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あ!

「そんな私まで……!!」

 ナンバー5が叫ぶようにそう言った時には、既に転送された後だった。

 周囲を見渡せば、レンガ造りの廊下が壁掛けランプの薄明かりに不気味に照らされている。

 ここはどこだ? と言いたげな顔のハルシオン姉妹は首を傾けてナンバー5を凝視した。

「……ここはナンバー2の住宅ですよ。仕方ない……行きますか」

 ナンバー5は腰に手を当て面倒くさそうに歩いていく。

 ハルシオン姉妹は黙って付いて行った。






 趣味が悪い家だなー。と率直な感想を抱いて居たのはハルシオンだけでなかった。夢見も薄気味悪い廊下を不安げな表情でキョロキョロと見渡しては遅れを取らないように後に続いて歩いている。

 特に幽霊や怖い物が苦手な夢見は、化け物の一つ出て来てもおかしく無いような雰囲気を醸し出すこの空間が不快で不快で仕方がないようだ。

「おねぇちゃん。大丈夫?」

 ハルシオンがそう尋ねた時だった。

 目前の曲がり角から突如姿を現した何者かが三人に声を掛けた。

「おい! マイスイートハウスで何をしている!」

 そう言って腕を組んだのは、この住宅の持ち主であるナンバー2だった。

 ナンバー5はとことん面倒くさそうに答える。

「あなたを探していたのですよ」

「私を?」

「私の後ろの二人がまだ目に入らないのですか?困った事があってあなたに助けを求めたいそうだ」

 そう言われてナンバー2はナンバー5の背後を凝視する。

 そして、

「おお! ハルシオンではないか! そして隣に居るのが……ハルシオン??」

 最初こそ声を大にして言うが、その声量は自信を失うように小さくなっていった。

 そうして混乱するナンバー2を見かねるナンバー5がハルシオン姉妹に言う。

「自己紹介でもしてやると良い」

 「はい」と声を揃えて返事をする姉妹。

 次に夢見が頭を下げて言った。

「夢見ハルシオンです。今日は妹の微睡の頼みで、状況をきちんと理解もさせて貰えずここへ訪れました。よろしくお願いします」

「微睡ハルシオンです。助けてください」

「そう言う訳だよ」

「ん? 私も状況が上手く理解出来ないが、ハルシオンが私の助けを求めているのは分かった。まぁ、約束したんだ。私で良ければ話を聞こう」







「ただいまーです」

「よしっ、ちゃんとナンバー2を連れて来れたみたいだね。じゃあ私はナンバー5とナンバー2と作戦を立てるから、少し休んで置くと良い」

 あれからハルシオンは組織へと再び戻っていた。

 しかし偉い方三人はそのまま会議室へと籠ってしまい、ハルシオンは暇をもて余す事になる。

 一刻も早くオレゴンを助けたいのに。ハルシオンの焦る思いはそのキャパシティを越えて、行動に出てしまっていた。

「おいおい。何をウロウロとしているんだお前は」

 同じ場所を世話しなく周回するハルシオンに、アルデハイドが声を掛ける。

 その手には缶ジュースが握られており、それなりにくつろいでいる様子だった。

 ハルシオンはその場であしぶみしながら答える。

「だってこうしている内にもリーダーが……」

「だがそうして彷徨いてもしょうがないだろう?ほれ、これ飲んで気でも休めろ」

 そう言って投げるように差し出したのは缶ジュースだった。

 ハルシオンはそれを慌てて受け取る。

「あ、ありがとー……。何から何までー……」

「ほんとだぜ。お前の為に私はここで働く事になったんだからな。逆にジュースの一本くらい飲まして欲しいくらいだ」

「このお礼はちゃんとしますねー……」

 ハルシオンはそう言って缶ジュースのプルトップを引いた。

 プシュッと軽快な音を鳴らし、そこで初めて貰った飲み物が炭酸飲料である事を知るハルシオン。

 炭酸は苦手なんだけどなー。と貰った物に心の中にケチをつけるハルシオンに、悲劇は訪れた。

 あろう事か炭酸飲料がそのまま凄まじい勢いで吹き出したのだ。

「ちょ! ちょっ! ちょっと!! アルデハイドさん!? これはどう言う事ですかー!!」

 片目を閉じて缶の飲み口を押さえながら猛抗議するハルシオンに、アルデハイドは笑って言う。

「少し元気でたろ?」

「もー! これは元気が出たんじゃ無くて、怒ってるんですよー!」

「はは、そうしてる方がお前らしいや」

 そこでやっと缶ジュースが勢いを落とし始めた。

 ハルシオンが横目でアルデハイドを睨む。

「まぁ、そんな顔すんなって。お前にちょっと言っておきたい事があってな」

「なんですかー?」

「魂の禁断術についてさ。先に言っておくが、このままではオレゴンの命が危ない」

 突然に真剣な表情をするアルデハイドに釣られるハルシオン。

「それは……私もなんとなく分かってますよー」

「そうか。だったら話は早い。今のオレゴンは誰とだか知らないが、分離させられてしまっているのだろう。それはお前も知ってるな?」

「はい」

「じゃあ、片方が命を落とせばそのまま片方も死ぬと言う事は?」

「やっぱりそうなのですね……薄々感付いてましたよー……」

 ハルシオンは以前に見た桜渦との夢を思い出していた。

 徐々にその表情を曇らせていくハルシオンに、アルデハイドは真剣な表情のまま続ける。

「オレゴンを助けられる方法があるのはあるらしいぞ」

「え!?」

 下がっていった頭を上げるハルシオン。

 アルデハイドは大きく頷いた。

「言っとくが方法があるだけで、それを試す事も難しいんだ」

「それはなんですか? 勿体ぶらないで教えてくださいよ」

「……分離させられている体側の人間の魔力を極限まで下げるんだ。つまりオレゴンの魔力を、魔法の一つも使えない程に下げてやれば良い。お互いに魔力を共存する……いや体側の魔力を頼って存在している精神側の人間はそれで消滅してしまう」

「どうやって……」

「それが簡単じゃ無いから困っているんだ」

「魔力を下げる……。難しいですね……」

 ハルシオンはそこで顎を撫でて考え込む。

 そこへ会議室から戻ってきた少女が声を大にして言った。

「これより、竜巻が渦巻く森へ突入する!」

「あ!」

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