夢。警告
「やぁ。……元、恩人」
疲れ果てて眠ってしまったハルシオンはこれが夢だとすぐに理解した。
目前には桜渦と名乗った女性。ただ今回は様子が違い、その全身の至る所に釘が刺さっていた。
なぜ自分はこんな夢を見ているのか。ただ散らかってしまったオレゴンとの共同の宅を掃除し、疲れて眠ってしまっただけ。こんな夢を見るきっかけは無かったはずだと、ハルシオンは眠るまでの経緯を整理する。
「君の夢に現れるのには苦労したよ。まぁもっとも私には何も出来なかったけどね」
続く桜渦の言葉に、ハルシオンはこの夢が自分の意思だけで見た物では無い察した。要するに桜渦がなんらかの方法で干渉してこの夢を見せているのだろうと推理する。
が、その推理はすぐに崩される。
「私から君に干渉はしていない。心身の弱った君が偶然にもそのタイミングでオレゴンを強く思った事によって、君の中に眠るオレゴンの力……すなわち私がここに呼び覚まされた。君にもコンタクトを取ろうと思ったんだけど生憎様、こんな状態の私からは難しくてね。君から接触してきてくれた事は素直に嬉しく思うよ」
辺りは見渡せば何も無い真っ白な空間。そこで二人は向かい合うように立っていた。
「私は別にあなたと接触したいとは思ってませんがねー」
「まぁ、そう言うな。暇潰しに会話をしよう。有益な情報が得られるかも知らないよ? 例えばそうだな、私は一度辻風の体を使って君と話した事がある。とか」
「貴族の屋敷の前の話ですねー。なんとなくそんな気はしてましたがー」
ハルシオンがそっぽ向く。するとその視界の端で桜渦の体がノイズが走った。まるで電子器具の画面のように桜渦の体が乱れている。
慌てて視線を戻すと、元通りの桜渦だった。
「本来ならば君とは無縁な存在だからね私は。君が遮断すれば私とのやり取りはそこまで。背を向ければ目が覚めるよ。ただ、その前に一つ重要な忠告をしてあげようと思ってる」
「……なんですかー?」
ロクでもない事だろうなと思いつつも、ハルシオンは素気なく聞いた。
桜渦はニヤリと笑って答える。
「穏便に話しているが実は私はすごく怒っている。だから君たちに復讐をしようと思ってるから覚悟をしておくように。っと怖い事だけ言うのも、あれだからそろそろ有益な情報を一つ。君もそれの為にここに居続けているのんだろう?」
図星だった。と言うよりは話していて感じたが夢の中だからか、もしくオレゴンの力が流れいるせいか、桜渦は多少なり心の中を読んで見透かしている気がする。
ここで下手な反応をしても野暮だなと思うハルシオンは素直に尋ねた。
「そうですよー。だから早く教えてください」
桜渦はそこで一段落置いて返事をする。
「私と辻風は共通体。お互いに作用しあうのさ。利口な君ならこの意味はすぐに分かるはずだ。そして大サービス。辻風が私の力を望めば望むほど、この体に刻まれる忌々しい封印が解き放たれていく。お前たちが今の生活を続けてくれれば復活するのも時間の問題。そうさせたくないのであれば、前線から退く事だ」
「……そんな素直に言ってしまって良いんですかー?」
そこに隠された桜渦の意図が無いか疑うハルシオン。
そんなハルシオンの心を読むように桜渦は答えた。
「罠だと思っているのだろう? こう見えて私は義理堅いんだ。君からの恩は返したよ。これで……心置きなく君も潰せる」
そう言った桜渦の表情は狂気に満ち溢れていた。
ハルシオンはそんな桜渦に冷ややかな線を向けながら、背を向けた。




