Protocol Number.02 術式理解中
「わしの…わしのクライン…」
「別に博士のってわけじゃないでしょう…」
取り残された二人は並んで悲しく慰めあっていた…。
そろそろ僕もあっちに戻ろうか。
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「ん?仲間ぁ?構わないがお前…仲間いないのか?
いないから頼んでるんだろうが…そもそもお前はなんでここにいるんだ?」
「なんでここにいるのか分かってたら苦労しないよ…私が気がついたらここで倒れてたの」
ふよふよ浮遊しながら応える。
大体10センチぐらい浮いていて同じ目線なので彼は大体170以上はあるだろう。
でかい。
私の好みではないけど。
「はぁん…?ちょっとまて、これは…」
そう言うとカルロスはクレーターまで近づいて、リュックサックをおろして、開いた。
リュックサックの中はぎゅうぎゅうに色々なものが詰まっていて、水筒のようなものや、ノートぐらいは分かったがそれ以外はよく分からないものが多かった。
カルロスはその中から工具箱のようなものを取り出し…中から蓋がされた試験管を取り出した。
その試験管の蓋を開けると…中から白い炎が勢い良く吹き上がった。
「何それ?何か確かめてるのはわかるけど…」
「これか?この辺り一体のエネルギー総量を調べてるんだよ…多ければ多いほど白く、少なければ少ないほど黒く燃えるんだ。
だが…白い炎なんて滅多に見れないはずなんだが…」
そこで彼は一旦言葉を切り、やがてそれを口にした。
「お前、『遭難者』か?」
「遭難者?」
「遭難者っつーのは…なんて例えりゃいいんだ…?
そうだな、本来居た世界がこの世界ではないってことなんだが…他の世界から来た奴なんじゃないかお前?
ここらのエネルギー総量が多すぎる…まるで何かの召喚に使われたエネルギーがこっちに送られてきたようにな。」
彼は真剣な目つきでそう私へ質問した。
ここで本当のことを言っていいのか、否か。
このカルロスを信用して話してしまってもいいのだろうか?
「遭難者だったら…どうなの?」
「質問を質問で返すなよ全く…遭難者だったら今すぐ街へ向かって住民登録しねーといけねぇ。
俺みたいな冒険してるような術士でも遠い街だが住民登録はしてある。
でないと不法入国者と思われちまって…捕まるならまだしも殺されたら悲惨だぞ」
「それは由々しき事態だな…街ってどこにあるの?」
「どこも何も…すぐそこだ。」
そう言って彼は私の後ろを指差した。
そこには、巨大な壁が何百メートルも広がっていた。
まるでそこへ入る事自体を拒否するかのように。
門が見えたが、その門すら巨大だ。
十メートルはありそうな高さだ…。
「でかい」
「だろう?この壁の向こうに街があるわけだ。
城門から入るしかないんだが…遠いな。
まあ夜が明けるまえに済ませちまうぞ、行くぞクライン!」
そういうと彼はすたこらさっさと走り出した。
私も彼について飛んでゆく。
「ねぇ!ねぇ!さっきの術式って何!?」
移動している間暇なので話しかける。
彼は走っているのに対してこっちは思考するだけで浮遊移動できるのである。
楽な分暇だと感じるのだ。
「術式?術式っつーのは自らの術力と大気のエネルギーを利用して神から力を借りて使う技だよ。
自分の総術力が大きければ大きいほど高い位の術が使用できるってわけだ。
さっき俺が使ったのは第七詠唱…最下位が第十詠唱で最上位が第一詠唱だ。
そして大気のエネルギー、これは無くても構わないんだが、多ければ多いほど術式の効果が倍増する。
逆に少ないと仮に第一詠唱だったとしても通常時の第五詠唱ぐらいまでランクが下がっちまう。
まあこの辺は…習うより慣れろってやつだな!
クラインも出来るように練習してみたらどうだ!?」
「うーん…分かった。
今度やってみるよ!
ちなみに自分の術力は何で決まるの?」
「その人間の体を鍛えれば鍛えるほど上がるぞ」
……。
じゃあ。
というか薄々そうなんじゃないかって思ってたけど。
「それなら私は使えなさそうだねー…残念」
「うん?諦めるのか?
術式は誰にだって訓練を重ねれば出来るんだぞ?」
カルロスはちょっと残念そうな声を出す。
…伝えちゃうか。
「えっとね、カルロス?
実は………私は機械なの。アンドロイドなの」
「????」
カルロスの顔は俺には理解できない、という正に思いをそのまま顔に写したようなことになっていた。
…そもそもこの世界に機械やアンドロイドで私ほどの技術があるものがない可能性もあった。
それなら手っ取り早く説明しよう。
「えい」 ばきぃ
私は『自分の左腕』を右手で引っこ抜いた。
外してメンテナンスしやすくするための機構なのだが、この方がわかりやすいだろう。
「うおおおおお!?
