Number.03 私は魔法使い
最後まで呼んだくださる方も、気になってここまで来てくださった方も感謝の極みです。
門の目の前へ歩いていき、正門でなく横に備えられた小さなドアから街へ入るようだ。
ドアには『サラミアン』と書かれていた。
恐らくはこの街の名前だと思う…というか日本語で書かれているのが、とても変に思えた。
違う世界で同じ文字なんて…誰かが操作して同じになるようにしたのかな?
ドアにカルロスが手を触れると、八角形の陣がドアに現れ、開いた。
認証のようなものだろうか。
「大きな門だねえ…
ここの街が特別大きいの?」
「んなわけない…こんな街はわんさかあるぞ。
この街はサラミアンってんだが、サラミアンは大きさで言えば大体中くらいだろうな。
ここは昔から農作物が良く取れて貿易の中心になってるんだ。
故に他の地域の物も集まってきてるから遭難者のお前には色々なものが見れるかもな」
「ふぅん、なるほど」
適当に相槌を打ちつつ、現在の自分の状況を再確認する。
元々使用不可能
・歩行機能
こちらへ来た時から使用不可能、あるいは問題あり
・物質解析装置
・カスケードステッキの一部機能
・結晶電池の発電
・記憶領域の一部
他にも細かいものはあるが、重要なものをピックアップする。
物質解析装置やカスケードステッキはまだしも、結晶電池の発電が不可能というのがかなりの問題だった。
所詮アンドロイド、電池がなくなれば止まってしまう。
だけども私の体には代替になる発電機はある。
可燃の液体関係を燃料にできるのだ。
つまり、油や酒だとか。
この世界に酒があるのは確認済みだ。
というかカルロスのリュックサックに入ってた。
まああれを頂くのは最終手段である。
現在の蓄電池の残量は大体80%、だいたい普通に過ごすのなら5日間は大丈夫だが、ここは異世界。
さっきの様な野犬に襲われてカスケードステッキを最大出力で使用しようものなら一気に10%は持っていかれるだろう。
…術式を覚えないと。
そして今は城壁の中の小部屋にいる。
カルロスによると街へ入る前に検査官が持ち物を検査するようだ。
…私のカスケードステッキや、帽子だとか魔法服だとかはどうしよう…
結果から言うと全く問題なかった。
どうやら普通の術士だと思ってくれたらしく、単純に探知魔法で危険物がないかの検査だけだった。
魔法服は昔の術士が着ていたもので、単純に古いセンスの人だと思われたらしい。
ちなみにこの魔法服、白である。
とんがり帽子も同様に白。
理由は単純、色々繊維に仕込んだ結果白が最適だと判断されて白に塗装されたのだ。
黒は暗くて服としては好みではないので私は気に入っている。
そしてカスケードステッキは通常時だと本当に
ただの黒いステッキと思われるようで、その隠密性の高さに博士に感謝する。
無駄なギミックはかなり仕込まれていて趣味武器のようになっているのだけれど。
「ようし!終わった…やっと中に入れるぞクライン!」
そう言ってカルロスは入った時と同じようなドアを開け、サラミアンへの道を開けた。
「うわぁ…!!」
そこには西洋風の街並みがどこまでも広がっていた。
今は夜なのだが、通りには沢山の人がいて、活気にあふれていた。
そこには見たことのない生物が荷車を引いていたり、人間ではない他種族と思わしき生物が人と同じように生活をしていた。
一言で言うなら、これこそが『ファンタジー』なのだろう。
「お前が居た世界ではこんな光景はなかったのか?
ならこれからいくらでも見れるな!」
「すごいなぁ…あれはなんて種族?」
犬がそのまま人の骨格になったようなもふもふの人を指さす。
「あれは獣人族だな、人間よりも力仕事に向いている種族だ。
術式は人間よりも劣るが対奇獣では武器での戦闘で大きな戦力になるから大体のパーティに入ってるな」
「ふぅん…奇獣についても後で教えてね。
じゃああの人は竜人族?」
獣人のトカゲバージョンのような人を指さす。
どうやら彼は武器を売っているようだ。
相方であろう人間と鍔迫り合いして武器のアピールをしている。
「そうだ。あれは竜人族。
人間と獣人のいいとこ取りの種族なんだが…術力が上がりにくくて皆四苦八苦してたりする」
「へぇー!……他にもいるの?」
「いることにはいる筈だが、今日は見当たらないな…よく見るので言えばゴーストとかスライム系とかだな。
後はお目にかかることはないだろうが種族が神、というのもいる。
術式の神様だな」
そのお目にかかれないのをさっき見てしまったのだが…あれは幻覚に近いのでノーカンでいいだろう。
夢で有名人に会ってさも現実で会ったように話す人はいないだろうしね。
もしそんなことをしようものなら周りから陽気者と言われるか、あるいは狂人とバカにされるかの二択だ。
この世界だったらもしかしたら信じる人もいるのかもしれないけど。
「まあ、ともかくまずは街役所へ行くぞ」
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「大通りとはいえ夜なのにすごい人がいるねぇ…」
「夜の方が動きやすいって人も多いからな…」
大通りには沢山の人が行き来しており、酒を飲んで馬鹿騒ぎしている人もいる。
夜に動きやすいというのは単に夜行性なんだろう。
カルロスも夜に街から出て散歩するあたり夜行性に近いのだろうけど。
ちなみに私は電池さえ持てば延々と動き続けるので昼も夜もどちらでも動きやすい、ということなのだろう。
「ようし、ここだ!」
そこは他の洋風な建物と同じようなデザインだが、一回り大きな建物だった。
看板がついており、サラミアン中央街市役所と書いてあった。
カルロスはさっさと中へ入っていき、私もそれについて中に入った。
中は綺麗な洋風の家といった感じで、中央に大きなクリスタルがある事以外は普通の役所だった。
カルロスは素早く受付の女性に要件を話していた。
「おーいクライン、早くこっちに来いよ!」
「はいよー」
ちなみにこの役所に入るにあたって地面に足をついて歩いている"ふり"をしている。
浮いてることで怪しまれて色々バレても困る。
受付の女性はキツネ耳だったがそれと尻尾以外は人間らしく、ハーフなのかなと思う。
そして2対1で椅子に座る。
「ではまずクリスタルによる術力と属性適解をお出しいたします」
なるほど、役所で属性の得意苦手を教えてくれるのか。
なんとも楽な測り方であるな…と思った。
「……クラインさんは術力をお持ちでない?
