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赤髪の少年

 ハーシャッドとの戦闘から数日後、オレゴンは自室で平和な日常を過ごしていた。

 今もコーヒーの香りが充満する部屋でソファに深く腰掛け、くつろいでる。

 そしてそのオレゴンに声をかける者が居た。


「そういやオレゴンよー。いつも一緒に居る女は今日はどうしたんだー?」


「逆に聞くがいつも一緒に居る訳ないだろう?」


「そうなのか? 俺はてっきりお前のこれだと思っていたわー」


 オレゴンと同い年くらいの容姿をした赤い髪の少年が、オレゴンとは向かいにあるソファに仰向けになりながら小指を立てる。


「そんな訳ないだろう」


「だったらさっさと自分の物にしておけよ。中身は知らんが、外見は中々上玉だぞ」


「ふざけるな! 俺は人の外見だけで判断はしない。しかしお前は変わらないな」


「お前こそ堅いままだな。女はステータスと思えばいい」


「その発言は中々にクズだぞ」


「そんな俺とつるんでるお前も同類だよ。類友だよ」


 小さな沈黙が生まれる。その気まずい空気を壊そうとオレゴンが話題を変える。


「……そんな事よりお前、ハルシオンと会った事あったか?」


「話した事はねぇよ。見た事はあるくらいだ。それはそうとお前の彼女に挨拶しておこうと思ってな。次、いつお前と会えるか分からんしな」


「だから彼女じゃないと言ってるだろう! 興味も無い!」


 オレゴンが強く言う。そこでオレゴンの部屋の扉が開き、ハルシオンが現れた。


「リーダー……。ひどい……」


「あーらら」


「いや、違うんだ! ハルシオン! 今のは会話の流れで!」


 オレゴンが動揺しながらハルシオンに歩み寄る。


「なんて嘘ですよー。でも今の発言は少しは興味あるって事ですかー?」


 オレゴンは困ったように黙り込む。

 そこで赤髪の少年が起き上がった。


「まぁまぁ、のろけはその辺にして。二人に改めて話たいことがある」


「誰ですかー?」


「オレゴンの親友だよ。初めましてハルシオンちゃん。今日は君たちに依頼をお願いしにきたんだ」











 二人は赤髪の少年の言われるままに部屋を後にし、歩きながら会話を進めていた。


「それで依頼内容ってなんなんだ?」


「なーに、ただの残党狩りだ」


「残党狩り? でもそれはお前が依頼してくるような内容じゃないだろ。どう言う事だ?」


「いや、学園からの正当な依頼だ。どうやらこの辺で堕落者たちが集っているらしくてな。強い奴らが蹴散らした後の掃除を依頼されているんだ。それでたまたまお前の家の近くだから手を貸して貰おうと思ってな」


「でもそれはお前の受けた依頼だろ?」


「もちろん許可は貰っている」


 赤髪の少年はオレゴン達を率いて、とある場所で足を止めた。

 その三人の前には綺麗な花や噴水で彩られた大きな庭に装飾品で飾られた家があった。


「ここってー……」


 ハルシオンが息を飲む。

 そこは以前オレゴンにキノコ狩りを依頼して来た黒髪少女の家だった。


「さぁ、行くか」


「行くってどこにだ?」


「おいおい。分かるだろ?」


「ここは貴族の家だろ……」


「なんだ? 知っているのか。ここの奴は中々クズだよな。貴族とは名ばかり。堕落者と繋がって悪事を働いていたそうな。あ、もちろん本人は居ないぞ。この中に居るのはそいつと繋がっていた愚かな堕落者。さぁ制裁だ」










「さぁ、開けるぞ」


 赤髪の少年がドアノブに手を掛ける。そして勢い良く開いた。

 中は暗く、既に埃が舞って居るほどに静まり返っていた。


「誰も居ない……?」


 オレゴンが呟くが、赤髪の少年はそれを無視するように駆け出した。


「居る! こっちだ!」


 後を追いかける二人。

 赤髪の少年は迷い無く走り抜け、一番奥の部屋の扉を勢い良く開けた。


「お前。残党だな」


 そう呟く少年に追いついてハルシオンとオレゴンは部屋の中を確認する。すると部屋の中心に置いてある大きな釜を挟んで、ハルシオンとオレゴンが良く知る人物が本棚の前で本を読んでいた。


