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温泉物語  作者: 蒼乃みあ
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第十七話 温泉探し

 アレから数日が経ち、私は仕事に復帰していた。お店に行ったら棟梁やルドルガ達が心配してくれてて、申し訳なく感じてしまう。ルドルガはかなり心配くれてたみたいで、ギュッと抱きしめられる。


 ちょっとだけ、アイシャの兄の事を思い出した。


 アイシャとは十歳も離れていた為、彼は私の事をとても可愛がってくれていた。私が怪我をしたりすると、とても心配してくれて直ぐに手当てをしてくれる。泣いていると必ず抱き締めて、よしよしと頭を撫でてくれて。家族皆可愛がってくれていたが、兄は誰よりも私を甘やかしていた。


 前世の私はこんな風に甘やかされた事は無い。勿論大事にはされていたが、アイシャの家族とは全く違っている。


「全く、貴族の方が話しに来た時は本当に驚いたぞ…。」

「棟梁さん、すみませんでした…。」

「お前に何かなくて良かった。」


 棟梁や他の従業員達も驚いていたが、無事な姿を確認するとホッとした表情で迎え入れてくれた。こんなに迷惑を掛けたのに、こうして受け入れてもらえて私はとても嬉しかった。


「よし、今日の仕事も終わった。」


 復帰してから数日の間は、溜まっていた仕事に追われていた。幾らルドルガが代わってくれていたとしても、彼には本来の仕事もある。私は休んでいた分の仕事を片付けていた。


 そんな本日、休みであるルドルガがお店にやって来た。


「アイシャ、お疲れさん。」

「お疲れ様です、ルドルガさん。」


 スッカリ普段通りに戻った私の日常は、毎日が仕事の日々だ。休んでいた分働かないといけない。貯金だって心許ないのだ。


 このフィルダン大工店の給料はそれなりに高い。少なくともこの歳の女性で稼げる平均額の二倍以上はあるだろう。

 一般家庭なら、一人当たり一カ月で中銀貨二枚くらいあれば暮らしていける。私は出来る限り節約しての生活だったのでそれよりも少なくはなっているが、それでも貧民層の人達よりは良い生活だ。


 子供の頃からほぼ毎日働いていた私は少しずつ貯めていき、家族の遺産も使い果たして装置を買った。もしも援助が無ければ、コレをもう一つ買うのに何十年掛かるか分からない。それだけ、父さんの残してくれたお金は多かった。子供…じゃない、成人したばかりの私では、幾ら普通の人より給料が良いと言っても、まだまだ稼げる金額は少ないのだ。


「そういや、アイシャ。オンセンリョカンってどうなったんだ?貴族様が興味を持ってんだろ?」

「あ、はい。そうなんです。それで、実は援助してもらう事になったんですけど…。一応、明日の休みに他の温泉を掘りだす場所を探そうと思ってます。」


 明日は久し振りの休みなので、温泉を探しに行こうと考えていた。今ある温泉は私の自宅用になっているので、旅館の為の温泉が必要になる。源泉があるのなら、その近くを掘れば他にも出てくる筈だ。

 魔法で地下の水脈を探せば、何処を掘ればいいかは分かると思う。ただ、掘った後に整備するのが大変なので、目星を付けてある程度整えてから温泉を汲み上げようと考えていた。


「ふーん、そっか。もしまた何かあったら、手伝ってやるから言えよな。」

「…ありがとうございます、ルドルガさん。その時は、お願いしますね。」


 援助してくれるという事は、多少なりともお金に余裕が出来るはずだ。前に家を作って貰ったように好意でタダでやってもらう訳にはいかない。今度はちゃんと、お金を出さなくちゃ。彼等にも生活があるのだから。



 次の日、私はルドルガに言ったように森の中を散策していた。


「いくつか候補は見付かったなぁ。」


 やはり、魔法を使えば水脈を探すのは簡単だった。そして、掘るのも魔法を使えばすぐに温泉が湧きだしてくるだろう。昔よりは魔力も成長したが、それでも平均以下の私では中々思う様には進まない。だけど、援助があるとすればその作業を別の人に任せる事が出来る。その間に、私はその温泉をどういう風にするか考える事が出来るのだ。


「やっぱり、足湯は必要だよね。それから、幾つか貸し切り温泉も用意したい。大浴場も良いけど、お部屋に小さな温泉があるのも良いよね。普通の露天風呂や室内風呂だけじゃなく、泥湯や砂湯、打たせ湯も欲しい。後は岩盤浴みたいなサウナも良いなぁ。」


 楽しみ過ぎて、アレコレ考えてしまう。援助を受けて良かったと思う。私だけだったら、叶うかどうかも怪しい夢だったのだ。たとえ自分だけの力じゃなくても、温泉旅館が出来るのは嬉しい。この世界の皆にも、温泉の素晴らしさを知ってもらいたい。そして、その気持ち良さを味わってほしい。


