あまあまコーヒーとあまあまハルシオン
半日後。それほどかかる距離を越えてオレゴンとハルシオンはトリアゾラムも連れてナンバー5の組織に到達する。
辺りはとうに暗く、3人の目前にあるビルだけが唯一の明かりと言っても過言では無かった。
「それにしてもなぜ学園外の森を開拓してまでこんなビルを建てるんですかねー……」
もはや眠気でまともに開かない目を擦り、ハルシオンはずっと掴んでいるオレゴンの腕にさらに寄りかかって言った。
「実力者の集まる組織だ。学園外の仕事も多いのだろう。この辺に堕落者が住み着く事も防げる」
淡々と説明するオレゴンに突如、圧し掛かるハルシオン。
「リーダーおんぶー」
「なに!? 俺は保護者か?! おい! ハルシオン!? 寝るな!!」
そうしてビルの自動ドアを通る中、トリアゾラムが言った。
「結局おぶっちゃってー。甘いわねー」
「し、仕方ないだろう。既に眠っているんだ」
そのままオレゴンは受付に進む。そしてそこで出迎えていたのは腕を組むナンバー5本人だった。
「待っていましたよ。オレゴンさん。それにしてもこんな場所でも惚気るとは、まぁ大胆なものですね」
「違う。惚気ているのではない」
「まぁ冗談はさておき。横に居る女性は?」
ナンバー5はトリアゾラムに鋭い視線を送る。
トリアゾラムが困っているとそこへオレゴンが答えた。
「ハルシオンの親族の方だ。ハルシオンの身を潔白するついでにと思ってな」
「あぁ。なるほど。トリアゾラムさんですね」
「……なぜあんたはそんな事まで知っている」
「話が早くて助かるのはお互い様。そうですねぇ? 私ほどになるとこの手の情報なんてすぐに手に入る。レムとやらの雇主。と同時に血縁者でもある。これくらいなら既に分かっています。問題は――」
ナンバー5の話を遮るようにオレゴンが続けた。
「――この人はそのレムに裏切られた被害者だ」
「そうですかそうですか。ならば結構。私は信じていましたよ、あなた達を」
「……だったらわざわざこんな場所に呼び出さなくても良いだろう」
本気で困った表情を浮かべるオレゴンにナンバー5は笑みを浮かべて返す。
「いえなに、ついでに一つお仕事を依頼しようかと思いましてね。こう見えてあなたの事は高く評価してるのですよ」
「……この戦争に乗じて暴れる堕落者の抑制か?」
「あぁ、それは私の部下にお願いしました」
「だったらなんなんだ?」
「まぁ立ち話もなんでしょう。お一人は疲れて眠ってしまっているようですしね。奥へどうぞ」
ナンバー5はそれだけを言うとすたすたと歩いて行ってしまう。
オレゴンとトリアゾラムはその後を追いかけた。
「オレゴンさん、あなたは確かコーヒーが好みだとか。砂糖とミルクは必要ですか?」
「なぜそんな事まで……。まぁもうこの際そんな事は良いか……。それと俺はブラック派だが、ナンバー5であるあなたにそんな事までさせるのは申し訳ない」
「何を今更。敬語も使っていないのに」
ほっほっほとナンバー5は笑うとソファに腰掛けるオレゴンの前のテーブルに二つのカップを置いた。
「私はあまあま派ー」
トリアゾラムがぼそっと漏らす横でオレゴンはぐうの音も出せないでいるとナンバー5がテーブル越しに腰掛ける。そこでシュガーシロップとミルクをオレゴンの右に腰掛けるトリアゾラムの前に並べると会話を続けた。
「これは客に対するごく当たり前の対応。普段は下の者にさせているのですが、なにしろ多忙でしてね。だからこうしてお仕事をお願いしているのですよ」
「まぁ、ここまでされては断れないな。それに報酬も悪くないし」
オレゴンがそう言い終えると、左で座って眠るハルシオンがオレゴンの肩にもたれ掛る。
そして寝惚けながら、
「あー、まくらだー」
今度はオレゴンの膝を頭に敷いて眠り込んでしまう。
覗き込むようにハルシオンを見つめるトリアゾラムは恐る恐る聞いた。
「あんた達って普段からこんな感じなのー?」
「そんな訳ないだろう!」
「ふーん。じゃあどうしてこんなにあんたに甘えているのかなー?」
にやつくトリアゾラム。
オレゴンは呆れたように答える。
「知るか」
「よっぽど嬉しかったんじゃなーい?」
「何がだ」
「あんたが呪いの半分を肩代わりしてあげた事」
「……。呪いなどではない。ハルシオンのその力で救われた場面が何度もある。ただ、その力がハルシオンにとって負担になっていると考えれば当たり前の事をしたまでだ」
「そっかそっかー」
そこでナンバー5は咳払いをすると話を戻した。
「依頼、引き受けてくれるのですね?」
「あぁ」
「それは良かった。では内容を説明すると――」




