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突撃

「野郎……どこに逃げた……」


 いつにも無く険しい表情で呟くオレゴン。

 

「……でも当てがあるにはあるわ」


 オレゴンはそのままの表情で黒髪少女へ視線を向けて返した。


「例の巣窟。って所か?」


 黒髪少女は頷くと話を続ける。


「でもあなたには厳しいと思う。私が見る限り、あなたとあのハルシオンと言う子の実力は近いように感じるわ。そのあの子が人攫いから逃げる事が出来なかった以上、そいつはあなたより格上と容易に予想できる。と考えると、今回は大人しく学園に救済依頼を出した方が良いと思うわ。あの子の為にもあなたの為にもね」


「そんな悠長な時間があるものか。それに俺はハルシオンより強い」


「確かにそのようだけど、僅かに強いだけでしょ? それに対して、精神面では彼女の方が遥かに優れていると思うけど。貴方がリーダーなのが不思議なくらいにね。少なくとも、今の状況を整理出来ずに猪突猛進しているようでは、ねぇ」


「言うではないか。なるほど分かった、学園への救済依頼は出そう。しかし、大人しくとはいかないがな」


「どう言う意味よ?」


「なに簡単な事だ。お前を巣窟へ送り届けるまでが俺の任務。さらにそこから先は一切の指示を受け付けない。つまり俺も巣窟に突入する」


「なるほど……。だったらさっさと巣窟へ向かうわよ。大体の場所は、掴んでるわ。その前に必要な道具や武器を揃えるわよ」


 黒髪少女も負い目を感じているのか、小さな声で言った。


「サービスで金の掛かる救済依頼は私が手続きしといてあげるわ」







 汚い街並みから離れたさらに汚い街の隅。


「さて、この酒場が奴らの巣窟の入り口と見えるけど、どうする? 自然に入り込む? どれとも飛び込む?」


「一つ質問だが、この酒場はどうやって成り立っているのだ? 堕落者に乗っ取られもしたのか?」


「いいえ。堕落者が堕落者の為に建設し、表向きには酒場となっているけどその実態はまるで酒場として機能していないただのたまり場。言えば、酒場なんてものはカモフラージュに過ぎない。だから堕落者以外が中に入った所で門前払いってわけよ」


「だったら決まっているではないか。後者だ」


 オレゴンは酒場の扉を蹴り飛ばした。中に屯していた堕落者が一斉に視線を向ける。


「手を上げな!」


 オレゴンは両手に持つ二丁拳銃を堕落者に向け高らかに言った。

 しかし誰一人としてその指示に従う者はおらず、それどころか近くに居た堕落者はのっそり立ち上がると、今まさに座っていた木製の椅子を持ってオレゴンに殴りかかる。


「誰が椅子を上げろと言った」


 オレゴンは冷静に堕落者の腕を撃ち抜くと、


「旋転魔法『スパイラルショット』」


 魔法名を唱え、宙に落ちる椅子を派手に蹴り飛ばす。

 激しく回転しながら飛ぶそれは目の前の堕落者を吹き飛ばすと同時に四方に飛び散り、他の堕落者に小さな切り傷を作った。

 対して堕落者は、あっけなく行われたその攻撃に少し茫然とする。


「……? おいおいおい、俺は煽ってんだぜ? なにぼーとしてんだよ」


 オレゴンが言い終えると、半ば感情的になった堕落者たちが一斉に走り出す。


「おっと、それじゃあこれもさっきのも正当防衛という事で」


 またもオレゴンが言い終えると、今度はオレゴンの背後から黒髪少女が現れ、腕に抱えているマシンガンを連射しだした。

 窓ガラス、椅子、机、装飾品、酒、さらには堕落者を、部屋の端から端へかけて順番に破壊していく。

 一部の堕落者はとっさに身を隠し、難を逃れたが、この攻撃でほとんどの堕落者が倒れこんだ。

 そうして銃撃をやめ、静まりかえった所でオレゴンが言った。


「隠れてないで出てきたらどうだ?」


 オレゴンはそう言うと両手の拳銃を投げ捨て、両手を上げる。そのオレゴンの挑発を機だと判断した一人の堕落者がオレゴンへと襲いかかる。が、オレゴンは腰に手を回し拳銃を取り出して、襲いかかる男の足を撃ち抜いた。


「卑怯者……」


「うるさい」


 足元に転がる堕落者をオレゴンは睨みつけて蹴飛ばした。


「残りのやつらも出て来いよ。上位旋転風魔法『ウィンドミル』」


 魔法名を唱え、人差し指を上へ向けるオレゴン。そしてその指を中心に渦巻くように荒風が発生し、瓦礫と隠れていた堕落者もろともを盛大に宙に浮かせる。

 オレゴンはすかさず拳銃を宙を泳がさせられている堕落者たちに向けると素早く発砲し、さらに計5名の堕落者を戦闘不能させた。


「悪いな。日頃の行いを悔やんでくれ。さて、丁寧にも地下階段に蓋をしていた板も吹き飛んでくれた事だし、奥へと進むか」




  






