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全ては戦略通りに

「さて、迫り来るメイド達も底が尽きたか。私もナンバー5の元へ向かうとしよう」


 ナンバー2は足の踏み場も無いほどにメイドで埋めつくされた場所でそう言うと、予備動作も無く浮かび上がった。

 そして急激に速度を上げて、ハーシャッドが居るビルの全ての窓が割れている階層へ飛んで行く。


「待たせたな。ナンバー5よ」


 そう言ってナンバー2が中へ降り立ち周囲を確認すると、そこにはハーシャッドに胸倉を掴まれるナンバー5が居た。


「……ほう、面白い展開では無いか」


 笑みを浮かべてそう言うナンバー2に、ナンバー5は胸倉を掴まれたまま言う。


「貴様……! どうして貴様が先に!? 伝言はきちんと伝えたのだろうな!?」


 そこへハーシャッドが割り込む。


「遅い到着だね。ナンバー2。必死に守った混成魔法はどうしたのかな?」


「うるさいな。私はナンバー5と会話をしている。今は黙っておけ。波動魔法『サドマ』」


 魔法を唱えるナンバー2が手の平を向けただけで、ハーシャッドはビルの外へ放り出されてしまう。 

 そして解放されたナンバー5にナンバー2が言った。


「伝言は伝えた。だがお前の言った指示が遂行できる状態では無かったのでな、今頃治療を受けているだろう」


「だったらなぜその報告をしないのです!? それに任務が遂行出来ない状態だと!? まさかハルシオンが傷を受けたのか!?」


「おお、お前もハルシオンの身を案じてくれるのか? だったら安心するが良い。傷を受けたのはオレゴンとやらだ」


「……それは良かった。しかし二人が揃わないと策が成らないのは事実。どうにかしてここへ連れ来るのです」


「断る。危険なここへ連れて来る事は私が許さない」


 そこへナンバー5が反論するより先に、ハーシャッドの声が届いた。


「心配はいらないよ。既に私がここへ来るように指示しておいた」


 ナンバー2とナンバー5が声のする方へ視線を向ける。するとビルの外でハーシャッドが空に浮き、二人を嘲笑っていた。


「へぇ、飛べるのですか」


 素直に関心するナンバー5を他所にナンバー2が強く言った。


「待て。貴様、今ここへ来るように指示したと言ったな?」


「あぁ、ハルシオンの事だろう? 私がここへ呼んだよ」


「やはりハルシオンにも洗脳を……。これ以上、時間を掛けさせるわけにはいかない。forced『断行』」


 ナンバー2はビルの外で佇むハーシャッドへ飛び掛かった。そしてハーシャッドの腹部を蹴り飛ばし、そのまま飛んで行くハーシャッドとの距離を再び詰める。

 対してハーシャッドはナンバー2の追撃である拳を回避し、そのまま背に蹴りを入れて地に叩き落した。


「私を甘く見ないほうが良い。ナンバー2」


 追い打ちを掛けようとハーシャッドも地上へ急接近する。

 先にナンバー2はそのまま地面に着地するがハーシャッドの接近に気付かず、そのまま顔を蹴り飛ばされ地面に叩きつけられてしまい、アスファルトに大きな穴を作る。

 破片と埃が舞い、轟音が風となって周囲に広がる。


「今のは効いただろう?」


 そうして地面に静かに着地するハーシャッドに、ナンバー2は倒れたまま言った。


「まさか三桁級にこれほどの力を持つ者が居るとは驚いたぞ。混成魔法の類か。だがそれもそろそろ時間切れなのだろう?」


「さすがに一桁級は見抜いて来るね。そこでハルシオンの登場だ」


「なに?」


 ナンバー2はふわりと飛んで浮かび上がる。

 そしてそこで目にしたものはハーシャッドの傍らで瞳に光を失うハルシオンだった。

 ハーシャッドはハルシオンの髪をそしてそのまま頬を撫でる。


「ハルシオン!」


 ナンバー2は駆け出すがハーシャッドがハルシオンの首に刀を宛がった事によりその歩みを止めてしまう。

 そこへナンバー5がナンバー2の横へ着地し、言った。


「ナンバー2さん。あなたですよねぇ? トリアゾラム家の者にハルシオンさんの呪いをどうにかするように指示したのは」


「あぁ、私だ」


 ナンバー5はハーシャッドを指差す。


「それもあいつの戦略なのですよ」


「なに……? どう言う事だ?」


「まぁ、詳しくは本人に聞けば済む話。そして対策は既に考えてある」


 そこへハーシャッドが笑顔で言った。


「対策? それはぜひ聞かせて欲しいね」


 唐突にナンバー5が叫ぶ。


「オレゴンさんを近付けさせては行けませんよ!!」


「遅い!! 吸引魔法『アトラクション・ドロー』」


 ハルシオンを抱えたハーシャッドはそう言って背後へ飛び上がり、腕で何かを引く動作をする。するとビルの死角に身を潜めていたオレゴンが引き寄せられ、ハルシオンの首に宛がっていたナイフを近付いてくるオレゴンへ向けた。


