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青嵐の魔女2  作者: 山下ひよ
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城下にて

新キャラ登場です!


 ルカは不機嫌だった。

 両親も兄も、いまだに十七歳になった自分を子ども扱いする。

 兄が十七の時にはしていたことも、自分にはさせてもらえない。

 確かに兄と自分では立場も責任も違う。そして、出来が違うことも理解している。

 そして何より腹が立つのは、そんな兄を自分が敬愛しているということだ。

 煮え切らない思いを抱えながら、ルカは城下をぶらぶらとしていた。彼にとって、城下町は慣れ親しんだ場所だ。幼い頃からしょっちゅう、窮屈に感じる家を抜け出して遊び回っている。

 顔見知りも多くなり、ルカに気軽に声をかけるものも少なくない。ルカは彼らに適当に挨拶を返しながら、憂さ晴らしになるものでもないかと歩き続けた。


 実際に憂さ晴らしになるようなことなど見つからないものだが、その日は偶然揉め事に遭遇した。

 野次馬たちが集まり、事態を見守っている。


「お、ルカじゃねえか」


 そう声をかけてきた野次馬の一人は、ルカがよく行く飲み屋の主人だった。


「おっちゃん、これ何の騒ぎだ」


 そう聞いたルカに、主人は顔をしかめて答えた。


「またあいつらチンピラだ。女の子とぶつかったからって、いちゃもんつけてやがる」


「うわ、懲りねえなあ」


 その連中は、城下では有名なチンピラだ。

 城下の人々も煙たがっているが、腕っぷしが強いために強く出られず、今のようにやきもきと見守るしか出来ないのが現状だ。しかし、ルカが現れたことで、人々は一様にほっとした表情を浮かべていた。

 ルカは、かなりケンカ慣れしている。家柄のおかげで幼い頃から様々な訓練を受けており、一対多数でも負けたことはあまりない。

 そして城下の人々の間では、ルカは貴族の子息だという噂が昔からあった。ルカが生い立ちを誰かに話したことは一度もないが、いつも仕立ての良い服を着ていることやその物腰で、ほとんどがその噂を信じていた。

 だが気さくに皆と接し、正義感が強く人助けを厭わないので、大変信頼されていた。そして、貴族であるという噂を恐れてか、チンピラたちもルカには及び腰になる。

 一度だけ覚悟を決めてルカにケンカを売ったことがあるのだが、本気でやったはずなのに返り討ちにされた時のことはトラウマになっているらしい。


「ほら姉ちゃん、金出せや」


「あんたがぶつかったからこいつが怪我したんだぜ」


「それとも体で払うってか」


 そんなことを言い、チンピラたちは下卑た笑い声を上げた。

 聞いていられず、絡まれた女性を助けようと人混みをかき分けて、野次馬の先頭に立ったルカだったが、目で確認する前に予想外の言葉が耳に入った。


「あれだけで怪我するわけないじゃん、このスットコドッコイ。それともホントに怪我したってんなら、まあ手当てくらいはしてあげてもいいけどさ」


 チンピラたちはもちろん、野次馬も唖然とした。怖がる様子もなくそんな強気な発言をしたのはどんな女だと視線をやり、あまりに想像と違う姿に再び唖然とした。

 年はまだ十五、六歳くらいだろうか。癖のない長い黒髪が肩に流れる。空を切り取ったような青い眼は、自分を取り囲む男たちを臆することなく睨み付けていた。外見だけで見れば、とても綺麗な少女だった。


「…てめえ、下手に出てりゃつけあがりやがって」


 チンピラのリーダー格の男がこめかみをひくつかせながら虚勢を張るが、少女は馬鹿にしたように鼻で笑った。


「は、何が下手に出てりゃ、よ。女だからって足元見てさ。私なんかね、あんたらが訳のわからない言いがかりつけてこんな所まで引っ張ってくるもんだから、目的地までの道がわからなくなっちゃったじゃない。そっちこそ責任取りなさいよ。この無駄な時間は高いよ」


 どちらが言いがかりだ、と聞きたくなるような理論を堂々と並べ、チンピラを睨み付ける。どうやらかなり口が達者で気が強い娘のようだ。語彙力に乏しいチンピラたちは言葉に詰まり、とうとう少女の胸ぐらを掴んだ。


「調子に乗りやがって!」


 そして少女に向かって拳を振り上げる。

 ルカははっと我に返り、止めに入ろうと動いたが、少女が動く方が早かった。

 少女は涼しい顔で自分の胸ぐらを掴む男の手を取り、全身を使って捻り上げた。そして流れるような動作で見事な一本背負いを決めた。男は宙を舞い、地面に背中を強かに打ち付けた。

