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温泉物語  作者: 蒼乃みあ
24/73

第二十四話 貴族学園

 本来、ユレイドの町から中央都に行くには、どれだけ急いだ馬車でも四日は掛かる。隣町に行くのですら半日以上は掛かるのだ。

 だから、私は今回中央都に行くのも、それくらい掛かるモノだと思っていた。


「凄い…。」

「アイシャ殿は、初めてなのですか?」

「はい。こんな素晴らしいモノがあるのですね。」


 私の目の前の床には、とても大きな魔法陣が描かれていた。コレは所謂(いわゆる)転移陣というモノである。この魔法陣に魔力を流すと、それに反応して作動する仕組みらしい。

 当然、流す魔力もかなり必要になるので、貴族の様な魔力の多い人達にしか使えない。そりゃ、平民は知らない訳だ…。


「転移する時、少しだけ体が浮くような感覚になりますが、安心して下さいね。」

「一気に学園内に着きますから、大丈夫ですよ。」

「そ、そうなんですね…。ちょっとドキドキします。」


 流石に全員で飛ぶ事は出来ないので先に護衛と私達、その後に荷物が送られるそうだ。ああ、凄いワクワクする…!


「それでは、起動致します。」


 外に居る管理人さんみたいな人が、声を掛けてくれた。少しの間を置いた次の瞬間、私はふわっとした感覚を感じた。おお、飛行機というかエレベータというか…、そういうのに乗った時みたいな感じだ。


「アイシャ殿、着きましたよ。」

「えっ、もうですか?」

「はい。さあ、どうぞ。」


 ジェイクの言葉に、私はキョトンとした顔をした。先に出たアルベルトの手を取って、馬車の外に出る。少し眩しかったのか、パチパチと瞬きをする。目が慣れ、ハッキリと外を見回せば、今まで見た事も無いような場所。


「広い…。」


 自分で想像していた何倍もの広さのある建物が見えた。私立校を大きくした感じかな、何て考えていたが、全く違った。それこそ、物語の中に出てくるようなファンタジー感が半端ない。


「アイシャ殿、学園の正門へと参りましょう。そこでクラス分けが貼り出されている筈です。」

「入学式を終えた瞬間に、私達は対等となります。それまでは気を付けて下さいね。まあ、何かあったら私の名前を出せば大抵は何とかなりますから。」

「私も、何かあったら直ぐに参りますから!」

「お二人の手を煩わせない様に、気を付けます…。」


 入学式は明日なので、その前に寮で一日過ごす事になる。これから二年間過ごす場所だ、キチンと整えなくちゃいけない。


「本当に侍女は良かったのですか?」

「ええ…。私の様な平民に仕えるのではその方も可哀そうですし…。自分の事は自分で出来ますから。」

「そんな事は有り得ませんが…、もしも必要になった時は言って下さいね。」


 ジェイクの言葉に、私は答えた。そもそも、私の荷物はかなり少ない。自分の部屋は好きにいじれるので、普通の貴族ならばそれこそありとあらゆる物を持って来ているが、私は備え付けの物で十分だった。

 持ってきた物と言えば、自分で作った物ばかり。調味料等の食品、装飾品や衣類。そして、温泉。


 何を言ってるか分からないでしょう。私も最初は訳が分からなかった。


 学園内には様々な施設があるとはいえ、温泉どころかシャワーなんてモノは存在しなかった。当然、私だって分かった事だと、諦めていた。

 そんな時、アルベルトとジェイクが、とあるモノを持って来てくれたのだ。それはペットボトルくらいの小さな樽だった。何と、魔法道具らしい。説明を聞いて、私はとても驚いた。


 この小さな樽は《ファソル》というモノで、中に魔法陣が描かれている。その性能とは、液体を保存させておく事。

 つまり、温泉を中に入れて持ち運べるのだ。当然、かなりの量が収納できる。これは遠征等に向かう時、魔力を節約できる様にと発明された物らしい。飲料水だけでなく、沸騰したお湯など液体なら何でもそのまま保存できるという優れモノだ。


 ジェイクの家で使っているモノを、一つ貸してもらったのだ。入れる回数には制限があるが、それでも全く入れないよりはずっと良い。私はそれはもう大喜びで、二人にお礼を言った。

