第二十九話 初めての休日
さて、本日は学校に入って初めてのお休みだ。明日はアルベルト達と親交パーティーの為の相談事があるので、お弁当を作る事になっている。
身支度を整えると、私は料理のしやすい恰好に着替えた。本当は部屋で着ている和服が一番良いんだけど、流石にこんな所で目立つのは嫌だ。折角作ったのだから、ゆっくりとのんびり出来るところで着たい。
「あ、思ったよりも人いない。」
キッチンへと入ると、中には二、三人の集団が五つほど。それぞれが少しずつ感覚を開けて料理をしているので、私もゆったりと出来そう。もっと居ると思っていたので、コレは嬉しい誤算だ。
私が入って来た事で、中に居た料理人達は一斉にこちらを見る。此処は女子寮のキッチンなので、料理人達も全員女性だ。彼女達の視線を受けながら、一番隅っこのシンクへと移動する。
私が平民である事を知っている様で、余りいい視線では無いが、気にしない事にした。
「えっと、何があるかな…。」
持ってきた調味料を台の上に乗せ、私は大きな氷室を開けた。このキッチンにある氷室の中の物は、好きに使っていいのである。下ごしらえだったり、料理しても直ぐに食べる訳ではない時もあるので、保存用に鍵付き氷室も沢山ある。空いていれば誰でもそこを使用する事が可能だ。
私は下の方にある使いづらい氷室に魔力を流して、鍵の登録をする。この鍵の登録は三日しか効力が無いので、うっかり忘れると中の物は処分されてしまうのだ。
「あ、鶏肉がある。挽肉も…。」
やっぱり、弁当と言えば唐揚げやハンバーグがあると嬉しいよね!あ、でも、ミートボールも良いなぁ…。それに、卵焼きも外せない。後はいんげんの胡麻和えとか、きんぴらとかも好きだなぁ。お米が無ければサンドイッチみたいなパン系にしようかとも思ったけど、材料の中にお米があったのでおにぎりを用意する。お米は基本的に粉にしてしまうので、白米の形であって良かった。出来ればおかず系を沢山作りたいな。
取り敢えず、唐揚げとハンバーグは私が食べたいので作ろう。後は考えながらでもいいか。
「よし、作るぞー。」
気合を入れて、いざ料理開始!
「まずは鶏肉を一口大に切って…。味がしみ込みやすいようにフォークで穴をあけるっと。」
最初は唐揚げからだ。普通のから揚げと竜田揚げの二種類を作る事にした。実際に揚げるのは明日なので、今日はシッカリと味を漬けこんでおく。自分で作った醤油にお酒、みりん。それから生姜やニンニク、ごま油…。後は玉ねぎにそっくりな味のオーニをすりおろして、っと。
いくつかに分けて漬け込み、コレで終了だ。油や粉を準備して、一緒に氷室の中へと入れる。
「次はハンバーグ…!」
折角なので、豆腐ハンバーグにしよう。再びオーニをすりおろし、みじん切りにしたキュロと一緒に軽くフライパンで炒める。キュロは人参みたいな味の野菜だ。良い感じに焼き色が付いたら火を止めて、冷ます。
豆腐の水気は魔法を使えば一瞬で終わる。…ああ、本当に魔法って便利。
「よい、しょ。うん、しょ。」
挽肉に塩コショウを振ってこねる。ある程度混ざったら豆腐と冷ました野菜も入れて、またこねる。その後はパン粉に卵に片栗粉。少しだけお酒も入れてシッカリ混ぜたら氷室で冷やす。少し置いてから後で焼くのだ。
「卵焼きは、やっぱり甘いのだよね。」
卵に砂糖と牛乳、それから持ってきたダシとみりんを少々入れて、バターでじっくり弱火で焼いていく。綺麗にくるくるっと巻いてしまえば、あっと言う間に卵焼きの完成だ。これを後二回繰り返して、氷室の中へとしまう。
その後も先程考えた胡麻和えやきんぴらを作ってこれも氷室の中へ。サラダはポテトサラダを作った。ポテトは蒸してるが、他の野菜は生なので受け入れてもらえるかがちょっと不安だ。
