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現る

「お目当ての物は手に入ったわ。あなたのおかげよ。それで報酬の一つであるレムと言う方の事なのだけど、これでどうかしら?」


 転送された先、女性の声が頭上からすると同時に背中に暖かいものを感じた。

 視界がはっきりしない。転送魔法や召喚魔法特有のものだった。魔法の熟練度が低い物ほどこういった違和感が生まれ、転送された事実を知る事が出来る。もっとも転送魔法や召喚魔法自体、誰もが扱えるような難易度ではないのだが。

 そんな事を考えながらもオレゴンは、周囲に気を張った。白い視界から少しずつ情報が流れ来る。

 オレゴンの目前にはそう遠くない過去に見た事のある風景。ここはレムの探索に来た遺跡の内部だった。

 そしてオレゴンはそこである事に気付く。


「何を!?」 


 女性の声がずいぶんと至近距離から聞こえるなと思えば、その女性に背後から緩く抱き付かれている形だった。

 オレゴンは慌てて女性と距離を取る。すると先程までは見えなかったものが見えた。


「どう言う……事だ?」


 微笑む女性の背後には顔の知れた人物が居た。それも複数人居る。

 右から順にアルデハイド、レム、オカマの青年。

 この三人が繋がっている事はあらかた予想していたが、こうも一斉に揃って出てくるとは思っていなかった。

 そしてアルデハイドの言った言葉は脳裏によぎる。

『あいつは召喚魔法、転送魔法の使い手だからな』

 

「レムに召喚されたのか……?」


「そうよ」


 そう言って背中を向ける女性。その女性の背からは血が流れ出ていた。

 ……アンソウシャブルによって作られた傷か? とオレゴンは考えたが、そうなると背以外には傷が無くそこだけに傷が残るのも不自然だった。それにそもそもこの女性が受けた傷を瞬時に回復させている手段も分からない。

 オレゴンが顎を抱えていると、女性が横目でオレゴンを見つめ言った。


「でも召喚の対象は私。あなたは私に触れていた事によって、無理矢理ここへ連れてこられたのよ。もっとも私がそうさせたのだけどね」


 オレゴンにはレムの意図も女性の意図も掴めなかった。ただただ頭の上に疑問符を並べる事しか出来ない。

 そんなオレゴンを見かねて、レムが言った。


「邪魔な者が付いて来たな。私はお前には用は無いと言うのに……すぐに消してやろうと思ったが四大貴族でもあるお方が、なぜかお前をお守りになられる」


 レムの芯の通ったハッキリとした声。違和感を感じた。

 前に聞いた声とは印象が全く違って聞こえる。

 そしてその声にも疑問を抱いたが、内容もまた疑問を抱かせるものだった。


「守る……?」


 オレゴンはもしやと思い、女性の背に視線を向ける。

 

「銃弾を数発撃ち込んだが、何故か体を張ってお前を守ったんだ」


 想像通りだったが、それはそれで納得の行かない行動だった。

 女性は怪訝そうなオレゴンの顔を見て、その曇った表情を晴らさせるように答える。


「特に深い意味は無いわ。あなたに報酬を支払う前に死なれるのが依頼主として不服だっただけよ……」


 女性はそこでレムへ視線を戻して続ける。

 背の傷は既に完治していた。


「さて、私がわざわざあなた達のレベル低い召喚魔法に乗っかって来た理由は分かるわよねぇ?」 


 両腕を広げて尋ねる女性に、レムが笑みを浮かべて答える。


「えぇ、憎きジョーカーへの復讐。私とあなたの共通の利害」


「素晴らしいわ。まさかジョーカーの位置を掴める人間が居たなんて、噂は本当だったようね。レム? それとも……小夜さよちゃんとでも呼べば良いかしら?」


「……私はレム」


「そう。どちらでも構わないのだけど……さっそくジョーカーの召喚をして頂けると嬉しいわ」


 女性が歩みを進める。

 遺跡の中央には大きな壺。

 にやりと笑みを漏らすレムはその大きな壺の中に小包を投げ入れると、魔法名を呟く。


「混成召喚魔法『ゲート・アルターレ』」


 オカマの青年が両手を掲げ、アルデハイドも気だるそうに片手を上げた。

 そして壺から白い煙が噴出したかと思えば、すぐにその霧は晴れる。そこに見慣れぬ人影を残して。

 「召喚魔法とはこんなあっさりとしたものなのか……」とオレゴンが小言を漏らす。

 皆の視線を集める中、壺の前に現れた人物は深く、紳士的なお辞儀をしていた。


「あ、初めまして。こんにちは」

 