 うっかり二人の手を取って振り回してしまうくらいには、嬉しかった。…ハッとした時、ものすごい勢いで土下座しました。何て恐れ多い事をしたんでしょうね、私。


「二人共、着きましたよ。」

「正門だけでもすごい大きさですね。」

「人だかりもありますし、あそこですね。」


 多少とは言え、クラス票の前には人が居る。アレが全員貴族と考えると、正直恐怖でしかない。


「前等生の…あ、ありました。Aクラスですね。」

「私やジェイク殿も一緒のようです。三人一緒で、良かったですね。」

「はい!アルベルト様、アイシャ殿、宜しくお願いしますね!」

「こちらこそ、宜しくお願い致します。」


 どうやら、皆同じクラスらしい。正直、ホッとした。もし私一人だけのクラスだと、何があってもおかしくは無いのだ。少なくとも、教室に居れば安全そうだ。


「それでは、寮の手続きをしに行きましょうか。」

「はい、アルベルト様。」


 アルベルトの言葉に、私達は受付のような場所へと向かった。男女で別になっている為、一旦彼等とはここで別れる。


「前等生Aクラスのアイシャです。お願い致します。」

「…アイシャさん、ですか?」

「はい。」


 受付の人が、少し驚いた顔をしている。何でだろうと思ったが、隣から聞こえてきた声で直ぐに分かった。

 皆、家名を言っているからだ。此処に通うのは基本的に貴族だ。故に、名前を言う時はキチンと家名までハッキリと言うのが普通である。私に家名なんてモノは無いので、恐らくそれで驚いていたんだろう。


「貴方の部屋は二階の二十五番です。此方に魔力の登録を。」

「はい、分かりました。」


 受付の人が出してきた鍵に、魔力を流す。こうすれば、その魔力を持った人以外は開けられないそうだ。そのまま鍵と一緒に、寮の説明案内書を受け取る。

 アルベルト達はまだの様なので、隅の方に座って案内書を見た。


 寮は凹の字のような形になっている。一階に連絡通路があり、そこから二つの建物に別れている。学年によって分けられているらしい。

 因みに、一階は連絡通路も含めて全て自由に使える施設だそうだ。学生の部屋は二階から五階までとなっており、階層が下な程、階級も下になるらしい。私は平民なので、二階の一番端の方の部屋だった。

 上階まで上がるのも面倒なので、正直こっちの方が助かる。


 後は食堂にキッチン、娯楽室やサロン等、本当に色々あるみたいだ。寮に着いたら見て回ろうっと。


「ちょっと、貴方。」

「はい?」


 ふと、急に声を掛けられた。私は案内書をから目を外して、前を見る。何人かの女の子達が、私の方を見ていた。


「貴方、先程聞いていたわよ。平民でしょう?」

「は、はい。そうでございます…。」

「まあ、やっぱり!嫌ですわ、身分を弁えない子がいるなんて…。」

「本当ですわ、汚らわしい…。」


 どうやら、早速絡まれたみたいだ。私が隣の声を聞いたように、隣も私の声を聞いていたらしい。


「えっと、その…。」

「一体、どこの恥知らずな家なのかしら。平民なんかを学園に入れるなんて…。」

「噂では、もう一人平民が入るそうですよ、メアリー様。」

「嫌な年に入学してしまいましたわ、本当に。」


 私が反論出来ないのをいい事に、彼女達はグチグチと嫌味を続ける。どうしようかと思っていたところで、彼女達の後ろから声が掛かった。


「失礼。どうか、なさいましたか?」

「あら、どちらの方かしら?」

「私はユレイドの町の貴族で、アルベルト・フィン・グレンダルと申します。」

「まあ、グレンダル公爵家の方ですの!」


 アルベルトが名乗ると、彼女達は先程とは全く違う表情で微笑んだ。


「アルベルト様、お待たせしました。そちらの方々は?」


 少し遅れて、ジェイクも此方へとやって来る。


「ジェイク殿。いえ、何やら話している様だったので、どうかしたのかと思いまして。」

「そうだったのですか。私はジェイク・フィン・ドリアと申します。アルベルト様と同じく、ユレイドの町に住む貴族です。」

「ドリア家と言えば、あのチャック様のいらっしゃる伯爵家ですか?」

「はい。私の兄上です。」

「あらあらあら、それはそれは…!」


 物凄い笑顔を、アルベルト達に向ける。さっきまで私を見ていた表情は、どこ行ったんですかね。別に気にはしないけど、こうも態度が変わるものだと、少し感心してしまった。


「わたくし、マルレットの町に住む貴族で、メアリー・フィン・フォースと申します。フォース伯爵家の娘でございます。本日は、お二方にお目通り出来て、大変光栄でございますわ。」


