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祖父の世界だった場所

「ここはどこだ……?」


 気が付いたオレゴンは辺りを見渡す。

 埃が舞う薄暗い場所。

 ここは以前、オレゴンが生死を彷徨った際に訪れた時計塔の空間だった。


「俺は……また死んだのか……?」


 きっと祖父が現れるだろうと予想しての発言に誰も答える事は無かった。

 またしても予想外な状態にオレゴンが冷静さを欠きだした所で、聞きなれない声がオレゴンを呼んだ。


「おーい。こっちこっち」


 祖父が愛用していた古ぼけたソファの方角へ視線を向ける。

 するとそこには自身の肩を抱いた体制で全身を包帯で巻かれ、さらに釘が体全体の至る所に突き刺さっている人物が身動きが取れない状態で座っていた。

 特に手足には特別大きな釘が突き刺さっており、全身の包帯も異常な量で片目しか露出された場所は無かった。


「お前……。何者だ? ここは祖父が作り出した空間。なぜここに存在する」


 包帯の人物の片目が見開き、


「お前と一緒だよ。死に掛けなんだ」


 オレゴンを睨みつける。

 驚きながらもオレゴンは言った。


「そう言えば俺はどうなったんだ。確か転送魔法で移動させられただけだったはず……」


 包帯の人物は今度は瞼をゆっくりと閉じると、冷静に答えた。


「あぁ、その後ね。移動先に待ち構えてた連中に銃撃されたよ。まだ虫の息で生きてるけどね。けどオレゴンの名で生き返れるのは一回限りだから、あと少しすればこの空間からも居られなくけどね。あ、そんな事より右手温かいだろ?」


 オレゴンは右手へ視線を向けた。

 言われた通りに温かった事に驚きながらも視線を包帯の人物に戻す。


「今ねー。君の相棒が必死にその手を握ってるんだよ。全身から血を流して成す術も無く倒れた君のね。それでこれまた必死に君を庇おうとしてる。彼女が君の横から剥がされた時が、君の最後だね」


「俺は……どうしたら良いんだ」


「じゃあ聞きまーす。お前は力が欲しい?」


「……。もちろん欲しいが、だからお前は何者なんだ」


「私はね。『オレゴン』。じゃあ彼女がその手を放してしまう前に、その手を握り返してやりなよ」


 オレゴンは言われた通りに右手に力を入れる。

 すると包帯の人物の右手の甲に突き刺さっていた一本の釘が姿を消した。

 包帯越しにだが、その人物がクツクツと笑っているのが伝わってくる。


「彼女は鍵のような存在だね」










「リーダー!」


 オレゴンの瞼が開いた。

 全身に激痛が走る。

 そんな中、視線をハルシオンへ向けると彼女は泣いていた。


「呆気無さ過ぎますよー」


「俺は……」


 周囲を取り囲むスーツの人物の一人が言った。 


「へぇ……しぶといですね」


 レムだった。

 ハルシオンがそのレムを睨む。

 

「あなたは許しませんよ」


「そ、そんな! 微睡様! 私はあなた様の為を思って……!」


「だったらどうしてこんなひどい事をするんですかー……」


 ハルシオンは悲しさに溢れた表情で問いかける。

 それにあたふたと慌てるレムは、思い付きで答えた。


「で、でしたらそこの彼の命を保証する代わりに、大人しくこちらの要望を呑んで頂けませんか」


「罠じゃないですよねー……?」


「も、もちろんです! 私が微睡様に嘘をくだなんて恐れ多き事ありえませんよ!」


「リーダーを早く助けてください!」


 強く答えるハルシオンに黙って首をなんども振るレム。

 そして周りのスーツの取り巻きに指示を出す。


「で、では彼の手当を最優先に。私は微睡様を例の部屋へ案内する」


 周りのスーツの取り巻きが、オレゴンを丁寧に運びだし、レムがハルシオンを導く。

 ハルシオンは気を失い運ばれて行くオレゴンを心配そうな表情で見つめると、しぶしぶレムへ付いて行った。

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