「アルデハイド……だったか」


 そう呟くオレゴンに赤髪の少年が聞いた。


「お前知っているのか?」


「あぁ、何度か会った事がある。それにしてもなぜここに……」


 オレゴンの疑問に、アルデハイドは手を振って返事をする。


「よう。元気だったか? 私は主の為に少し調べ物をな。お前たちこそなんでここに居るんだ?」


 その質問に、赤髪の少年が答えた。


「残党狩りだ」


 そこへハルシオンが割り込む。


「いやー。今回ばかりは相手が悪いと思いますよー」


 そこへ間髪入れずに、


「そうだぜ。やめておいた方がいいぜ。私は姑息で卑怯だからな。勝てっこないと思うな……」


 アルデハイドがにやっと笑い、まだ中身が入っている釜を盛大にひっくり返す。


「保安魔法『ファイアーウォール』」


 赤髪の青年は魔法名を呟き、目の前に炎の壁を出現させる。

 それにより飛んでくる液体を防いだ……ように思われたが、


「おいおい、いいのか? その釜の中身は油みたいなもんだぜ?」


 あろう事が、液体を被った炎の壁は勢いを増し少年がコントロールが出来ないほどに燃え広がる。


「くそっ! 卑怯な!」


「あぁ、そんな卑怯な私からこれをプレゼントだ」


 アルデハイドは本棚を倒す。それを受けた炎の壁はもはや壁とは呼べず、ただ盛んに燃え広がるだけだった。

 物が燃える嫌な臭いと煙が充満し、物理的にも気分的にも視界を遮る。

 

「あーあ。人様の家をこんなにして……私は知らないぞ。室内での炎魔法は慎重にと教わらなかったか?」


「黙れ! 近代魔法『イマジナリーソード』」


 赤髪の少年は剣を出現させるとアルデハイドへ切りかかる。

 アルデハイドはそれをいとも簡単に回避すると、縦に振るわれた剣は床に突き刺さってしまった。

 少年が地面に突き刺さった剣を引き抜こうとすると柄を両手で握ると、アルデハイトは少年の両手の上に手を添えた。

 困惑する少年。そんな少年にアルデハイドは一気に顔を近づけ、オレゴンとハルシオンに聞こえない様に話し出した。


「残党はお前だろう。ここへ何しに来た? 復讐のつもりか?」


「……さぁな」


「そうか。まぁ、今のお前に何かが出来るとは思わないし。それはそうで負け犬はここで犬死にな」


 アルデハイドは余っている片手で少年の胸部を突き飛ばす。そして吹き飛ばされそうになる少年の手首を掴むと、今度は思い切り自分の方へ引っ張り、やられるがままの少年に強烈なラリアットを直撃させた。

 そのあまりにも突然な衝撃に少年は宙をぐるんと回転し、地面に腹部を強打する。


「おーい。意識は残ってるかー?」


 燃え盛る部屋、焼け焦げた木材が落ちてくる中、アルデハイドはしゃがみこみ少年へ手を振って言った。

 当然、少年からの返事は無く、アルデハイドは立ち上がると唖然とするハルシオンとオレゴンを軽々持ち上げ両肩に抱え込む。


「ちょちょっとー! いきなりなんですかー!」


 叫ぶハルシオンにアルデハイドは言った。


「脱出するぜ!」


 するとオレゴンはアルデハイドの背中を叩きながら言う。


「待て! 待ってくれ! お前たちに何があったかは知らないがあいつは一応友達なんだ!」


「……」


 アルデハイドは考え込むように黙る。


「どうした?」


「……なるほどな! なら仕方ない」


 アルデハイドは近くの窓ガラスを蹴り割る。突然の事に思わず悲鳴をあげるハルシオンを無視して、アルデハイドはオレゴンとハルシオンを抱えたまま少年の方へ向かい、少年を蹴り飛ばして窓の祖手へ投げ捨てた。

 そしてその後に続くようにアルデハイドも飛び降りる。


「きゃー!」

「うわぁああっ」


 ハルシオンとオレゴンが各々に悲鳴を上げていると、アルデハイドは綺麗に地面着地し、二人を降ろした。

 そしてあろう事か先程まで居た部屋が爆発する。

 その衝撃で激しく衣服をはためかすアルデハイドは敬礼をしながら言った。


「一件落着だな! じゃ」


 そしてアルデハイドはどこからともなく出現させた箒に跨り颯爽とこの場を後にした。









「いやー。みっともない所を見せてしまったよ。恥ずかしい限り」


 病室のベットに横たわる赤髪の少年は、お見舞いに来たハルシオンに向かって言った。


「いえいえー。よくある事ですよー」


 少年は苦笑いを浮かべる。


「ところでオレゴンは?」


「さぁー? 知りませんよー」


「なんだ薄情な奴だな」


「まーまー。あの人も忙しいですよ、きっと。ところでリーダーとはどういう関係なんですかー?」


「言ったでしょ。ただの親友だって」


 笑顔でそう呟く少年。しかしハルシオンはなぜか、その笑みが良いものに感じなかった。

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