第二十一話 おでかけ
あっと言う間に日々は過ぎ、ラティスと会う約束の日になった。私は楽しみにしてたせいで中々寝付けず、若干寝不足な為に小さく欠伸が零れる。
「ん、ふわぁ…。」
アレから何度か手紙のやり取りをして今日の予定を決めた。まずは町の方で待ち合わせをして久し振りの再会だ。そのまま少し遊んでから、私の家で色々と話をするらしい。
ああ、物凄く楽しみだ…!
「料理の準備も終わったし、そろそろ着替えていくかな。」
ラティスは果物が入ったお菓子をよく好んでいたので、沢山用意してしまった。クッキーやマフィンなら日持ちもするし、食べ切れなくても持って帰ればいいだけだ。喜んでくれると良いなぁ。
「うわ、風冷たい。大分涼しくなってきたな。」
秋も半ばを過ぎた頃だ。これからどんどん寒くなっていくだろう。私は着替え終わると、去年作ったマフラーだけ首に巻いて外に出た。
太陽が出てる内はまだ暖かいが夕方を過ぎると一気に冷え込んでくる。おまけに風が吹けばかなり寒くなる。私は冷え込んでも大丈夫な様に少し長めな袖と裾の、ぬくぬくとした着心地のグレーのワンピースを着た。下にショートブーツを履けば、防寒はバッチリだ。今日は遅くまで外に居る予定ではないけど、一応カーディガンも持って行こう。
毛糸のニットワンピとかも良いよね。流石に自分で作った事はないけど、魔法使えば何とかなるのかな。
町への道をテクテクと歩いていく。歩けば直ぐに着いたので、待ち合わせ場所の町の広場へと向かう。
少し早く着いてしまった。どうやらラティスはまだ来ていないようで、私は近くのベンチに座ってやって来るのを待っていた。
「人、一杯だなぁ…。」
広場には沢山の人が居た。皆チラリと私を、と言うかマフラーを見て通り過ぎていく。周りのお店からはとても良い匂いがする。ラティスが来たらちょっと買い食いでもしようかな…。
「ね…、あ、アイシャさん!」
「ラティス。」
遠くから声を掛けられた。大きく手を振って小走りでラティスがやって来る。私があげたマフラーとニット帽も被っている。
「アレ、ギードさん?」
「アイシャ、久し振り。」
「お久し振りです。」
何故かラティスの後ろに、ギードが居た。今日はラティスとだけだった筈だが、何故ギードが?
「ただの見送りだから、私は直ぐに消えるよ。」
「ああ、お見送りだったんですね。」
「兄様は心配性なのです。」
むぅ、と頬を膨らませたラティスが、ギードに向かって拗ねたように言った。
「父上に言われたからね。珍しい物を付けたラティスは、悪い輩に狙われるかもしれないからって。」
「別にそんな心配しなくても…。」
「良いじゃない、ラティス。ギードさんは心配してくれてるだけなんだから。それより、お腹減ってない?」
「お腹ですか?ソコまででは無いですけど…、そう言えば走って来たので喉が渇きました。」
「そっか。じゃぁ、ちょっとお店でも入ってゆっくりしない?私、お腹空いちゃった。」
「はい!」
嬉しそうに微笑んだ笑顔を私に向ける。ラティス、久し振りに会ったけど、やっぱり可愛いな…。
「それじゃ、アイシャ。私は家に戻るのでラティスの事、頼んだよ。」
「はい、ギードさん。遅くならない様に早めに帰すようにしますから。」
「兄様、行って参ります!」
ギードは本当に直ぐ帰っていった。私はラティスと二人で、近くに合ったお店に入る。
「いらっしゃいませー!」
若い女の子の店員が、元気よく挨拶をする。私達は案内された席に座り、軽食と飲み物を注文した。少し話していれば、直ぐにやって来た。
「頂きます。」
「はぁ…、美味しいです。生き返りますね。」
「ふふ、ラティスったら。」
ジュースを飲んで嬉しそうにぷはー、と息を吐いた。私は出されたサンドイッチをモグモグと食べる。うん、美味しい。
「あっちの串焼きも美味しそうだなぁ。でも、向こうのクレープとか甘い物も良いな。」
「アイシャさんが言うと、私までお腹空いちゃいます。でも、私、アイシャさんと色んなお店行きたいです!雑貨屋さんとか、洋服屋さんとか!」
「そうだね、色々行こうか。」