「しかしすごいな、お前の作った魔法薬は。魔力が溢れ出るようだ。あんな上位魔法を簡単に扱えて気分が良かったぞ」


「それはどうも。でも忘れないでね。代償は薬の効果切れの後の大きな疲労感。覚悟しておきなさいよ」


 二人は薄暗く質素な階段を下りながら会話を進める。


「それにあなたに投与したもう一つの魔法薬。恐怖を感じなくする薬。これにももちろん副作用があるんだから、楽しみにするといいわ」


 二人はそのまま薄汚い廊下を歩き続ける。


「おっと待ちな」


 今まさに下ってきた背後の階段のからする声に視線を向ける二人。

 そこには階段を飛び下りて登場するラフな格好の金髪の少女の姿があった。


「おいおい、まさか同業者か?」


 歩み寄ってくる少女の問いかけに黒髪少女が答える。


「同業者? 悪いけど私にはそう見えないわ」


「そうか? 良くも悪くもお前は私とまったく同じに見えるぜ」


 少女は拳を握り、構える。


「ちっ、遊んでる時間なんてないと言うのに……」


「同業者は潰しておこうと思ってね」


 そこへオレゴンが割り込む。


「ここは俺が戦う。お前は先に行ってくれ」


「くさい台詞ね」


 黒髪少女はそう言うと、廊下を走り去っていく。


「と言う訳だ」


 オレゴンは拳銃を構えて言った。


「と言う訳だな」


 少女も復唱すると、一気に駆け出した。

 対してオレゴンは少女目掛けて銃を乱射する。


「上位保安魔法『セラミックプレート』」


 少女が素早く詠唱する。すると、少女の目の前に緑がかった半透明の壁が出現し、そこへ銃弾が被弾する。すると銃弾は時間が止まった様に静止し、そのまま力無く地面に落ちていった。


「上位魔法か……」


 オレゴンは拳銃を捨て、同じく駆け出す。

 そうして2人は同時に拳を放った。そしてその拳は勢い良く両者の頬にぶつかりあう。


「いってー……」


 捻られた首をさする少女に対して、オレゴンはどう言う訳か勢い良く吹っ飛んでいた。

 数メートル離れた位置で、疑った表情を浮かべながら立ち上がるオレゴン。そしてまたもや駆け出した。

 今度は少女がそのオレゴンを迎撃するように殴りかかった。しかしオレゴンはそれを懐に潜り込むように回避すると、カウンターに助走をつけたパンチを顔面にお見舞いする。

 思わず受けたその攻撃に、顔を押さえ後退りする少女。オレゴンは腹部に蹴りを追撃し、そのままなだれ込むような連撃を繰り出した。

 さすがに体制の立て直しすらまま出来ないほどに追い詰められている少女。しかしまったくの無抵抗と言う訳でも無く、闇雲に腕を伸ばすと、そこで運良くオレゴンの腕を掴んだ。少女はその機を逃さず、そのままオレゴンを力任せに引き寄せると、胸倉を両手で掴み上げ、廊下の壁に力任せに投げ捨てた。

 壁にひびが出来るほどの衝撃を受けたオレゴンはそのまま地面に倒れこんでしまう。


「くそが……」


 立ち上がろうとするが思うようにいかず、もがくオレゴンを少女は片足で抑え込んだ。


「接近戦でこれほどまでにパワーの違いがでるって事は、どうやら魔力に圧倒的な差があるようだな」


「何者なんだ……お前」


「ただの通りすがりの者さ」


「とことんふざけた奴だな」


「良く言われるぜ」


「強化魔法『ドーピング』」


 オレゴンは魔法名を唱えると、少女の片足を跳ね除け、無理矢理起き上がると少女を精一杯殴り飛ばした。

 先程のオレゴンの様に吹き飛び、廊下を転がる少女。


「身体強化系の魔法はやっぱり厄介だな」


 のっそりと立ち上がる少女に対して、オレゴンは腰にぶら下げていた小瓶を少女目掛けて投げる。

 そしてそれは、少女がそれを避けようとした時に、強烈に光り輝いた。


「くそ! 小細工なんざやめて正々堂々と戦え!」


 少女は目を押さえ、壁際にもたれ掛るまで後退りしながら言った。

 しかしオレゴンは何も答えず、もう一つの小瓶を少女に投げる。

 今度はその小瓶が破裂し、強烈な爆音を発生させ、少女の聴覚までも奪った。


「悪いな。そこで大人しくしていてくれ」


 オレゴンは無反応の少女を置いて、廊下を走り出した。

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