 聞いた事無い町の名前だが、伯爵家という事はジェイクと同じ階級のようだ。


「初めまして、メアリー殿。お会い出来て嬉しいです。それで、先程の話ですが…。」

「アイシャ殿は、もうお友達が出来たのですか?」


 アルベルトが話を戻そうとしたところで、ジェイクの言葉が被ってしまった。


「あ、申し訳ありません、アルベルト様!」

「いえ、大丈夫ですよ。」


 慌ててジェイクが謝ると、アルベルトは気にしないで下さい、と言葉を続けた。しかし、ジェイクが発した言葉に、彼女達は驚いてしまったようだ。


「あ、あの、失礼ですが、この者とお二人のご関係は…?」

「彼女は僕達の友人です。学園に推薦したのは、私なんですよ。どうか、優しくしてあげて下さいね。」

「……!!」


 その言葉を聞いた彼女達の顔から、サッと血の気が引いた。信じられないと言う様な目で、私とアルベルト達を交互に見る。


「アイシャ殿は凄いですね。こんな直ぐにお友達が出来るなんて。」

「いえ、ジェイク様。その…。」


 真っ直ぐな目でそう言われると、何て言ったらいいか困る。彼女達からすれば、さっきの言葉は爆弾発言だろう。だって、自分達よりも階級が上の紹介でやって来た平民に、恥知らずな家、と言ってしまったのだから。

 多分、アルベルトは私が絡まれているのを見て、助けに来てくれたんだと思う。何かあれば口を出そうと思っていたに違いない。しかし、ジェイクの言葉でその必要は無くなったのだ。彼は本当に純粋すぎる。この学校で、上手くやっていけるのだろうか…。


「え、ええ。私達、彼女とお話がしたくて…、その…。ねえ?」

「はい…!平民の方が入るなんて滅多に無い事ですから、どの様な優秀な方かと、えっと…。」


 頑張って色々考えているが、かなり焦っているようだ。出てくる言葉が途中で途切れ、しどろもどろになっている。


「そうなんですか。それなら安心ですね。学生は平等ですが、それを守らない方も多いと聞くので…。彼女に何かあったら大変だと思っていたのですよ。」

「お、おほほほ!そのような心配、なさらないで下さいませ!わ、私達が彼女の事、お守り致しますわ。」

「ええ、とても心強いです。宜しくお願いします。」


 アルベルトがニコリと微笑むと、彼女達は挨拶をしてそそくさと離れていった。


「ありがとうございます、アルベルト様、ジェイク様。」

「いいえ、お気になさらず。」

「…何の事でしょうか?」


 この貴族ばかりの中、ジェイクは本当に癒しだ…。最初に比べてアルベルトの表情も分かりやすくなったかな、とは思う。それでも、普段は確信は持てない位には、感情を隠すのが上手だ。ジェイクの様に分かりやすい反応は、滅多に見れないのだ。


「さあ、寮の方へと行きましょう。部屋を整えないといけませんからね。」

「あ、はい、そうですね。」

「途中までですが、一緒に行きましょう、アイシャ殿!」

「ありがとうございます。」


 私は二人の間に挟まれて、寮の方へと向かった。また絡まれるの危惧してか、わざわざ女子寮の方まで送ってくれた。


「それでは、アイシャ殿。明日の朝、こちらに迎えに来ますね。」

「はい。わざわざありがとうございます。」

「また明日、お会いしましょうね!」

「アルベルト様もジェイク様も、今日は本当にありがとうございました。また明日。」


 ペコリと挨拶をして、二人の姿が見えなくなるまで見送った。二人が言ったのを確認すると、私は寮の中へと入る。


 中に入った瞬間、物凄い好奇の目に晒された。ヒソヒソと話し声が聞こえるが、絡まれないだけありがたい。私は真っすぐ部屋へと向かい、鍵を開けて中に入る。

 部屋の中は綺麗に整えられていた。ベッドやソファ、クローゼットに洗面所や棚など生活に必要なモノが殆ど揃っている。貴族の学校なので部屋の広さもかなりある、隣には小さな小部屋もあったので、何かに仕えそうだ。


 私は持ってきた荷物を広げて、部屋を整えた。物が少ない私は、一時間もすればやる事を終えてしまう。


「流石に今日はもう部屋から出ない方が良いかもしれないなぁ…。」


 独り言が零れてしまった。アルベルトが言った通り、階級云々が無くなるのは、明日の入学式を終えてからだ。今絡まれてしまうと、私にはどうする事も出来ない。

 流石に女子寮にアルベルト達を呼ぶ訳にはいかないのだから。


 持ってきた荷物の中から軽食を取り出して、今日の夕飯として食べた。元々数日掛かるだろうと思って色々と用意していたので、量だけは沢山ある。

 食べ終えた私は体を魔法で綺麗にして、ベッドへと潜りこむ。家にあるよりも、ずっとフカフカだ。流石貴族用…。


 私は、余りの気持ち良さにウトウトしていたら、いつの間にか眠ってしまっていた。

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