属性適解は存在するのに…不思議ですね。
というかいろいろ突っ込みたいところが多いですね」
そう言って受付のケモミミさんから紙を渡された。
そこには
焔 水 風 雷 光 闇
3 1 2 2 0 9 術力 なし
と書かれた紙を渡された。
「えーと?カルロス…これは多いほうが適正があるってことでいいのかな?」
闇がおかしい。
何してくれてるんだあのブラックボールは…。
…術力が無いからここまでしてくれたとか?
「どれどれ………………………………………
……………………………………………………。
……………………………………………………。
…まず焔から説明するか」
顔が見てはいけないものを見てしまったのかのように凍りついていた。
ワタシハイッタイドウスレバイインダ…
「焔が3、か。第七詠唱10回分。
これだけあれば松明みたいに火をつけ続けるのを大体一晩ぐらいはできそうだな。
攻撃には使えないな…
一応言うけど一般人は平均が光と闇以外は4な。
水が1…第九詠唱5回…これはもう洗濯とか日常的なことを術式でしようとしたら術力切れるな。
風と雷が2…第八詠唱10回分かな。
突風を起こすのと麻痺する電流を流すことくらいか
第○詠唱から一つ上の詠唱への換算は10回で一つ上だと思ってくれ」
とても分かりにくい。
せめてこの数字で強さが分かるのならいいのだが…数字が燃費を表しているとはなかなかに不便だ。
…?さっき見たカルロスの第七詠唱はなかなかに派手だったが…エネルギーが多いとかなんとか言っていたからあれはあの場所のせいなのだろう。
「光は…第十詠唱すら唱えられない…。
風の噂に聞いたことがあるけどまさか本当に0がいるとはな…お前光の神に嫌われてるんじゃないか?」
大体ザイラニクスとかいう闇の神のせいだと思いますはい。
「さて問題の闇だが…9…。
お前闇魔法使い放題に近いぞ…良かったな!
これだけ高いのなら大術式や固有結界も使えるだろうな…使ったことねぇから消費量はしらん、自分で試してみろ」
使い放題とな!?
とてもずるいのではないだろうか闇の神よ。
だけど…光に嫌われる代償と考えたら安いもの…と思っていいのだろうか?
「ちなみに一般人平均は光闇は2な」
それにしても出血大サービスされてる気がする。
これが必要なほど修羅の道を私は歩んでいくのか…?
いいや…そんなことはないといいんだけど。
「ではこちらの紙に必要事項をご記入ください。
もし術士になられるのでしたら名前とクリスタルに手を触れての認証のみで結構です」
「ねぇカルロス、まほ…術士になっていい?」
「俺の仲間になるのならなってもらわないと困るな…」
「じゃあ名前書いて…もう書いてるの…早いねカルロス…」
勝手に名前を書かれていた。
他の人が勝手に書いていいものではないだろうに…とはいえ受付のケモミミさんは何も言わないのでそこらへんルーズなのだろう。
あるいはカルロスに突っ込むことを放棄しているか。
「ではこちらのクリスタルにお触れください」
ケモミミさんがテーブルの受付カウンターの下からクリスタルを取り出す。
…機械の身体で認証できるの?
……さっき属性適解出せていたし問題ないのだろう。
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「その辺は僕がやってるから気にしなくていいよ」
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一瞬だけ意識が持っていかれた。
あの闇の神過保護すぎないか…?
…そういうものなんだろう。多分。
そして私はクリスタルに手をかざす。
「あぁ、ちなみにクリスタルに手を触れるときは自分の名前と二つ名を言うんだ。
…二つ名は適当でいいぞ。俺は焔の花火師で通ったしな」
なんと適当な。
というか二つ名要らないのでは…?
「二つ名は案外呼ばれることになるから気をつけろよ」
本名を言ってはいけない時とかで使うのだろうか…というか二つ名使うのか。
…よし、決めた。
「私はクライン、『 魔法使い 』 !! 」
手をかざしていたクリスタルが淡く光出す。
「お疲れクライン…ところでまほうつかいってなんだ?」
「……魔法ってのは不思議な力の事だよ。
その不思議な力を操る人が魔法使い。
私のこの服装は元の世界での魔法使いの服装。
そして私はその魔法使いが大好きだったから、魔法使いを二つ名にしたの」
正しく言うのなら、私は科学使いなのだろうけど。
私が持っていた魔法は全部科学での模擬、実際には魔法使いなんて存在しなかったし…。
だからこっちで私は本当の魔法使いになってみせる。
術式と科学のハーフは魔法になり得るか?
十分に発達した科学は魔法と見分けがつかない。
ならば、発達しきっていない科学を術式で補おう。
私は、魔法使いだ!