後はお菓子だよね。話し合いながら軽く摘まめるように、クッキーが良いかもしれない。余っても日持ちするし。
メアリー達にもクッキーを贈ろう。氷室に居れれば大抵のものはかなり日持ちするんだけどね。どうしても、前世の記憶のせいであまり長くは取っておきたくない。
「あ、メルの実がいっぱいある。」
梅干しみたいに干して、おにぎりに入れようと思ってたけど、結構量があるなぁ。そうだ、折角だし梅酒…じゃなかった、メル酒でも作ってみようかな。日本酒はジェイクに合わなかったみたいだけど、これなら飲みやすいかも。
干すのも漬けるのも魔法を使えばあっと言う間だ。
後はそうだな…。切り干し大根…じゃないや、切干コイダとか山菜の煮物も良いけど…流石にそんなには作れないな。またの機会にしよう。
でも、お漬物は絶対に譲れないよね。沢庵やしば漬の他にも、ぬか漬け、酢漬け、みそ漬けと、色んな漬物の中からどれを選ぶか迷ってしまう。
粗方お弁当が作り終わり、ハンバーグが焼き終わればいい時間になっていた。いつの間にかお昼が過ぎていたようで、一段落したらぐぅ、とお腹が鳴ってしまった。
あ、ロールキャベツ食べたい。よし、今日のご飯にロールキャベツ作ろう。
「でも、まずはクッキー焼いてからかな。」
此処で出すのは、このお茶の葉だ。アルベルト達に頼んで、茶葉を入手する事が出来た。おかげで緑茶を作る事に成功し、色んな茶葉を学校に持ってきた。
ただし、ハーブの類はまだ見付けられないので、ハーブティーはまだまだ作れなさそうだ。私は緑茶が出来ただけで十分だけども。
普通の煎茶から玉露、抹茶にほうじ茶、玄米があれば玄米茶も作れる。今回はこの抹茶やほうじ茶用の茶葉を使ってクッキーを作る事にした。勿論、シンプルなクッキーや果物、チョコチップが入ったモノも作る。
色んな種類を作ったので時間は掛かったが、後は焼くだけだ。漸くご飯が食べられる。…ちょいちょいつまみ食いしてたから、そこまでじゃないけどね。
「ロールキャベツ、美味しー。」
クッキーが焼けても暫くは覚ます為に放置するので、私は作ったロールキャベツを持って食堂へとやって来た。キッチンに人が少なかったように、食堂の今日は人が少ない。
チラチラとこちらの様子を見る人達は気付かない振りをしてスルーだ。私は久し振りのロールキャベツを食べるのに忙しい。
「ふぅ、ご馳走様でした。」
うーん、お腹いっぱい。満足した。
私は片付けの為にキッチンへと戻る。食堂で出してもらった場合は片付けは必要無いが、自分達で用意した場合は片付けまでしなければならない。
食器を持ってキッチンへと戻り、先程まで作業していたシンクの流し台へと優しく置いた。クッキーの様子を見れば完成していたので、後は包むだけだ。
明日持って行く分は袋に入れて氷室の中へとしまい、メアリー達の分を人数分だけ用意する。ちゃんとメアリーのだけ少し多めにして、見た目が豪華な袋に入れる。あの中で一番階級が高いのはメアリーなので、きちんと差別化しなければならない。
…本当に、貴族は面倒臭い。
明日の朝早くに起きて、残りのお弁当作りはササっと終わらせる予定だ。クッキー以外は氷室に入れて、鍵を閉める。
後は、メアリー達が来るまで待つだけのだが…。
「うーん、流石にホールやサロンで待ってるのはな…。」
いつ来るかも分からないのに、長時間そこに居たら確実に目を付けられる。伝言なんか頼んだら、平民の癖に、何て言われるのがオチだ。
出来る事なら波風を立てない様にしたい。部屋に戻って窓から彼女達が帰ってくるのを待つのが一番かな。
よし、と心を決めた私は、部屋へと戻っていった。
「…戻ったはいいけど、ずっと窓見てないといけないのも面倒臭い…。」