「basis『空虚』」


 そこへナンバー2が魔法を唱えた。それだけでこの一帯の空間、空が黒く濁り、魔の気配を退ける。皆もそれを感じる。

 するとオレゴンはその場で少し静止した後、地面に落ちた。


「くそっ! 厄介な魔法を!」


 そして次の瞬間、そう言うハーシャッドの腹部をナンバー5が蹴り、ハルシオンを抱えるハーシャッドの腕をナンバー2が両手で折った。

 そうして地面に叩き付けられるハーシャッドにハルシオンを抱えるナンバー2が言う。


「お前は終わりだ」


「いや、まだだ!」


 ハーシャッドが叫ぶとハルシオンが懐からナイフを取り出し、ナンバー2に斬りかかる。

 思わずナンバー2がハルシオンを落としてしまい顔面を蒼白させているうちに、ハーシャッドは近くに座り込むオレゴンの傷ついた肩を刀で突き刺した。

 声を上げるオレゴン。そしてそのままハーシャッドはオレゴンの血液が付着した刀をハルシオンへ向けて払った。

 宙を飛び交う赤い雫。それを皆が目で追う。


「ナンバー2! 洗脳を解け!!」


 そんな中、ナンバー5が叫ぶが既に遅く、オレゴンの血液はハルシオンへ降りかかる。

 皆がハルシオンに注目し時間がゆっくりと流れる中、頬に付着した血をハルシオンは舌で舐め取った。


「馬鹿な! これでは何もかもが奴の思い通りになったではないか……! ナンバー2! 洗脳を早く解くんだ!」


 叫ぶナンバー5。そして次の瞬間、ナンバー5はハルシオンの拳によって腹部を強打されていた。


「カッ……は。な……に?」


 息を荒げてその場にうずくり、やがて動かなくなる。

 ハルシオンの移動速度と不意を付いたとは言えナンバー5を一撃で戦闘不能にしたその威力に皆が言葉を失っていると、当の本人であるハルシオンはナンバー5の頭部に靴底を置いて笑みを浮かべ、その手に釘を出現させた。


「ハ、ハルシオン!」


 叫ぶナンバー2が咄嗟に駆け出し、ナンバー5に振り下ろされる釘を間一髪、蹴りで弾き飛ばした。 

 しかしナンバー2が安心しているのも束の間、ハルシオンは両手でナンバー2の胸倉を掴み上げると、一回転振り回してからビルへ向けて投げ飛ばた。

 無数のガラスが大音量の音と共に砕け散り、日光を激しく乱反射させる。

 そして既にその中をハルシオンは駆け抜けていた。


「ううううあああああああ!!」


 奇声をあげるハルシオンは、ビルの中の噴水の中で止まったナンバー2の額をさらに蹴り飛ばす。

 水飛沫を上げ、またガラスをぶち破ってナンバー2はハーシャッドたちとビルを挟む形で向かいに追いやられた。


「ハルシオンよせ!! 洗脳が解けない……! 錯乱状態で元に戻らないのか!?」


 ナンバー2は迫るハルシオンを見つめながら零した。しかしハルシオンは止まらずその手に釘を出現させ、それをナンバー2へ向けて投射する。

 ナンバー2はそれを辛うじて回避するが、同時に迫り来るハルシオンの直接攻撃がナンバー2の肩を貫いた。

 そしてそのまま地面に押し倒され、釘によって地面に固定されるナンバー2。

 ハルシオンその釘に足を乗せると、空に片手を掲げた。

 すると空に大量の魔法陣が浮かび上がり、そしてそこから雨のように釘が雪崩れ落ちる。

 

「あっははははは!!」


 釘と釘が激しくぶつかり合い、けたたましく響く金属音の中で、狂ったように笑うハルシオンは両手を広げて迫り来る釘の雨を見上げた。


「これじゃお前もただで済まないぞハルシオン! 目を覚ませ!」

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