そう言えば、ラティスと会うのはいつも私の小屋だったから、どこかに出掛けた事ってなかったんだよなぁ。
「アイシャさん、私、あのエッグタルトが食べたいです!」
「よし、それじゃあ行こうか。」
「はい!」
サンドイッチお食べ終わった私は、お店を出てラティスと食べ歩きを始めた。美味しそうにエッグタルトを食べる横で、私はビラフの肉を使った串焼きを食べる。ああ、良いなぁ、こういうの。
「アイシャさん、今度はあっちの雑貨屋に行きましょう!」
「もう、待ってよ、ラティス。」
ラティスは雑貨屋に向かって走り出す。本当に楽しそうだ。
「アイシャさん、コレはどうですか?」
「うん、可愛い。ラティスによく似合ってるよ。」
「えへへ、嬉しいです!アイシャさんには、コレなんか似合いますよ。」
ラティスは付けていたマフラーとニット帽を外すと、店の中にあったバレッタを髪に合わせてみせた。ラティスの綺麗な金色の髪に、赤い花の飾りが付いたソレはとても似合っている。
私が褒めると、ラティスは青い花の飾りが付いたバレッタを私の茶色い髪に宛がった。とても綺麗な細工がされたソレは、私には少し派手ではないだろうか。
「何だか、お揃いみたいですね…!」
「……!」
少し恥ずかしそうにはにかむラティスを見て、凄いキュンとした。可愛い、本当に可愛い。
「それなら、一緒に買おうか。」
「い、良いんですか!」
「別に、友達同士お揃いの物を付けるのって普通でしょ?折角ラティスが選んでくれたんだし。」
「は、はい!嬉しいです!」
ラティスはバレッタを持って会計に向かった。私も後ろから着いて行き、会計を済ませて包んでもらう。余りこういう装飾品の類は付けたりしないのだが、ラティスが選んでくれたし、たまには付けてみるのも良いかな。
「アイシャさん、次はあちらです!」
「もう…、少し落ち着きなよ。転んじゃうよ?」
「あ、すみません…!」
私が声を掛けるとラティスはピタリと動きを止めた。私が傍に来ると、今度はゆっくりと歩き出す。二人で歩きだすと急にトン、と衝撃が来た。
「わっ…。」
「アイシャさん!」
「姉ちゃん、痛えじゃねえか。」
「おうおうおう、どうしてくれるんだ。」
「あ、えっと、すみません…。」
「ああん?それだけか?」
物凄く分かりやすいチンピラだ。そもそもぶつかって来たのは向こうである。
「随分珍しいモノ付けてるじゃねえか。詫び代わりにそれ寄越せよ。」
「連れの嬢ちゃんもだ。痛い目、遭いたくないだろ?」
「あ、アイシャさん…!」
ラティスは私の後ろに隠れる。体が少し震えていて、怖がっているのが分かる。
「そっちがぶつかって来たのでしょう。私は一応謝罪しましたから、コレで失礼しますよ。」
「はあ?逃がすとでも思ってんの?」
ジロリとした目つきで私達を睨む。男は二人組で、かなり人相が悪い。周りの人達も何だ何だと、こちらを遠巻きに見ている。…目立ってて嫌だな…。
「おい、いいからサッサと渡しな!」
「嫌です。余りしつこい様なら守備兵をお呼びしますよ。」
「ああ?舐めた真似言ってんじゃねえぞ!」
男が思い切り拳を上げ、私達に目掛けて振り下ろした。私はラティスを守る様に抱えると、ぎゅっと目を瞑った。
「何をしてるんですか?」
「……!!」
「何だ、テメエ!」
「ヴォルフ、さん。」
声を掛けたのは、ヴォルフだった。男達は気に障ったのか、ヴォルフに向かって拳を繰り出す。しかし、彼はサラリと躱すとすかさず蹴りを入れた。
「うぐっ…。」
綺麗に蹴りが決まると、男は呻き声を上げて膝をつく。もう一人の男が驚いてヴォルフの方を見る。
「まだやりますか?」
「…チッ!おい、行くぞ…!」
「う、馬鹿、もっとゆっくり起こせ…!」
膝をついていた男を担ぎ上げると、急いでその場を去って行った。
「ヴォルフさん、ありがとうございます。」
「いえ、無事で良かったです。」
私はヴォルフに近寄り、お礼を言った。
「あの、アイシャさん、この方は…?」
「ラティス。怖がらせてごめんね、大丈夫だった?」
「はい…。」
「初めまして。ヴォルフと言います。アイシャとは、ちょっとした縁でね。」
「ヴォルフさん、ですか。」
