疲労
「結局あれからレムの情報は一切無しか……やはりアルデハイドからの連絡を待つしか無いのか?」
疲れ切った様子のオレゴンが薄暗い自室のベッドにパタリと倒れ込む。
遺跡での出来事を最後にオレゴン達は各々にレムの行方を捜していたが一向に足取りが掴めず、仲間内では諦め気味の雰囲気が漂っていた。
連日、情報収集の為、オレゴンがあちこちに足を運び続け、気が付いた頃には既に一週間が経過しようとしていた。
依頼主である夢見さえもオレゴン宅に居候し、ぐうたら生活を送っている始末であった。
「リーダー今日も頑張りましたねー」
自室を姉に提供するハルシオンがリビングからオレゴンの寝室へ、そしてオレゴンがうつ伏せに寝転ぶベッドに移動し腰掛ける。
無駄な物が一切置かれていないシンプルなその部屋には、徐々にハルシオンの私物が増えつつあった。
そしてハルシオンはそのうちの一つである枕元のアロマキャンドルに火を着ける。
「慌てたって仕方ないんですから、アルデハイドさんの連絡を待って普段の依頼を受けるのも立派な手だと思いますよー。最近、依頼増えた事ですしー」
ゆらゆら揺らめくキャンドルの灯をぼんやりと瞳に映すオレゴン。
漂い始める甘い香りが疲れ果てた体に染み渡る。
「夢見さんは良いのか?」
仰向けになるオレゴン。
「おねーちゃんは気分屋ですから、たぶん何も気にして無いと思いますよー。あ、今度アロマポットとアロマランプも持ってきちゃいますねー」
ハルシオンがオレゴンと川の字になるように寝転んだ。
そこからしばらくの沈黙の後、ハルシオンが言った。
「ねぇ、リーダー。まさかこうして同じベッドで寝転ぶ日が来るなんて思いもしなかったですねー」
「……」
オレゴンからの返事は無い。
不審に思ったハルシオンが横向きになって確認すると、オレゴンは既に眠っていた。
溜息を付くハルシオン。
「茶化してやろーと思ったのに、私より先に寝るなんて頑張り過ぎですよー。リーダー」
そうして微笑むハルシオンはオレゴンの手を握る。
「おやすみ、リーダー」
翌朝。いつもの席でコーヒを嗜むオレゴンは起きてからずっと浮かれない表情をしていた。
朝に弱いハルシオンも寝起きの妙に低いテンションで、ソファに腰掛けてはまだうつらうつらとしている。
またハルシオンの隣に座る夢見はこの重たい雰囲気を良く思っていないのか、せめて居候している身分なりに出来る事は無いかと必死に思考を張り巡らせていた。
「おっはよ!」
その時だった。まるで困る夢見に助け舟を出すかの如くエルが玄関から颯爽と現れる。
腕を高く振り上げて元気に朝の挨拶をするエルに、夢見は合わせる様に立ち上がると上げられたエルの手の平にハイタッチ。そして元気良く言った。
「エ、エルちゃん! おっはよー!」
少し無理をしている感は否めなかったが、それでも俯くオレゴンの顔を上げる事に成功した。
「あぁ、おはよう」
目に見えて元気の無いオレゴンにエルが歩み寄って顔を凝視する。
「オレゴン君、元気ないよ! はい! おっはよ!」
両手を上げるエル。
オレゴンが困った顔をしてエルを見上げていると、エルはオレゴンの両手を握り高く持ち上げて言った。
「おっはよ!」
「お、おっはよ!」
エルは辛うじて残されたオレゴンの元気を引き出すと満足げに頷く。
「よし! そう言えばオレゴン君、朝ご飯食べた?」
「まだだが……」
「だから力が出ないんだよ! 男の子なんだから朝からしっかり食べないと! って言う訳だから台所借りて良い? 僕意外と料理得意なんだよ!」
「台所を貸す分には一向に構わないが作らすと言うのは……」
困るオレゴンを他所に、エルは台所に向かいながら言った。
「良いの良いの! お世話になってるし、これくらいさせてよ!」
「わ、分かった。ではお願いするとしよう……」
夢見はオレゴンが納得したところを見て、同じく台所に駆け出す。
「じゃあ私も手伝うー」
そうして台所から女子2人の楽しげな会話が聞こえてくる。
ハルシオンは起きたばかりだと言うのに、睡魔に負けて眠っていた。