 私はその為に生きてきたのだから。



 気が付けば、森の中を散策し始めて数時間が経っていた。お腹も空いてきたし、そろそろ家に戻ろうと思い、私は歩き出す。

 これだけ木に囲まれているのなら普通の森林浴もいいなぁ。静かだし、風がそよそよと気持ちいいし…。魔物さえ出て来なければ、本当にいい場所だと思う。せめて、もっと装置があればなぁ…。援助がどれくらいもらえるか分からないから、まだちゃんとした計画が練れないのが残念だ。


 ハイキングコースとか作って、歩き疲れた体を温泉で癒す。何て最高なんだろう、休日にはピッタリだよね。ピクニックとか出来ると良いけど…、魔物が出るような森でご飯を食べるのは怖いか…。下手したら自分達が魔物達のご飯だもんな。


 私は暢気に考えながら家へと向かった。


「…アレ?」


 ほんの一瞬、何か通り過ぎたような気がした。


「何だろう…魔物かな?」


 装置が効いてる筈だから、凶暴な魔物じゃないと思う。私はつい気になって、何かが向かった方へと歩き始めた。姿は見えないが、カサカサと移動している音が聞こえる。見失わないようにその音に着いて行くと、そこに一人の男のがいるのに気が付いた。


「えっ…?」


 地面へと倒れ込んでいるその子を見て、私は急いで駆け寄った。


「だ、大丈夫ですかっ?」

「う…うん…。」


 息があるのに、ホッとした。どうやら気絶しているだけのようだ。私は怪我でもしていないか、男の子を観察した。

 どこかの富豪の子だろうか、着ているモノはそれなりに良い物だった。この間ジェイクが着ていた様な物に似ているが、アレとは服の質が大分違う。多分、貴族ではない筈だ。


「良かった、怪我とかも無いみたい。」


 何故こんな所で気絶しているの分からないが、このままにしておく訳にはいかない。私は彼が目覚めるまで、傍に居る事にした。

 しかし、お腹空いたな…。


「……ん…。」

「あ、起きましたか?」


 見付けてから数十分が経った頃、男の子が目を覚ました。透き通るような綺麗な青い瞳をした男の子は、私を見て一瞬だけ驚いた様な顔をした。


「…此処は…。」

「此処は森の中にある平原です。私の名前はアイシャ、貴方は?」

「僕は…ヴェルガです。」

「ヴェルガさん、ですね。此処で倒れていたのですが、何かあったのですか?」


 小さく呟くように名乗った男の子は、ヴェルガと言うらしい。銀色の様な髪を(なび)かせ、俯きながら話すその子は、とても大人しそうな印象だった。


「…確か、魔物に襲われていて…。それで、逃げ切れたはいいけど、多分疲れ果てて倒れたんだと思います。」

「魔物に?」

「ええ。だけど、何故か途中で追い掛けて来なくなって…。取り敢えず、少しでも離れられる様にと思い切り走っていました。」

「ああ、そうなの、良かった…。」


 まさかこの辺りで人を襲う様な魔物が出たのかと思った。装置があるのにそんな魔物が出てきたら、温泉旅館を作る事が出来なくなってしまう。私は途中で追って来なくなったと聞いて、無事に作動しているのだと安心した。


「見た感じ怪我は無いようだけど、流石にこのままにしては置けないから、起きるまで待ってたのよ。何処か痛む所はない?」

「いえ、何処も。御迷惑をお掛けしました。」

「それなら良かった。町まで案内しましょうか?」

「いえ、僕は…。」


 その時、小さくグゥ、とお腹が鳴った。……私じゃないわよ。


「す、すみません…。」

「…ねえ、良かったらウチでご飯食べていかない?」

「えっ?」


 恥ずかしそうに視線を逸らしたヴェルガは、とても可愛らしく見えた。見た感じ、私よりも年下だろうか?帰ったらご飯を作ろうと思ってたし、一人くらい増えても平気だ。


「走って疲れ果てて倒れたんでしょう?お腹が空いてたら、今度は空腹で倒れるかもしれないわ。」

「で、ですが、そんな事は…。」

「私もお腹が空いてて、帰ったら食事にしようと思ってたのよ。ついでに一緒にどう?」

「……。」


 ちょっと不用心だったかな?でも、このまま一人で返すのも何だかアレだし…。


「迷惑を掛けしますが、お願いします。」

「ふふ、気にしないで。こっちよ、いらっしゃい。」


 少し悩んでいたようだが、結局私の提案に乗る事にしたようだ。ヴェルガと一緒に、自分の家へと道を進んでいく。


「…アイシャさんは、森の中に住んでいるのですか?」

「ええ、そうよ。でも、周りには凶暴な魔物は居ないから安心して。」

「…随分と、不思議な見た目な家ですね。アレは何ですか?」

「温泉よ。」

「オンセン…?」


 興味を持ってくれた事に嬉しくなった私は、ヴェルガに温泉について話し始めた。ちょっと暴走気味になってしまったが、引くどころか興味津々に聞いてくれるので、更に私は話し続ける。