 そう言って笑顔を上げる少年。

 オレゴンは驚きが隠せなかった。

 まず容姿が真面目な学生服な事。ジョーカーと言うくらいだから派手な服、下手すればそれこそ道化師のような恰好をして、白塗りのメイクの一つくらいしても逆に驚きはしなかっただろう。

 そしてオレゴンは服装だけでなく、その顔立ちも驚かさせられる。

 その少年の顔にはあまりにも特徴が無かった。普通に整った顔に、過去に凶悪な事件を起こした本人とは思えない程に穏やかな表情。そして清潔感溢れる黒い短髪。良く言えば平凡、悪く言えば当たり障りの無い顔。

 そしてこの礼儀正しい態度であった。

 オレゴンはここで召喚魔法の失敗を思わず疑う。


「ジョーカー、久しぶりね」


 女性がその少年を指してジョーカーと呼んだ。

 どうやら間違い無く、ジョーカーが召喚されたようで、オレゴンの疑いは一瞬にして晴らされた。

 そこでジョーカーと呼ばれた少年は女性を見て返事をする。


「あっれー? おばさんこんな所で何してるの?」


「龍の遺産。返して貰おうと思ってね」


「……あぁ、あれの事か」


 急に真面目な顔をするジョーカー。

 そのまま女性に歩み寄りながら続ける。


「あれは返せない。だって……僕がジョーカーであるのに必要な物だから。とでもかっこ良く言っておけば納得出来る?」


 後半に連れて徐々に顔をだらしなくしていく。

 目前に立つ女性は微笑んだまま、黙ってジョーカーの腹部にナイフを突き刺した。

 唐突に行われた出来事に思わずオレゴンが衝撃を受ける。

 そんなオレゴンにアルデハイドが近寄りながら言った。


「おい、離れた方が身のためだぜ。とばっちりを食らうぞ」


 そのままオレゴンの肩を押した。

 しかし少年の悲痛の声がオレゴンの足を止める。


「い、痛いよ……! いきなり何て事をするんだ!? こんなの人のする事じゃない……! ひ、人でなし!」


 体を丸めて腹部と同時に口から血を流している。

 オレゴンはやはり疑いを晴らしきれなかった。

 

