ハーシャッド、動く
「貴族間の争いに一桁級の人がなんの用事かな? それにもう一人はどうした?」
ビルの最上階、その何もない空間でハーシャッドは装飾が施された白い椅子に腰掛けながら言った。
そしてそのハーシャッドの前でナンバー5が拳を握りしめて返事をする。
「なに、簡単な事ですよ。あなたの苦情があちこちから出てましてね。学園が介入したと言う訳ですよ。心配しなくともナンバー2は別の仕事をして貰ってますよ」
ハーシャッドはそこで足を組む。
「なるほど。私も随分と名を上げたものだ。それとナンバー2は無意味な混成魔法を守る為に動けないのだろう? そしてそれに気付いたお前は重い腰を上げてのこのことここまでやってきた訳だ。無様な。つまりは人を動かす能力は僕の方が勝った訳だ。残念だったね、ナンバー5」
淡々と言葉を吐くハーシャッドに、ナンバー5はわなわなと体を震わせると突如大きな声で言った。
「まったくふざけた野郎だ! 誰に向かって口をきいている! ナンバー三桁クラスが調子に乗るなよ!」
ナンバー5は目を見開いてハーシャッドに飛び掛かった。
そして宙で回転し、そのまま回し蹴りをする。
しかしハーシャッドは椅子から立ち上がる事もせずそれを片手で受け止めた。
「なに!?」
「弱いな。早くナンバー2を呼んだ方が良いんじゃないか?」
ハーシャッドはそのままナンバー5を目前に投げ捨てる。
床を転がっていくナンバー5。
ナンバー5は転がりながらも地面を力任せに叩くと、その反動で跳ねるようにして体制を立て直した。
「図に……乗るなよ!」
またしてもハーシャッドへ向けて飛び掛かるナンバー5。
「やれやれ、まだ力の差が分からないか」
ハーシャッドは立ち上がり、目前に迫るナンバー5の拳が当たるより先に、ナンバー5の顔を蹴り飛ばした。
今度は床に叩き付けられるナンバー5。そのままハーシャッドは天井ギリギリまで飛び上がると宙で刀を抜き、そのナンバー5の額へ刀を突き刺そうとする。
しかしナンバー5はそれを辛うじて回避し、床に刺さる剣を地面で転がって蹴り飛ばした。
そしてまた床を叩いて浮き上がると、迫るハーシャッドの顔へ拳を振るう。
「やはりその程度か」
肉と肉が衝突する鈍い音が響き渡る。確かにナンバー5の拳はハーシャッドを捕えた。
しかしハーシャッドは顔を軽く反らしただけで不敵の笑みを浮かべていた。
「ば、馬鹿な!」
動揺するナンバー5は拳を握りしめ、もう一度振り払う。しかしハーシャッドはそれを受け止めると、ナンバー5を浮かせ、そのまま床に叩き付けた。
そしてその衝撃によって床は抜け、二人は下の階層へ落ちる。
下の階はかつてはオフィスとして使用されていたのだろう。無機質なテーブルが並び、その上にパソコンが置いてあった。
それを確認したハーシャッドは唐突に両手を広げる。それだけで風が巻き起こり、全ての窓を割ってテーブルとパソコン、それ以外の物も全てビルから落ちていった。
「私は狭い場所が嫌いでね」
「まったく興味ありませんね」
ナンバー5は立ち上がり答える。
「なんだ? まだ続けるつもりかい?」
「どうやってそれほどの力を得たのか分かりませんが、一時的なものでしょう? 時間切れまで付き合ってあげますよ。それに私の方の策も時期に完了する」
「ほう。それは楽しみだ」




