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幸せ者のハルシオン

 夜の公園。

 点々と立つ電灯だけが頼りの薄暗いその公園で、左半身が包帯で包まれるオレゴンとハルシオンは風に吹かれていた。


「なんか肌寒いですねー」


「歩くには丁度いいんじゃないか?」


 その風は、二人の衣服と髪をはためかせる程の強さはあるようで、木々がざわざわと音をたてている。

 ハルシオンは顔に掛かる髪を耳にかけながら言った。


「わー。栗の花の臭いだー。私、この臭い苦手なんですよねー」


「確かに、鼻をつく臭いではあるな」


「ですよねー。はー……それにしても色々ありましたねー」


「そうだな、色々あったな」


 背の低い木に囲まれる遊歩道を先陣切って歩くハルシオンは虫がたかる電灯をぼんやり眺める。


「始まりはレムがリーダーの家を訪れた事でしたっけー? その後二人揃って攫われてー。ってあれ? 私ってずっと誘拐されっぱなしじゃー……?」


 指を使って回数を数えるハルシオンを見てオレゴンが思わず笑う。

 そんなオレゴンにハルシオンが冗談だと伝わる程度のムッとした顔をして振り返った。


「笑うなんてひどいですよー」


「そうだな。悪い。でも、もうこれ以上俺から離れんなよ。迎えに行く方も大変なんだぞ」


 よりいっそう強く吹く風に巻き上げられるスカートを、カーディガンの裾からちょこんと出る小さな手で押さえ込むハルシオン。

 そのまま少し頬を赤くするハルシオンはもじもじとお腹の前で両手を遊ばせながら言った。


「そ、そう言えば私、ちゃんと返事聞いてませんでしたよねー……?」


「ん? 何の事だ?」


「あれれー? さすがに私、怒っちゃいますよー」


いつもとは違い真剣に頬を膨らませ目元に涙を溜めていくハルシオンに、オレゴンも慌てて真面目に返事をする。


「す、すまない! 冗談だ! お前の告白の事だろう? ちゃんと分かってる」


 ハルシオンは改めて告白と言う単語を出されて恥ずかしそうしながらも、取り乱すオレゴンを無言で見つめている。

 それを見て困りながらもオレゴンは続けた。


「いやー……俺としては返事は伝えたつもりなんだ。その、なんだ。お前も鈍感なやつだな」


 オレゴンは後頭部をさすりながら言った。

 ハルシオンは、さっきよりは表情を緩ませて答える。


「ちゃんとした答えが欲しいんです」


 そこでオレゴンは顔を少し赤くしながら半ばやけくそ気味に言った。


「良いに決まってるだろう?! 改めてよろしくお願いしますっ!!」


 腰から体を折って、頭を深く勢い良く下げるオレゴン。

 しばらくそのままで静止していたが肝心のハルシオンからの返事が無く、そのままの姿勢で頭だけを前に向ける。

 するとそこには、先程までの表情とはうって変わって、恍惚とぼーとして立ち尽くしているハルシオンが居た。


「なんだ、言わせておいてその反応は……」


 オレゴンが姿勢を元に戻したところで、よりいっそう強い風が二人を煽った。

 ハルシオンはまた顔にかかった髪を耳に掛けながら言った。


「あ、クチナシの花の香りだー」


「あ、あぁ。そうだな」


「リーダー、クチナシの花の花言葉知ってますかー?」


「んー。知らないな」


「私は幸せ者。ですよー」

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