「本当にジョーカーなのか?」


「あぁ、間違いないぜ」


 アルデハイドの言葉とは裏腹に、ただの少年にしか見えないジョーカーは、痛みからかそのまま音を立てて地に倒れこむ。

 そこへ女性は側頭部に靴底を置いた。頬にヒールが食い込む。

 強く踏みつぶしているのだろうか、ジョーカーの掠れたうめき声が響いた。


「や、やめて……。僕が何をしたって言うんだ……。やめて……ください。死んじゃう……。助けて……」


「や、やめろ! お前たちに何の関係があるかは知らないが、こんな一方的なものはやはり納得がいかない」


 思わず静止に入るオレゴン。この光景に吐くような惨たらしさは無かったが、心が痛むような感覚をオレゴンには与えた。

 それを聞いて靴底の下に居ると言うのに、本当に心の底から嬉しそうな表情をするジョーカー。


「君は僕の味方をしてくれるのか!? 神様! こんな僕にも友達をありがとう! 君とはなんだか仲良くできそうな気がするよ」


 その嬉々とする顔を見てアルデハイドが叫んだ。


「やめろ!」


 それと同時に女性が頭部を強く、惨たらしく踏みつぶした。

 そしてなにがなんだか分からない状況の中、


「僕はジョーカー。誰かがそのカードを引く。今回、不運なジョーカーを引いたのは君だった」


 女性の後ろから声がする。

 慌てて女性が振り向くと、足元に視線を落とすジョーカーが腹部から垂れる血を押さえて苦しそうに微笑んでいた。

 オレゴンがその視線を恐る恐る追いかける。するとそこには女性に頭部を潰されたオカマの青年が靴底の下で果てていた。


「ジャック!!」


 咄嗟に身代りにされたのだろう。

 アルデハイドが慌てて駆け寄り、懐から取り出した小瓶を振り、魔法液を掛ける。

 そしてその青年を背負うと、早々に遺跡の外へ抜け出した。

 オレゴンは戦慄する。いとも容易く行われたえげつない行為を目の当たりにして、ジョーカーにのみならず、この場の状況に戦慄した。

 そして次は自分かも知れないと言う恐怖が膨れ上がり、急激な吐き気に襲われる。

 気持ち悪い。死体には慣れているつもりだった。しかし今回ばかりはジョーカーの気分次第では自分がそうなってもおかしくないと言う恐怖と緊張が相まってか、その圧力に押し潰されそうになる。

 そしてオレゴンと同じように顔を青ざめさせるジョーカーが首を傾げながら言った。


「あの人、なんであんな急いで出て行ったの?」


 胸の鼓動が早くなる。一気に高まる緊張。ジョーカーの本質を知ったオレゴンは冷や汗が止まらなかった。この場に居合わせた事に後悔する。

 女性が背後へ振り向き際にナイフを大きく振り払うが、ジョーカーはそれを人差し指と中指で挟んで止めた。

 唇を噛んで睨む女性に、ジョーカーは無理に得意げに笑って言う。


「この世界のありとあらゆる刃は僕の味方だ。っとか言われてそうな顔してるぜ?」


「そのふざけた性格も変わってないのね」


 女性はそのまま回し蹴りをする。それをジョーカーは回避する事も無く、顔面で受け止め地を転がった。

 顔を両手で押さえて悶えるジョーカー。

 強いのか弱いのか良く分からないそのジョーカーをオレゴンは警戒しつつ、レムに近寄った。


「……レム。お前の目的はなんなんだ?」


 オレゴンの問いにレムは杖を取り出し答えた。


「ジョーカーの死。ただそれだけだが……そうだな、微睡様の力を持つお前も殺しておこうか」 


 レムがその杖をオレゴンに向け、


「上位光魔法『ラド』」


 魔法を詠唱する。不意に杖の先が淡く光り、あまりにも突然すぎる攻撃にオレゴンは成す術が無かった。

 しかしその間に割って入ってレムの光魔法を受け止める者が居た。


「ジョーカー……!?」


 至近距離で放たれた光魔法によって背中までもズタズタにされたジョーカーを見て、レムは驚きが隠せなかった。

 女性が今にも崩れ落ちそうになるジョーカーに歩み寄って行く。


「どうしてあなたが身代りになったのかしら?」


 ジョーカーは激しく動揺するオレゴンの前で息を切らしながら言った。


「……まぁ、僕はジョーカーだからね。皆に平等な存在だから、誰にだって悪にも善にもなる」


「そう。でも傷は大丈夫? かなり辛そうな顔してるけど?」


「君はババ抜きを知らないのかい? 最後まで生き残るのは……そう、僕さ」


 ジョーカーはそこでにこやかに笑って見せた。誰が見ても無理をしているように見える。

 女性はジョーカーのその態度が気に入らないのか、ジョーカーの目前に立ち、嘲笑を浮かべて言った。


「ふふ、一人寂しく残されるのは嫌われ者だからでしょ? 誰にも望まれていないだけなのに、えらく前向きに考え方なのね」


 ジョーカーもまた、負けじと両手を広げて豪語する。


「嫌われ者? それは違うよ。嫌われ役なのさ。ほんとは皆、『ジョーカー』を望んでいる。もしトランプから『ジョーカー』が失われてしまったら、ゲームを楽しめなくなるだろ?」


