外伝「ビルの地下で」
摩天楼の地下。日の光が届かないその場所に金属同士がぶつかる甲高い音が響き渡る。
「褒めましょう。あなたは良くぞ、その若さでその領域に辿り着けたものです」
「おいおい、メイド長。私を褒めたって何も出ないぞ」
メイド長と呼ばれた女性は、舞うようにして刃物を振るう少女の連撃をいとも簡単にナイフで受け止めていく。
「あなたに何も期待していませんよ。アルデハイド。それにしても持ち場を離れて私に楯突くとは、いったい何を考えているのですか?」
アルデハイドと呼ばれた少女はそこで動きを止めると両手を上げて言った。
「謀反じゃー」
「……つまらない答えです。まったく」
「そうか? 今世紀最大のギャグなんだがな」
「何世紀か前なら受けた事でしょう」
アルデハイドはそこで再び駆け出し、握る剣を縦に振るいながら言う。
「本当はあんただって不満なんだろ?」
メイド長はそれを少し体を反らして回避すると、そのままアルデハイドの腹部を蹴り飛ばした。
そしてこの空間を支える柱の一本に埋もれるアルデハイドにメイド長は言う。
「不満? 私にあるはず無いでしょう。それにしてもどうしてあなたは洗脳されていないのですか?」
アルデハイドは柱から降りる様に脱出する。同時に重い音を立てて落ちた柱の瓦礫をアルデハイドは踏みながら返事をした。
「洗脳? 私に効くはず無いだろう。どちらかと言えばメイド長、あんたはもっと質の悪い洗脳にかかっているようだぜ」
「戯言を」
「あぁ、戯言だ」
アルデハイドは足元の瓦礫を蹴り上げると、宙で回転しながらそれをメイド長に蹴り飛ばした。そしてそのままメイド長へ向けて駆け出す。
対するメイド長は飛んでくる瓦礫をナイフで軽い動作で粉砕すると、向かってくるアルデハイドの剣をナイフの先で受け止めた。
「その程度ですか?」
「まっさかー。光魔法『ナシャート』」
メイド長の顔へ向けられたアルデハイドの剣先から光線が放たれた。それをメイド長は後ろへ跳ねるように後退し回避する。が、同時にアルデハイドも追うように飛び、宙に浮くメイド長の腹部を蹴り飛ばした。
そして先程のアルデハイドのように柱の一本に埋もれるメイド長は、笑いながら言う。
「私をこれほど苦戦させるとは……殺すには惜しいですよ」
アルデハイドはその場で小さく数回跳ねながら返事をする。
「そうだろう。惜しいだろうな。私もそう思う。まぁまっとも殺される気はないがな」
そこで剣をメイド長に向けて続ける。
「さて、あんたにとって忠誠心ってなんだ?」
「今の私を見て分からないかしら?」
「……じゃあ聞くがあんたの行動は本当に主の為になるのか?」
「当然。私達は主の命令に従っていればそれで良いのです。雷魔法『ボルテージ』」
魔法を唱えたメイド長は雷を纏う。そしてそれは柱を簡単に破壊し、自由になったメイド長は続けた。
「戯言は以上ですか?」
「主を思うなら主の為を思って行動するべきだと思うぜ」
「良い警告です。ではさようなら」
直立するメイド長から雷撃が放たれアルデハイドを襲う。
アルデハイドは素早く懐から何かを取り出すとそれを適当に投げた。そしてそれだけで雷撃はその何かの方へ引き寄せられ、見事にアルデハイドから逸れた。
それを見てアルデハイドは嬉しそうにして言った。
「メイド長。雷対策はこのようにばっちりだ」
「ちっ、面倒な事を……」




