Number.05 自分の相棒
見てくださる一人一人に圧倒的感謝の元書き続けます。
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これからも毎日書き続けます〜。
時刻は24時、昼だ。
体内の内蔵時計…とここの時間は一致していないようで、どうやらこの世界は昼と夜で元の世界の二日分…つまり、一日は48時間のようだ。
こういった差異は様々なところで見られた…もしかしたらこの世界の星の形は常識と違う…つまりは球ではないのかもしれない。
夜空の星もブレることなくまっすぐ移動していたし…学ぶことが多い。
前日は深夜までいろいろやって(いろいろあって)、宿屋で休んだのだけど…結局朝から昼までここでカルロスと話していた。
そこで様々な情報を得ることができた。
この世界にはギルドというものが存在しており、何らかの問題解決の代わりに報酬を支払うというシステムらしい。
ギルドは街の中心街に設置されており、依頼の難易度別にカウンターが存在していてそこで依頼の受領、報酬の支払いなどを行うようだ。
基本的に術士はこれを収入源としているようだ…何割かの術士は普通に働いているとも聞いた。
そして午後に見に行ってやりたいのがあればやることを約束した。
というかカルロスも何か必要なものがあるらしかったし、私も燃料用の資金が欲しかった。
ので恐らく何かの依頼は受けるだろう。
そして術式について更に学ぶことができた。
術式には低い詠唱で一段階上の詠唱の効果を得ることができるテクニック…裏技があるようで、それは『個字』と呼ばれる物を使用するようだ。
聞くと自分に合う文字を見つけることができ、その文字を詠唱の名前に組み込むことで一段階向上できるようだ。
カルロスにはあるのかを聞いてみたがどうやら『紅(くれない、べに、ぐ、等)』らしく、読み方はどれでも詠唱にいれれば良いようだ。
だけど、この文字の組み込み方が悪いと発動することはないらしい。
……昨日見たザイラニクスの詠唱は二つしか聞けていなかったが、どちらも『狂(きょう、くるい』だったはず。
ということは彼の『個字』は狂なのだろう。
『個字』は自らが術式を何度も使っている内に運良く見つけるものらしく、見つけるまでの期間は人によっては数十年もかかるようだった。
私はさっさと見つけてしまいたかったが…術力が存在せず、少ないが術力の篭ったネックレスで代用しているので…必然と術式行使は少なくなり見つけ難いと思い込んでいたが、闇の属性適解の数値を思い出して闇で回数を稼げば良いことに気が付き安堵した。
「そろそろギルドまで行くかい?」
「行っちゃいましょー!」
宿屋から出ると、街はかなり混乱していた。
この街が襲われたわけではないとはいえ、貿易の相手に問題が起きた、とか友人の安否が分からない、とかとか。
様々な問題が起きているようだったが、やはり一番恐れていて、恐怖して、怯えているのは「自分たちの街にも来るのではないか」ということだった。
まさかすでに襲われていたとは露知らず。
しかしこれ程人が慌ただしくせわしなく動いていると不安にかられるのも無理はないだろう。
カルロスも顔が引きつっていた。
「おーおー…まぁそらこうなるわな。
……俺だって怖いしな、お前を守れるとは思えない」
彼は私に聞こえないように小声でそう呟いたのだったが、まあ機械だということをお忘れか、もしくは理解していないか、私は普通に聞き取っていた。
彼が私を守ろうと動いてくれた(意味はさしてなかったが)のは覚えているし、それを知っているから私はついていく事をこっそり心で硬く誓ったのだったけど。
なんだかんだ悪い言葉遣いのリュックサック背負ったおっさんとしか最初は認識していなかったが、仲間意識というものが生まれつつあるのだろう…機械の私が言うのは可笑しく思うかもしれないが、「人間に等しい機械」を目標に作られた私は人間と同じ思考をする。
なので当然の思考判断とも言えた。
それでも自分は機械なのでやはり合理的な判断をしていくのだろうが、さてもしカルロスを見捨てれば自分は助かるといった時に私がどんな判断をするのか…それが怖かった。
私が見捨ててしまうかもしれないことが怖かった。
そんな事を私が考えているとは思いもしていないであろうカルロスは街の中心部へどんどん進んでいった。
そして、ようやくそこについた。
『ギルドホーム』と書かれた大きな看板が目立つその建物は、めちゃくちゃ大きかった。
例えるなら野球場のドームみたいな外観だった。
入り口は多数あるようで、カウンターも西口付近〜など複数あるようでそこでまた難易度別に分かれているようだ。
「ん〜…ちょっと待てよ?
