五人の女性たち
午園掬は高校三年
部活も引退し(あまり行ってなかったが)、これから受験勉強という荒波に揉まれることになる。
けれど彼自身、それ自体にあまり億劫になることはなかった。
なぜならやりたいことがあるからだ。そしてそのやりたいことにはあまり学歴は関係ない。
だから、なんだか受験勉強と言われてもピンとこなかった。もちろん、これには性格も関与しているのかもしれないが。
いつものように、掬はハンドルに腕を乗せながらのんびりと自転車を漕ぐ。綺麗な夕暮れだった。
「あれ? こんなところに神社なんてあったかな?」
家と家の間に、何かのご加護がなさそうな小さな神社があった。鳥居の先は暗くてよく見えない。
掬はなんとなく立ち止まった。そして気づいたときには自転車から降りていた。
両脇に佇む石でできた狛犬の間を通り、鳥居をくぐって奥へ奥へと進む。人一人しか通れないような参道なので向かいから人がきたらどうしようかと進んでいると、
「あれ……夜になってる……?」
不思議なことに気づけば夕暮れは夜空に変わっていた。
「どうなってんだ……?」
それでも掬は吸い込まれるように奥へ奥へと進んでいく。
祠が見えた。その手前には石灯篭が番人のように両脇に立っている。
その石灯篭が、いきなりふわりと淡く光った。
祠が明るく照らされ、よく見えるようになる。
賽銭箱がある。それはこの神社の中で一番古そうで、所々腐って緑色に変色している。
そこから、何かが掬に向かって飛びだしてきた。
「うわぁぁぁぁ!!!」
額に当たり思わず後ろにすっ転ぶ掬。
「なんなんだよ……」
涙目になりながら上体を起こすと、目の前で五円玉が浮いていた。しかも金色に光っている。
「は……え……えぇ!?」
訳がわからずその五円玉を見つめると、何やら違和感を覚え始める。
「これ……五つ穴が開いてる」
「そうポぺ! ただの五円玉と一緒にしないでほしいポぺ!」
突然、声が聞こえてきて、掬は思わず周りを見渡してしまう。だが、人の気配はしない。それに、人は語尾にこんな痛い言葉を付けたりはしない。
「だ、だれ?」
「ぼくはポペンププピだポぺ!」
突然、その五円玉から可愛らしい人形が飛び出してきた。かぼちゃの頭に黒の三角帽子。体はマントを羽織って見えないが、木の棒でできた腕がマントから伸びている。そして手は真っ白な手袋。
そんな人形が、声を出してしゃべっている。しかも、ポペンププピとかいう言いにくい名前まであるらしい。
「ぽ、ぽぺ……?」
「ポペンププピだポぺ! 名前くらい一度で覚えてほしいポぺ」
ポペンププピは木の腕を前で交差して仏頂面でこちらを見ている。
「はぁ……」
「まあ自己紹介なんてどうでもいいポぺ。それより少年、名前は?」
「午園……掬……だけど」
「ならば掬! ぼくを助けてほしいポぺ!」
「え? た、助ける……?」
話が唐突すぎてまるでついていけない。
もしかしてこれって……?
「ちなみにこれは夢ではないポぺ。現実という名のリアルポぺ」
「……いや意味一緒だよ」
「シャーラーーップ! 黙らっしゃい!」
「それも意味一緒……」
「んんーーーー、とにかく! ぼくを助けてくれポぺ!」
唾を吐きながら必死に懇願してくるポペンププピ。目からは少し涙も見える。
「た、助けるって……どうやって?」
「簡単ポぺ。ぼくと、一つになればいいんだポぺ」
すっと差し出される手袋をはめた手。ポペンププピの目がじっと掬をみつめる。
「ぼくと握手をしてほしいポぺ。そしたらぼくは救われるポぺ」
「え……うん、わかった」
手を握ればいいのか、簡単だな。掬はそう思った。
だから、掬はその手を取った。
その瞬間、ポペンププピは悪魔のように黒々と笑い、ぎゅっと掬の手を強く握った。
「契約を、始めるポぺ」
黒い渦と光の奔流が、掬とポペンププピを包む。それは渦を巻き、地を這い、天高く飛翔する。
まるで彗星のような輝きを放つそれは、天を縦横無尽に駆け巡ったあと、掬めがけて突っ込んでくる。
「え?」
そしてその彗星はぬるりと、掬の口の中へと入っていった。