魔行列車の森
魔行列車の森。
ナンバー5とナンバー2との会話でそう聞こえた。
その響きからも普通でない場所であるのは伝わってくるが、今正しくその森に居るハルシオンはその森の異常性を身でひしひしと感じていた。
「ハルシオンちゃん。用事はちゃんと済まして来たかい?」
「あ、はい! ありがとうございます」
「転送させる前に急に言うもんだからね」
「えへへ、すみません。おかげで助かりましたー!」
「それは良かった。じゃあ、ここからはナンバー5とナンバー2の指示に従って行動するんだよ。私はいざと言う時の為に、ここでいつでも転送して逃げられるようにしているから」
ハルシオンは頭を大きく下げると、そのまま森の奥へと向かって行った。
「聞こえるか? ハルシオンよ」
支給された無線機から、ナンバー2の声がする。
森の中を突き進んでいくハルシオンはぬかるんだ地面に多少足を取られながらも応答した。
「はい。ナンバー2さん」
「うむ。ここに転送された時から疑問に感じた事がいくつかある。注意点として忠告しておこう。まず一つはここは空気中に滞在する魔力の濃度が著しく高い珍しい地域である事ともう一つ、強い魔力を持った個体が森のあちこちから感じるのだが、奇妙な事にそれら全てオレゴンの物と類似している。これが魔力濃度によるものなのかどうか、私にはまだ判断出来ないが、オレゴンの捜索に当たるに置いて注意して進むようにな」
「はい。ありがとうございます」
ハルシオンはそこで無線機を切ると、それをそのまま腰に掛け、森の奥を見つめて呟いた。
「リーダーの魔力があちこちに……。それはリーダーがいっぱい居ると言う事でしょーか。それはそれで幸せですねー……なんてー気を引き締めてリーダーの捜索をしないと……」
森での捜索を初めて一時間ほどが経った頃合いだった。
野生生物に襲われる等のハプニングも特に無く、順調に森の奥へ奥へと歩みを進めていくハルシオンだったが、一刻も早くオレゴンとの再会したいと言う思いが無駄にハルシオンを焦らせていた。
「今頃、別で捜索してくれている人が発見してくれてたりしてー……。でもそれなら連絡が入るかー」
不安な思いが自然と言葉となって出てしまう。
そうしてハルシオンが重い溜め息をつき、改めて前を向き直して見ればそこには、見覚えのある人影が見えた。
捜索に当たってくれている組織の人間か、目当てのオレゴンか。あるいはこんな不気味な森を彷徨くへんしゅつしゃの可能性もある。
高鳴る胸を片手で押さえてハルシオンは駆け出す。
そうしてハルシオンが見たものは、ダラダラと靴底を擦るように歩いてこちらへ向かってくるオレゴンだった。
「リーダー!」
意外にもあっさりと出会えた事に驚きが隠せないハルシオン。
しかしそこでどういう訳か、ナンバー2の忠告が脳裏を過り、嫌な予感が足先まで駆け巡る。
「リーダー……!?」
嫌な予感はすぐに的中する事となる。
あろう事か、オレゴンは表情一つ変えずに、ハルシオンに襲い掛かって来たのだ。
その手には木目模様の灰色の刀が握られている。横に払うように振るわれる刀をハルシオンが間一髪の所で避けた所で、無線機が自動で鳴った。
『オレゴンの魔力に類似した物の正体が分かったぞ!それはオレゴンそのものの幻影だ!何人か既に殺られている!ハルシオン!気を付けろ!』
そこで無線機からの音が止み、森は再び沈黙に包まれる。
ハルシオンはオレゴンの幻影から距離を取り、冷や汗を流して呟いた。
「言うのが遅いですよー……期待しちゃったじゃないですかー……。もし攻撃してもリーダーには何も無いんですよねー……? それにどうしてこんな幻影が……」




