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鳴り損ねた口笛。寄生虫

「それは本当か、エル?!」


「間違い無い確かな情報だと思うよ。あのクラブには情報をお金で売る業者がよく居るんだ。じゃないと僕もあんな場所に連れていかないよ」


 リニアモーターカートレーン内で車窓から夜の景色を眺める夢見の隣で、オレゴンとエルが会話をしている。

 オレゴンは肩に頭を預けて眠り込むハルシオンを気遣い、体を動かさない様に返事をした。


「ナンバー5の組織に情報を流す奴が居た事も驚きだが、その内容が本当だとしたら驚く程度では済まされないぞ……」


「え、そうなの?」


 真剣な表情をするオレゴンに、エルは隣で同じく真剣な表情をする夢見を一瞥してから言った。二人の表情からはどう考えてもプラスの物は感じない。

 エルが疑問を抱いていると、その疑問を晴らすように夢見が答えた。


「エルさんの情報が正しければー、レムがしようとしている事はとある卒業者の召喚魔法……」


 答えを聞かずして、エルが間髪入れずに補足を入れる。


「そうだね。そしてその為の準備を整えてるって話だよね」


 夢見は一度頷いてから続けた。


「問題はその卒業者の方なんだー」


 まだ真意が見えないエルが首を傾げていると、オレゴンが夢見に代わって言った。


「その卒業者の名はジョーカー。昔ナンバー1だったそいつは、その当時のナンバー2からナンバー9を虐殺。そして行方をくらませている。俺達やレムが仮にも戦えるような人物じゃないんだ」


「そ、そうだったんだ。知らなかった……」


 そんな恐ろしい人が居るんだと恐怖して驚くエル。

 そこへ疑問を感じた夢見は眉間にしわを寄せてオレゴンへ視線を向けた。


「オレゴンさん詳しいんですねー。そんな事知ってる人の方が珍しいと思いますよー?」


「仕事柄、古い事件を調べる事がありまして」


「微睡も知っているのー?」


「ハルシオンはそう言うのはまったく興味が無いみたいで……。俺だって夢見さんが知っている事に驚いてますよ。どこで知ったのですか?」


 まさか自分がした質問がそっくりそのまま返ってくるとは思ってもいなかったのか、言葉を詰まらせる夢見は思わず視線を窓の外へそらして呟く。


「……あー、まーねー。なんで知ってるんだろなー」


 むしろ先手を打って質問したからこそ同じ質問は返ってこないと踏んでいただけに、焦りを隠せない夢見は誤魔化しの代名詞である口笛を鳴らし損ねて、スースーと風を吹かせて冷や汗を流す。

 その夢見の回答と言動に釈然としないオレゴンだったが、不意に何かを思い出したようにエルを見て言った。


「そう言えばエル。クラブにはお金で情報を売る業者が居ると言ったよな?」


「言ったよ?」


 質問の意図が読めないエルはまた首を傾げる。

 そこへオレゴンが疑うように言った。


「まさか自腹切ったのか?」


 オレゴンの優しさと申し訳無さが含まれた視線に、エルは少し緊張した様子で返す。


「え? あ、あー! ……切ってないよ!」


「……だったらどうやって情報を手に入れたんだ? 嘘は付かなくて良いんだぞ、グループの経費があるんだから」


 オレゴンはそう言ってポケットからガマ口の財布を取り出す。

 エルは両手を胸の前で大きく何度も振って言った。


「大丈夫、ほんとに切ってないってば! それに経費って学園に報告するんだよね? 同じく学園立のナンバー5の組織から流失した情報を買うのにお金を使いました。なんて言えないよ!」


 エルの妙に納得の行く言葉に、オレゴンはそのまま報告するつもりだったとは言えず、「確かにそうだ」と黙って心の中で同意する。


「そ、そうか。だが、それならそれで俺が個人的に出すからちゃんと言うんだぞ」


「こう見えて僕、結構お金持ってるから大丈夫だよ!」


 普通であれば嫌らしい自慢だが、それを嫌味や悪意を無くして言うエルに思わず笑みを漏らすオレゴン。しかしだからと言ってそう言う訳にはいかないので、オレゴンは少しだけ強い口調で返した。


「そう言う問題では無い」


「ま、まぁまぁ」


 なだめるようにそう言ったエルは片手を頬に添えて続ける。


「でも男の人にお金出してあげるって言われたの初めてだから嬉しいよ」


 エルのとんでもない発言に、黙っていた夢見が飛びつくように聞いた。


「えー!? ……もしかして今までずっと自分で全部出していたのー?!」


 突然な夢見の驚きぶりにエルは少し戸惑いながら答える。


「え……おかしいかな? デート代とか、彼氏の身の回りの物とか同棲してる家の家賃とかも全部僕が出してるけど……。男の人も出してくれるものなの?」


 「ひどいな」と呟くオレゴンに、エルが反応するより早く夢見が言った。


「そんなの同棲じゃない、ただの寄生虫だよー? 別れを考えた事無いのー?」


 夢見の言葉も一見すれば悪口に捉えられるが、エルと同じでそこに悪意は感じない。

 エルも人の事になれば分かっているのか、特に怒る様子も無く平然と言った。


「え、無いよ? だって僕、必要とされてるもん。それに愛してるって、毎晩一緒に寝る時は言ってくれるんだよ? それだけで僕の心は満たされる」


 胸の前で両手を握って俯くエルに、夢見は再び窓の外を眺めながら言う。


「きーめたー。もしエルさんの彼氏に会う事があったら殴る」


「な、なんで!? 僕、今すごく良い事言ったよ!?」


 両手を広げて訴えるエルに思わず笑うオレゴン。夢見も釣られて笑う。

 そうして残りの目的地までの時間を四人は仮眠を取ったり話をしたりして過ごした。


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