本を読んでしまうと集中してしまう為、帰って来たのに気付かないかもしれない。それは他の何かをしても同じだ。絡まれないというだけで十分なんだろうけど、流石にちょっと疲れる。
「……来た!」
窓の外を見続けて三十分くらいした頃だろうか。メアリー達の姿が見えた。私はクッキーを持って一階に下り、メアリー達が来るのを待った。
平民である私から話し掛けていいのかちょっと迷ったけど、渡さなければ作った意味が無い。向こうがスルーしようとしたら声を掛ければいいか。
「…あら、アイシャ。そんな所で何か用かしら。」
「メアリー様、お帰りなさいませ。実は、お渡ししたい物があるのです。」
「……貴方が、私に?」
どうやら、メアリーにスルーされる事は無く、彼女から話し掛けてもらう事が出来た。だけど、いきなり贈り物なん、て向こうからしたらかなり不躾であろう。
「はい。先日、アルベルト様とジェイク様のおかげで、選択授業の際はご一緒させて頂く事が叶いました。この様に光栄な事は普通有り得ませんので、何かお礼を、と。」
「ふーん…。まあ、仕方なく、ですけど。」
「此方は、アルベルト様とジェイク様が、大変気に入っておられるお菓子でございます。」
「……。」
二人の名前を出せば、彼女は余り突っ掛かってこない。それどころか、気に入っていると言われるお菓子を差し出され、少しだけピクリと肩が跳ねた。
「このお菓子はアルベルト様やジェイク様のように特別な方にのみ贈られるモノなのです。どこにも売っていない物ですが、今回の件でお二人にお伺いを立てたところ、メアリー様方なら良いですよ、と言うお言葉を頂きました。」
「あら、まあ…!」
「私達にも、ですか?」
…嘘だけど。明日一応報告はしておこうかな、って思ってるくらいで、別に自分で作るなら好きなだけ作られる。
けど、平民から貴族に何か渡すのならば、何かしら理由があった方が良いのだ。現に、明らかに嬉しそうな顔をするメアリーを見て、自分の考えが間違っていないと思った。それに、自分達の分もある事に、周りの女の子達も驚いていた。
「こちらはメアリー様に。そちらが、アンナ様とライラ様の分でございます。」
「コレがアルベルト様達が気に入ってるというお菓子ですの?」
「はい。中身はクッキーですが、様々な味がございます。その中でもアルベルト様は茶葉の、ジェイク様はチョコが入ったモノを大層気に入っておられます。」
「へえ、そうなの…。」
彼女達の視線が、クッキーに釘付けだ。頬を緩ませ、自然な笑顔が出てきている。
「…そうね。アイシャなら、私が面倒見てあげても良いわ。ちゃんと身分も弁えてるし。」
「メアリー様がそう言うのなら、私も。」
「私もですわ。」
「ありがとうございます。皆様のお心遣いに、大変感謝致します。」
頭を下げてお礼を言う。メアリー達は機嫌良くその場を去り、部屋へと戻っていった。私も用が済んだので、自室へと戻る。
明日は早くに起きてお弁当を完成させたら、二人が迎えに来るのを待つだけだ。今日はサッサっと眠ってしまおう。
ベッドへと入り、目を閉じる。ああ、やっぱりフカフカで寝心地が良いなぁ…。
次の日の朝、お弁当を完成させ、サロンで待っていたらメアリー達に出会った。
「ちょっと、アイシャ!あのクッキー、どうやって手に入れるのっ?」
「え、えっと…?」
「あんな美味しいモノ、初めて食べたわよ!」
三人はすごい剣幕で私へと駆け寄ってきた。余り大きな声で騒がれると困るので、私は彼女達に小さく耳打ちをした。
「アレはアルベルト様達の許可が無いと手に入れる事が難しいのです…。」
「…そう…。」
「その、またお伺いを立ててみますね…。」
「……!!ええ、そうしてちょうだい!」
嬉しそうに声を弾ませて、彼女達は私から離れていった。




