顔が引き攣った。


「私からの招待状よ。当然、参加するわよね?」

「…メアリー様。私の様な平民を迎えては、メアリー様のお茶会が台無しになってしまいます。」

「貴方がそう言って他の誘いをすべて断っているのは知っているわ。けれど、まさかその他大勢と私を、一緒にはしないわよね?」

「…それに、アルベルト様達から、決して参加してはならないと、言われております…。」

「そこは、何とかしてもらえないかしら。」


 勿論、メアリー達の言い分も分かっている。私が今まで断って来たのは、大して交流の無い人達からのお誘いだ。当然、出席する必要は無いだろう。

 だけど、メアリー達は違う。選択授業の時もそうだが、何だかんだお世話になっている。他の生徒達と比べても、私とはそれなりに親交がある様に見えるはずだ。

 それなのに、他の人達と同様に断っては、今まで傍に居た彼女達は何だったのか…と、笑われてしまうのだろう。


 うーん、どうしよう…。だけど、アルベルト達からも参加する時はこちらで時期を決める、とか言ってたしな…。


「一度、アルベルト様達にお話を伺ってから、お返事させて頂いても良いでしょうか?」

「勿論構わないわ。待ってるわね。」

「ありがとうございます。便宜を図ってもらえるよう、お願いしてみます。」


 取り敢えず、この場はそのまま終わらせた。私は彼女達と別れると、部屋に戻って何か対策を考える。参加しないままで、彼女達を遇する方法はないものか…。



 次の日、私は早速二人に相談をしてみた。昨日作ったお菓子の差し入れも持って行ったので、放課後に借りたホールの中でゆったりとお茶を飲みながらの話し合いだ。


「うーん、そうですね…。確かに、メアリー殿達には何かとお世話になってるようですから…。他の方とは違いを出さないといけませんね。」

「…そうですよね…。どうしたらいいのでしょうか?」

「お茶会では私達が傍に居ませんし…。幾らメアリー殿が主催者でも、何があるか分からない限りは、参加しないのが無難なんですよね。」


 アルベルトは、やっぱり参加しない方向で考えている。私としては出席しないで良いのは助かるけど、どうすればメアリー達の尊厳を損ねないのかが、重要だ。


 私とアルベルトが二人で悩んでいると、ジェイクが不思議そうな顔で呟いた。


「あの、参加しないで特別視させるのなら、アイシャ殿のお菓子を送っては如何ですか?」

「えっ?」

「以前、メアリー殿はアイシャ殿のお菓子をとても気に入っていたのですよね?それなら、お茶会に出すお菓子を用意するのはどうでしょうか?アイシャ殿のお菓子はとても美味しいですし、参加した人達が食べれば、きっと気に入ると思いますよ!」

「ああ、良いですね、その案。それならアイシャ殿がメアリー殿を特別にしている事も分かりますし、参加しなくても平気そうです。」

「ですが、その…、本当にお菓子で大丈夫なんでしょうか?」


 ジェイクの案に、アルベルトは笑顔で肯定した。だけど、私はお菓子なんかで本当に平気なのか分からず、少し不安になる。


「大丈夫ですよ、アイシャ殿。以前、言っていたではありませんか。このお菓子は、特別な方にしか渡せない物だって。」

「それはそうですが…。」

「アイシャ殿のお菓子は、本当に美味しいので自信を持って下さい!今日のマフィンも、とても美味しいですよ!」

「作るのが大変かもしれませんが、参加するよりは良いと思います。まずは、メアリー殿に伺ってみてはどうでしょうか?」

「…分かりました。ジェイク様の案でいってみますね。何かあった時は、口添えをお願い致します。」

「はい、任せて下さい。」


 取り敢えず、この話をメアリー達にしてみよう…。


「きっと大丈夫ですよ。アイシャ殿が作るお菓子は、最高の物ですから。私は、アイシャ殿の物が一番好きです。」

「……!!」


 ニコリと優し気に微笑むアルベルトは、私の目を見てそう言った。パーティーが終わって、次に会った時は二人と話すのが少しぎこちなくなってしまったくらい、私は二人を意識し始めている。和服でなくなったとしても、一度それを認識してしまえば中々消え去る事は無い。気が付けば、私は二人の事を考えてしまっていた。


 これ、もしも年上であるルドルガやチャックが和服を着てたら、私ってば完全に惚れちゃうんじゃないだろうか…。


「私もアイシャ殿の作る料理が一番好きです!いつも知らない、食べた事の無いような味でビックリします。」

「…あ、ありがとうございます…。」


 こうして真っ直ぐから好意を向けられると、顔に熱が集まるのを止められない。二人にその気が無いとしても、直ぐに顔が赤くなってしまうのは、どうすればいいのだろうか…。



「メアリー様、少々宜しいでしょうか?」

「ああ、アイシャ。待っていたわ。」


 幾らか親交を深め、それなりに仲良くなってきた時から、私は自分からメアリー達に声を掛けられるようなっていた。勿論、普段は自分から貴族に話し掛けにはいかないけれど、何か用がある時に限って、メアリー達は別だった。