「それでは、アイシャさんはそのオンセンリョカンの為に一人で此処で頑張っているのですか?」

「あー…、その…。一人ではないのよ。とある縁で、お貴族様の目に留まってね。それで、援助してもらう事になってるの。」

「貴族に、ですか?」


 彼の瞳が、ゆらりと揺れ動いた気がした。そりゃ、こんな森の中に住んでる女の子が貴族と縁があれば、驚くよね。

 私はチラリとアルベルトに貰ったペンダントを出してみせた。家名は言ってないから何処の家のモノかは分からないだろう。これならアルベルトに迷惑は掛からない筈だ。


「まだまだ時間は掛かるけど、いつか立派な温泉旅館にするのが、私の夢なの…。」

「…夢……。」


 ジッと家の方を見て、ヴェルガは考え込む。どうしたんだろうと思っていると、再び小さな音でお腹が鳴った。

 ……今度は私の方が。


「すみません、立ち止まってしまって。」

「あは、は…。こちらこそ、失礼しました…。」


 幾ら年下の男の子だろうと、恥ずかしい物は恥ずかしい。私達は家の中へと入り、二人分の食事を用意する。

 簡単につまめる物が良いだろうと思い、私はサンドイッチを作った。中身は卵にツナマヨもどきにハム野菜。どれも簡単な物だが、やはり生の野菜が入ってるのに驚いた様子だった。ハムやマヨネーズが掛かっているので大丈夫だと思うけど、少しドキドキする。案の定、彼は中々手を出そうとはしなかった。


「…頂きます。」


 私はハム野菜のサンドイッチを一つ取ると、パクリと食べた。うん、美味しい。


「…私も、頂きます。」


 私が食べた事で、ヴェルガも食べ始めた。最初は驚いた様子だったが、直ぐに柔らかな笑顔になったので、どうやらお気に召したようだ。

 二人でモグモグと食べ続け、あっという間に無くなってしまっていた。


「ご馳走様でした。とても美味しかったです。アイシャさんは料理人なのですか?」

「いいえ。私の料理は家族に教えてもらったモノなのです。」

「そうなんですか。それは素晴らしいご家族なんですね。」

「……はい。大好きな家族です。」


 ヴェルガの言葉に、少しだけ胸が絞めつけられた。大好きな家族だった、本当に…。アイシャの家族も、瑞希馨の家族も。

 黙り込んでいた私を不思議に思ったのか、ヴェルガは私に声を掛ける。


「アイシャさん、大丈夫ですか?」

「……!すみません、失礼しました。」

「いえ、何も無いのなら良いんです。」


 ハッとした私は、彼に謝罪の言葉を述べた。ヴェルガは少し考えるような表情をしたが、直ぐにニコリと微笑んだ。


「それではアイシャさん。私はこれで。」

「本当に町まで送らなくて大丈夫ですか?」

「はい。これくらいの距離なら平気です。」


 食べ終わった後に送ろうとしたら、断られてしまった。確かにそこまでの距離がある訳じゃないけど、子供一人だけで大丈夫なのだろうか…。


「帰り道、気を付けて下さいね。」

「ありがとうございます。今度、必ずお礼に参ります。」

「気にしないでいいのよ。」


 人が倒れてたら、心配するのは当たり前だろう。それが自分の所有地なら特にだ。


「それじゃあね、ヴェルガさん。」

「また、きっと。」


 そう言うと、ヴェルガは町の方へと歩き始めた。私は姿が見えなくなるまで見送ると、家の中へと戻る。今日見てきた事を纏めなければならない。

 所有地内の整地は済んでいるので、内容さえ決めれば直ぐにでも作業は始められる。ただ、その内容を決めるのが大変なのだ…。


「幾つか候補を作って、あの二人に確認してもらうか。」


 私は温泉旅館についてのプレゼン資料を作り上げる。設計図に関しては、今度ルドルガにも見てもらおう。

 お腹が膨れたので、元気はたっぷりだ。温泉旅館の為に頑張らないと!


 彼等から連絡が来る前に、ある程度は形にしておかないと。幾ら援助してくれるとはいえ、余りにも形が見えてこないと向こうも不安になるだろう。少しでもどういうものか分かってもらう為、極力分かりやすい様に作り上げた。


 温泉の為だと思えば、何時間もの作業も、決して苦ではなかった。早く彼等に見せたいな。

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