ニコリと微笑んで挨拶を交わす。ほんの少しだけ、ラティスの頬が赤く染まったような気がした。
「今日はお一人ですか?」
「ええ。お忍びで、ね。」
ニコリと悪戯っぽく笑う。どうやら、兄弟揃ってよく抜け出しているようだ。
「この間貰ったヨウカン、とても美味しかったよ。」
「気に入って貰えて良かったです。」
「それに…、今日はまた面白いものを身に着けてるね。」
「毛糸で編んだんです。とても暖かいのですよ。」
「へぇ…。」
ヴォルフは私に近付いて、マフラーを手に取る。触り心地に驚いたようで、何度もフニフニとマフラーを触り続ける。
「ヴォ、ヴォルフさん…。」
「おっと、ごめんね。思わず。」
流石に近過ぎてちょっと照れる。私がそう言えばヴォルフは直ぐに離れてくれた。
「アイシャさんが、教えてくれたんです。おかげで、今年の冬前に我が家で販売する事になりました。」
「フム…。」
ジッと、ヴォルフは私達を見た。とても興味深そうな目であったが、何だか恥ずかしいだけで、嫌な感じはしない。
「…ああ、邪魔してすみませんね。アイシャ、また是非、お話しましょうね。」
「はい、機会があれば。どうもありがとうございました。」
「あ、ありがとうございました、ヴォルフさん!」
「いいえ。それでは、機会があれば、ね。」
ヴォルフはそう言うと、その場を去って行った。
「ラティス、大丈夫?」
「あ、はい!その、ヴォルフさんって、どういう方なんですか?」
「えっと、多分どこかの富豪の家の子だと思うよ。弟が居てね、ちょっと大人しそうな感じなの。」
「そうなんですか…。」
ヴォルフが去って行った方をジッと見る。あらあらあら、コレは…。
「あ、ごめんなさい、アイシャさん。私ったら…。」
「いや、別にいいよ。それより、どうする?」
先程の騒ぎのせいか、周りの人間の視線が痛い。
「そうですね…。そろそろアイシャさんのお家に行っても良いですか?」
「うん、いいよ。行こうか。」
私とラティスは町を出て家の方へと向かった。最初は町の外という事でビクビクとしてたけど、私の家が見えてくるとラティスのテンションが上がった。
「わあ、凄い!アイシャさんの家、素敵です!」
「ありがとう、ラティス。」
「一人なのに、随分広いんですね。」
「色々とやらなくちゃいけない事もあるので。」
ラティスはキョロキョロと見まわしながら、私の家を見る。ふと、外にある温泉が目に入ったようで、私に聞いてきた。
「アレが、アイシャさんの言ってた、オンセンですか?」
「そうだよ。この為に、私は此処に住む事にしたんだ!」
温泉をマジマジと見るラティスに、私は一つの提案をしてみた。
「ねえ、ラティス。良かったら、一緒に入ってみない?」
「えっ?」
「私、ラティスにも温泉の良さを知ってもらいたいな。話なら温泉の中でも出来るでしょ?」
「い、良いのですか?私、ずっと温泉というモノが気になっていたのです!アイシャさんは、いつも嬉しそうにお話して下さるから…。」
私の話に、ラティスは喜んでくれた。早速温泉の説明をすると、飲み物を持って脱衣所へと案内する。服を脱ぐのに少し躊躇していたが、私が全部脱げばラティスも意を決した様に脱いでくれた。湯あみ着を渡して、着方を教えると、少し安心した表情になった。
やっぱ、全裸は駄目か…。
私はラティスの髪が温泉に付かない様に、上に纏める。私が温泉に入ると、ラティスも恐る恐る足を入れた。
「暖かい…。」
「はぁ…。温泉最高…。」
思わず息が漏れてしまう。まだ明るい内から温泉なんて、幸せすぎる。
「ふぅ…、気持ち良い…。」
「でしょ!温泉って最高に気持ち良いんだよ!このホッとする感じが堪らなくてね、もう本当に癒されるの!」
「はい!体がポカポカして…、とても落ち着きます。」
流石ラティスだ、分かってくれる。チャプチャプと手足を動かしてお湯が跳ねるのを楽しんでいるようだ。無邪気でとても可愛い。
「ほら、ちゃんと水分補給もしてね。」
「あ、はい。」
キチンと水分補給はしないとね。ゴクゴクと飲み、温泉をゆったりと楽しむ。そのままラティスは、私に相談事をは話し始める。
「えっと、それで、今日の本題なのですが。」