 右手の親指を首に当て、左から右へと移動させて挑発するジョーカー。  


「生意気な口を利くのもそこまでね。止めを刺してあげるわ。泣いて命乞いをするなら今よ?」


 低い声でそう言った女性の視線は痛いほどに冷たかった。見ているだけのオレゴンすらも、女性のその冷たい怒りに恐れ戦く。

 その言葉がもし自分に向けられたものだと考えると身が震える。そしてその先に待つものは恐らく死、まのがれようの無い残酷で惨たらしい死だろうと、オレゴンは容易にその考えに辿り着いた。

 それほどに女性からは真剣で純粋な怒りを感じる。そしてそれは研ぎ澄まされた殺意となり、普段は微笑んでいる事の多い女性に鬼のような形相をさせているのだろう。と結論付いたと同時に一つの疑問が生まれた。

 どうしてジョーカーはこれほどに女性の恨みを買っているのだろうと。

 そう考え込むオレゴンの前で、当の本人であるジョーカーはオレゴンの予想を大きく超えた行動に出た。


「ごめんなさい。助けてください。生意気な口利いてすみませんでした。まだ死にたくありません」


 女性に対して膝を付いて身を屈め、潔く土下座をしたのだ。

 ジョーカーが屈んだ事によって見えたレムも驚愕の表情を浮かべている。それを見てオレゴンも自分もあんな顔をしているのだろうと思った。

 それにしても先程からジョーカーの動向がまったくと言っても良い程に掴めない。

 そもそもどうしてジョーカーが自分を庇ったのかも分からなかった。


「助けるわけ無いじゃない。あなたってほんと馬鹿ね。やっぱり死んで貰わないと私の腹の虫は収まりそうにないわ」


 冷ややかな表情を向ける女性がジョーカーの顎を蹴り上げる。

 そのまま仰向きになったジョーカーが尻で後退りしながら言った。


「ひ、酷いよ。こんな醜態まで晒したと言うのに。あんまりだぁ!」


 そしてオレゴンの足に背をぶつけ、涙を流すジョーカーがオレゴンを見上げて言った。


「と、友達の君なら僕を労わってくれるよねぇ!?」


 溢れ出る悔しさを歯を食いしばって堪えるジョーカー。

 そしてそのジョーカーが発した友達と言う単語を聞いて、オレゴンの中で一つの仮定が浮かんだ。

 もしやこのジョーカーと言う少年はオレゴンが女性を静止させようとした事をきっかけにオレゴンを友と認め、そして光魔法からオレゴンを守った。オレゴンはその結論に辿り着き、そしてそう考えれば考えるほどそうとしか思えなくなる。

