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少年と少女。それぞれ

「き……来たぞ……! 学園からの直々の依頼だ……!」


 少年が小さな可愛らしい手紙を両手で握りしめる。


「ん~? あ、そうなんですか~……。ファンシーな手紙過ぎてラブレターか何かかと思いましたよ~」


 少年の部屋だと言うのに相変わらずソファで堂々とうたた寝をしていた少女は上手に呂律が回らないのか、いかにも眠たそうに返事をした。

 そんな様子の少女をよそに少年は、手紙に書かれている依頼内容を簡潔に説明する。


「どうやら今回は学園外へ出て、『堕落者』のアジトの捜索願だ。学園外だぞ!!」


「ふぇ~? 学園外? それに何か意味でもあるんですかー?」


「お前……。俺たち普通の学生にとっては学園外に出る機会など、ほとんで無いではないか。まぁ貴族のやつらは外で大きな家を持っているがな」


 少年は少し落ち着きを戻したのかコーヒーを片手に、手紙をさらに深く読んでいく。

 それに対して少女は少し眠気が覚めたのか、先程よりははっきりした声で返事をした。


「まぁ、確かにそうですけどー。学園外ってやっぱり危険なイメージがありませんか? 『堕落者』たちのたまり場になっていると同時に、今は絶滅しましたけど魔人と呼ばれた絶大な力を誇った種族の文明が残されているとか無いとか……。それに、私たちの体に刻まれている魔法陣の紋章も昔々に魔人につけられた物って話もありますしー。やっぱりこの広大な学園が一番住み心地良いですよー」


「ほぉ。お前、そう言う事は詳しいのだな。……それで、お前は行くのか?」


 コーヒーを飲みほした少年は眼鏡を中指で上げ、少女を見つめる。


「もちろん行きますよー。一人じゃ不安じゃないですかー。リーダーがー」


 少女はカーディガンを、少年はローブを羽織い、部屋を後にした。








 少年と少女は駅に居た。ドーム状の高い天井を少女は見上げている。


「リニアモータートレーンか……久しぶりで少しドキドキします。ところで思ったより人多いですねー」


 列車を待つ人の列に挟まれながら少女は言った。

 少年は、同じくその少女の後ろで挟まれながら返事をする。


「まぁ、学園の中へも外へも行ける数少ない交通手段だからな。しかし今、開発中だと言われている真空列車が開発された日には、この電車も廃れてしまうのだろうか」


「真空列車?」


「知らないのか? 筒状で真空にされた空間を球体の乗り物で地下を移動する画期的な列車だ」


「へぇ~。なるほどー。リーダーはそっち系に詳しいのですね~」


 少女と少年が会話をしていると、列車が到着し2人は乗車する。人の数は多く、二人は辛うじて向かい合う形で席を取る事が出来た。

 そこからしばらく無言が続き、少年は珍しくうたた寝を、少女は外の景色を眺めているとまもなくして、次の駅で停車した。

 母娘の親子が慌ただしく乗車する。母の手には無数の荷物が見られ、長旅の様子がうかがえる。しかしどうやらその長旅の疲れのせいか、小さな娘の機嫌が良くないようで、座りたいと駄々をこねて今にも泣いてしまいそうだった。

 それを見た少女は、すぐに立ち上がる。そして席を譲るジェスチャーを母に送った。母に感謝の笑みが浮かぶ。

 しかしあろう事か、目の前に立っていた青年が半ば強引にその席を陣取った。


「ちょっと! その席はっ!」


 少女がそう言うと、金属でできた鞄を足元に置いた青年がめんどくさそうに少女を見上げる。顔に派手な龍のタトゥーが施されており、表情に出ない程度にだが少女を驚かせた。


「空いてた席に座った。何か問題でも?」


「そんな!」


 少女が反論をしようとした時、母が苦笑いで少女に手を横に振った。

 しかし怒りが収まらない少女が、今にも青年の胸倉を掴もうとした時、少年が少女の肩を掴む。


「問題は起こすな。席なら俺の席を譲れ」


 少年が少女の耳元で囁いた。


「ですが!」


 少女が割と大きな声でそう言い、少年を見つめた。周囲の視線が向けられる。

 少年はどうしても苛立ちを収める事の出来ない少女の肩を2回軽く叩くと、少女の問いは無視して、母の元へ行った。


「どうかお気になさらないでください。お席ならあちらに空きがあるのでどうぞ」


 母が頭を下げながら言った。


「しかしそんな……関係無い方まで巻き込んでしまって申し訳無いです」

 

「いえいえ、次の駅で降りるので、どうかご遠慮無く」


 少年はそれだけ言うと少女の腕を掴み、別の車両へ移動しようとする。

 それでも母は拒もうとするが、限界に達した娘が今にも号泣寸前だった為、少年の背へ感謝の言葉だけを残して娘を席につかせた。

 そしてまもなく次の駅で停車する。

 少年は目的の場所からまだまだ程遠いが、あの親子に気を使わせない為、列車から降車した。


「お前の正義感は認めるが、無暗むやみな争いは起こすべきではない」


 気を落とす少女は納得がいっていないのか、不服そうに黙って頷く。

 そうして列車が発車した。徐々に加速して行く車両の中から、子供が手を振っていた。その後ろで母が頭を下げている。

 そんな列車の発射音がする中、少年は呟くように言った。


「だが俺は、お前のそう言う所は嫌いじゃないぞ」


 少女の中で時間が止まる。顔を上げると子供達がまだ手を振っていた。少女は思わず笑顔を零し、子供達に手を振り返して流れて行く列車を見送った。

 そして吹っ切れたように言う。


「リーダーのせいで、次の列車待たないといけないじゃないですか! かっこ付け過ぎですよー!」


「それお前が……」


「でもそういう気遣い、私も嫌いじゃないですよ」


 そこから二人は他愛もない会話をしながら時間が過ぎるのを待った。

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