大丈夫か!?…………血が出ない」
「血がそもそもないしねぇ…
この腕がつながってた部分を見ての通り、体も頭も全部金属の機械なの…強化プラスチック製の部分もあるけど」
「ぷらすちっく??」
プラスチックも存在しない世界だった。 な
これもしどこか壊れたらかなり面倒ことになりそうだ…
何しろ治すための原材料がなさそうと来た。
不安だ…。
「…まあ人間もどきみたいな感じで見ててよ。
人間と同じように感情もあるけど体は人間じゃないってだけでも覚えといて」
そう言って外していた左腕をはめ直し、左手でグーパーしてみせる。
カルロスは不思議そうに眺めていて、これが面白い。
まるで小さな子供が知らないものに興味津々な様子とほぼ変わらなかった。
「あー……お前の体の構造は全く理解できないが、確かに術式は使えなさそうだな。
…いや待てよ、抜け道なら使えるかもしれん」
そういうとカルロスはリュックサックの横のポケットから何かを取り出し、私へ投げてきた。
走りながらそれを行うというのは中々難しそうであったが彼は難なくやってのけた。
落としそうになりつつも受け取ると、それは何かの金属の球体をネックレスにしたものだった。
球体は確かに金属なのだが、半透明だった。
…物質解析装置がこちらへ来た時の衝撃で壊れてしまっていて何なのかさっぱりわからない。
「何?このネックレス…」
「まぁまぁまずは付けてみな」
言われたとおりに首にネックレスを巻く。
「よしよし……それがお前の術力の代わりだ。
その中には術力がある程度貯められている…大体成人術士の半分くらいだな。
本来術士が術力が無くなった緊急時に使うんだが…そんな機会早々なくて、しかも同じことを思った術士から押しつけられたもんだ、やるよ」
とてもありがたい。
……押しつけられた様な気もするけど私には必要そうなので気にしない。
「ありがとう!
試しに何か術式唱えてみたいんだけど…」
正直さっきのカルロスの魔法…じゃなかった、術式を見てからかなりわくわくしている。
魔法使いならぬ術式使いというのも興味がそそられる。
だけどカルロスは
「あー…いややめとけ、人には得意な属性の術式、苦手な属性の術式があるんだ。
得意な属性だと術力の消費が少なくてすむ。
だが苦手な属性だと術力の消費がかなり大きいんだ。
まあ機械のクラインに得意も苦手もあるのか俺にはさっぱりだしな…まだやめておけ。」
と、私を止めてきた。
内心舌打ちしながら笑顔で「わかったー」とは答えたが……正直とてもウズウズしている。
と、気になったことを聞いてみる。
「その得意苦手はどうやって判別するの?
さっきの言い方だと全部唱えて試すってわけじゃなさそうだし」
「全部試したりなんてしたら身体が持たなくてぶっ倒れるぞ…。
というか神に力を借りてるわけだから一度何かの属性の術式を使ってから他の属性を使うと神同士の力が反発して『暴発』するぞ。
ちなみに属性は焔、水、風、雷、光、闇だな。
属性同士の相性の良さやら悪さもあるんだが…相性の良い属性同士なら合体術式なんてのもできる」
予想以上に危険そうだった。
どうやら気軽にほいほい使えるようなものでもないらしい。
ここは大人しく従って城門へ急ぐことにした。
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途端に視界が真っ白になった。
否、単に視界が白で埋まったというのは語弊がある。
眩しい訳でもなく、ただただ何もない、そんな『白い部屋』にほっぽりだされた。
「………何事?」
ステッキを手に取ろうと腰へ手をやると…なかった。
いやいやちょっとまて、と反対側を触ったりしてみたがどこにもない。
「どこいったステッキちゃん!!」
「ここだよ。ちょっと危険だから預からせてもらったよ」
その声は頭上から聞こえた。
慌てて後ろへ移動して上を見ると、そこには真っ黒な球体が浮かんでいた。
真っ白な部屋に真っ黒な球体。
そのアンバランスさが球体の周囲を歪めているようだった。
そして球体の横には私のカスケードステッキがあった…もしかして持ってるのか…?あれ…
「えー…返してよぉ…というかあなたは誰よ…
どうせこの部屋に私がいるのもあなたの仕業でしょう…?」
面倒だな…と思いつつ質問する。
「そうだよ。僕の仕業さ。
君に手助けをしたいと思ってね、遭難者さん。
君が誰にどうやってどうしてここに飛ばされたのかは知らないし、元の世界へ戻してやることは僕にはできない。
専門外だからね」
そう言うと球体はまるで謝るかのような動きを見せた。
いや単に前後に移動しただけなのかもしれないけど。
分かりにくすぎる。
「とはいえ、何も分からないまま死んでしまったりしたら僕の心が痛む。
だから手助けをするのさ」
「……ふぅん…?で結局あなたは」
「 光の裏側 闇の神 ザイラニクス。 」
「……?」
首を傾げる。
なんでそんな神様が私を助けるのだろう…
「さっき言った通りだよ。
気まぐれでもあるけどね」
思考を読んできやがった。
……機械の思考って読めるの?
………単純に何を疑問に思ったか予想しただけか。
「いやぁごめんごめん、君の心は読めないよ。
でも君にはしっかりと心がありそうだけどね…
物でも心は持てるんだねぇ…」
どういうわけか感動された。
…こっちの世界の術式では心を持たせたりだとかはできないということか。
科学って凄いんだなぁ…。
「さて、君には手助けをすると言ったけど、勿論無双なんかしてもらっても困る。
生きていくのに必要なものを僕はあげるだけさ。
そっちの世界で言うなら…所謂ズル、チートとかではないよ。
さて、クライン。
『僕は君に闇属性優遇を付与する』」
その声とともに視界は白く染まっていき…
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気がつくと私は城門の前に立っていた。
横にはカルロスが立っていて、私をまじまじと眺めている。
「……何?」
「何じゃねえよクライン!お前が急に加速して俺はどれだけ必死になって走ったか!!
何度呼びかけても反応はないし!」
「あ…はは、ごめんね!」
私が『あっち』に居る間、私の体は勝手に移動していたらしい。
時間の流れは同じだったのか…不便な。
またあそこへ行くことはもう無いような気がするけど。
「…ったく、まあいいわ。
さっさと街に入っちまうぞ」
そう言って今度は私を置いていくぞとばかりにどんどん進んで行く。
「待ってぇ!」