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ハルシオンとオレゴン

 二人きりの客室。並んで座るソファ。そこでオレゴンがハルシオンを説得していた。


「駄目です!」


「聞いただろ! このままではお前はお前じゃなくなるんだぞ! 死んでしまうんだぞ!」


「けど駄目です!」


 そっぽを向きとオレゴンと目を合わせないハルシオン。


「どうしたら良いんだよ……ハルシオン」


 困り果ててしまうオレゴンにハルシオンはそっぽを向いたまま言った。


「だってリーダーは関係ないじゃないですかー。これは私たちの家系の問題で、リーダーに迷惑を掛けたくありません」


「今日はやけにかたくなだな」


「リーダー。あの女は自分たちが呪いを引き継ぎたくないからリーダーにこんな話を持ち掛けたんですよー?」


「だろうな」


 あっさりとそう言ったオレゴンをハルシオンは横目で睨む。


「分かってるんじゃないですかー。余計駄目です」


「お前こそ理解が早いじゃないか。いきなりこんな話されてすぐにでも信じたのはやっぱり自覚があったのか?」


 俯くハルシオン。


「……。薬を使えば破壊衝動が抑えられなくなる。これだけでも十分な根拠ですよー」


「お前はそれを踏まえた上で、俺の為に薬を使った」


「別にリーダーの為じゃありませんよー」


「そうなのか? さっきの女がぽろっとそう言っていたが?」


「……余計な事をー」


 そう言って拳を握りしめていると、オレゴンはハルシオンの両肩を掴んだ。


「お前が身をていしてまで俺の為にしてくれた事が結果、お前を苦しめていたのであれば、俺がお前の為に身を挺するのは普通だと思わないか?」


「え……」


 ハルシオンは少し戸惑ってしまった事をまたそっぽを向いて隠し、質問に質問で返した。


「そ、それはー……。リーダーは……なぜどうしてそんな事が言えるのですかー……?」


「だから普通の事じゃないか」


 オレゴンの言葉を最後にしばらく硬直してしまうハルシオン。

 そして歯を食いしばり、叫んだ。


「普通って……! 義理でそんな事されても嬉しくともなんとも無いんですよーっ!!」


「義理なんかじゃない。お前が大切だからに決まっているだろう!」


 オレゴンも大きな声で想いを言葉にした。

 二人とは打って変わってしんみりする空間で、ハルシオンはしばらく視線を泳がせる。

 そして働かない思考の中、場違いな言葉と分かっていながらも 


「なにくさい事言ってるんですかー……」


 そう言った。言われた言葉に混乱し、自分で言った言葉で混乱を重ねる。

 そんなハルシオンに、オレゴンは優しく言った。


「お前が言わせたんじゃないか」


 そこからハルシオンには素直に受け答えする程度にしか思考回路は残されてなかった。


「じゃあ私の為……?」


「初めからそうだと言ってるだろう」


「じゃあ……リーダーの言った大切ってどういう意味なんです……か?」


 視線をそらして頬を染めて。そんな様子のハルシオンにオレゴンも言葉を詰まらせる。


「それは……」


 何も考えずに言った自分の意地悪な言葉にオレゴンが困っていると、困らせたくないと思う自分にめんどくさい性分だなと心の中で自虐し、ハルシオンは爆発させるように言った。


「先に言っちゃいますけど私はリーダーの事が好きと言う意味で大切ですよーだっ!」


 顔を真っ赤にしてさっきまで逸らしていた視線をオレゴンに向ける。


「俺は……!」


 オレゴンが少し照れた表情で視線を逸らし、そして意を決した時、なぜか鳴り響く銃声と共にハルシオンがオレゴンの手から離れていく。

 慌てて視線を戻すオレゴン。目に光を失い、だらしなくこちらへ倒れ込んで来る。そしてソファの裏にある扉から半分姿を現していたのはレムだった。


「どういう事だ……?」


 自分に体重を完全に預け、身動き一つしないハルシオンの背から絶えず流血が続き、ハルシオンを抱くオレゴンの手を服を真っ赤に染めていく。

 そんな中、手に握る拳銃から出る煙を纏うレムが言った。


「微睡様から呪いを引き継ぐにはこうするしかなかった」


 オレゴンの意識が一気に覚醒していく。

 ハルシオンをソファに寝かし、懐中時計を剣に姿を変え、一心不乱にレムへ剣を振り下ろす。

 レムは部屋の入り口から外へ逃げ出すように後退りをして剣を回避するが、オレゴンがそれを許す事は無く、レムを廊下の向かいの壁へ蹴り飛ばした。


「お前は殺す……!」


 壁に身を預けながら立ち上がるレムの腹部を押し潰すように靴底で押さえ込むと、壁がミシミシと鳴り出して蜘蛛の巣の様に亀裂が入っていく。

 レムが悲鳴を上げる中、とうとう耐えきれくなった壁が割れてしまい、そのまま二人は大きな階段が存在するエントランスと思わしき部屋に飛び出した。

 瓦礫に紛れて倒れ込み、咳き込みながら吐血するレム。

 

「内臓が潰れた……!」


「まだ潰れていない内臓があるだろう?」


 オレゴンが剣を振り下ろす。

 間一髪の所でレムがそれを回避し、掠れた声で魔法を詠唱する。 


「上位光魔法『ラド』」


 レムの淡く光る指先がオレゴンに向けられる。と同時にオレゴンは顔を必要最低限に逸らすと、オレゴンの背後の壁がさらに砕かれた。

 

「上位光魔法『ラド』!」


 レムはまたも魔法を詠唱し指先をオレゴンに向けるが、先にレムの指が切り落とされた。

 血を吹きだしながらころころと転がっていく自分の指を目で追いかけるレム。遅れて痛みが襲っていたのか、途端に手首を押さえその場でのたうち回る。


「私は……私は微睡様の為に……!」


「ハルシオンの為に……?」


 さっきまでしていた会話がオレゴンの頭の中で一気に蘇り――


「ハルシオンを傷付けたお前が俺と同じ事を言うな!!」


――そしてハルシオンが重体だった事を思い出す。


「そうだ……。ハルシオン……?」


 慌てて部屋へ戻ろうとするオレゴンの背中にレムが言った。


「心臓を撃ち抜いたんだ。死んでるよ」


 オレゴンは一度立ち止まるが、またすぐに駆け出し、ソファにぐったりと倒れこむハルシオンの頭を支える。


「ハルシオン!」


 当然、返事は無く、瞼も開いたままだった。光の無いおぼろな瞳がただただ天井をぼんやりと見つめ、オレゴンを見つめ返す事は無かった。


「おい! ハルシオン!」


 オレゴンの中で最悪のケースが思い浮かべられる。


「死……んでいないよな?」


「死んでますよ。そしてお前も後を追うんだよ」


 オレゴンが背後を振り返る。

 二度目の銃声が響き渡った。

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