Number.04 神様の戦い方
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「はい、お疲れ様でした。
これが術士証となります、なくさないでくださいね」
ケモミミ受付嬢からカードのようなものを受け取る。
そこには私の顔写真(いつ撮られたのか全くわからない)と、属性適解表、そして管轄『サラミアン』という文字があった。
「それがあれば身分証明になりますので、どこか違う街に行かれる際はそれを入国時のドアに押し付けてください」
カルロスがここに入る時にもドアにこれを押し付けていたのだろうか?
私には見えなかったが…彼のリュックサックで死角になっていたのだろう。
「ではまたご用件があればお会いしましょう」
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「で、今どこに向かってるの?」
前をつかつか歩くカルロスの前に飛んで回り込みそのままついていく。
「お前に会った時に術士主役の感謝パーティをやるって言ってただろ?
あれをバックレる為に適当な強い奇獣に襲われてたっていう事にするんだ。
その為に今街の外へ再び向かってるっつーわけよ。
本当ならギルドで奇獣討伐依頼をこなしてお金も手に入れられるんだが…バックレる為だってバレちまうからな、今回は報酬無しでやらねぇといけねえ」
そう言うと彼は面倒だな、とボソリと呟いた。
「……私も手伝うけどさ、奇獣ってそもそも何なの?
あの野犬みたいなやつ?」
「確かにあれも奇獣だな、群犬というランクFの奇獣だ。
奇獣はランクFからA、そこから例外的なものはAにプラスを足していくんだ。
んで今回倒す奇獣はランクCだ。
Cっていうと弱そうなイメージを持つかもしれねぇがC数匹で町が滅びたなんてよくある話だ。」
「ふーん…で、どうやって見つけるの?」
そう質問すると彼の顔は急に曇った。
もしかして。
「……運良く見つけるのを宛てにしてる?」
「……そうだ」
カルロスについていく私の判断は不味かったかもしれないと、今更思い始める。
とはいえここまで親切にしてくれたからには恩返しをせねば…。
うーん……。
そのとき。
カルロスはいきなり私の手を引っ張って裏道へ走り出した。
「ちょっ…な…むぐ」
口をふさがれた。
そして口から手を話し、静かにしろというジェスチャーを行う。
………。
ごおおぉぉぉ……ん
騒音に等しい鐘の音が街に響き渡った。
何だ。この音は。
カルロスは頭を抑えてうなり、苦痛にもがき苦しんでいるようだった。
ごおおぉぉぉ……ん
再度、鐘が鳴り響く。
深夜の街に騒音が鳴り響く。
裏道から表通りに出る境目で表通りを覗いてみる。
そこにはさっきまで歩いていた人々がカルロスと同じようにもがき、苦しんでいた。
私以外に立っている人は誰もいなかった。
一体何が起きているのか、私の知識では分からなかった。
唯一、自分でもわかるのは
この街が今大きな危険に直面しているであろうことだ。
ごおおぉぉぉ……ん
そして、三回目でやっと気がついた。
鐘の音は空から聞こえている。
すぐに空を見上げると、そこには空を覆い尽くさんばかりの大きな漆黒の鐘があった。
そして、その鐘の近くに『それは』居た。
鐘と同じぐらい漆黒の騎士が居た。
ごめん、カルロス。
私、『あれを消し去りたい』。
理由のない理不尽は大ッキライ。
……違う、この気持ちは…自らのOSに刻みつけられたものだ。
危険物の排除。
それを行いたいだけだ。
だけど、あれが自分より明らかに高位の存在であることはよくわかった。
あのザイラニクス程ではないが、『分からない、理解できない』。
「カルロス、生きて帰ってくるから待ってて。
私は絶対死なない。死にたくない。
だけど、このままじゃ…」
表通りでもがいていた人は自らを掻きむしり、頭は血塗れになってしまっていた人も多かった。
…そうだ。
カルロスのバッグを漁り、中から服を取り出す。