「アルベルト様とジェイク様にお伺いを立てたところ、やはりお茶会に出るのは駄目だという事で…。」

「……そう。」

「それで、代わりに以前お贈りしたようなお菓子を渡すのはどうか、と言われたのですが…。」

「あのクッキーの事…!?」


 断りの言葉を入れると不機嫌に顔を歪ませたが、お菓子の話題を出したら目を見開いて詰め寄って来た。


「は、はい…!アレならお茶会に参加する事無く、メアリー様方が特別視されるのでは、と。お茶会の箔も付くかもしれません、と仰ってました。」

「確かにあのクッキーならお茶会に出せば話題にはなるわね…。」

「またあのクッキーが食べられるなんて…!」

「メアリー様、私、とても楽しみになってしまいます…!」


 おぉ、効果抜群だ。確かに普通に売ってるクッキーよりも自分で作った方が私も好きだけど…。別に、この世界の食べ物って不味い訳じゃないんだよね。美味しいモノもあるし。ただ、好みが違うというか、価値観が合わないというか…。

 兎に角、慣れ親しんだ味の方が私には好ましいというだけで。


「あの、私、お茶会に参加した事が無くて…。お菓子はクッキーだけで良いのでしょうか?どれだけの量が必要になりますか?」

「参加する方はそれなりにいるから、結構な量が必要になるわ。……アイシャ、違うお菓子も用意出来るの?」

「沢山必要になるのなら、クッキーが一番ですね。他にも用意出来ますが、余り数は準備出来ないと思います。正式な人数が分かれば、一人一つずつ、というのなら出来るかもしれません。詳細をお伺いしても宜しいでしょうか?」

「そうね。アルベルト様がご提案されたのですし、今回に限ってはそれでいきましょう。アイシャ、貴方は早く勉強を終わらせて、今度こそ私達のお茶会に参加しなさい。」

「…畏まりました。精進致します。」


 取り敢えず、今度のお茶会に関しては参加しない代わりにお菓子を用意する事になった。クッキーは大量に作ればいいだけだから、時間さえあれば何とかなる。ただし、女子寮のキッチンで作る訳にはいかないので、アルベルト達に相談しなくちゃいけない。

 お菓子を作るだけでお茶会に参加しないで済むのなら安いモノだ。アルベルト達にも分けたいし、まだ渡した事が無いモノにしようかな。



 お茶会について細かい所まで聞いて、何を用意すればいいかが決まった。正式な人数に関しては、決まったら直ぐに教えてくれるらしい。


 私が作るのは大量のクッキーと、暑い夏にお勧めのお菓子だ。こう、パウンドケーキとか、マドレーヌみたいなものを想像してたけど、折角だからこっちのお勧めを食べてみたいらしい。


 うーん、何にしようかな…。アイスは解けちゃうから駄目でしょ。ひんやりとしたムースなら良いかもしれないけど、お茶会に向くのかな?

 サッパリとした味なら寒天とか、杏仁豆腐みたいのも良いよね。


 …あ、アイス最中が急に食べたくなった。



 流石にアイス最中は出せないので、いつか自分で作ってみるとして。サッパリとしたいなら、フルーツジュレを凍らせてシャーベット状にするとか…。溶けてもゼリーとして食べられるし、コレは良いかもしれない。


「よし、これでいこうかな!」


 私は早速アルベルト達に連絡をした。直ぐに返事が来て、料理の為にキッチンが付いたホールを借りてきてくれるそうだ。


「よーし、お茶会に参加しない為に頑張るぞ…!」


 両手でグッと拳を作り、天井に向かって掲げた。やる気は十分だ。何としてでも、お茶会にを回避する為に料理の腕を磨こう。


「お茶会まで多少時間はあるけど、時間はあっと言う間に過ぎていくからね。シッカリと準備しておかないと。」



 そうして、私はお茶会までの間、アルベルト達に相談しながらお菓子の内容を決め、そして数日前までに準備を終わらせたのだった。

 お菓子が用意出来たと三人でメアリー達に報告しに行った時、ジュレについても軽く説明をしておく。凍らせておかなくちゃ意味が無いからね。


 不思議そうな顔をしていたけど、アルベルト達も一緒だったので、すんなりと受け入れてもらえた。


「私達も先日初めて頂きましたが、とても美味しかったです。是非、メアリー殿達も気にいると思いますよ。」



 多分、アルベルトのこの言葉が後押しになったんだと思うけど。

活動報告に書いた通り、少しの間更新ストップします。

帰って来たらまた再開致しますので、それまでお待ち頂けると幸いです。

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