 またそうであっても無くてもジョーカーがオレゴンを守ったのは紛れも無い事実なのには変わり無く、オレゴンは返答に困った。


「……そ、そうだな」


「分かってくれるのかぁ! 君なら分かってくれると思った! だったら僕も覚悟を決めた!」


 ジョーカーは勢い良く立ち上がると素早くオレゴンの背後に回り込み、オレゴンの首に腕を回して続ける。


「僕は唯一の友達と自害する!」


 冗談だろう? と高を括るオレゴンだったが、その行為はこれ以上に無くあっさりと行われた。

 自分の首から液体が噴き出す感覚。視界を覆う赤い霧。そして走る激痛。

 ジョーカーはどこからとも無く取り出したナイフでオレゴンの喉を裂いていた。

 瞬時に薄れていく意識。はっきりとしない視界の中で背後から前方に掛けて霧状の紅い液体が飛び散っていくのが見えた。

 宣言通り、ジョーカーも自害したのだろう。と動かない思考を無理に働かせていると、不意に目の前が真っ暗になった。

 死ぬのだろうか? 驚くほどに自分は冷静だった。


「大丈夫かしら?」


 微かに聞こえる女性の声。もうその声すらも掠れて聞こえる。もっと心配してくれても良いだろうに。そう思わせたその言葉を最後に、オレゴンは急激に意識を回復させていく。

 音が鮮明に聞こえ、視界が明るくなっていく。そして目前には微笑む女性が、自分の喉に触れていた。先程まではあった響くような激痛も無い。

 思わずオレゴンは自分の喉を両手で確認する。女性の手の平越しに感じる皮膚は、しっかりと繋がっていた。

 過呼吸になって何度も息を吸い込むオレゴンは不意に背後へ視線を向ける。


「本当に……自分で……」


 そこには仰向けに横たわるジョーカーが首から大量の血液を流していた。目も虚ろになり満足に息が出来ないのか、静かに喉で風を鳴らしている。

 オレゴンはその光景を見て、自分がどうして無事なのか疑問に思った。

 そしてすぐに一つの仮説に辿り着く。


「助けてくれたのか……?」


 女性へ改めて視線を向けると、またいつものように微笑んでいた。その笑みは自分へ向けてものなのか、あるいは結局一人で自害する事になったジョーカーに向けてのものなのか、判断するには至らなかったがそこから一つだけ分かる事があった。

 それはこれ以上に無く恍惚とした笑みであるという事。頬を赤く染めて、うっとりとした表情はまさしく女性が満税として言う事を分かりやすく感じさせる。

 思わず反応に困ってしまうオレゴンに、我を失っていた女性はハッとして言った。


「え、えぇ。まぁ、結果的にそう言う事になるわね」


 どこか引っかかる言い方だった。それでとオレゴンを助けたのは、何かの付加価値に過ぎないと言ってるように感じさせる表現だった。

 そもそもどうやって自分を助けたのかもまだ定かでは無い上に、女性の意図もまったく掴めない。

 オレゴンは恐る恐る尋ねる。


「僕を助けた目的は……? それにどうやって……」


 さっきからずっとジョーカーを眺めて居る女性は、改めてオレゴンに視線を移すと首を傾げて言った。


「……別にあなたを助けた訳じゃないわ。ただジョーカーは悪戯いたずらにあなたの命を奪って自害する気なんて無かった。そう言う子だもの。だからね? あなたを殺そうと思った手段を……痛みを用いて自分が殺されればどんな反応をするのかな? って」


 それはそれは楽しそうに言う女性は再びオレゴンの喉に手を触れ、そのまま顎にかけて撫でる様に移動させながら続ける。


「私の魔法は痛みや損傷。もっと平たく言うとダメージを司る魔法なの。だからあなたのこの痛みを、そのままジョーカーに移してあげた……それだけよ」


 そこで似合わない無邪気な笑みを浮かべる女性。

 オレゴンはそこで全ての謎が解けた。

 アンソウシャブルと戦っている時、痛めつけられても痛めつけられてもすぐさま立ち上がり対抗出来た事も、背中の銃弾の跡がすぐに完治したのも、そして自分の傷を治したのも、全て女性のこの力によるものだった。

 言葉で語る分には簡潔な事この上ない強力過ぎる力に、オレゴンは絶句する。

 そしてこれほどに強力な力を持つ女性を一方的に退けたアンソウシャブルの異常性を思えば、この世界に強さの果てなど無い事を知ったオレゴンだった。

 今回ばかりは悪名高いジョーカーも敵が悪かったとしか言いようが無いな。とオレゴンがそう思う矢先、そのジョーカーの元気そうな声が耳に届いた。


「ひどいなー。君なら一緒に死んでくれると思ったのにー」


 気が付けばさっきまでは虫の息だったジョーカーが自分の喉を撫でで立っている。

 相変わらず血塗れではあったが、喉の外傷は完全に治っていた。

 そこへ女性が返事をする。


「死ぬ気なんて無かったのでしょう?」


「……死んださ。すっごい痛いんだぜ? 死ぬのって」


 鋭い目で女性を睨むジョーカー。

 一度は生死を彷徨い、祖父の力を借りなければ死んでいたオレゴンにとってはすごく共感の出来る言葉だった。

 ジョーカーはそこで小さく腕を広げて続ける。


「ただ僕の場合は死んでも、再ゲーム出来る。だってそうだろ? ゲームは繰り返し行うものだ。残されたジョーカーは再びカードに混ぜられ皆に配られ……と言う訳で。さぁ、二回戦と行きますか」

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