 あまりに突然の出来事に唖然としているチンピラの仲間たちは、少女の素早い次の動きに完全に遅れを取った。

 少女は倒した男に目もくれず、既に次の標的に向かっていた。背負っていた荷物を投げ捨てると地面を蹴って飛び上がり、きれいに回し蹴りを決める。ようやく動き出した他のチンピラたちも、少女の的確な動きに付いていけず、次々に倒される。

 そして全員が伸された頃に、始めに投げられた男が起き上がり、目を血走らせて胸元からナイフを取り出し、雄叫びを上げて少女に飛びかかった。ルカを含める野次馬たちがあっと叫んだが、少女はあっさりとそれを避け、易々と男の懐に入り鳩尾に強烈な肘鉄を食らわせた。男は、ぐぅ、という声を上げてナイフを落とし、倒れた。

 パンパンと手をはたいている少女の周りには、屈強な男たちが白目を剥いて倒れていた。それを取り囲む野次馬たちは、ものすごく強いその少女をぽかんと見つめていた。

 ルカは、少女が投げた荷物が自分の足元に落ちていることに気がついた。それを拾い上げて少女に近づく。少女は、その気配に気づき振り向いた。今しがたすごい立ち回りを見せたにしてはあまりにもあどけない少女の姿に、ルカは思わず笑った。




 シャティエルは、自分が投げた荷物を拾って近づいてくる青年を見つめた。

 十七、八歳くらいにみえるその青年は、金に近い栗色の短髪に焦げ茶色の目をした、中々の男前だった。自分と目が合ったその青年は、突然声を上げて笑った。

 突然笑われて顔をしかめたシャティエルに、青年はまだ口元を綻ばせながらも謝ってきた。


「ああ、ごめん。だって助けようと思ったらすごい強いから、出る幕なくて」


 尚も笑いながら、自分が落とした荷物を差し出す青年は、不思議と不愉快さを感じさせない人だった。本当に楽しそうに笑うので、シャティエルも荷物を受け取りながら自然と微笑んだ。


「ありがとう。あの」


 シャティエルは、会ったばかりの青年に言うのもどうかと思ったが、他に知り合いもいないので腹を括った。なに、と笑顔で聞き返した青年に、シャティエルは言った。


「道、教えてくれないかな」


 青年はきょとんとした後、再び弾けるような笑い声を上げた。


 

 青年は、ルカと名乗った。この近くに住んでいるそうだ。

 宮廷魔法使い御用達のアンさんの薬草屋に行きたいと言うと、すぐに案内を申し出てくれた。

 青年と道を歩いていると、出店の店主や道行く人がルカに声をかけていく。かなり人望があるようだ。

 そしてルカの腰には剣がある。それはかなり使い込まれた、大振りな実践向きの剣だった。


「ルカは、剣士なの?」


「ああ、これ? うーん、剣士みたいなものかな」


 ルカは言葉を濁した。ルカは身なりが良いし、身のこなしも洗練されている。

おそらくどこかの貴族の子息なのだろうが、秘密にしているんだろうと察して、あまり追及しないことにした。


「ふうん、その剣、上物だね。ルカって強いでしょ」


 さらりとそう言ったシャティエルを、ルカは意外そうに見つめる。


「シャティエルは剣に詳しいのか?」


「シャトでいいよ。うん、父が剣士だったから、剣術も体術も教わった」


 そしてシャティエルは自分の腰にある剣を、指でなぞった。ルカはその剣に目をやり、シャティエルに聞いてきた。


「シャトって、もしかして女剣士とか?」


「ううん、魔女だよ」


「えっ」


 ルカのその反応は当然だ。剣を持つ魔法使いは珍しいし、魔女も少ない。意外だったのだろうが、ルカは何故か合点がいったという顔をした。


「ああ、だからアンの薬草屋に…」


「え、なに?」


 小さな声で呟いたルカの声を、シャティエルは聞き逃した。ルカは、何でもねえよと笑顔で言って、歩き続けた。




 目的地には程なく着いた。シャティエルは、以前もハクレンとこの店に来たことがある。寄り道さえしなければ、迷ったりはしなかった。


「ありがとルカ。ここまで来たら帰り道はわかるから。本当に助かった」


 微笑んで礼を言うシャティエルに、ルカも笑顔で返した。


「こちらこそ、チンピラ倒すの見ててすっきりした。じゃあな」


 ルカは背を向け、来た道を戻っていく。シャティエルは、その背中に声をかけた。


「ルカ、また会える?」


 ルカは立ち止まり、振り返って不敵な笑みを浮かべた。


「縁があったらな」


 そう言って、ルカは城下の雑踏の中に消えていった。



格闘女子っていいですよね!笑

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