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青嵐の魔女2  作者: 山下ひよ
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新人魔女

懐かしい顔ぶれも登場します。

早く喋らせたい!笑


 シャティエルは、頬を上気させて、目の前にある大きな城を仰いだ。

 城に来るのは二回目だ。以前は一ヶ月前、宮廷魔法使い選抜試験で訪れた。不合格なら再び来ることは許されないが、シャティエルは見事、難関と言われる試験に合格した。

 シャティエルは大きく深呼吸し、満面の笑みで城の門をくぐった。



 ここは青嵐国の国王が住まう王城である。

 国の中枢であり、政も軍事に関することも、全てがこの場所で動いている。

 十八年前、青嵐国は魔法に長けた緑蓮という国と戦になった。当時、魔法使いが徹底的に不足していた青嵐国には、勝つ可能性が低い苦しい戦だった。

 しかし、それを救ったのは齢二百歳を越える偉大な魔女。彼女はドラゴンに変じ、国を救ったという。だが彼女は、手を貸すのは今回限りだと王に言った。

 緑蓮にはその事を知られていないが、王は魔女に頼らずとも自衛できるだけの魔術を手に入れるべきだと考え、宮廷魔法使い隊を組織した。

 初めこそ、集めた魔法使いは皆優秀とはとても言い難い者たちだったが、彼らは研究熱心で勤勉だった。研究費さえ多少手配してやれば、彼らは貧しい時にはとてもできなかった魔術の研究ができると喜び、国のために必死で魔法の腕を磨いた。そして徐々に、宮廷魔法使いは自他共に認める才能ある魔法使いの集団となっていった。

 そして今では、青嵐国全体での魔法使い達の水準も上がり、その中から宮廷魔法使いを選別する試験も、難関となった。


 この年、その難関試験に、史上最年少、そして初の女性魔法使いが合格した。

 彼女の名はシャティエル・アーク。長い黒髪と空のような青い目を持った、愛らしい少女だった。




「全員集まりなさい」


 宮廷魔法使いの長は、よく通る声で集まった魔法使いたちに声をかけた。

 場所は王宮内にある魔法魔術研究所。五十人ほどの選ばれた魔法使いたちが、ここで寝起きを共にし、国と王のために研究に励んでいる。

 長に呼ばれて整列したのは、五人の魔法使い。二人は三十代半ば、二人は二十代前半と思われる男たち、そして、まだ十六歳の少女だ。


「君たちは今日から宮廷魔法使いとして国と国王陛下にお仕えする。よく精進するように」


「はい」


 全員が声を揃えて返事をする。長は満足そうに頷いた。


「これから、君たちが生活する部屋へ案内しよう。そこに宮廷魔法使いが身に付けるローブが用意してあるので、それを着てもう一度こちらへ集まるように。陛下と側近の方々に謁見の許可を頂いているので、しっかり身なりを整えるように」



 シャティエルは当然ながら一人部屋だった。この研究所に、女性はたった一人だからだ。

 研究所に入った時も、同期の四人も、自分に対して「女の分際で」という意識があるようだという気配は感じていた。だが、シャティエルは気にしていなかった。女であっても、自分は歴とした魔法使いだ。堂々と仕事をする。

 自分に与えられた、小振りだが暖かみのある部屋の内装を一通り見て、寝台の上に畳んで置かれているローブを羽織った。


「…よし。お父さん、私、頑張るからね」


 シャティエルは笑顔を浮かべ、意気揚々と部屋を出た。



「面を上げよ」


 国王陛下の低い声に、五人の新人魔法使いはゆっくりと顔を上げた。

 五十を過ぎた青嵐の王は、しかし年齢を感じさせない若々しさを持った精悍な男だった。魔法使いたちは、雲の上の人のように感じていた王の視線が自分を捉えているという事実に、体を震わせた。

 その場には、他にも層々たる顔ぶれが並んでいた。

 国軍最高の地位を持つ元帥ゼンリ、王の側近である三人の大臣、仕官学校の教師長フィルローなど、国では知らぬ者などいないという面々である。


「名と魔法具を聞こう」


 魔法具というのは、魔法使いが術を行使する際に媒体とする道具である。自分の魔力を一旦魔法具に溜め、そこから作り出したい魔法を想像し、放出するのが一般的な現代魔法である。魔法具なしに魔法を使用するにはかなりの熟練が必要だと言われている。それ故に、魔法具が一般的でない時代には魔法使いになることが非常に困難であった。

 彼らは、順に名と自分の魔法具を紹介した。


 一人は三十三歳のキリクという男で、魔法具は小振りの杖。

 次は三十五歳のヨハン、魔法具は同じく杖。キリクのものよりやや長い。

 三人目は二十四歳のジャン、魔法具は金色の腕輪。

 四人目は二十歳のアンドル、魔法具は首飾り。

 王は、最後の少女に視線をやった。シャティエルは恐れる様子なく、はっきりと王に聞こえる声音で紹介した。


「シャティエルと申します。魔法具は、剣を使います」


「剣?」


 王が初めて新人に聞き返した。魔法具に剣を選ぶのは珍しい。剣の刃は魔力を具現化するのが難しいと言われている。もし使いこなせるなら剣自体が魔剣となり、絶大な力を発揮するが、それには魔法の技能に加えて剣術の習得も必要となる。どちらにしろ、研究の徒であり武に優れない魔法使いが持つことはおよそない代物である。

 王の問いに答えても良いものか、シャティエルは魔法使いの長に視線で問うた。それに気付き、王自身がシャティエルに声をかける。


「良い。話せ」


「では申し上げます。私の父は元剣士ですので、幼い頃より護身に剣を習いました。魔法の勉強も日常的に行っていましたが、常に剣を持つ癖があったせいか、自然と魔力を扱いやすくなりましたので、そのまま魔法具と致しました」


 そしてシャティエルは慣れた仕草で、剣を腰から抜き、王に見えるよう掲げた。それは柄も鞘も白い、シンプルだが美しい細身の剣だった。

 武に優れた王や元帥、そして教師長などは、その剣の僅かな扱いだけで、彼女がかなり剣術に長けていることを見て取った。


「初の魔女と聞いて楽しみにしていたが、剣士でもあるわけか。しかもかなりの使い手であるようだ。父君は優れた剣士なのだろう」


「ありがとうございます」


 王は楽しそうに目を細めた。


「新しき宮廷魔法使いたちよ。そなたらの働きに期待している」


 王のその温かい言葉に、魔法使いたちは深々と頭を下げた。



次回からシャティエルの研究所生活が始まります!

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