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新たな問題

「よぉ」


「アルデハイドさん!?」


 いつもの調子で部屋に訪れたアルデハイドに、ハルシオンは驚きが隠せなかった。

 そうしてまるで猫のように警戒するハルシオンに、アルデハイドは笑って言う。


「そんな警戒するなって。今日はな、依頼に来たんだ」


 ハルシオンの警戒は解けない。

 玄関へ続く廊下へ視線を移すといつの間にか立っていた夢見も、猫のように警戒していた。


「私は肉食動物か何かか……?」


 まるで囲まれて威嚇されているような感覚を覚えるアルデハイドはこめかみをポリポリと掻く。

 改めて思い返せば、二人のこの対応はなんら不思議ではないなと思うアルデハイドだったが、このまま門前払いされるわけにはいかないと続けて話し出した。


「単刀直入に言うぞ。私達と共に調査してほしい事があるんだ」


「調査?」


 隣のオレゴンが大きな疑問符を浮かべて聞いた。

 アルデハイドは腕を小さく広げて答える。


「あぁ。魂の禁断術。オレゴンやレムの状態がどうやって作られたものか。それを探ってほしいんだ」


「……なぜそんな事が知りたい?」


「それは私が……レムの……」


 アルデハイドはそこで夢見へ視線を映す。

 その芯の通った目を見て、夢見は察した。

 小夜の事を知っている人物だと。

 ハルシオンにはその事をどうしても伝えたくない夢見は、ハルシオンに分からない程度に首を横に振った。

 アルデハイドもそれを確認してから続きを話し出す。


「レムの友人なんだ。だから友達の事を知りたいと言う要求は別に不思議じゃないだろ?」


「それはそうだが……俺はレムからジョーカーを止めるように言われているしなぁ」


 アルデハイドはそこでため息をついて呟く。


「やっぱりそうか……」


 その呟きにオレゴンが怪訝そうな表情を浮かべる。アルデハイドはそれを晴らすかのように続けた。


「私はそうしたくないんだ」


 まだ理解が及ばない様子のオレゴン。

 アルデハイドはずかずかと進み、ソファに腰掛けてから言った。


「レムは嫌がってるが、ジョーカーはレムを分裂させようとしている。そして私が友達と呼ぶのはその片割れ。私からすれば元の友達に戻って万々歳。そう言う訳だ」


 オレゴンも向かいに腰掛ける。


「すまないが俺個人の要望としても分裂させる訳にはいかないんだ。それに分裂と言ってるが、本当に綺麗に別れるものなのか?」


 その疑問に関してはオレゴンだけで無く、ハルシオンも夢見も疑問に思っていた。

 皆の視線が集中する中、アルデハイドは堂々と口を開く。


「分からない。分かるはずもない。……だから調べるんだ。……最後に聞く。どうしても協力は出来ないか?」


 アルデハイドの最終確認にオレゴンは思わず黙って考え込んでしまう。

 沈黙が訪れ、先程までは聞こえなかった掛け時計の時を刻む音が静かに響いた。

 そしてオレゴンが出した答えは、


「俺はジョーカーを止める道を探したいと思う。だから……今回の依頼は受けられない」


 依頼の拒否だった。

 アルデハイドは何を思ったのか、そこで小さく鼻で笑う。

 そして次に取った行動は潔く引き下がる事だった。


「だったら仕方ない。お互い頑張ろうぜ」


 座ったばかりだと言うのに、アルデハイドはすぐに席を立ち、背を向けて去っていく。

 オレゴンもハルシオンも掛ける言葉なんてものは無かった。

 ただその背中を見送るだけ。

 しかし、そうして廊下を過ぎて行くアルデハイドとすれ違い様に夢見は声を掛けた。


「私が協力する」


 ハルシオンが跳び跳ねるように立ち上がる。


「おねぇちゃん! どうして!?」


「レムが……元に戻るなら……。それに賭けても良いと思ったからー」


 やんわりと俯く夢見。

 ハルシオンには理解できなかった。姉が何を考え、そして何をしようとしているのか。

 姉が馬鹿な人間じゃない事は一番良く知っているし、そこにきちんとした意志があるのも分かる。

 きっと姉なりにより良い結果を求めての行動なのだろうと容易に想像できるが、ハルシオンには……妹であるハルシオンにはその真意は分からなかった。


「おねぇちゃん! どうしてそう思ったのか教えてよ!」


「……微睡。今は言えないわ。けどいつかちゃんと話すから」


 どうして自分に相談してくれないのか。ハルシオンは言葉を失う。

 昔からそうだった。

 幼少期の時代から、悩ましげな表情を浮かべてたとしても、それを妹に明かす事は無かった。

 いつも一人で考え、一人で解決する。

 ハルシオンはそれが、とてつもなく寂しくも悲しかった。

 自分は信頼されていない。恐らくそうでは無いのだろうけど、そう思ってしまう。

 自分に心配をかけたくないだけ。そこも分かっていた。

 けど、だとしても、唯一の姉妹である自分に弱音の一つくらいは吐いて欲しかった。

 このやり場の無い気持ちは、ここぞとばかりに暴発する。


「おねぇちゃんって……いつもそう……。私に何も言ってくれない」


「微睡?」


「もう知らない……! おねぇちゃんなんて知らない! いつもいつも一人で抱え込んで!! 私が何も感じてないと思ってたの!?」


「けどあなたに迷惑を掛ける事でも無――」


 動揺する夢見にハルシオンは叫ぶ。


「――勝手にすれば良い!! 出てって……!」


 夢見に背を向けるハルシオン。


「オレゴン君。お世話になりました。このお礼はまた必ず返します」


 夢見は困惑するオレゴンにそう言って一礼し、アルデハイドと共にこの場を去った。

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