お前武器何を使うんだ?」
カルロスが今更疑問に思ったように切り出す。
ステッキをちらちら見ていたのは気がついていたが、武器として使えるか怪しんでいるようだった。
多分。
「ステッキが武器になるけど…。
もしかして何か買っていいのかな?」
速攻でおねだりしてみた。
カルロスは頭をかき、少しだけ迷ったあとにもちろん、と答えた。
「じゃあギルドの近くにある武器屋に先に行こうよ…ギルド内にもあるみたいだけどそっちでもいいのかな?」
「ギルド内のは単純に大量生産のすぐ壊れる安モンしかないから買わないこったな。
そういうのですら使いこなす奴もいるが、少なくともそれらを使いこなせるなら業物使ったほうが強いしな…。
ああいうのは安物買いの銭失いっつーんだ」
「へー…というかそのことわざこっちにもあるんだね…。
いやそんなことは関係ない関係ない。
じゃあ何か周りの武器屋で知ってる所に連れてってよー」
「知ってる所っつっても一つしかないがな…」
そう言うと、カルロスはギルド前の大通りのすぐ裏手の道にある武器屋に私を連れこんだ。
外側は一見普通のゲームやらで見る武器屋、という感じだったが内部は…めちゃくちゃ乱雑に、それもたくさん武器が置いてあった。
いやこれは置いてあるというよりは、もはや投げ捨てたらたまたま重なって運良く並んだ…という程の適当さだった。
「相変わらずきったねーな…
お前が気に入った武器があったらもってこい。
予算は50000Rsだからな!」
Rs…ルパスの略で、この世界の貨幣の名前のようだった。
貨幣価値はよく分かっていない…ので、カルロスの予算に関してはとりあえず遠慮せずぎりぎりを攻めることにした…。
もっとも、気に入ったのはセール品の入った樽に押しこまれていたハルバードの様な不思議な武器だったけど。
価格は13000Rs、原価は60000Rsだったようだがセールの張り紙が三重で貼られていて、現在の価格になっているようだった。
見た目は先端がハルバード…で、逆側にクリスタルがついており、周りにリングと板が浮いた状態で囲っていた。
試しにリングやらを動かそうとしたが、どうやらクリスタルから一定の距離を保っているようだった。
そして私が武器を探している間に、カルロスは私と同じように武器を探していた…結果真っ赤な単なる棒を買っていた。
持ってみたところめちゃくちゃ重く受け取るときに落としかけた。
こんなもの扱おうと思うカルロスが理解できなかったが…単に力があるから使いやすいとのことだった。
お値段二つ合わせて47000Rs、私一人分の予算に収まってしまった。
………もしかして二人で50000Rsだったのかもしれないが安いのを選んだので無問題だった…。
「お前のその…槍はもちろん槍に使えると思うが…術石か、このクリスタルは…ふむふむなるほど。
この術石は虹色をしてるだろ?
虹色は修復石の事だな…つまりは水や光で出来る回復術式を行えるんだな。
とはいえこの術石はどうやら物しか直せな…そういやお前機械だったな、最適かもわからんぞ。
とはいえこの術石はこの武器自体の修復が最優先のようだから過信は禁物だな」
とても便利なものだった。
しかしカウンターに立って待っているのだが、一向に誰も来る気配がなかった。
「…ちょっと待ってろ…耳塞いでろ」
そういうと彼は予想もしない予期もしない意外な行動に出た。
「炎の術式…第八詠唱…『紅音』」
機械なので耳塞いでも普通に音聞こえるんですよ。
集音の機能をオフにすればいいじゃないアホなの…と自分が自分に突っ込んでいる所に爆音が響き渡った。
家が振動した。
私は音で完全にフリーズしていた。
「うるさいわ!!ゆっくり寝かせてく……カルロスか馬鹿野郎!!!」
店の扉(武器に埋め尽くされていて存在に気がついていなかった)を開けてメガネをかけた小太りの男が出てきた。
さっきまで寝ていたようで、よだれが口から垂れていた。
「ちゃんと店番してろよ…罠仕込んでるんだろうが不用心すぎるぞ」
「自動発動術式を床の下に埋め込んでる事をよく気がついたな…どうせ人なんて夜に買い替えに来る奴か早朝に予備を買う奴しかいねえから昼は暇なんで寝てたわけよ。
とはいえお前が武器を買うのは珍しいな…おっとこっちの固まってるお嬢ちゃんはなんだ?」
「昨日俺の仲間になった術士だ…おい?クライン?大丈夫か?」
「…………はい!大丈夫です!!二つ名『魔法使い』の術士、クラインです!!」
思考が戻りきってない時に話しかけられて危うく噛むところだった。
私は不意な音に弱いという弱点があることを初めて知ることになった…。
「へぇーー…俺はダンだ、よろしく………カルロスが仲間を持つなんてな。
今まで傭兵で済ましてたのに…どんな気の変わりようだ?」
「あー…まあいつか話すわ。
とりあえずこの二つ買わせてくれ。
料金はギルドに請求してくれ…ギルドに金預けてて持ってきてねぇんだ…。
証書は書いてある、ほらよ」
カルロスはペラい紙をポケットから取り出して武器屋のダンに渡す。
ダンはそれを受け取ると同じようにポケットに突っ込んだ。
案外この二人似たものがあるのかもしれない…と会ってから短時間だけど思い始めていた。
類は友を呼ぶ、か。
「ういういさんきゅー…
俺が気まぐれに作ったけど重くて使い手のないクソ棒の『小夜嵐』と槍なのか杖なのかよく分からないハルバード、『遊侠』…まいど!』
自分の売る武器に対してひどい言いようだな…と思ったがどこか的を射ているので面白い…面白い?
頭が再度変なことでぐるぐるしてフリーズしていると、カルロスに棒で吊り上げられて店から出ることになった。
「もう降ろしてくれても…というか引っかかってて抜けられない…」
「わざとやってんだよ」
意地悪な笑みを浮かべてくる。
私のハルバードは背中に布で刃を守って背負っていた。
吊り上げられた状態でギルドカウンターまで来てしまったが、案外これは恥ずかしいものであると理解してきた。
多分鏡があれば顔が真っ赤な自分を見ることが出来ただろう。
「さーて、何をすっかねぇ」