それをカルロスの手首に掻きむしることの出来ないように、手錠の要領で巻きつけた。
これで良い…。
そして私は漆黒の騎士へ向かって飛び立った。
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「ステッキを使ってくれないか」
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『それ』に私はどんどん近づいてゆく。
騎士はまだ動かない。
今しかない。
先制攻撃のチャンスは。
「カスケードステッキ!!Number.05!!」
「煌き穿て!『閃光』!!」
ステッキから光が漏れ出す。
その光はレーザーサイトの要領で騎士を照らした。
騎士は私に気がついた。
そして、『こちらを見る』。
その瞬間、閃光を最大出力に変更する。
カスケードステッキの向いた方向はまるで昼…否、光で真っ白に包まれた。
それは騎士を照らし、鐘を照らした。
その光は高熱の熱を持ち、そして『放射線』を放っていた。
この騎士が何者かは全くわからないが、今使えるNumberではこれぐらいしか使えそうなものがなかった。
はたして。
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「よく頑張ったよクライン」
あのどこまでも白い部屋で目の前のザイラニクスはそう言った。
「………あの騎士は何?あの鐘は?」
思っていたことを口に出す。
明らかに今街に起きている災いの元凶であったその2つが何なのかを知りたかった。
「…奴は『終末人』。
堕天した神の直属の部下さ」
彼は忌々しそうに吐き捨てた。
声には怒りも混じっていた。
「僕達六神の前に前代の六神…旧六神がいたんだけどね、その六神は全員私欲の為に堕天し民を裏切り、地上を支配した。
随分昔の話だよ…その時に現六神が代わりに六神になったんだけどね。
そして現六神で旧六神を封印した…なのに
奴らはどうやったのか逃げ出したんだ。
裏切り者がいた、とかそんな話は今は関係ないからおいておくけど…
そして奴らはついに行動に出始めた、ということだ。
……実は今現六神は休眠期間なんだ。
僕も例外じゃない。
この期間の間は力が弱まるんだ…直接地上に降り立つことも出来やしない。
そこを狙ってきたんだろうね…。
運の悪い事に全員の休眠期間が被るなんてね…。
それで、行動の一つがこの『死の鐘』と『泡沫の騎士』だろう。」
「クライン、頼みがある。
もし、君が今後同じような旧神の攻撃のようなものを見た時には可能ならそれを妨害してくれ。
妨害してくれさえすれば僕が気がついて攻撃を消してあげるから。
必要に応じて修正もするだろう」
私は黙って聞く。
「その為の闇の属性適解9だ。
君がこの世界を冒険するにあたって自由に使ってくれて構わない。
だけどその代わりにどうか手伝ってはくれないか?」
私はすぐに頷いた。
彼が笑った、ような気がした。
「ありがとう」
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「小賢しい…!邪魔をするな」
目の前の騎士のおどろおどろしい声が響く。
放射線は後々に効果が出るのでそれはともかく、光と熱はほとんど意味はない…目くらましにはなっていそうだが。
『クライン、ちょっと借りるよ』
え、と思った次の瞬間には体の主導権を奪われていた。
例えるなら遠隔操作をされている感覚…いや、自らのOSに新たなOSが強制的に上書きされたような感覚だった。
「ちんけな石だなぁ…術力ほんのちょっとじゃないか。
まあ仕方ないか」
私が私の意思ではない誰かの意志で話す。
……ザイラニクスか。
「やぁ泡沫の騎士…君は一体どこの配下だい?
久しぶりに見たよ…その鐘もね。
あぁ全く…うざったいな!」
私でありながら私でないというのはちょっと面白かった。
しかし明らかにザイラニクスはキレ気味だった。
それと同時に少し不安になる…何をする気だろう?