「うん。」
「アレからアイシャさんに教えてもらった通りにお店の皆で編んでいたんですけど、まだマフラーしか作れなくて…。それに出来たのが二百個くらいで…。」
「うん。」
ハーベリー夫妻の店はそこまで大きな店ではない、中規模程度である。ラティスが店の従業員に教えながら編んでいたのなら、そこまで量は作れないだろう。
「それで、このマフラーなのですが…。どれくらいの値段で売ればいいのでしょうか?」
「値段?」
「父様と母様は、ウチにしかない物だからぼったくっても大丈夫と言うのですが…。」
「あー、まあ、最初の間はいいかも知れないけど…。幾らくらい?」
「中銀貨一枚…。」
毛糸が材料なので元値がかなり安い。マフラーを一本編むのに中銅貨三枚分の毛糸があれば十分なのだ。幾らなんでも、かなりのぼったくりだ。
「いやぁ、流石に高過ぎじゃないかな…。」
「ですよね…。」
「手間賃や希少性を考えても、大銅貨数枚か…高くても小銀貨一枚で十分だと思うけど。」
ちょっと利益を追求し過ぎじゃないか…。あの夫妻が何しようと私には関係ないけど、ラティスに何かあるのは嫌だ。
中銀貨一枚って普通に半月くらいは過ごせる額でしょ。それだけのお金をマフラー一つに出せる物なのかな?…いや、富裕層向けならあり…?
うーん、旅館経営なら分かるけど、普通の商売は分からないなぁ…。
「一生懸命作ったのに、売れなかったらどうしようと思って…。」
「まあ、売れない、って事は無いと思うけど…。」
人間、珍しいモノにはどうしたって目が惹かれるものだ。そして、誰も持っていないとそれを手に入れて自慢したくなるのも。
「ラティスやお店の皆が頑張ったんだから。絶対に売れるよ。」
「アイシャさん…。」
「だから、大丈夫だって。」
「…そうですね。頑張って編んだんだし、大丈夫だって信じます!」
「そうそう。」
ラティスはホッとした様に微笑んだ。頑張って編んだのに、売れなかったら寂しいもんね。私も旅館作ってもお客さんが来なかったら悲しいし…。
「ふぅ…。ちょっと、頭がぼーっとしてきちゃいました…。」
「あ、逆上せちゃったかな。もう上がろうか。」
「はい…。」
少しふらついてる。初めての温泉だったし、ちょっと長風呂し過ぎたかな。私はいくらは言っても平気だけど、ラティスは慣れてないもんね。
私はラティスを支えながら温泉を出て、脱衣所に向かう。着替え終わったら家の中に入り、ラティスをソファへと寝そべらせた。
「アイシャさん、ごめんなさい…。」
「いや、いいよ。私も気が付かなくてごめんね。」
「気持ち良かったので、つい長居してしまいました…。あ、あの、また来ても良いですか…?」
「うん、勿論だよ。冬の寒い日は特に体が温まるんだ。いつでも連絡して。と言っても、もう直ぐいなくなっちゃうけど。」
「はい…!嬉しいです、アイシャさん!アイシャさんがいる時には是非!」
大喜びのラティスを落ち着かせて、私は用意してたお菓子とジュースを持ってきた。
「食べれそうなら食べて。余ったら持ち帰ってもいいから。」
「アイシャさんのお菓子!久し振りです!」
「ふふ、帰る時間までちょっとゆっくりしようか。」
「はい!」
私達は分かれの時間までお茶会を楽しんだ。そう言えば、私、ラティス以外の女の子の友人って居ないかも…。別にいなくても構わないけど、どうせなら今日みたいに色んな事して遊んでみたい。学校行ったら、出来るかな…。
あっと言う間に楽しい時間は過ぎていく。余ったお菓子はラティスに持たせて上げると、嬉しそうに微笑んだ。ギードと一緒に食べるんだそうだ。
「アイシャさん、今日はありがとうございました!」
「どういたしまして。また、いつでもおいで。」
「はい!また連絡します!」
ラティスを町の門近くまで送って別れると、私も家に帰っていく。今日はとても楽しかった。久し振りに女の子と遊んだ気がする。アイシャの記憶を思い出しても、姉さん以外と遊んだ記憶が殆どない。
学校で友達が欲しいとは言わないけど、せめて平穏で過ごせると良いなぁ。
あ、ラティスに学校について聞くの忘れてた…!