「死の鐘…こんなの耐えられるのは光か闇の神の信者だけだねぇ…
こんな街にも数人いるようだけど…信者には戦わせたくはないしね。
悪いけど『僕』が相手だ」
「……水の術式、第六詠唱『氷羅』」
騎士がその術式を呟くと、私を横に挟むように魔法陣…?言うなら術陣が宙に浮かび上がった。
それを私が確認するやいなや、陣から巨大な氷の柱が出てきた。
「闇、第三詠唱『狂鏡』」
私…いやザイラニクスは動かずにそれを唱えた。
騎士の真後ろに鏡が出現する。
そこには騎士が映されていた。
「闇、第三詠唱『狂転』」
「氷よ圧殺しろ!!」
ザイラニクスは更に術式を唱える。
騎士は術式を起動した。
氷の柱で潰すのだろうか。
だが私の体は闇に覆われていく。
そして鏡も、また闇に覆われる。
喰らい尽くす闇ではなく、包み隠す闇。
間一髪、左右から迫る氷柱に潰される前になんと鏡があったはずの場所に立っていた…浮かんでいた。
転移術式というのだろう。
しかし、鏡ではなく騎士で移動すればよかったのでは…と思ったが、すぐに理解した。
目の前の騎士は左右から潰されてもはや騎士とは呼べない何かに成り果てていた。
血、肉、鉄。
ただの肉塊。
そしてさっきまで居たところにある氷柱を見ると、そこでは鏡が氷柱に押し潰され粉々になっていた。
「鏡に映った人は、鏡にされたことと同じ目に逢うんだよねぇ…昔見た古具にこんなのがあったけどえげつないねぇやっぱり。
騎士で転移するには術力も足りないし…何より僕が影に包まれて、なおかつ自分も影で包まれたら入れ替わるんじゃないかってことは思い浮かんじゃうしね。
気がついたら氷柱を止めてしまえば潰されない。
だから死角に置いた鏡を使った。
そうすれば僕がただ影に包まれただけにしか見えなくて回避してると思い込む。
それが攻撃だとも思わずにね…」
説明された。
というか鏡が物騒すぎる。
しかし、一瞬で終わってしまった。
第三詠唱を二回連続で、否…二回だけで終わってしまった。
第三詠唱が強いのは確かだろうけど、それよりも今私を操っている…ザイラニクスが強いのは簡単に理解できた。
「…そうか、君は術式について知らないんだっけか。
術式は詠唱指定の後の名前によって何が起こるかが決まる。本人のイメージする名前をつけるんだね。
といってもさっきの詠唱内容を第六とかでやることは無理だねぇ…イメージする力に合った詠唱を見つけないと。
料理の火をおこす為だけにに第一詠唱は要らないし、世界を焼き尽くすのに第十詠唱では力不足だからね」
そう言うと、彼は私に主導権を戻した。
もうちょい聞かせて欲しかったのが本音なんだけど…。
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…今回倒す奇獣はランクCだ。
Cっていうと弱そうなイメージを持つかもしれねぇがC数匹で町が滅びたなんてよくある話だ。」
「ふーん…あれ?」
騎士だった残骸は目の前に無かった。
それどころか時が巻き戻っている?
これが彼の言う『修正』なのだろうか?
なんとも不思議な力だ…。
ふと気になったことがある。
「…カルロス、ちょっとお願いしていい?」
「なんだ?なんでも言ってみろ。
言うだけならタダだからな!」
「今日何もしないでのんびりしてみない?」
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現在、宿屋にて休憩中だ。
結論から言って予想通りだった。
あの、『死の鐘』『泡沫の騎士』は他の街にも現れており、またいくつかの街は機能が停止寸前になってしまっているようだ。
ザイラニクスの『修正』は私が妨害した所のものしか効果がないようだった。
…ザイラニクスはともかく他の神は動いているのだろうか…?
案外休眠の名の通り寝てるのかもしれない。
働け神よ。
「いやぁ…感謝パーティは中止だってよ。
こんなことが起きたあとにパーティやるなんて言ったら狂人なんだけどな…。
いやぁ、俺にとっては運がいいが…悲惨な出来事だだったなぁ…」
彼は実は遭遇しているのだが『修正』で忘れてしまったのだろう。
…あんなもの、人なら忘れた方がいいし二度と見るべきではないけども。